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487・更なる謎

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「ティ、ティアちゃん……!?」

 息を整えながら私に視線を向けてくる彼女は、大分疲れている様子だった。それもそうだろう。ファリスは地上の敵を一手に引き受けてくれていたのだ。私が戦ったゴレム達とは比べ物にならない数の敵と戦ってきたはずだ。既にボロボロになった衣服に、魔力の消耗が激しいのか少し顔が青くなっている。

 そんな顔なのに、表情は驚きと感動に満ちていた。あの拠点がどんな風に攻撃されたか地上で見ていたのだろう。今すぐ駆け寄りたそうにしているけど、目の前の敵を警戒している。

「大丈夫?」
「う、うん……ティアちゃんは? あの攻撃で大丈夫? 怪我してない? 頭打って――」
「平気。私はこの通り、傷一つついてないから」

 ひらひらと手を振って大したことはないとアピールしておく。改めて今ファリスが相対している敵の方を見る。複製体と思われるオーク族の男性とその使役者という感じのダークエルフ族の男性が一人ずつ。そして最後は剣を携えて全身鎧を身に纏っている(背格好から推測するに)男性といったところだ。
 鎧が前衛。残りの二人が後衛って感じの陣形を組んでいて、それなりに場数を踏んでいる印象を受ける。

「それで……後はこれだけ?」
「そうなんだけど……」

 どうにも歯切れの悪い彼女の言葉を切るように鎧が襲い掛かってくる。それを確認したダークエルフ族の男が魔導を発動する。鎧に何か淡い光が纏わりついて、こちらに向かう速度を上げてきた。恐らく身体強化系の魔導なのだろう。ファリスに向かうかと思ったら、私に狙いを定めてきた。

「ファリス、貴女は向こうで支援をしている二人をなんとかして!」
「で、でも……!」

 ファリスの心配そうな目を向けてきている。多分、それだけの攻撃を受けたから……なんだろう。
 全く、本当に心配性で困る。私のこの姿を見てそんな顔をする理由がどこにあるのかな。少し服はボロボロで動きやすくはなっているけどね。

「貴女も疲れているでしょう。早く終わらせる為に行きなさい」
「う、うん!」

 自信に満ち溢れた顔をしてあげると、ファリスも納得したように駆け出した。少し大回りに支援している男二人に向かった彼女の背中を見送って、向かってきた鎧の男に向かって手を付きだす。

「【アシッドランス】!」

 流石にクーティノスに放った時のような威力は出さないように調整してぶつけようとした。命中すると確信出来る距離まで酸性の槍が迫ったその瞬間に手に持っている剣を一振り。たったそれだけで【アシッドランス】は掻き消えた。斬り捨てられたそれは魔王祭準決勝で戦ったローランの人造命具【フィリンベーニス・レプリカ】を彷彿とさせる。

「っ……!?」

 予想以上に危ない敵だと認識した私は、迫りくる鎧の男の斬撃を後ろに跳ぶようにかわす。一つ、また一つと斬りかかるそれは決して避けられない速度ではない。

「【イグニアンクス】!」

 あの剣の秘密を再び確かめるべく、今度は人型の炎を作り出す魔導を発動させる。突然に目の前に現れ、抱き着こうとするそれになんの躊躇ためらいもなく一閃を浴びせ、消し去ってしまう。
 ……やはりあの剣に何らかの細工が施されているみたいだ。早々になんとかしないとこちらが不利になる。
 問題はどこまでその剣の効果が及ぶか、だ。簡単な魔導? それとも人造命具にまで?

「全く……どこまでも面倒な物を作ってくれるわね。貴方もそう思わない?」

 とりあえず情報を引き出してみようと思って話しかけてみた。それで返されたのが刃といった辺りお察しだ。
 一切話をするつもりはないと言いたげに次々と斬撃を放ってくる。しかも今度はフェイントや寸止めを織り交ぜてきながら、だ。左上から右下へ振り下ろすようなコースを取ってきたかと思うと、途中で半円を描くように左下から右上への軌道に切り返していく。
 創かと思ったら殺気と共に突きを繰り出し、後退される事を予想していたかのように更に足に力を入れて跳ぶように一歩前進して無理やり間合いに納める。

「つっ……」

 今の一撃で肩を貫かれたけど、別に刃幅が大きい訳じゃないからそんなに大事にはならない。それより、気になるのはその学習能力だ。まるで乾いた大地が水を吸い取るかのようにどんどん私への対処を吸収していっている。先程まで使えていた避け方が次には使えない。斬撃の鋭さ、速度が徐々に上がっている等……。
 最初は支援されているのだろうと勘違いしていた。それもこれほど目に見えて変わっていけば流石に気付ける。
 考え事などしている場合か? とでも言いたげに最小動作で最短速度を出し、頬を掠める。自慢の黒髪が幾つか切れ、はらりと落ちていく。これではファリスの事を心配している場合ではない。

「はっ、ここまでなんてね。私と相対していてなお、手加減していたってこと? 随分舐められたものね」

 不満を漏らすように鼻で笑ってみるけれど、やっぱりこちらと話をする気はないようだ。クーティノスが片付いたと思ったら今度は魔導を切り裂く上に異常な成長力を見せつけてくる男。それでも嘆いている暇がないのは私の背負った宿命だからか。
 距離をとって剣の間合いから抜け出した私は、冷静なようで少し疲れていた。度重なる尋常じゃない魔力消費。全くわからない謎の光による攻撃。その全てが私の正常な判断を奪っていく。それによって焦りが募る。

「我ながら……情けないものね」

 自らの甘さに気付いた私は、それを拭うように額の汗を拭く。
 戦いはまだまだこれからだ。相手が目覚ましい成長を見せてくるというのなら、それを上回って見せる。必ず!
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