477 / 676
477・僅かな力
しおりを挟む
ぐらりと揺れたクーティノスの身体。すぐさま体勢を立て直したところからすると、あまりダメージは入っていないみたいだ。
やはり、アーマーゴレムと同じくらい硬いというわけね。
一応魔導を放つ事が出来るのはわかったけれど、あまり効果的ではない。恐らく、私の魔力が枯渇するのが先だろう。
「ふ、ふん、驚かせおって……その程度でクーティノスの防御が崩れる事はない! 観念して死ね!」
ダークエルフ族の老人は吠え立てるけれど、そう簡単に死ねるわけがない。振り下ろされた爪をかわし、牙を跳んで避ける。
「【イグニアンクス】!」
現れたら炎は幼児のような姿をしていて、どう見ても威力が足りないそれを飲み込んだクーティノスは平然と爪を振り上げてきた。
引っ掻き、噛みつき、切り裂く――原始的な攻撃ばかりだけど、それに隙を見出せない。いや、正確には意味がない隙しか見つけられない。
決め手が足りないのだ。今の私が【人造命具】を呼び出しても使い物にならない。魔導は今みたいに致命傷にはなり得ない。決定的に足りない。頭を感じる動物ならいくらでも急所を突くことが可能だけど、こんな鉄の塊のどこに弱点があるかなんてさっぱりわからない。魔石を砕けばまだ勝機が掴めるのに……。
今はファリスがある程度回復するのを待つしかない。
「何をやっている! クーティノス!! その小娘を噛み砕け!!」
先程までの喜びようが嘘のように苛立ちながら叫んでいる老人。あのまま頭に血が昇って死ぬんじゃないかな? とか思える程度には心に落ち着きを与えてくれた。
ちらりとファリスの方を見ると、どうやら傷は癒えてきているようだ。まだ動くには時間が――
「――っと!」
薙ぎ払うように振り抜かれた爪が私の頭上を横切る。はらりと少しだけ切れた黒髪が落ちていく。ダークエルフ族にとってはそれだけで喜ぶべきことなのか、時折視界に映る彼ははしゃいでいるように見えた。
「【コールドレイン】!」
氷の雨を降らせて動きを制限しようとするのだけど、この魔導は不発で終わってしまう。これにも大分魔力を使ったのだけれど、一つ一つの内包する魔力が少ないと、発動すらしないという訳か。となると【レフレルクス】なんかの複数の攻撃を同時に展開する系統の魔導は消されてしまうという事になる。
となると――
「【トキシックスピア】!!」
毒性の強い槍の魔導。魔力を注ぎ込んで作られたそれは、毒々しい液体で作られていて、片手で収まるような形をしている。クーティノスは一切それを気にせず、私に向かって牙を剥いて襲い掛かってきた。
この程度では足止めにすらならないとでも言いたげだ。
「ふ、ははは! クーティノス相手に毒の槍など……愚か! 実に愚かだな!」
「言ってなさいよ」
こんな限定された空間じゃなかったら、暴走なんて気にせずに魔導を発動出来るのに……! 悔しいが、すぐさま切り替えないといけない。毒じゃだめだったけれど、着眼点は悪くないはずだ。こちらの魔導を十全に震えない以上、からめ手でなんとかするしかない。圧倒的な力でねじ伏せる戦いが得意だからあまりそういうのは好きじゃないけど……何とかやるしかない!
まずはイメージだ。それもただ倒すだけのものじゃない。しっかりとイメージを練って発動しても、クーティノスの影響で完全に再現されない。それを踏まえた上で、頭の中で勝ち筋を見出さないと――
「くっくくく……ほらほら、いつまでも逃げていては――そうだ。クーティノス! あそこで動けない裏切り者から仕留めろ!!」
痺れを切らした老人の命令に私に襲い掛かっていたはずなのに、踵を返してファリスの方へと走っていく。
「ファリス!!」
「く、っぅぅぅ……」
肝心のファリスは傷が癒えてきているとはいえ、十全ではない体調で避けることなど難しい。ふらつきながらなんとか立ち上がって一度は上下から挟み撃ちにしてくる牙を転がるように避ける事が出来たけれど、それも何度続くかわからない。ならば――
「【アシッドランス】!」
毒が駄目なら酸性だ。いくら金属でできていても、錆びてしまえば動きも鈍くなるはず……! とっさに放った酸の槍がクーティノスの振り上げていた前足に命中して、降ろされていた時には僅かに軌道が逸れてファリスの左横の地面に深々と突き刺さる。
「【ソーンバインド】!」
茨が足かせのようにクーティノスに纏わりついて、動きに制限を掛ける。それをものせず茨を引きちぎっている間にファリスの側に近寄った私は、彼女を担いで移動する。
「ティ、ティア……ちゃん」
「傷口が開くから喋らないようにしなさい」
「で、でも……このままじゃ……」
このままじゃやられてしまう――そう言いたいのだろう。いつの間にか扉は閉められていて、開こうとしている間に追いつかれてしまうだろう。だけどまだなんとも出来ないわけじゃない。
「安心しなさい。私が苦戦しているように見える? この程度、別に何てことないんだから」
クーティノスの攻撃は私には当たっていない。そして少しずつではあるけれど、使える魔導と使えない魔導を選別する事が出来ている。構築に時間はかかるけれど、新しくイメージを練れば新しい魔導を生み出す事も。
負ける要素なんてあるわけない。私は負けない。絶対に……!
やはり、アーマーゴレムと同じくらい硬いというわけね。
一応魔導を放つ事が出来るのはわかったけれど、あまり効果的ではない。恐らく、私の魔力が枯渇するのが先だろう。
「ふ、ふん、驚かせおって……その程度でクーティノスの防御が崩れる事はない! 観念して死ね!」
ダークエルフ族の老人は吠え立てるけれど、そう簡単に死ねるわけがない。振り下ろされた爪をかわし、牙を跳んで避ける。
「【イグニアンクス】!」
現れたら炎は幼児のような姿をしていて、どう見ても威力が足りないそれを飲み込んだクーティノスは平然と爪を振り上げてきた。
引っ掻き、噛みつき、切り裂く――原始的な攻撃ばかりだけど、それに隙を見出せない。いや、正確には意味がない隙しか見つけられない。
決め手が足りないのだ。今の私が【人造命具】を呼び出しても使い物にならない。魔導は今みたいに致命傷にはなり得ない。決定的に足りない。頭を感じる動物ならいくらでも急所を突くことが可能だけど、こんな鉄の塊のどこに弱点があるかなんてさっぱりわからない。魔石を砕けばまだ勝機が掴めるのに……。
今はファリスがある程度回復するのを待つしかない。
「何をやっている! クーティノス!! その小娘を噛み砕け!!」
先程までの喜びようが嘘のように苛立ちながら叫んでいる老人。あのまま頭に血が昇って死ぬんじゃないかな? とか思える程度には心に落ち着きを与えてくれた。
ちらりとファリスの方を見ると、どうやら傷は癒えてきているようだ。まだ動くには時間が――
「――っと!」
薙ぎ払うように振り抜かれた爪が私の頭上を横切る。はらりと少しだけ切れた黒髪が落ちていく。ダークエルフ族にとってはそれだけで喜ぶべきことなのか、時折視界に映る彼ははしゃいでいるように見えた。
「【コールドレイン】!」
氷の雨を降らせて動きを制限しようとするのだけど、この魔導は不発で終わってしまう。これにも大分魔力を使ったのだけれど、一つ一つの内包する魔力が少ないと、発動すらしないという訳か。となると【レフレルクス】なんかの複数の攻撃を同時に展開する系統の魔導は消されてしまうという事になる。
となると――
「【トキシックスピア】!!」
毒性の強い槍の魔導。魔力を注ぎ込んで作られたそれは、毒々しい液体で作られていて、片手で収まるような形をしている。クーティノスは一切それを気にせず、私に向かって牙を剥いて襲い掛かってきた。
この程度では足止めにすらならないとでも言いたげだ。
「ふ、ははは! クーティノス相手に毒の槍など……愚か! 実に愚かだな!」
「言ってなさいよ」
こんな限定された空間じゃなかったら、暴走なんて気にせずに魔導を発動出来るのに……! 悔しいが、すぐさま切り替えないといけない。毒じゃだめだったけれど、着眼点は悪くないはずだ。こちらの魔導を十全に震えない以上、からめ手でなんとかするしかない。圧倒的な力でねじ伏せる戦いが得意だからあまりそういうのは好きじゃないけど……何とかやるしかない!
まずはイメージだ。それもただ倒すだけのものじゃない。しっかりとイメージを練って発動しても、クーティノスの影響で完全に再現されない。それを踏まえた上で、頭の中で勝ち筋を見出さないと――
「くっくくく……ほらほら、いつまでも逃げていては――そうだ。クーティノス! あそこで動けない裏切り者から仕留めろ!!」
痺れを切らした老人の命令に私に襲い掛かっていたはずなのに、踵を返してファリスの方へと走っていく。
「ファリス!!」
「く、っぅぅぅ……」
肝心のファリスは傷が癒えてきているとはいえ、十全ではない体調で避けることなど難しい。ふらつきながらなんとか立ち上がって一度は上下から挟み撃ちにしてくる牙を転がるように避ける事が出来たけれど、それも何度続くかわからない。ならば――
「【アシッドランス】!」
毒が駄目なら酸性だ。いくら金属でできていても、錆びてしまえば動きも鈍くなるはず……! とっさに放った酸の槍がクーティノスの振り上げていた前足に命中して、降ろされていた時には僅かに軌道が逸れてファリスの左横の地面に深々と突き刺さる。
「【ソーンバインド】!」
茨が足かせのようにクーティノスに纏わりついて、動きに制限を掛ける。それをものせず茨を引きちぎっている間にファリスの側に近寄った私は、彼女を担いで移動する。
「ティ、ティア……ちゃん」
「傷口が開くから喋らないようにしなさい」
「で、でも……このままじゃ……」
このままじゃやられてしまう――そう言いたいのだろう。いつの間にか扉は閉められていて、開こうとしている間に追いつかれてしまうだろう。だけどまだなんとも出来ないわけじゃない。
「安心しなさい。私が苦戦しているように見える? この程度、別に何てことないんだから」
クーティノスの攻撃は私には当たっていない。そして少しずつではあるけれど、使える魔導と使えない魔導を選別する事が出来ている。構築に時間はかかるけれど、新しくイメージを練れば新しい魔導を生み出す事も。
負ける要素なんてあるわけない。私は負けない。絶対に……!
0
お気に入りに追加
160
あなたにおすすめの小説
余命半年のはずが?異世界生活始めます
ゆぃ♫
ファンタジー
静波杏花、本日病院で健康診断の結果を聞きに行き半年の余命と判明…
不運が重なり、途方に暮れていると…
確認はしていますが、拙い文章で誤字脱字もありますが読んでいただけると嬉しいです。
微妙なバフなどもういらないと追放された補助魔法使い、バフ3000倍で敵の肉体を内部から破壊して無双する
こげ丸
ファンタジー
「微妙なバフなどもういらないんだよ!」
そう言われて冒険者パーティーを追放されたフォーレスト。
だが、仲間だと思っていたパーティーメンバーからの仕打ちは、それだけに留まらなかった。
「もうちょっと抵抗頑張んないと……妹を酷い目にあわせちゃうわよ?」
窮地に追い込まれたフォーレスト。
だが、バフの新たな可能性に気付いたその時、復讐はなされた。
こいつら……壊しちゃえば良いだけじゃないか。
これは、絶望の淵からバフの新たな可能性を見いだし、高みを目指すに至った補助魔法使いフォーレストが最強に至るまでの物語。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜
himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。
えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。
ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ!
★恋愛ランキング入りしました!
読んでくれた皆様ありがとうございます。
連載希望のコメントをいただきましたので、
連載に向け準備中です。
*他サイトでも公開中
日間総合ランキング2位に入りました!
ドアマットヒロインはごめん被るので、元凶を蹴落とすことにした
月白ヤトヒコ
ファンタジー
お母様が亡くなった。
それから程なくして――――
お父様が屋敷に見知らぬ母子を連れて来た。
「はじめまして! あなたが、あたしのおねえちゃんになるの?」
にっこりとわたくしを見やるその瞳と髪は、お父様とそっくりな色をしている。
「わ~、おねえちゃんキレイなブローチしてるのね! いいなぁ」
そう、新しい妹? が、言った瞬間・・・
頭の中を、凄まじい情報が巡った。
これ、なんでも奪って行く異母妹と家族に虐げられるドアマット主人公の話じゃね?
ドアマットヒロイン……物語の主人公としての、奪われる人生の、最初の一手。
だから、わたしは・・・よし、とりあえず馬鹿なことを言い出したこのアホをぶん殴っておこう。
ドアマットヒロインはごめん被るので、これからビシバシ躾けてやるか。
ついでに、「政略に使うための駒として娘を必要とし、そのついでに母親を、娘の世話係としてただで扱き使える女として連れて来たものかと」
そう言って、ヒロインのクズ親父と異母妹の母親との間に亀裂を入れることにする。
フハハハハハハハ! これで、異母妹の母親とこの男が仲良くわたしを虐げることはないだろう。ドアマットフラグを一つ折ってやったわっ!
うん? ドアマットヒロインを拾って溺愛するヒーローはどうなったかって?
そんなの知らん。
設定はふわっと。
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
【完結】契約結婚は円満に終了しました ~勘違い令嬢はお花屋さんを始めたい~
九條葉月
ファンタジー
【ファンタジー1位獲得!】
【HOTランキング1位獲得!】
とある公爵との契約結婚を無事に終えたシャーロットは、夢だったお花屋さんを始めるための準備に取りかかる。
花を包むビニールがなければ似たような素材を求めてダンジョンに潜り、吸水スポンジ代わりにスライムを捕まえたり……。そうして準備を進めているのに、なぜか店の実態はお花屋さんからかけ離れていって――?
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる