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455・迷走した先

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 拠点の男達を全員縛り上げて外に放り出したのはいいけれど、待てど暮らせど誰かが来る気配はない。もしかしたらもう来るかも……と思っていたけど、どうやらまだ先は長いようだ。
 これが他の――レアディやアロズだったら来ないかもしれないと思う事もあるけれど、ジュールとファリスなのだから何も心配する必要はない。

 だけど、ただ待っているだけでは暇だけど……他に何か出来るわけでもない。故郷に帰って更に複製した地図をお母様に渡して、私自身も保管しているけど……それを今更広げてもどうしようもない。こんな物は後でいくらでも見る事が出来る。
 要するに私は、暇を持て余していたのだ。

「早く来ないかしら……」

 思わず呟いてしまうのも無理もない事だろう。拠点の中に入っていた時は日が高く昇っていたけれど、今では段々沈んでいっている。
 ……そういえば、夕陽ってこんなに綺麗だったっけ。久しぶりにまともに景色を見た気がする。なんだかんだ言って忙しい時間が多かった。だからこんな風にじーっと景色を見ることなんて中々無かった。

 戦いばかりにしか目を向けてなかったせいなのかもしれないけれど、偶にはこういうのも――

「――ちゃーん!」

 なんて考えていたら、ファリスの声が聞こえてくる。どうやら間に合ったようだ。これ以上退屈で心が蝕まれずに済む。

 大きく私の名前を呼んでくるファリスは、ぶんぶん腕を振って喜んでいた。その隣でジュールが控えめに笑っていて、ようやく会えた事に安堵していた。

「ティアちゃーん!」
「ジュール、ファリス……やっぱり来たのね」
「当然!」

 嬉しそうに笑うファリスに釣られて笑みを浮かべそうになったけれど、それよりも彼女達が合流したことであのキスの一件が脳裏によぎってしまった。考えたくない。後回しにしてきた問題が再び浮上する。

 一瞬動きが鈍くなってしまった私だったけれど、ジュールには特に何の変化もなくて、普段通りだったから一度深く息を吸って吐く。それだけで気持ちを切り替える事にした。

「二人とも、来てくれてありがとう」
「あの、ティア様。拠点の方は……」
「ああ、それね。そんなに大きな規模をじゃなかったからもう制圧したわ」
「流石ティアちゃん! 強いよね。今度わたしとまた決闘しよう?」
「良いけれど……決闘じゃなくても模擬戦くらいならいつでも付き合うわよ」

 別に決闘なんて回りくどいやり方をしなくてもそれくらいならいつでも応じてあげるのに。

「だってせっかく勝つかもしれないのに、何にもご褒美がないなんてつまらないでしょ?」

 悪戯っ子のような笑み浮かべるファリスに、思わず呆れてしまった。まさかそんな目的で決闘をしようなんて言い出すなんて思わなかったからだ。だけどそれもまた彼女らしい。

「あ、あの……」

 子供みたいに無邪気に喜んでいるファリスの隣で、ジュールが何か言いたそうにもじもじしていた。彼女がそんな風に訴えようとするのは珍しい。いつもならはっきりと言ってくれるんだけど……。

「どうしたの?」
「いえ、私も……私とも決闘をしてもらいたいと思いまして……」

 まるで告白でもするかのように気恥ずかしそうに身体をよじらせる。なんだかそれに釣られて私も恥ずかしくなってきた。
 頬を赤らめて、身長的に多少私の方が小さいから見下ろす形になってるけど……逆だったら上目遣いになってただろう。

「別に構わないけれど……珍しいわね。ジュールから言い出すなんて」

 普段だったら絶対に聞かない言葉。あまりにも意外だったから夢か何かと勘違いしそうになるほどだ。
 だけど……あまりにもジュールが真剣な表情で見つめてくるものだから、これが現実で本物である事を教えてくれていた。

「今どれだけ離れているか、身をもって思い知るのも良いかなってね」

 そんな私の疑問に答えてくれたのはファリス。
 ……なるほど、要するにジュールを焚きつけたのはファリスという訳ね。あの子から私に『決闘をしたい』なんて言葉が出るなんて有り得ない事だ。だからこそ、偶にはそういうのも良いのかもしれないと思う。
 普段はこういう事をしないからこそ、私もジュールがどれだけ成長したのか実感してみたという気持ちが湧いて出てきた。

「そうね。私もジュールの実力がわかれば指示が出しやすくなるだろうし、私も何らかのアドバイスが出来るかもね。今すぐ……というのは無理だけれど、時間が出来たら戦ってあげる。でも一つだけ忠告してあげる」
「な、なんですか……?」

 ごくりと喉を鳴らして緊張しているジュール。今の私は笑顔だと思うけれど……多分彼女には怖いものに見えているのだろう。

「やるからには中途半端は許さない。貴女の全てを用いて私と戦いなさい。いいわね」
「……はい!」

 全力を出せばあっという間に終わってしまうだろう。だけど決闘するのならば本気で相手をする。それだけは覚えて欲しいという意味で釘を刺すと、彼女も真剣な表情で頷いていた。
 さて、話が脱線してしまったけれど、ここで本題に戻るとしよう。今積み上げている男達をどうするか……だ。
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