465 / 676
465・ルーセイド伯爵領
しおりを挟む
ヒュッヘル子爵領を後にした私達は、鳥車を使って寄り道をせずにまっすぐルーセイド伯爵領へと向かった。
「そういえばルーセイド伯爵領ってどんなところなんですか?」
鳥車に揺られながら線のように流れていく景色のようなものを眺めていた私に、ジュールの質問が飛び込んできた。
「ジュールってティリアースにいるのに知らないの?」
「う……わ、私はアルファスとスラファムくらいしか……あ、あとティア様とリティアに行っただけですかね……だからあまりわからないのですよ」
ジュールが落ち込むような顔をしているけれど、私も彼女を連れて行かなかったから仕方がないのかも。
今の彼女は自分の事に一生懸命だから、地理とか学んでいる暇はないだろうし。
「ルーセイド伯爵領はそれなりに進んでいる町が多いわね。広い領地を活かして農業を行っているけれど、領民のほとんどがあまり豊かな暮らしは出来ていない。かといって最低って訳でもないからあまり気にされていないけれどね」
他の貴族領よりも税が高いのがルーセイド伯爵領の特徴だ。それでも不満が出ないのはその分手厚い保護を受けているからだという噂が流れている。実際他の領地に流れ込んでいないところを見ると事実なのだろう。
不作の時などは率先して減税で対応しているし、祝い事には必ず祝品を届けているとか。ただの領民の結婚式に貴族が贈り物なんて普通はあり得ない事だ。それに一般教養を身に着けさせるための学校もあるしね。戦闘技術を高める学園はティリアースに二つしかないけれど、学校はそれなりに多い。この領地で一番大きな町にあるそれは結構大きいらしくて、リシュファス領でも噂になっている程だ。
話を聞く限りではかなりの善人に思うのだけれど……こういう人がなんで私のお父様と敵対しているのかわからない。エスリーア公爵家と仲が深いとかいう話は聞かないし……今更ながら本当に不思議だ。
そういえばお父様も『昔は普通に話せていたのにな』ってぼやいていたっけ。一応新年を迎える時に顔を合わせてはいるけれど、あまり接点はない。以前こちらから話しかけた時、結構適当にあしらわれた。まだ幼いからわからないだろうとでも思っていたのかもしれないけど、私ははっきりと覚えている。そこから自然と疎遠になってしまい、結局年の終わりに集まる時も最低限の挨拶で済ませていた。だから本当はどんな人物かなんて私にも分からない。
「……そうだ。ジュールにお願いがあるのだけど」
「はい! なんなりと!」
私が直々というのが嬉しかったのか、飛び跳ねるようにきらきらとひた顔を向けてきた。子供のような笑顔で喜んで……。
「町に着いたらディアンおじ様――クリフウォル卿に手紙を出して欲しいの。今の状況と私の現在地を記してあるから、お願いね」
「それは構いませんが……何故クリフウォル様に?」
既にしたためてある手紙を受け取るとジュールは心底疑問そうにしていた。
確かにルーセイド伯爵領とクリフウォル侯爵領は繋がっていない。ディアンおじ様はリティア周辺でそれなりに広い領地を貰っているからね。クリフウォル領に行こうとしたら、もう一つ他の貴族の領地を跨がないといけないだろう。
「何かあった時、すぐに連携できるならそれに越した事はないでしょう? 今までよりは近いのだしね」
ディアンおじ様は何かあれば頼れって言っていたし、この際だから存分に当てにさせてもらおう。私にとってはお父様達の次に信じているあの人ならきっと上手くやってくれる。
「ティアちゃんにとってそのクリフウォルって貴族は頼りになるの?」
「もちろんよ。このティリアースでも数多い貴族の中で、あの方はお父様達の次に信じているもの」
――ディアン・ロウミュッズ。クリフウォル領を治めているオーク族の男性。聖黒族は領主のファミリーネームは領地に合わせるのだけど、他種族は基本的に違う。これも力の差を示す為らしい……けど、そこら辺は詳しくは知らない。ディアンおじ様もそういう事はあまり気にされない御方だしね。
ティリアースの貴族は数が多いけれど、誰より信頼している優しい人だ。その上強い。お父様には及ばないけれど、どっしりとした体格と積んだ経験によって纏っている強者の風格は本物だ。ただ強いだけの人では相手にもならないほどだもの。
「ジュールはそのディアンって人に会ったことある?」
「クリフウォル卿は去年の新年祭の時にお会いしたことがありますよ。あの時はまだ契約したてだった事もあって気付きませんでしたが……正直今でもあまり勝てる気がしません」
「……へぇ」
ファリスも興味が湧いてきたのか、ジュールにディアンおじ様について色々と聞いていた。
……まあ、彼女はディアンおじ様についてあまり知らないから私や雪風に教えてもらった事をそのまま話しているけれどね。
そんなこんなで辿り着いたのはルーセイド伯爵領にある大きな町だった。
「そういえばルーセイド伯爵領ってどんなところなんですか?」
鳥車に揺られながら線のように流れていく景色のようなものを眺めていた私に、ジュールの質問が飛び込んできた。
「ジュールってティリアースにいるのに知らないの?」
「う……わ、私はアルファスとスラファムくらいしか……あ、あとティア様とリティアに行っただけですかね……だからあまりわからないのですよ」
ジュールが落ち込むような顔をしているけれど、私も彼女を連れて行かなかったから仕方がないのかも。
今の彼女は自分の事に一生懸命だから、地理とか学んでいる暇はないだろうし。
「ルーセイド伯爵領はそれなりに進んでいる町が多いわね。広い領地を活かして農業を行っているけれど、領民のほとんどがあまり豊かな暮らしは出来ていない。かといって最低って訳でもないからあまり気にされていないけれどね」
他の貴族領よりも税が高いのがルーセイド伯爵領の特徴だ。それでも不満が出ないのはその分手厚い保護を受けているからだという噂が流れている。実際他の領地に流れ込んでいないところを見ると事実なのだろう。
不作の時などは率先して減税で対応しているし、祝い事には必ず祝品を届けているとか。ただの領民の結婚式に貴族が贈り物なんて普通はあり得ない事だ。それに一般教養を身に着けさせるための学校もあるしね。戦闘技術を高める学園はティリアースに二つしかないけれど、学校はそれなりに多い。この領地で一番大きな町にあるそれは結構大きいらしくて、リシュファス領でも噂になっている程だ。
話を聞く限りではかなりの善人に思うのだけれど……こういう人がなんで私のお父様と敵対しているのかわからない。エスリーア公爵家と仲が深いとかいう話は聞かないし……今更ながら本当に不思議だ。
そういえばお父様も『昔は普通に話せていたのにな』ってぼやいていたっけ。一応新年を迎える時に顔を合わせてはいるけれど、あまり接点はない。以前こちらから話しかけた時、結構適当にあしらわれた。まだ幼いからわからないだろうとでも思っていたのかもしれないけど、私ははっきりと覚えている。そこから自然と疎遠になってしまい、結局年の終わりに集まる時も最低限の挨拶で済ませていた。だから本当はどんな人物かなんて私にも分からない。
「……そうだ。ジュールにお願いがあるのだけど」
「はい! なんなりと!」
私が直々というのが嬉しかったのか、飛び跳ねるようにきらきらとひた顔を向けてきた。子供のような笑顔で喜んで……。
「町に着いたらディアンおじ様――クリフウォル卿に手紙を出して欲しいの。今の状況と私の現在地を記してあるから、お願いね」
「それは構いませんが……何故クリフウォル様に?」
既にしたためてある手紙を受け取るとジュールは心底疑問そうにしていた。
確かにルーセイド伯爵領とクリフウォル侯爵領は繋がっていない。ディアンおじ様はリティア周辺でそれなりに広い領地を貰っているからね。クリフウォル領に行こうとしたら、もう一つ他の貴族の領地を跨がないといけないだろう。
「何かあった時、すぐに連携できるならそれに越した事はないでしょう? 今までよりは近いのだしね」
ディアンおじ様は何かあれば頼れって言っていたし、この際だから存分に当てにさせてもらおう。私にとってはお父様達の次に信じているあの人ならきっと上手くやってくれる。
「ティアちゃんにとってそのクリフウォルって貴族は頼りになるの?」
「もちろんよ。このティリアースでも数多い貴族の中で、あの方はお父様達の次に信じているもの」
――ディアン・ロウミュッズ。クリフウォル領を治めているオーク族の男性。聖黒族は領主のファミリーネームは領地に合わせるのだけど、他種族は基本的に違う。これも力の差を示す為らしい……けど、そこら辺は詳しくは知らない。ディアンおじ様もそういう事はあまり気にされない御方だしね。
ティリアースの貴族は数が多いけれど、誰より信頼している優しい人だ。その上強い。お父様には及ばないけれど、どっしりとした体格と積んだ経験によって纏っている強者の風格は本物だ。ただ強いだけの人では相手にもならないほどだもの。
「ジュールはそのディアンって人に会ったことある?」
「クリフウォル卿は去年の新年祭の時にお会いしたことがありますよ。あの時はまだ契約したてだった事もあって気付きませんでしたが……正直今でもあまり勝てる気がしません」
「……へぇ」
ファリスも興味が湧いてきたのか、ジュールにディアンおじ様について色々と聞いていた。
……まあ、彼女はディアンおじ様についてあまり知らないから私や雪風に教えてもらった事をそのまま話しているけれどね。
そんなこんなで辿り着いたのはルーセイド伯爵領にある大きな町だった。
0
お気に入りに追加
160
あなたにおすすめの小説
毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。
克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様
コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」
ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。
幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。
早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると――
「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」
やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。
一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、
「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」
悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。
なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?
でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。
というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!
白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
異世界に転生したフランカは公爵夫人として暮らしてきたが、前世から叶えたい夢があった。パティシエールになる。その夢を叶えようと夫である王国財務総括大臣ドミニクに相談するも答えはノー。夫婦らしい交流も、信頼もない中、三年の月日が近づき──フランカは賭に出る。白い結婚三年目で離縁できる条件を満たしていると迫り、夢を叶えられないのなら離縁すると宣言。そこから公爵家一同でフランカに考え直すように動き、ドミニクと話し合いの機会を得るのだがこの夫、山のように隠し事はあった。
無言で睨む夫だが、心の中は──。
【詰んだああああああああああ! もうチェックメイトじゃないか!? 情状酌量の余地はないと!? ああ、どうにかして侍女の準備を阻まなければ! いやそれでは根本的な解決にならない! だいたいなぜ後妻? そんな者はいないのに……。ど、どどどどどうしよう。いなくなるって聞いただけで悲しい。死にたい……うう】
4万文字ぐらいの中編になります。
※小説なろう、エブリスタに記載してます
【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます
無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。
美少女に転生して料理して生きてくことになりました。
ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。
飲めないお酒を飲んでぶったおれた。
気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。
その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる