496 / 676
496・手紙の中身
しおりを挟む
とりあえず遺体の片付けは彼らとファリスに任せて、私は再びこの場所に訪れていた。そう、中央都市リティアの城――コクセイ城だ。
こうして何度も出入りできるのは、今ここで必死に働いているお父様のおかげとも言える。既に一度王通った道というわけで執務室への道を何の苦労もなく進む。
扉の目の前。少しずつ緊張してきた私は、軽く息を吐いて、気持ちを落ち着けてからノックをする。
「……失礼します」
静かに扉を開いて部屋の主人であるお父様に向けてお伺いを立てる。そっと中に入ると、忙しそうに書類にサインをしているお父様がいた。相変わらず……というか最初に見た時より書類の量が増えているような気がする。
「エールティアか。どうかしたか?」
私の方にちらりと視線を向けただけですぐに書類の方に戻っていく。その間にも許可・却下の印をついている。私に気を向けながらも作業を続けるなんてよくやるなぁ……と思う。
「実はシルケット王家の手紙を持ってきたのですが……」
その一言に驚いた様子で私の方を改めて見て、『やっぱりなにか起きたか……』みたいな顔をしていた。なんでそんなに納得顔をしているのだろう。
「一応聞いておくが、何故お前がそれを持っている?」
「ええと……端的に言えば猫人族の使者を悪魔族が殺して手紙を奪ったみたいで、それをファリスが取り戻した形……かな」
どういえばいいかわからずにあやふやな感じで言ってしまった為、つい普通の調子になってしまった。
お父様の方も頭を痛そうに抑えて、思考を整理しているみたいだった。
「……なんでそうなったか、というのは敢えて聞かないでおこう。まず、何故悪魔族だとわかった?」
「遺体を少し確認しました。猫人族の使者が武器も抜かずに殺されていたという事に疑問を感じて調べたところ、頭に角を切断した痕が残っていました」
「【偽物変化】か。しかし……」
そう。私も【偽物変化】を疑った。悪魔族の魔法で、他人に成り代わる事が出来る種族特有のものだ。だけどそれは考えにくい。【偽物変化】は現在の悪魔族には使用する事が出来ない。それなりに力を持っている悪魔族でなければ扱う事すら叶わない魔法だし、それも魔導具で看破する事が出来る。正直リスキーすぎるから使うなんてありえない。というのが一般的な考え方なんだけど――
「もし、魔導の域まで昇華されていたら?」
魔導とは自らのイメージを形にする魔法の上位互換のような存在。魔法でそれだけ強力であれば、魔力とイメージさえしっかりとしているのなら、より強力な【偽物変化】の発展型を生み出すことも可能なのではないか? という話だ。
「ふむ、そこまで出来たからこそこのリティアに潜入していた……か」
「推測の域を出ませんが、可能性はあるでしょう」
既にその悪魔族が死んでしまった以上、真実を知る術はない。
「その通りだな。何にせよ、これ以上は無意味だろう。それよりそのシルケット王家からの手紙を渡してもらおうか」
「はい」
元々そのつもりだったから何の抵抗もなくお父様に使者が持っていたであろう手紙を渡す。
ペーパーナイフで綺麗に切って中身を取り出して確認するお父様は、これもある程度予測していたのだろう。特に何の表情も浮かべていなかった。
「何が書いてあったのですか?」
「救援要請だ。それも成長する鎧騎士が暴れまわっているという情報付きのな」
やっぱりか。これでグロウゴレムが一体以上であることが証明されたと言える。あんまり当たって欲しくない予想だけど、可能性は相当高かったからね。
これでグロウゴレムが他の国に出現する可能性が一気に高まった。今までの状況を振り返ってもティリアースとシルケットのみなんて楽観的な考え方なんて出来る訳もない。
これに対して、お父様は困ったな……と考え込んでいた。無理もないだろう。今グロウゴレムがどれだけ成長しているかわからない。その上、下手な増援は悪手になってしまう。それなりにまとまった戦力か、一つだけ突出している人材が必要になる。
「エールティア、心当たりはあるか?」
「……私が行けば早いのではないでしょうか」
「グロウゴレムが出てくる度にお前が行って戦うのか? 現実的ではない。私達に必要なのは他の者でも倒すことが出来るという確証だ」
言われて確かに……という気持ちになった。グロウゴレムが様々な場所で出現しても、私しか倒せないとなれば一つに対処している間に他の国はどうなる? という話だ。全部を対処しきれない以上、他の人達がなんとか出来るようになるのが一番だ。
「……少し考えてみますが、すぐには出せません」
「わかった。一応明日また聞こう。それまでにある程度考えをまとめておいて欲しい」
「わかりました。では明日ここに来ればいいですか?」
「それで問題ない」
「ではそのように」
心当たりはある。でも、彼女がそれを引き受けてくれるとは限らない。
お父様も私の心境を察してくれたのか今日は待ってくれるみたいだし……一度話してみようかな。
こうして何度も出入りできるのは、今ここで必死に働いているお父様のおかげとも言える。既に一度王通った道というわけで執務室への道を何の苦労もなく進む。
扉の目の前。少しずつ緊張してきた私は、軽く息を吐いて、気持ちを落ち着けてからノックをする。
「……失礼します」
静かに扉を開いて部屋の主人であるお父様に向けてお伺いを立てる。そっと中に入ると、忙しそうに書類にサインをしているお父様がいた。相変わらず……というか最初に見た時より書類の量が増えているような気がする。
「エールティアか。どうかしたか?」
私の方にちらりと視線を向けただけですぐに書類の方に戻っていく。その間にも許可・却下の印をついている。私に気を向けながらも作業を続けるなんてよくやるなぁ……と思う。
「実はシルケット王家の手紙を持ってきたのですが……」
その一言に驚いた様子で私の方を改めて見て、『やっぱりなにか起きたか……』みたいな顔をしていた。なんでそんなに納得顔をしているのだろう。
「一応聞いておくが、何故お前がそれを持っている?」
「ええと……端的に言えば猫人族の使者を悪魔族が殺して手紙を奪ったみたいで、それをファリスが取り戻した形……かな」
どういえばいいかわからずにあやふやな感じで言ってしまった為、つい普通の調子になってしまった。
お父様の方も頭を痛そうに抑えて、思考を整理しているみたいだった。
「……なんでそうなったか、というのは敢えて聞かないでおこう。まず、何故悪魔族だとわかった?」
「遺体を少し確認しました。猫人族の使者が武器も抜かずに殺されていたという事に疑問を感じて調べたところ、頭に角を切断した痕が残っていました」
「【偽物変化】か。しかし……」
そう。私も【偽物変化】を疑った。悪魔族の魔法で、他人に成り代わる事が出来る種族特有のものだ。だけどそれは考えにくい。【偽物変化】は現在の悪魔族には使用する事が出来ない。それなりに力を持っている悪魔族でなければ扱う事すら叶わない魔法だし、それも魔導具で看破する事が出来る。正直リスキーすぎるから使うなんてありえない。というのが一般的な考え方なんだけど――
「もし、魔導の域まで昇華されていたら?」
魔導とは自らのイメージを形にする魔法の上位互換のような存在。魔法でそれだけ強力であれば、魔力とイメージさえしっかりとしているのなら、より強力な【偽物変化】の発展型を生み出すことも可能なのではないか? という話だ。
「ふむ、そこまで出来たからこそこのリティアに潜入していた……か」
「推測の域を出ませんが、可能性はあるでしょう」
既にその悪魔族が死んでしまった以上、真実を知る術はない。
「その通りだな。何にせよ、これ以上は無意味だろう。それよりそのシルケット王家からの手紙を渡してもらおうか」
「はい」
元々そのつもりだったから何の抵抗もなくお父様に使者が持っていたであろう手紙を渡す。
ペーパーナイフで綺麗に切って中身を取り出して確認するお父様は、これもある程度予測していたのだろう。特に何の表情も浮かべていなかった。
「何が書いてあったのですか?」
「救援要請だ。それも成長する鎧騎士が暴れまわっているという情報付きのな」
やっぱりか。これでグロウゴレムが一体以上であることが証明されたと言える。あんまり当たって欲しくない予想だけど、可能性は相当高かったからね。
これでグロウゴレムが他の国に出現する可能性が一気に高まった。今までの状況を振り返ってもティリアースとシルケットのみなんて楽観的な考え方なんて出来る訳もない。
これに対して、お父様は困ったな……と考え込んでいた。無理もないだろう。今グロウゴレムがどれだけ成長しているかわからない。その上、下手な増援は悪手になってしまう。それなりにまとまった戦力か、一つだけ突出している人材が必要になる。
「エールティア、心当たりはあるか?」
「……私が行けば早いのではないでしょうか」
「グロウゴレムが出てくる度にお前が行って戦うのか? 現実的ではない。私達に必要なのは他の者でも倒すことが出来るという確証だ」
言われて確かに……という気持ちになった。グロウゴレムが様々な場所で出現しても、私しか倒せないとなれば一つに対処している間に他の国はどうなる? という話だ。全部を対処しきれない以上、他の人達がなんとか出来るようになるのが一番だ。
「……少し考えてみますが、すぐには出せません」
「わかった。一応明日また聞こう。それまでにある程度考えをまとめておいて欲しい」
「わかりました。では明日ここに来ればいいですか?」
「それで問題ない」
「ではそのように」
心当たりはある。でも、彼女がそれを引き受けてくれるとは限らない。
お父様も私の心境を察してくれたのか今日は待ってくれるみたいだし……一度話してみようかな。
0
お気に入りに追加
160
あなたにおすすめの小説
余命半年のはずが?異世界生活始めます
ゆぃ♫
ファンタジー
静波杏花、本日病院で健康診断の結果を聞きに行き半年の余命と判明…
不運が重なり、途方に暮れていると…
確認はしていますが、拙い文章で誤字脱字もありますが読んでいただけると嬉しいです。
飯屋の娘は魔法を使いたくない?
秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。
魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。
それを見ていた貴族の青年が…。
異世界転生の話です。
のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。
※ 表紙は星影さんの作品です。
※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。
実家が没落したので、こうなったら落ちるところまで落ちてやります。
黒蜜きな粉
ファンタジー
ある日を境にタニヤの生活は変わってしまった。
実家は爵位を剥奪され、領地を没収された。
父は刑死、それにショックを受けた母は自ら命を絶った。
まだ学生だったタニヤは学費が払えなくなり学校を退学。
そんなタニヤが生活費を稼ぐために始めたのは冒険者だった。
しかし、どこへ行っても元貴族とバレると嫌がらせを受けてしまう。
いい加減にこんな生活はうんざりだと思っていたときに出会ったのは、商人だと名乗る怪しい者たちだった。
騙されていたって構わない。
もう金に困ることなくお腹いっぱい食べられるなら、裏家業だろうがなんでもやってやる。
タニヤは商人の元へ転職することを決意する。
転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜
家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。
そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?!
しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...?
ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...?
不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。
拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。
小説家になろう様でも公開しております。
【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革
うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。
優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。
家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。
主人公は、魔法・知識チートは持っていません。
加筆修正しました。
お手に取って頂けたら嬉しいです。
転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです
青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる
それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう
そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく
公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる
この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった
足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で……
エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた
修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た
ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている
エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない
ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく……
4/20ようやく誤字チェックが完了しました
もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m
いったん終了します
思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑)
平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと
気が向いたら書きますね
異世界転生したらよくわからない騎士の家に生まれたので、とりあえず死なないように気をつけていたら無双してしまった件。
星の国のマジシャン
ファンタジー
引きこもりニート、40歳の俺が、皇帝に騎士として支える分家の貴族に転生。
そして魔法剣術学校の剣術科に通うことなるが、そこには波瀾万丈な物語が生まれる程の過酷な「必須科目」の数々が。
本家VS分家の「決闘」や、卒業と命を懸け必死で戦い抜く「魔物サバイバル」、さらには40年の弱男人生で味わったことのない甘酸っぱい青春群像劇やモテ期も…。
この世界を動かす、最大の敵にご注目ください!
~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます
無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる