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482・使者現る
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私の目の前にやってきた二つの種族の男女(?)は跪いて頭を垂れた。……いや、もしかしたら男なのかもしれない。どうにも猫人族の方は性別がわかりづらくて困る。色んな猫人族を見たから目が少し女性的だと思うからそう判断したんだけど……。
「お初にお目にかかります。エールティア殿下。私は嵐丸・柊と申します」
「あたしはマオシャと申しますにゃ」
深々と頭を下げられると、なんだか自分が彼らの主となって偉くなったのだと錯覚しそうになる。いや実際公爵家の令嬢なんだし、次期女王候補なのだから十分位が高いんだけど。
「顔をあげてちょうだい。二人は私にどんな用事?」
「はっ、こちらをお届けするべく参上いたしました」
二人とも深々と手紙を持ち上げて差し出してきた。マオシャの方はシルケット王家の封蝋がされていて、嵐丸の方は一風変わった手紙で、どこか美しささえ感じる黒色の字がしたためられていた。
鬼人族の手紙というのはいつ見ても独特だ。墨と筆で綴られたそれは他の国ではまず見かけない。そういえば昔見た墨の文字も同じように美しさを感じたっけ。あれは鬼人族に言わせれば『達筆』なのだとか。私には違いがよくわからないし、そもそも読みにくいからなんとも言えないけど。ちなみにこれの裏には『出雲家』が出しているとはっきりわかる雲が月を隠し、桜の花びらがひとひら舞っている家紋が印されていた。
「なるほど。二人ともご苦労様。近くに――」
「いえ、出来るならば今すぐ中身を確かめていただきたく」
「こちらもお願いしますにゃ」
一度近くの町の宿に待機してもらって、後でゆっくり見ようと思ったけど、あまりにも彼らが真剣な表情をしているものだからつい口を閉ざしてしまった。
余程何か重要な案件なのだろう。どちらにしようか――迷った末、私が選んだのはシルケット王家の手紙だった。鬼人族は他の種族と違って身体能力の一点だけは聖黒族を凌駕する者もいる。特に現在覇王と呼ばれている桜鬼は凄まじい強さを誇っているのだとか。
そんな彼らよりも猫人族の彼らの方が重要度が高いと判断したというわけだ。
中身を確かめると、それは私やお父様を通しての救援要請だった。鉄の獣――クーティノスやアーマーゴレムの存在の他に、魔導砲と呼ばれる兵器が出てきて手に負えないのだとか。複製体にダークエルフ族も攻めてきて、拠点潰しも上手くいっていないらしい。確かシルケットにも数か所拠点が存在したはずだ。その中に今私達が攻略しているのと似たような配置の場所もある。多分そこから強力な兵器が次々と出現しているのだろう。
今はまだ彼らが僅かに優位を保っているそうだ。でもクーティノスには全く太刀打ちが出来ないらしく、撤退を余儀なくされてしまうらしい。
「……なるほど。それでリュネーと親睦のある私を通してラディン公爵閣下や女王陛下に救援を願いたい、と」
「はいですにゃ。あたし以外にも直接リティアに向かった者もいますにゃ。それでも、エールティア様にご助力を願えば、きっとこちらの本気度も伝わってくれると……そう判断いたしましたのにゃ」
こくりと頷いたマオシャの顔は、深刻だった。それほど切羽詰まっているのだろう。私が行けたらどれだけいいかとも思う。だけどそれは出来ない。シルケットがそんな状況というのなら、このティリアースにも同じことがいえる。せめてここが完全に攻略出来るまで私自身は動けない。
……他にも考える事はあるけれど、神妙な面持ちで開封を待っている嵐丸をいつまでもそのままにしておくわけにはいかない。意を決して封書を開いて中身を取り出した私は、静かにその書状を開いた。
中身はシルケットとそう変わらない。だけど出てきている兵器が違うようだ。こちらは鉄の……見たことのない動物に苦戦を強いられているとか。大きな甲羅を持つ生き物を模しているみたいで、頭は何故かどう猛な肉食動物のそれらしい。魔導に対する防御力は低いらしいけど、物理攻撃に対する耐性が高いのだとか。
鬼人族は魔力よりも身体能力に重点を置いている。雪雨のようになんでも出来る人もいるけど、やっぱり武に主軸を置いているのが彼らだ。クーティノスも物理的な攻撃に関しては脆い部分があえる。人造命具に頼り過ぎず、常時武器を携えている彼らにはそれにおあつらえ向きな兵器を用意したという訳だろう。一部の強者なら撃破する事も用意らしいけれど、数だけは多くて徐々に押し込まれているのだとか。それで多少なりともお父様に助力を願えないかというのが手紙の内容だ。出雲大将軍とその息子の雪雨の連名で綴られていて、桜鬼王の許可を得ている旨が記載されていた。
……なるほど。大体わかった。まさか国外ではそんな事になっているなんてね。私からお父様達に嘆願するのは簡単だ。でも、それを一気に二国同時にとなると難しい。こっちだって私が処理している拠点以外にも似たような構図の場所が幾つかある。救援に行ったと同時にやられかねない。まさかこんな事で頭を悩ませる事になるとはね。……どうしよう?
「お初にお目にかかります。エールティア殿下。私は嵐丸・柊と申します」
「あたしはマオシャと申しますにゃ」
深々と頭を下げられると、なんだか自分が彼らの主となって偉くなったのだと錯覚しそうになる。いや実際公爵家の令嬢なんだし、次期女王候補なのだから十分位が高いんだけど。
「顔をあげてちょうだい。二人は私にどんな用事?」
「はっ、こちらをお届けするべく参上いたしました」
二人とも深々と手紙を持ち上げて差し出してきた。マオシャの方はシルケット王家の封蝋がされていて、嵐丸の方は一風変わった手紙で、どこか美しささえ感じる黒色の字がしたためられていた。
鬼人族の手紙というのはいつ見ても独特だ。墨と筆で綴られたそれは他の国ではまず見かけない。そういえば昔見た墨の文字も同じように美しさを感じたっけ。あれは鬼人族に言わせれば『達筆』なのだとか。私には違いがよくわからないし、そもそも読みにくいからなんとも言えないけど。ちなみにこれの裏には『出雲家』が出しているとはっきりわかる雲が月を隠し、桜の花びらがひとひら舞っている家紋が印されていた。
「なるほど。二人ともご苦労様。近くに――」
「いえ、出来るならば今すぐ中身を確かめていただきたく」
「こちらもお願いしますにゃ」
一度近くの町の宿に待機してもらって、後でゆっくり見ようと思ったけど、あまりにも彼らが真剣な表情をしているものだからつい口を閉ざしてしまった。
余程何か重要な案件なのだろう。どちらにしようか――迷った末、私が選んだのはシルケット王家の手紙だった。鬼人族は他の種族と違って身体能力の一点だけは聖黒族を凌駕する者もいる。特に現在覇王と呼ばれている桜鬼は凄まじい強さを誇っているのだとか。
そんな彼らよりも猫人族の彼らの方が重要度が高いと判断したというわけだ。
中身を確かめると、それは私やお父様を通しての救援要請だった。鉄の獣――クーティノスやアーマーゴレムの存在の他に、魔導砲と呼ばれる兵器が出てきて手に負えないのだとか。複製体にダークエルフ族も攻めてきて、拠点潰しも上手くいっていないらしい。確かシルケットにも数か所拠点が存在したはずだ。その中に今私達が攻略しているのと似たような配置の場所もある。多分そこから強力な兵器が次々と出現しているのだろう。
今はまだ彼らが僅かに優位を保っているそうだ。でもクーティノスには全く太刀打ちが出来ないらしく、撤退を余儀なくされてしまうらしい。
「……なるほど。それでリュネーと親睦のある私を通してラディン公爵閣下や女王陛下に救援を願いたい、と」
「はいですにゃ。あたし以外にも直接リティアに向かった者もいますにゃ。それでも、エールティア様にご助力を願えば、きっとこちらの本気度も伝わってくれると……そう判断いたしましたのにゃ」
こくりと頷いたマオシャの顔は、深刻だった。それほど切羽詰まっているのだろう。私が行けたらどれだけいいかとも思う。だけどそれは出来ない。シルケットがそんな状況というのなら、このティリアースにも同じことがいえる。せめてここが完全に攻略出来るまで私自身は動けない。
……他にも考える事はあるけれど、神妙な面持ちで開封を待っている嵐丸をいつまでもそのままにしておくわけにはいかない。意を決して封書を開いて中身を取り出した私は、静かにその書状を開いた。
中身はシルケットとそう変わらない。だけど出てきている兵器が違うようだ。こちらは鉄の……見たことのない動物に苦戦を強いられているとか。大きな甲羅を持つ生き物を模しているみたいで、頭は何故かどう猛な肉食動物のそれらしい。魔導に対する防御力は低いらしいけど、物理攻撃に対する耐性が高いのだとか。
鬼人族は魔力よりも身体能力に重点を置いている。雪雨のようになんでも出来る人もいるけど、やっぱり武に主軸を置いているのが彼らだ。クーティノスも物理的な攻撃に関しては脆い部分があえる。人造命具に頼り過ぎず、常時武器を携えている彼らにはそれにおあつらえ向きな兵器を用意したという訳だろう。一部の強者なら撃破する事も用意らしいけれど、数だけは多くて徐々に押し込まれているのだとか。それで多少なりともお父様に助力を願えないかというのが手紙の内容だ。出雲大将軍とその息子の雪雨の連名で綴られていて、桜鬼王の許可を得ている旨が記載されていた。
……なるほど。大体わかった。まさか国外ではそんな事になっているなんてね。私からお父様達に嘆願するのは簡単だ。でも、それを一気に二国同時にとなると難しい。こっちだって私が処理している拠点以外にも似たような構図の場所が幾つかある。救援に行ったと同時にやられかねない。まさかこんな事で頭を悩ませる事になるとはね。……どうしよう?
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