476 / 676
476・クーティノス
しおりを挟む
急いで駆け寄ったファリスの傷は予想通り深い。命に別状はないけど、それもいつまで保つかわからない。急いで治療が必要だろう。
「待っていなさい。【テリオスセラピア】!」
私が持ちうる中でも最高峰の回復魔導。今までだって数々の傷を癒してきた。だけどそれの光は非常に弱く、傷が癒える速度が明らかに遅い。
「嘘……!?」
驚愕の出来事に、私は言葉が漏れる程絶句してしまった。イメージは完璧。体内に張り巡らされている魔力にも異常はない。それでも治癒力は目に見えるほど落ちている。
「な、なんで――」
「……答えが知りたいか?」
聞き覚えのある声に振り向くと、先程の老人が鉄の獣の後ろでにたにたといやらしい笑みを向けていた。
……その笑みが今は物凄く癪に障る。ファリスの治療が上手くいかない事も相まって、苛立ちが募るが、それでも冷静さだけは失わないようにしないといけない。ローランとの一件で随分心に迷いが生じていたからこそ、ダークエルフ族の前で聖黒族の私が取り乱す訳にはいかなかった。
「くふ、ふふふふ、はっはっはは! このクーティノスこそ我らダークエルフ族が長年かけて作り出した最高傑作!! 禁断の地に辛うじて埋もれていた古代の英知。その全ての結晶だ!!」
自慢げに笑いながら説明してくれる姿は殴りたくなるほどどうでもいい。私にとってそんなもの路傍の小石よりも価値はない。
「それで、その大層なものがなんで私の魔導を妨げているのかしら?」
「……なんだ、思ったよりつまらない反応だな。まあいい。これはな、初代魔王と呼ばれている賢しい小娘が使っていた【マジックミュート】を参考にしている。クーティノスの稼働に要した魔石に失われた魔法と現在の魔導を組み合わせ、付与。術式を刻印することで魔力を妨害する魔導の常時発動を成功させ、周囲に顕現する魔力を用いたあらゆる効果を著しく低下させるのだよ!」
少し早口だけど、なんとか聞き取れた。まさか魔導を魔石に付与するなんて発想があるなんて……。
ダークエルフ族の事を少し見くびっていたようだ。こんな方法でこちらの魔導を封じるとは。
「……随分と嬉しそうね」
「もちろんだよ。私達の悲願。それは聖黒族を徹底的に滅ぼすことに他ならないのだからね!」
愉快そうに笑っているその声が酷く耳障りだ。そのつまらないプライドで今を生きる私達を巻き込むその姿。これほど煩わしいと思った事はない。
「そう」
「クーティノスがそれを成し遂げる! 所詮紛い物に聖黒族は倒せんという事を奴らに証明するのだ!! 行け!!」
『グルゥオォォォォォ!!!!』
老人の言葉に反応して雄叫びを上げる鉄の獣――クーティノス。最初に見た時は一体どんな原理で動いているのかとも思ったけれど、そんな事はどうでもいい。あの男のくだらない悲願とやらに付き合う気は全くない。
獣は咆哮しながら襲い掛かってくる。本物以上の迫力だけど、こんなもの、チープでしかない。
「【アグレッシブ・スピード】!」
牙が触れるギリギリに魔導を発動させる。やはり炎や氷など、自らの体外で具現化する物にのみ効果が及ぶみたいだ。私の体の中にある魔力をそのまま体内で使う分には何も問題ないという訳だ。だからと言って簡単に打開できる状況ではない。絶えず【テリオスセラピア】をファリスに流し続け、そちらに気を回しながら彼女に攻撃がいかないようにしなければいけない。
そして、体外で扱える魔導の威力が低下するという事は、少なからず【人造命具】にも影響があるという事。自らの心象の無意識な部分さえ表現し、形にするこの魔導にどれだけ効果があるかはわからない上、私の物はどれもが非常に強力で、一歩間違えて暴走なんて事になったら本当に手に負えなくなる。
「ほう、まだ使える魔導があったか。これは今後の課題だな」
先程怯えていたのが嘘のように余裕な表情が更に苛立ちを感じる。ここは変わらず地下で、下手に強力な魔導を使ってしまえば、崩落してしまうかもしれない。強力な魔導は封じられ、ここで扱えそうな魔導は全て威力が低下してい――ちょっと待った。
ふと自分の考えが正しいかどうか確かめる為に私はクーティノスに手をかざし、魔力を込め、イメージする。強く、強く。更に。
「はははは! 馬鹿が! 魔導は効かないと一度の説明では理解できなかったか! ならばその足りない頭に自らの死を刻み込んで逝け!!」
「【プロトンサンダー】!!」
全力を込めた魔導は、いつもの極太な線じゃなく、力をかなり加減した手のひらを覆う程度の雷だった。突進してきたクーティノスは顔面に叩きこまれた衝撃でのけぞって数歩後ろに後退した。
「な……!? ば、ばかな……!」
「なるほど。確かにこれは割に合わないわね」
元々初代魔王様の魔導と全く同じ性能を魔石に込めるなんて不可能だ。だからこそ辛うじて魔導を発動できる程度まで性能が落ちてしまう。
それでも不発に終わるって訳じゃない。魔力は大きく消耗してしまうけど、これなら……なんの問題もなく戦える!
「待っていなさい。【テリオスセラピア】!」
私が持ちうる中でも最高峰の回復魔導。今までだって数々の傷を癒してきた。だけどそれの光は非常に弱く、傷が癒える速度が明らかに遅い。
「嘘……!?」
驚愕の出来事に、私は言葉が漏れる程絶句してしまった。イメージは完璧。体内に張り巡らされている魔力にも異常はない。それでも治癒力は目に見えるほど落ちている。
「な、なんで――」
「……答えが知りたいか?」
聞き覚えのある声に振り向くと、先程の老人が鉄の獣の後ろでにたにたといやらしい笑みを向けていた。
……その笑みが今は物凄く癪に障る。ファリスの治療が上手くいかない事も相まって、苛立ちが募るが、それでも冷静さだけは失わないようにしないといけない。ローランとの一件で随分心に迷いが生じていたからこそ、ダークエルフ族の前で聖黒族の私が取り乱す訳にはいかなかった。
「くふ、ふふふふ、はっはっはは! このクーティノスこそ我らダークエルフ族が長年かけて作り出した最高傑作!! 禁断の地に辛うじて埋もれていた古代の英知。その全ての結晶だ!!」
自慢げに笑いながら説明してくれる姿は殴りたくなるほどどうでもいい。私にとってそんなもの路傍の小石よりも価値はない。
「それで、その大層なものがなんで私の魔導を妨げているのかしら?」
「……なんだ、思ったよりつまらない反応だな。まあいい。これはな、初代魔王と呼ばれている賢しい小娘が使っていた【マジックミュート】を参考にしている。クーティノスの稼働に要した魔石に失われた魔法と現在の魔導を組み合わせ、付与。術式を刻印することで魔力を妨害する魔導の常時発動を成功させ、周囲に顕現する魔力を用いたあらゆる効果を著しく低下させるのだよ!」
少し早口だけど、なんとか聞き取れた。まさか魔導を魔石に付与するなんて発想があるなんて……。
ダークエルフ族の事を少し見くびっていたようだ。こんな方法でこちらの魔導を封じるとは。
「……随分と嬉しそうね」
「もちろんだよ。私達の悲願。それは聖黒族を徹底的に滅ぼすことに他ならないのだからね!」
愉快そうに笑っているその声が酷く耳障りだ。そのつまらないプライドで今を生きる私達を巻き込むその姿。これほど煩わしいと思った事はない。
「そう」
「クーティノスがそれを成し遂げる! 所詮紛い物に聖黒族は倒せんという事を奴らに証明するのだ!! 行け!!」
『グルゥオォォォォォ!!!!』
老人の言葉に反応して雄叫びを上げる鉄の獣――クーティノス。最初に見た時は一体どんな原理で動いているのかとも思ったけれど、そんな事はどうでもいい。あの男のくだらない悲願とやらに付き合う気は全くない。
獣は咆哮しながら襲い掛かってくる。本物以上の迫力だけど、こんなもの、チープでしかない。
「【アグレッシブ・スピード】!」
牙が触れるギリギリに魔導を発動させる。やはり炎や氷など、自らの体外で具現化する物にのみ効果が及ぶみたいだ。私の体の中にある魔力をそのまま体内で使う分には何も問題ないという訳だ。だからと言って簡単に打開できる状況ではない。絶えず【テリオスセラピア】をファリスに流し続け、そちらに気を回しながら彼女に攻撃がいかないようにしなければいけない。
そして、体外で扱える魔導の威力が低下するという事は、少なからず【人造命具】にも影響があるという事。自らの心象の無意識な部分さえ表現し、形にするこの魔導にどれだけ効果があるかはわからない上、私の物はどれもが非常に強力で、一歩間違えて暴走なんて事になったら本当に手に負えなくなる。
「ほう、まだ使える魔導があったか。これは今後の課題だな」
先程怯えていたのが嘘のように余裕な表情が更に苛立ちを感じる。ここは変わらず地下で、下手に強力な魔導を使ってしまえば、崩落してしまうかもしれない。強力な魔導は封じられ、ここで扱えそうな魔導は全て威力が低下してい――ちょっと待った。
ふと自分の考えが正しいかどうか確かめる為に私はクーティノスに手をかざし、魔力を込め、イメージする。強く、強く。更に。
「はははは! 馬鹿が! 魔導は効かないと一度の説明では理解できなかったか! ならばその足りない頭に自らの死を刻み込んで逝け!!」
「【プロトンサンダー】!!」
全力を込めた魔導は、いつもの極太な線じゃなく、力をかなり加減した手のひらを覆う程度の雷だった。突進してきたクーティノスは顔面に叩きこまれた衝撃でのけぞって数歩後ろに後退した。
「な……!? ば、ばかな……!」
「なるほど。確かにこれは割に合わないわね」
元々初代魔王様の魔導と全く同じ性能を魔石に込めるなんて不可能だ。だからこそ辛うじて魔導を発動できる程度まで性能が落ちてしまう。
それでも不発に終わるって訳じゃない。魔力は大きく消耗してしまうけど、これなら……なんの問題もなく戦える!
0
お気に入りに追加
160
あなたにおすすめの小説
毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。
克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様
コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」
ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。
幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。
早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると――
「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」
やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。
一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、
「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」
悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。
なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?
でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。
というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!
白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
異世界に転生したフランカは公爵夫人として暮らしてきたが、前世から叶えたい夢があった。パティシエールになる。その夢を叶えようと夫である王国財務総括大臣ドミニクに相談するも答えはノー。夫婦らしい交流も、信頼もない中、三年の月日が近づき──フランカは賭に出る。白い結婚三年目で離縁できる条件を満たしていると迫り、夢を叶えられないのなら離縁すると宣言。そこから公爵家一同でフランカに考え直すように動き、ドミニクと話し合いの機会を得るのだがこの夫、山のように隠し事はあった。
無言で睨む夫だが、心の中は──。
【詰んだああああああああああ! もうチェックメイトじゃないか!? 情状酌量の余地はないと!? ああ、どうにかして侍女の準備を阻まなければ! いやそれでは根本的な解決にならない! だいたいなぜ後妻? そんな者はいないのに……。ど、どどどどどうしよう。いなくなるって聞いただけで悲しい。死にたい……うう】
4万文字ぐらいの中編になります。
※小説なろう、エブリスタに記載してます
【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます
無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。
美少女に転生して料理して生きてくことになりました。
ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。
飲めないお酒を飲んでぶったおれた。
気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。
その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる