456 / 676
456・誰も操れない
しおりを挟む
とりあえず拠点に残されていた鳥車を使って縛り上げた男達を積み込む事にした。元々大量の物資を載せて移動していたみたいだし、大きさは十分に確保できるからだ。後は誰がラントルオの手綱を握るかだけど、それが大問題だった。
まず誰も鳥車を操った経験がなくて、ジュールは私と【契約】するまではラントルオを目にしたことはあっても実際乗ったり触ったり……知識としても微妙な感じでどうにも頼りがない。学園では鳥車に乗る訓練も存在するけれど、あれは三年生になってからだ。一年、二年は自分達の力を磨くことに集中しなければならないらしいからね。最後の年の選択科目の一つだから必修ではないけれど、貴族の子供でも習っている子は多い。兵士になれば鳥車を運用する機会もあるし、その国の重鎮や王を乗せる時に起用されれば……と考える人もいる。
国の最高責任者が乗る鳥車の御者になるなんて普通の貴族にはまず叶う事のない名誉な事だからね。要人暗殺などの万が一を考えて戦えるだけの強さを要求されるのもどれだけ就くのが難しいか理解できるだろう。
……思考が逸れた。つまり、だ。二年生で止まっている私達はそんな訓練しているはずもない。ジュールと私の違いといえば、単純に知識量の多さとラントルオと触れ合っていた回数くらいでしかない。
そして残ったファリスなんだけど……そもそもダークエルフ族が複製体に操縦技術を教える訳がなかった。鳥車を操る必要があるのは物資や兵士を運ぶ時くらいだろうし、そこで反逆の可能性がある複製体を採用するはずもないし、隷属の腕輪を使っても本人が知らない技術を使わせるのは不可能だし、叩きこんでも出来ないものは出来ない。だからと当然ファリスも教わってなかった。
男達の内の一人を叩き起こして縛りを解いてから御者にさせる――そういう手もあった。実際ジュールから提案されたし。だけどそれで余計な事をされたら意味がない。下手をしたら無理な操縦をされて鳥車を横転させた隙に逃げ出すかもしれない。これが複製体の子ならまだ可能性があったけれど、聖黒族を憎んでいるダークエルフ族に説得なんてしても無意味だし、そんな事で時間を掛ける必要はない。
なら結局、この三人以外で選ぶことは出来ない。一度戻ってお母様に相談した後、兵士を引き連れて戻る――という手もあるけれど、その間に彼らが目を覚まして逃げる可能性。応援が到着して解放される可能性……色んなデメリットを考えた結果、それは却下された。
最終的に私達が採った方法は――ラントルオに一番好かれた人が鳥車を操るというシンプルなものだった。
誰も経験がないし、それならいっそ言う事を聞いてくれそうな人に任せた方が僅かながらでも可能性はあるはずだ、という見解からだ。
一人一人ラントルオに向かい合い、どんな反応をしてくれるか試す事になって……ファリスは蹴飛ばされそうになったのを避けて反撃しようとしていたところをジュールが必死に止めていた。
彼女は自分の力を隠す事とかしないから、多分威圧されちゃったんだと思う。意思疎通の上手くいかない動物というのはそういうのに敏感だから。次に接触を試みたジュールは可もなく不可もなく。触る事は出来るけれど心を許していないというか……少し警戒されている感じがあった。だけどこれくらいなら問題ない。ずっとこのラントルオを扱う訳じゃないし、この場を乗り切れればそれで良い。
町まで鳥車を運転するのがジュールに決まった――と思ったんだけれど、ファリスが私にも試して欲しいと言ってきたものだから仕方なく触れてみる。すると、なぜか私の手に顔を擦り付けて嬉しそうに「クルルル」と鳴いた。明らかに私に懐いているその姿を見ては、誰が見ても私が鳥車を操るべきだと思ってしまうだろう。
「……決まりですね」
「え?」
「鳥車の御者係はティアちゃんが相応しいと思うよ!」
ジュールの言葉に嫌な予感がして聞き返したんだけれど、やっぱり一度決まった流れには逆らえないらしく、ファリスが嬉しそうに喜んで早速鳥車を見繕い始めた。
「わ、私で本当に良い? 大丈夫?」
「ラントルオがそんなに懐いてるんだから大丈夫だよ。それに……わたしじゃ駄目みたいだしね」
「ティア様の言う事なら聞いてくれそうな気もします。ですので、期待していますね!」
ファリスはどこか恨めしい感じでラントルオを軽く睨んで、ジュールは尊敬のまなざしを向けている。
そんな視線を向けられたら不安があるなんて言えず、結局引き受ける事にした。こんなやり取りをしている間にも、ラントルオは楽しそうに私に顔を擦り付けてくるし……なんでこんなに懐かれているんだろう?
以前も特に動物に好かれていた記憶なんてないし、そもそもラントルオと触れ合う機会だって多くなかったんだけど……。
「はあ、あなた、私の事知ってるの?」
「クル?」
私の質問にきょとんとした顔で首を傾げるその姿がなんとも愛らしくて、結局流れに乗せられるように鳥車を操縦することになった……という訳だ。
まず誰も鳥車を操った経験がなくて、ジュールは私と【契約】するまではラントルオを目にしたことはあっても実際乗ったり触ったり……知識としても微妙な感じでどうにも頼りがない。学園では鳥車に乗る訓練も存在するけれど、あれは三年生になってからだ。一年、二年は自分達の力を磨くことに集中しなければならないらしいからね。最後の年の選択科目の一つだから必修ではないけれど、貴族の子供でも習っている子は多い。兵士になれば鳥車を運用する機会もあるし、その国の重鎮や王を乗せる時に起用されれば……と考える人もいる。
国の最高責任者が乗る鳥車の御者になるなんて普通の貴族にはまず叶う事のない名誉な事だからね。要人暗殺などの万が一を考えて戦えるだけの強さを要求されるのもどれだけ就くのが難しいか理解できるだろう。
……思考が逸れた。つまり、だ。二年生で止まっている私達はそんな訓練しているはずもない。ジュールと私の違いといえば、単純に知識量の多さとラントルオと触れ合っていた回数くらいでしかない。
そして残ったファリスなんだけど……そもそもダークエルフ族が複製体に操縦技術を教える訳がなかった。鳥車を操る必要があるのは物資や兵士を運ぶ時くらいだろうし、そこで反逆の可能性がある複製体を採用するはずもないし、隷属の腕輪を使っても本人が知らない技術を使わせるのは不可能だし、叩きこんでも出来ないものは出来ない。だからと当然ファリスも教わってなかった。
男達の内の一人を叩き起こして縛りを解いてから御者にさせる――そういう手もあった。実際ジュールから提案されたし。だけどそれで余計な事をされたら意味がない。下手をしたら無理な操縦をされて鳥車を横転させた隙に逃げ出すかもしれない。これが複製体の子ならまだ可能性があったけれど、聖黒族を憎んでいるダークエルフ族に説得なんてしても無意味だし、そんな事で時間を掛ける必要はない。
なら結局、この三人以外で選ぶことは出来ない。一度戻ってお母様に相談した後、兵士を引き連れて戻る――という手もあるけれど、その間に彼らが目を覚まして逃げる可能性。応援が到着して解放される可能性……色んなデメリットを考えた結果、それは却下された。
最終的に私達が採った方法は――ラントルオに一番好かれた人が鳥車を操るというシンプルなものだった。
誰も経験がないし、それならいっそ言う事を聞いてくれそうな人に任せた方が僅かながらでも可能性はあるはずだ、という見解からだ。
一人一人ラントルオに向かい合い、どんな反応をしてくれるか試す事になって……ファリスは蹴飛ばされそうになったのを避けて反撃しようとしていたところをジュールが必死に止めていた。
彼女は自分の力を隠す事とかしないから、多分威圧されちゃったんだと思う。意思疎通の上手くいかない動物というのはそういうのに敏感だから。次に接触を試みたジュールは可もなく不可もなく。触る事は出来るけれど心を許していないというか……少し警戒されている感じがあった。だけどこれくらいなら問題ない。ずっとこのラントルオを扱う訳じゃないし、この場を乗り切れればそれで良い。
町まで鳥車を運転するのがジュールに決まった――と思ったんだけれど、ファリスが私にも試して欲しいと言ってきたものだから仕方なく触れてみる。すると、なぜか私の手に顔を擦り付けて嬉しそうに「クルルル」と鳴いた。明らかに私に懐いているその姿を見ては、誰が見ても私が鳥車を操るべきだと思ってしまうだろう。
「……決まりですね」
「え?」
「鳥車の御者係はティアちゃんが相応しいと思うよ!」
ジュールの言葉に嫌な予感がして聞き返したんだけれど、やっぱり一度決まった流れには逆らえないらしく、ファリスが嬉しそうに喜んで早速鳥車を見繕い始めた。
「わ、私で本当に良い? 大丈夫?」
「ラントルオがそんなに懐いてるんだから大丈夫だよ。それに……わたしじゃ駄目みたいだしね」
「ティア様の言う事なら聞いてくれそうな気もします。ですので、期待していますね!」
ファリスはどこか恨めしい感じでラントルオを軽く睨んで、ジュールは尊敬のまなざしを向けている。
そんな視線を向けられたら不安があるなんて言えず、結局引き受ける事にした。こんなやり取りをしている間にも、ラントルオは楽しそうに私に顔を擦り付けてくるし……なんでこんなに懐かれているんだろう?
以前も特に動物に好かれていた記憶なんてないし、そもそもラントルオと触れ合う機会だって多くなかったんだけど……。
「はあ、あなた、私の事知ってるの?」
「クル?」
私の質問にきょとんとした顔で首を傾げるその姿がなんとも愛らしくて、結局流れに乗せられるように鳥車を操縦することになった……という訳だ。
0
お気に入りに追加
160
あなたにおすすめの小説
余命半年のはずが?異世界生活始めます
ゆぃ♫
ファンタジー
静波杏花、本日病院で健康診断の結果を聞きに行き半年の余命と判明…
不運が重なり、途方に暮れていると…
確認はしていますが、拙い文章で誤字脱字もありますが読んでいただけると嬉しいです。
飯屋の娘は魔法を使いたくない?
秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。
魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。
それを見ていた貴族の青年が…。
異世界転生の話です。
のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。
※ 表紙は星影さんの作品です。
※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。
実家が没落したので、こうなったら落ちるところまで落ちてやります。
黒蜜きな粉
ファンタジー
ある日を境にタニヤの生活は変わってしまった。
実家は爵位を剥奪され、領地を没収された。
父は刑死、それにショックを受けた母は自ら命を絶った。
まだ学生だったタニヤは学費が払えなくなり学校を退学。
そんなタニヤが生活費を稼ぐために始めたのは冒険者だった。
しかし、どこへ行っても元貴族とバレると嫌がらせを受けてしまう。
いい加減にこんな生活はうんざりだと思っていたときに出会ったのは、商人だと名乗る怪しい者たちだった。
騙されていたって構わない。
もう金に困ることなくお腹いっぱい食べられるなら、裏家業だろうがなんでもやってやる。
タニヤは商人の元へ転職することを決意する。
転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜
家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。
そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?!
しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...?
ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...?
不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。
拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。
小説家になろう様でも公開しております。
【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革
うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。
優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。
家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。
主人公は、魔法・知識チートは持っていません。
加筆修正しました。
お手に取って頂けたら嬉しいです。
公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。
『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?
mio
ファンタジー
特別になることを望む『平凡』な大学生・弥登陽斗はある日突然亡くなる。
神様に『特別』になりたい願いを叶えてやると言われ、生まれ変わった先は異世界の第7皇子!? しかも母親はなんだかさびれた離宮に追いやられているし、騎士団に入っている兄はなかなか会うことができない。それでも穏やかな日々。
そんな生活も母の死を境に変わっていく。なぜか絡んでくる異母兄弟をあしらいつつ、兄の元で剣に魔法に、いろいろと学んでいくことに。兄と兄の部下との新たな日常に、以前とはまた違った幸せを感じていた。
日常を壊し、強制的に終わらせたとある不幸が起こるまでは。
神様、一つ言わせてください。僕が言っていた特別はこういうことではないと思うんですけど!?
他サイトでも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる