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494・増えた面倒事
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お父様と二人の伯爵に報告を終えた私は、リティアにある別邸で身体を休めることにした。
最初は報告した時点で次の拠点に行こうと思ったのだけど……それはお父様に止められてしまった。
「お前以外の者も奮闘している。ダークエルフ族の拠点の位置は共有しているのだから、少しは他の者に任せて休むのを覚えなさい。上に立つ者こそ、いざという時の為に動けるようにしなければならないのだよ」
……と優しく諭されたのが今でも頭に残っている。という訳で別の拠点に向かって移動するのは止めて、中央都市リティアに構えている別邸の一つでこうして休息を取っていた。庭園でパーゴラ(雪桜花では東屋と呼ばれている簡易的な屋根付きベンチ)でのんびりと過ごしていると、心の中に清涼な風が吹くというか、気持ちが洗われる気がする。
「……偶にはこういうのもいいかもしれないわね」
普段は殺風景というか、地下室ばかりに行ってるからこういうのが凄く新鮮に感じる。
リシュファス家の別邸や別荘には綺麗な花壇が多くて、植えられた花々は季節感を与えてくれる。
「ティアちゃん、ここにいたの?」
花を愛でてそよ風を受けているところにファリスが元気よくやってきた。ようやく見つけた……みたいな雰囲気が全身で表れていて、安堵のため息を吐いていた。
「ちょっと疲れた心の洗濯をね」
「……なにそれ?」
きょとんとしているファリスは心底わかっていない様子だ。彼女はそもそも地下にいる事が当たり前で、こんな景色に見惚れるなんて事はそうそうなかったのだろう。
昔の私なら、ファリスと同じように心を癒されるなんて事、有り得なかった。この世界に転生して初めて
知ったんだしね。
「偶にはのんびり景色を眺めて何もしないのも良いってこと」
「んー……よくわかんない」
今はわからなくてもいい。ファリスにはそんな時間がなかったってことだけだから。いずれわかる。それを確信しているからこそ、私は微笑むだけで留めておいた。
「それより、私の事を探していたみたいだけど……どうしたの?」
「え、あ、ああ。これを渡されたから……」
ファリスはようやく思い出したと言うかのように手紙を取り出した。結構上等な品質の紙を使用していて、シルケット王家の封蝋が施されていた。
「これ?」
「うん。なんか怪しいの締め上げたら持ってた」
「……え?」
いきなり何を言っているのかと思った。なんで怪しいのがそんなものを持っていたかとか。そもそもなんで見つけたのかとか、もう色々突っ込みたいところがあった。
「えっと、ちょっとお散歩して何かいいのあったらティアちゃんにお土産を買って帰ろーって思ってたの。それで館から出て、町の入り口辺りに行ったの。それでなんとなく小道を入ったら――」
「その怪しいのを見つけた……と?」
こくんと頷くファリス。そんな理由で怪しい人物に出会うなんて、ファリスも随分持っているというか、不幸というか……。しかもシルケット王家の手紙。なんで持っているんだか。
「シルケットからの使者の可能性は?」
「ううん。それはないと思うよ。だって、手紙持ってたの魔人族だったもん」
魔人族……。それはシルケット的にはあり得ない。こんな王家の封蝋がついてる手紙を猫人族以外に任せるなんて事は絶対にない。最も信のおける忠臣か、自分達の手紙だとはっきりとわかる使者を選別するのが基本だ。それがより重要であれば、位の高い者の手紙であれば尚更。ザインド付近の拠点を攻略している時も猫人族の使者が来たし、事ここに至って魔人族の使者なんて選択肢は存在しない。
「その人は?」
「え、えっと……殺した。襲い掛かってきたし、他の人達も死んでたから」
あー、やっぱり少し遅かったか。いや、そんな空気はあった。ファリスなら生け捕りにするなんて命令でもされなければ考えもしない。襲ってきたなら殺す。それが当たり前なのだから、当然生きている訳ないか。
「その死んでた人達の種族は?」
「猫人族だったよ。前にティアちゃんに手紙を届けてくれたのとは違う毛並みの人。それと護衛が二人かな。そっちも同じ種族だった」
ファリスの言葉に違和感がある。なんで使者の人がわざわざ小道に入って殺されたのだろう? 目的があって、それが最重要だと認識できる人達だからこそ選ばれたはずだ。それなのになんでそんな理解出来ない行動を取ったのだろう?
「あ、あと気になった事があるの」
情報を小出しにされて、微妙にもどかしい気持ちを味わわされている。いっぺんに言って欲しい気持ちを堪えて、続きを話してもらえるように黙る。
「一人は武器を抜いてたんだけど、残った二人は剣が鞘に収まったままだったの。それと剣を抜いてない片方が驚いた顔をしてたかな」
「……そう」
それはつまり最初は無警戒で、なんらかの形で襲撃。最後の一人が武器を抜いて応戦したがあえなく絶命……といったところだろう。
小道に入った使者。ロクな抵抗もなく奪われたであろう手紙。そして驚いた状態で死んだ猫人族……何かわかりそうでわからない。
「ちょっとそこまで案内してくれる?」
「え? うん、いいけど……」
なんでそんな必要があるんだろう? って感じの顔をしている。ファリスが実際見た光景を見れば何かわかるかもしれない。そんな気がしたからだった。
手紙は現場を見た後でお父様に提出しよう。ファリスのことだからどうせ衛兵には知らせていないだろうし、何か情報が得られるかもしれない。手紙に緊急性があるかもしれないけど、信憑性を上げる為にも損はないはずだ。
最初は報告した時点で次の拠点に行こうと思ったのだけど……それはお父様に止められてしまった。
「お前以外の者も奮闘している。ダークエルフ族の拠点の位置は共有しているのだから、少しは他の者に任せて休むのを覚えなさい。上に立つ者こそ、いざという時の為に動けるようにしなければならないのだよ」
……と優しく諭されたのが今でも頭に残っている。という訳で別の拠点に向かって移動するのは止めて、中央都市リティアに構えている別邸の一つでこうして休息を取っていた。庭園でパーゴラ(雪桜花では東屋と呼ばれている簡易的な屋根付きベンチ)でのんびりと過ごしていると、心の中に清涼な風が吹くというか、気持ちが洗われる気がする。
「……偶にはこういうのもいいかもしれないわね」
普段は殺風景というか、地下室ばかりに行ってるからこういうのが凄く新鮮に感じる。
リシュファス家の別邸や別荘には綺麗な花壇が多くて、植えられた花々は季節感を与えてくれる。
「ティアちゃん、ここにいたの?」
花を愛でてそよ風を受けているところにファリスが元気よくやってきた。ようやく見つけた……みたいな雰囲気が全身で表れていて、安堵のため息を吐いていた。
「ちょっと疲れた心の洗濯をね」
「……なにそれ?」
きょとんとしているファリスは心底わかっていない様子だ。彼女はそもそも地下にいる事が当たり前で、こんな景色に見惚れるなんて事はそうそうなかったのだろう。
昔の私なら、ファリスと同じように心を癒されるなんて事、有り得なかった。この世界に転生して初めて
知ったんだしね。
「偶にはのんびり景色を眺めて何もしないのも良いってこと」
「んー……よくわかんない」
今はわからなくてもいい。ファリスにはそんな時間がなかったってことだけだから。いずれわかる。それを確信しているからこそ、私は微笑むだけで留めておいた。
「それより、私の事を探していたみたいだけど……どうしたの?」
「え、あ、ああ。これを渡されたから……」
ファリスはようやく思い出したと言うかのように手紙を取り出した。結構上等な品質の紙を使用していて、シルケット王家の封蝋が施されていた。
「これ?」
「うん。なんか怪しいの締め上げたら持ってた」
「……え?」
いきなり何を言っているのかと思った。なんで怪しいのがそんなものを持っていたかとか。そもそもなんで見つけたのかとか、もう色々突っ込みたいところがあった。
「えっと、ちょっとお散歩して何かいいのあったらティアちゃんにお土産を買って帰ろーって思ってたの。それで館から出て、町の入り口辺りに行ったの。それでなんとなく小道を入ったら――」
「その怪しいのを見つけた……と?」
こくんと頷くファリス。そんな理由で怪しい人物に出会うなんて、ファリスも随分持っているというか、不幸というか……。しかもシルケット王家の手紙。なんで持っているんだか。
「シルケットからの使者の可能性は?」
「ううん。それはないと思うよ。だって、手紙持ってたの魔人族だったもん」
魔人族……。それはシルケット的にはあり得ない。こんな王家の封蝋がついてる手紙を猫人族以外に任せるなんて事は絶対にない。最も信のおける忠臣か、自分達の手紙だとはっきりとわかる使者を選別するのが基本だ。それがより重要であれば、位の高い者の手紙であれば尚更。ザインド付近の拠点を攻略している時も猫人族の使者が来たし、事ここに至って魔人族の使者なんて選択肢は存在しない。
「その人は?」
「え、えっと……殺した。襲い掛かってきたし、他の人達も死んでたから」
あー、やっぱり少し遅かったか。いや、そんな空気はあった。ファリスなら生け捕りにするなんて命令でもされなければ考えもしない。襲ってきたなら殺す。それが当たり前なのだから、当然生きている訳ないか。
「その死んでた人達の種族は?」
「猫人族だったよ。前にティアちゃんに手紙を届けてくれたのとは違う毛並みの人。それと護衛が二人かな。そっちも同じ種族だった」
ファリスの言葉に違和感がある。なんで使者の人がわざわざ小道に入って殺されたのだろう? 目的があって、それが最重要だと認識できる人達だからこそ選ばれたはずだ。それなのになんでそんな理解出来ない行動を取ったのだろう?
「あ、あと気になった事があるの」
情報を小出しにされて、微妙にもどかしい気持ちを味わわされている。いっぺんに言って欲しい気持ちを堪えて、続きを話してもらえるように黙る。
「一人は武器を抜いてたんだけど、残った二人は剣が鞘に収まったままだったの。それと剣を抜いてない片方が驚いた顔をしてたかな」
「……そう」
それはつまり最初は無警戒で、なんらかの形で襲撃。最後の一人が武器を抜いて応戦したがあえなく絶命……といったところだろう。
小道に入った使者。ロクな抵抗もなく奪われたであろう手紙。そして驚いた状態で死んだ猫人族……何かわかりそうでわからない。
「ちょっとそこまで案内してくれる?」
「え? うん、いいけど……」
なんでそんな必要があるんだろう? って感じの顔をしている。ファリスが実際見た光景を見れば何かわかるかもしれない。そんな気がしたからだった。
手紙は現場を見た後でお父様に提出しよう。ファリスのことだからどうせ衛兵には知らせていないだろうし、何か情報が得られるかもしれない。手紙に緊急性があるかもしれないけど、信憑性を上げる為にも損はないはずだ。
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