490 / 676
490・予想外展開
しおりを挟む
疲弊して帰ってから数日。気力を取り戻した私は残った二つの拠点攻略に動き出した。……まではよかった。結果的に、残りの二つは完全にもぬけの殻で、動かないクーティノスとアーマーゴレムのみが残っていた。地下への道も全く隠していないし、部屋には何もない。
私の【サーチホスティリティ】で地図を表示しても敵対している勢力は全く残っていなかった。
敵が一切いないこの事態に、ジュールは「ティア様に恐れをなして逃げた」と言っていた。ファリスも僅かだけどそれに賛同していて……実際は違うだろうという考えを静かに封殺する。どうせ後に知ることになるのだし、今の二人に真実と思えるものを告げても意味がないからだ。
本当のところ、彼らの思惑が達成されたか……もしくは何らかの成果を得たか。この二つのどちらかだと思う。
今までどんなにこてんぱんにしても向かって来たダークエルフ族がこんなにあっさりと引くなんて考えられなかった。そんなにしおらしいなら、最初からこんな戦い挑んでこないだろう。そこまで考えて真っ先に頭に浮かぶのはプレートアーマーで構築されていた機動兵器。次々と学んでいったその存在への脅威は、実際対峙した私くらいしか理解できないだろう。
もし……いや、そんな仮定の言葉じゃない。あれが一点物ではなくて、複数……それも量産に成功していれば、彼らは間違いなく戦争に組み込む。既に何らかの標的と戦って経験を積んでいるかもしれない。学ぶのにどれだけ上限があるかはわからないけど、少なくとも魔導と武装を使用していない私に迫る程の実力は身に付けられるだろう。
そうなれば並大抵の兵士では敵わない。流石に骨が折れるとかそういう苦労話では済まなくなってくるはずだ。
それなのに……呑気な感じで過ごしている二人が少々羨ましく感じる。
「ティアちゃん?」
そんな私の心境を知ってか知らずか、心配そうにのぞき込んでくるファリスの顔が迫ってくる。
「なんでもない。ちょっと考え事をしていただけ」
「そう、それならよかった」
ほっと一安心した様子のファリスの後ろで、ジュールが鳥車に荷物を載せ終わったようでこっちに来ていた。
「ティア様、終わりました。ですが……本当に向かうのですか?」
ジュールの疑問もある意味ではもっともだろう。今から私は中央都市リティアに向かおうとしていた。
いつまで経ってもこちらの捕らえたダークエルフ族を引き取りに来ない事に加えて、あの鎧の件もある。あれの存在は手紙にしたためるよりも直接出向いて説明した方がより脅威度を伝えられるはずだ。
それに四つの拠点を町を中心に十字に配置された拠点の存在。他の地図に照らし合わせて各国にどれだけ存在しているかの確認。伝えなければならない事はいくらでもある。到底手紙に伝えきれるものではなかった。
「当然。一度しっかりと話し合っておきたかったもの。それとも、ジュールは不満?」
「い、いえ! 滅相もございません! ただ……これでいいのかと思いまして。拠点を潰すのも立派な役割だとは思います。ですが、このまま闇雲にやってもいいのかと……」
ジュールも少しは思うところがあるようだ。彼女もあの謎の光を事を気にしているのだろう。
「それも含めて、よ。一度しっかり報告して今後の事を決めなければならないという事。他のところからも何か情報が入ってきているかもしれないしね」
私達は独自で動いている。時折お父様あてに手紙を書いてはいても場所を転々としているから中々女王陛下からの使者はこない。それはつまり、情報も自分達で集めないといけないという事にもなる。ただでさえ少数な上、戦いばかり得意なのが二人にとても諜報活動なんて出来そうにない子が一人。他の国の使者の二人がなんとか私達を探し出してきてくれたけれど、それもかなり緊急事態だからこそだ。
今世界中がどうなっているのか知っておいた方が今後の活動の為になる――。
そう判断したからこそ、一度リティアへと向かうことにしたのだ。
「リティアに行くってことは、またあの人に会えるんだよね?」
「報告に行くのだからそうなるでしょうね。楽しみ?」
「うん!」
ファリスは胸が弾む気持ちを抑えられないのか、少しそわそわしている。『あの人』とはまず間違いなく女王陛下の事だろう。以前ガンドルグ王と会談する前に話した様子からすると、多少なりとも気にしてるみたいだったからね。
どこか嬉しそうにしているため彼女を見ていると、私まで同じ気持ちになってくる。
なんというか、女王陛下はどこか懐かしい匂いがする。他の王にはない魅力があるというか……。それがファリスにも伝わっているのだろう。逆にジュールは何もないから、もしかしたら聖黒族にだけ伝わる感情なのかも。
「それでは行きましょう。ジュールは彼らの監視、お願いね」
「わかりました!」
結局何日も連れて回る事になった彼らともこれでお別れとなると――特に何もないか。むしろようやく解放される安堵の気持ちでいっぱいになりそうだ。
早く重たい荷を下ろして楽になる。その目的もついでに付け足すように手早く準備を終えた私達は、この地を後にし、中央都市リティアへとラントルオを走らせた。
私の【サーチホスティリティ】で地図を表示しても敵対している勢力は全く残っていなかった。
敵が一切いないこの事態に、ジュールは「ティア様に恐れをなして逃げた」と言っていた。ファリスも僅かだけどそれに賛同していて……実際は違うだろうという考えを静かに封殺する。どうせ後に知ることになるのだし、今の二人に真実と思えるものを告げても意味がないからだ。
本当のところ、彼らの思惑が達成されたか……もしくは何らかの成果を得たか。この二つのどちらかだと思う。
今までどんなにこてんぱんにしても向かって来たダークエルフ族がこんなにあっさりと引くなんて考えられなかった。そんなにしおらしいなら、最初からこんな戦い挑んでこないだろう。そこまで考えて真っ先に頭に浮かぶのはプレートアーマーで構築されていた機動兵器。次々と学んでいったその存在への脅威は、実際対峙した私くらいしか理解できないだろう。
もし……いや、そんな仮定の言葉じゃない。あれが一点物ではなくて、複数……それも量産に成功していれば、彼らは間違いなく戦争に組み込む。既に何らかの標的と戦って経験を積んでいるかもしれない。学ぶのにどれだけ上限があるかはわからないけど、少なくとも魔導と武装を使用していない私に迫る程の実力は身に付けられるだろう。
そうなれば並大抵の兵士では敵わない。流石に骨が折れるとかそういう苦労話では済まなくなってくるはずだ。
それなのに……呑気な感じで過ごしている二人が少々羨ましく感じる。
「ティアちゃん?」
そんな私の心境を知ってか知らずか、心配そうにのぞき込んでくるファリスの顔が迫ってくる。
「なんでもない。ちょっと考え事をしていただけ」
「そう、それならよかった」
ほっと一安心した様子のファリスの後ろで、ジュールが鳥車に荷物を載せ終わったようでこっちに来ていた。
「ティア様、終わりました。ですが……本当に向かうのですか?」
ジュールの疑問もある意味ではもっともだろう。今から私は中央都市リティアに向かおうとしていた。
いつまで経ってもこちらの捕らえたダークエルフ族を引き取りに来ない事に加えて、あの鎧の件もある。あれの存在は手紙にしたためるよりも直接出向いて説明した方がより脅威度を伝えられるはずだ。
それに四つの拠点を町を中心に十字に配置された拠点の存在。他の地図に照らし合わせて各国にどれだけ存在しているかの確認。伝えなければならない事はいくらでもある。到底手紙に伝えきれるものではなかった。
「当然。一度しっかりと話し合っておきたかったもの。それとも、ジュールは不満?」
「い、いえ! 滅相もございません! ただ……これでいいのかと思いまして。拠点を潰すのも立派な役割だとは思います。ですが、このまま闇雲にやってもいいのかと……」
ジュールも少しは思うところがあるようだ。彼女もあの謎の光を事を気にしているのだろう。
「それも含めて、よ。一度しっかり報告して今後の事を決めなければならないという事。他のところからも何か情報が入ってきているかもしれないしね」
私達は独自で動いている。時折お父様あてに手紙を書いてはいても場所を転々としているから中々女王陛下からの使者はこない。それはつまり、情報も自分達で集めないといけないという事にもなる。ただでさえ少数な上、戦いばかり得意なのが二人にとても諜報活動なんて出来そうにない子が一人。他の国の使者の二人がなんとか私達を探し出してきてくれたけれど、それもかなり緊急事態だからこそだ。
今世界中がどうなっているのか知っておいた方が今後の活動の為になる――。
そう判断したからこそ、一度リティアへと向かうことにしたのだ。
「リティアに行くってことは、またあの人に会えるんだよね?」
「報告に行くのだからそうなるでしょうね。楽しみ?」
「うん!」
ファリスは胸が弾む気持ちを抑えられないのか、少しそわそわしている。『あの人』とはまず間違いなく女王陛下の事だろう。以前ガンドルグ王と会談する前に話した様子からすると、多少なりとも気にしてるみたいだったからね。
どこか嬉しそうにしているため彼女を見ていると、私まで同じ気持ちになってくる。
なんというか、女王陛下はどこか懐かしい匂いがする。他の王にはない魅力があるというか……。それがファリスにも伝わっているのだろう。逆にジュールは何もないから、もしかしたら聖黒族にだけ伝わる感情なのかも。
「それでは行きましょう。ジュールは彼らの監視、お願いね」
「わかりました!」
結局何日も連れて回る事になった彼らともこれでお別れとなると――特に何もないか。むしろようやく解放される安堵の気持ちでいっぱいになりそうだ。
早く重たい荷を下ろして楽になる。その目的もついでに付け足すように手早く準備を終えた私達は、この地を後にし、中央都市リティアへとラントルオを走らせた。
0
お気に入りに追加
160
あなたにおすすめの小説
毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。
克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様
コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」
ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。
幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。
早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると――
「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」
やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。
一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、
「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」
悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。
なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?
でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。
というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!
白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
異世界に転生したフランカは公爵夫人として暮らしてきたが、前世から叶えたい夢があった。パティシエールになる。その夢を叶えようと夫である王国財務総括大臣ドミニクに相談するも答えはノー。夫婦らしい交流も、信頼もない中、三年の月日が近づき──フランカは賭に出る。白い結婚三年目で離縁できる条件を満たしていると迫り、夢を叶えられないのなら離縁すると宣言。そこから公爵家一同でフランカに考え直すように動き、ドミニクと話し合いの機会を得るのだがこの夫、山のように隠し事はあった。
無言で睨む夫だが、心の中は──。
【詰んだああああああああああ! もうチェックメイトじゃないか!? 情状酌量の余地はないと!? ああ、どうにかして侍女の準備を阻まなければ! いやそれでは根本的な解決にならない! だいたいなぜ後妻? そんな者はいないのに……。ど、どどどどどうしよう。いなくなるって聞いただけで悲しい。死にたい……うう】
4万文字ぐらいの中編になります。
※小説なろう、エブリスタに記載してます
【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます
無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。
美少女に転生して料理して生きてくことになりました。
ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。
飲めないお酒を飲んでぶったおれた。
気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。
その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる