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446・ジュールの不安
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和やかになってしまったけれど、いつまでもこうしてはいられない。という訳で引き続き説明を続ける事にした。
「そうね。女王陛下のおかげである程度自由な裁量を与えられている。これなら多少不満が出るにしても黙らせられるはず」
「ティア様がそんな高い地位に……」
感激した様子のジュールだけど、別に私の力や立場が強くなった訳じゃない。あくまで女王陛下の代理なのだ。それを決して履き違えてはならない。
「所詮、仮初の権力でしょ。意味ないよ」
ファリスはわかっているのか、すっぱりと斬るように捨てられてしまった。むっとしたジュールだけど、それなりに長い付き合いをしていたからか呆れるように笑うだけだった。
「それでも私は嬉しいです! ティア様がどんどん上に行かれるのをこの目に焼き付けられるのが……!」
感極まっていたの半分泣きそうになっているジュールだけど、しょうがない子だ。『好き』っていう気持ちが伝わってくるから嫌いじゃないけれど。
「……この話は長くなりそうだから置いておきましょう。とりあえず、これで心置きなく拠点を潰しに行ける。二人とも明日までに準備しておくように」
「……え? 明日……ですか?」
感動していたジュールは、目をきょとんとさせてぱちぱちさせている。ころころと表情が変わる彼女は困惑しているようだった。
「ティアちゃんの案に何か不満でも?」
「い、いえ……そういう訳では……。ですが、ティア様のお考えではこれから次々と拠点を落としに行かれるのでしょう?」
「そうね」
「私はてっきりある程度人員を補充して戦いに挑まれるのかと思っていましたので……」
ジュールは急に不安そうにしているけど、ファリスはむしろ平然としていた。確かに最初よりは少ないけれど、そんなのは誤差の範囲内だろう。だけど流石にあの時のようにはいかないだろう。超広範囲魔導で殲滅出来ればいいけれど、そんな状況が何度も続くとは限らない。当然拠点の一つが潰れている情報は伝わっているだろうし、今まで以上に警戒してくるはずだ。
それはわかっている。けど――
「ジュールはたった三人での戦いは不安?」
「……そう、ですね。ティア様の事を疑う気持ちは微塵もございません。ですが、身体は疲労するはずです。もしその時、私とファリスさんだけで守り切れるか考えると――」
「なに、わたしじゃ頼りないって言うの?」
「いや、そういう訳じゃなくてですね!」
きっとジュールは自分の事が頼りないと思っているのだろう。最初の頃のように無闇に自分に自信がないだけ成長した証とも思える。出来れば不安を拭ってあげたいけれど……。
「気持ちはわかるけれど、常人じゃ逆に足手まといになるから意味がないわ」
ヴァティグはともかく、ベアル程度の兵士がいくら集まっても戦力にはならない。レイアや雪か――あの子は強くなり過ぎたか。ともかく、個の力を補うには数が必要になる。その為に軍隊を作って攻めても目立ちすぎるし、大所帯になればその分だけ動きが鈍くなる。それに見合ったものが得られるなら……とも思うけれど、それも可能性が低くなる。
「それは……そうなのですが……」
「こちらと友好関係を築いている貴族に拠点の位置と情報を送るようにお母様に頼んでから行くつもりだから、実際に全部回る必要はないはず」
それでも不満そうなジュールだけれど、こればっかりは仕方がない。どこの陣営も今は防衛戦力を集める事に躍起だろうし、優秀な人材を無理にこちらに引きこむわけにはいかない。雪雨やアルフも今は自国を動くわけにはいかないだろうし、彼らが連れて行った複製体のみんなは必ず戦力になってくれているはずだ。
「あの地図を見た限り、ダークエルフ族の拠点はあらゆる国に散らばっている。他に回す戦力がない以上、今あるものでなんとかしないと……ね」
「今の状況で『じゃあ攻めよう』なんて中々ならないもんね。まともな貴族なら守らないといけないものがあるしね」
意外にもファリスが助け舟を出してくれた。ジュールは私とファリスの顔を交互に見ながら納得出来なさそうにうー……とか唸っていたけれど、最終的には折れてくれた。諦めるようにため息を吐きだして肩を落とした。
「……何を言っても無駄なのですね。わかりました。私も自分に出来る限り戦っていきます」
「最初からそうなんだから、無駄な事しなきゃいいのに」
「無駄じゃありませんよ! ちゃんと気持ちが確認できたから良いんです!」
ふくれっ面で声を上げるジュールを涼しげな顔で受け止めるファリス。二人とも昔と違って随分仲良くなったなぁ……。
「――ティア様、明日出発でよろしいのですか?」
微笑まし気に眺めたけれど、ジュールが私を現実に引き戻してくれた。
「ええ。それで構わないわ。各自漏れがないようにお願いね」
「わかりました!」
「私に準備は必要ないけどねっ」
慌てて行ってしまったジュールを見送りながらファリスは呑気そうに笑っていた。
……さて、私の方も準備をしようか。やる事は色々ある。明日になって終わってなかったなんて笑い話にもならないしね。
「そうね。女王陛下のおかげである程度自由な裁量を与えられている。これなら多少不満が出るにしても黙らせられるはず」
「ティア様がそんな高い地位に……」
感激した様子のジュールだけど、別に私の力や立場が強くなった訳じゃない。あくまで女王陛下の代理なのだ。それを決して履き違えてはならない。
「所詮、仮初の権力でしょ。意味ないよ」
ファリスはわかっているのか、すっぱりと斬るように捨てられてしまった。むっとしたジュールだけど、それなりに長い付き合いをしていたからか呆れるように笑うだけだった。
「それでも私は嬉しいです! ティア様がどんどん上に行かれるのをこの目に焼き付けられるのが……!」
感極まっていたの半分泣きそうになっているジュールだけど、しょうがない子だ。『好き』っていう気持ちが伝わってくるから嫌いじゃないけれど。
「……この話は長くなりそうだから置いておきましょう。とりあえず、これで心置きなく拠点を潰しに行ける。二人とも明日までに準備しておくように」
「……え? 明日……ですか?」
感動していたジュールは、目をきょとんとさせてぱちぱちさせている。ころころと表情が変わる彼女は困惑しているようだった。
「ティアちゃんの案に何か不満でも?」
「い、いえ……そういう訳では……。ですが、ティア様のお考えではこれから次々と拠点を落としに行かれるのでしょう?」
「そうね」
「私はてっきりある程度人員を補充して戦いに挑まれるのかと思っていましたので……」
ジュールは急に不安そうにしているけど、ファリスはむしろ平然としていた。確かに最初よりは少ないけれど、そんなのは誤差の範囲内だろう。だけど流石にあの時のようにはいかないだろう。超広範囲魔導で殲滅出来ればいいけれど、そんな状況が何度も続くとは限らない。当然拠点の一つが潰れている情報は伝わっているだろうし、今まで以上に警戒してくるはずだ。
それはわかっている。けど――
「ジュールはたった三人での戦いは不安?」
「……そう、ですね。ティア様の事を疑う気持ちは微塵もございません。ですが、身体は疲労するはずです。もしその時、私とファリスさんだけで守り切れるか考えると――」
「なに、わたしじゃ頼りないって言うの?」
「いや、そういう訳じゃなくてですね!」
きっとジュールは自分の事が頼りないと思っているのだろう。最初の頃のように無闇に自分に自信がないだけ成長した証とも思える。出来れば不安を拭ってあげたいけれど……。
「気持ちはわかるけれど、常人じゃ逆に足手まといになるから意味がないわ」
ヴァティグはともかく、ベアル程度の兵士がいくら集まっても戦力にはならない。レイアや雪か――あの子は強くなり過ぎたか。ともかく、個の力を補うには数が必要になる。その為に軍隊を作って攻めても目立ちすぎるし、大所帯になればその分だけ動きが鈍くなる。それに見合ったものが得られるなら……とも思うけれど、それも可能性が低くなる。
「それは……そうなのですが……」
「こちらと友好関係を築いている貴族に拠点の位置と情報を送るようにお母様に頼んでから行くつもりだから、実際に全部回る必要はないはず」
それでも不満そうなジュールだけれど、こればっかりは仕方がない。どこの陣営も今は防衛戦力を集める事に躍起だろうし、優秀な人材を無理にこちらに引きこむわけにはいかない。雪雨やアルフも今は自国を動くわけにはいかないだろうし、彼らが連れて行った複製体のみんなは必ず戦力になってくれているはずだ。
「あの地図を見た限り、ダークエルフ族の拠点はあらゆる国に散らばっている。他に回す戦力がない以上、今あるものでなんとかしないと……ね」
「今の状況で『じゃあ攻めよう』なんて中々ならないもんね。まともな貴族なら守らないといけないものがあるしね」
意外にもファリスが助け舟を出してくれた。ジュールは私とファリスの顔を交互に見ながら納得出来なさそうにうー……とか唸っていたけれど、最終的には折れてくれた。諦めるようにため息を吐きだして肩を落とした。
「……何を言っても無駄なのですね。わかりました。私も自分に出来る限り戦っていきます」
「最初からそうなんだから、無駄な事しなきゃいいのに」
「無駄じゃありませんよ! ちゃんと気持ちが確認できたから良いんです!」
ふくれっ面で声を上げるジュールを涼しげな顔で受け止めるファリス。二人とも昔と違って随分仲良くなったなぁ……。
「――ティア様、明日出発でよろしいのですか?」
微笑まし気に眺めたけれど、ジュールが私を現実に引き戻してくれた。
「ええ。それで構わないわ。各自漏れがないようにお願いね」
「わかりました!」
「私に準備は必要ないけどねっ」
慌てて行ってしまったジュールを見送りながらファリスは呑気そうに笑っていた。
……さて、私の方も準備をしようか。やる事は色々ある。明日になって終わってなかったなんて笑い話にもならないしね。
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