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442・不穏の始まり
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二つの地図を見比べた次の日。私は雪風とジュールを自分の部屋に呼び出していた。ファリスはいつの間にか私の部屋に来ていたから、ここに帰ってきたメンツが勢ぞろいした形になった。
「で、なんでティアちゃんはわたし達を呼んだの?」
「ファリスは呼ばれていないのでは……」
さも当然のように隣で私の腕に絡みつくようにしなだれかかっているファリスの問いに思わず突っ込んでしまったジュール。それを気にしないの流石彼女らしい。
「……こほん。まず貴女達を呼んだのは、これを見て欲しいの」
私は机に二つの地図を広げる。拠点の位置を記したものとティリアースのものだ。全員がそれぞれ見ているけれど……ジュールとファリスはあまりわかっていない様子だった。雪風もそうだけれど、何か感じたようで食い入るように見つめている。
「で、これがどうかしたの?」
一番先に音を上げたのはファリスだった。この子は遠回しよりも直接の方を好むからこうなるだろう。ジュールは私の期待に応えようとしているみたいだけど、ちょっと難しいみたいだ。
「この拠点がある場所。赤と青のなんだけど……」
「……! 一部の貴族の領地に集中していますね」
ここまで言いかけると、ようやく雪風が気づいた。流石だ。
彼女は学ぶ事に貪欲だからね。ファリスやジュールにもそれが全くないとは言わないけれど……視点が違う。
雪風は何でも取り込む。自分の力に変えようとする。根本は同じだけどね。
「その通り。エスリーア公爵領にもあるみたいだけど、これは――」
――イシェルタ伯母様のせいかもしれない。
そんな事を言いかけて口を閉ざした。あの人とは血が繋がっていないどころか種族すら違う。良い思い出は何もないけど、一応身内だった人だ。そんな人の恥をわざわざ口に出したくなかった。
「ともかく、他の種族の貴族に多くの拠点がある。しかも、ご丁寧に私と敵対している勢力ばかり。この事実はお母様に伝えようと思うんだけど……」
この地図がなければ気付くことはなかっただろう。あるいは気付く前に移動されていたかもしれない。やはりこの地図を手に入れたのは僥倖だった。
お父様とお母様に一度話して対応するとしよう。あまり女王陛下に言うと、でしゃばりが過ぎると叩かれる可能性があるし、どこかで握り潰されるかもしれない。だけど、お父様を経由するならまず間違いなく届く。それなら、確実性の高い二人に話を持っていくべきだろう。
「女王陛下には報告されなくてよろしいのですか?」
「どこまで彼らの手が伸びているかわからない以上、私達が持っている手段を使った方がいいと思うの。リシュファス公爵家直属の隠密部隊を使えば、お父様には確実に伝わるしね」
今は多分、フォロウが私のところについているはずだ。仮にいなかったとしても彼の姉であるフィンナがお母様のところにいる。どちらとも必ず任務を遂行する頼もしい人達だ。
「報告するのはわかったのですが、それでなんで私達が?」
私の意図がある程度伝わったジュールの疑問もわかる。
「今は必要ないのだけど、お父様達の判断次第では私達も動くかもしれないって事を伝えておこうと思ってね。各々準備だけはしておいて欲しいの」
その可能性は非常に高い。ダークエルフ族の拠点を襲撃して町の防御が手薄になってはいけないし、私達には他の拠点を潰したという実績がある。いつでも行動が起こせるように準備するのは大切な事なのだ。
「僕はいつでも準備出来ております」
「わ、私もです!」
「むしろ準備する事がなかったような気がする」
各々好き勝手に言っているけれど、準備の必要もないって事なのだろう。雪風以外は人造命具を使って戦うからだろうけれど――
「雪風はそうかもしれないけれど、二人は違うでしょう? 人造命具以外の防衛手段もってる?」
「わたしは魔導が使えるからいいもーん」
私の忠告にファリスは全く気にしていない様子で笑顔を浮かべている。確かに彼女は魔導を使える。今まで魔力が尽きたのを見たことがないし、彼女も私と同じように底なしに近いのだろう。
「貴女の魔導は大規模なものが中心でしょうが。もう少しコントロールする術を身に付けなさい」
「……はーい」
「ジュールも。わかった?」
「……は、はい」
ジュールも戸惑うように頷いていたけれど、この子は多分わかっていないだろう。ファリスや私のように魔力量が尋常じゃない者達の戦い方を真似なんてまず出来ない。ファリスと訓練を積んでるんだろうけれど、それで身に着いたのが魔力消費を度外視した戦い方では先が見えている。
もちろん完全に悪いというわけではないけれど……ジュールは私の契約スライムだ。これから彼女に向けられる期待はどんどん大きくなっていくだろう。
出来ればそれに圧し潰されないように頑張ってもらいたい。そう思って拠点制圧に動く前に呼び出したんだけれど……今後どうなるかに期待といったところか。
最悪、私や雪風が指導をするのも悪くないだろう。
「で、なんでティアちゃんはわたし達を呼んだの?」
「ファリスは呼ばれていないのでは……」
さも当然のように隣で私の腕に絡みつくようにしなだれかかっているファリスの問いに思わず突っ込んでしまったジュール。それを気にしないの流石彼女らしい。
「……こほん。まず貴女達を呼んだのは、これを見て欲しいの」
私は机に二つの地図を広げる。拠点の位置を記したものとティリアースのものだ。全員がそれぞれ見ているけれど……ジュールとファリスはあまりわかっていない様子だった。雪風もそうだけれど、何か感じたようで食い入るように見つめている。
「で、これがどうかしたの?」
一番先に音を上げたのはファリスだった。この子は遠回しよりも直接の方を好むからこうなるだろう。ジュールは私の期待に応えようとしているみたいだけど、ちょっと難しいみたいだ。
「この拠点がある場所。赤と青のなんだけど……」
「……! 一部の貴族の領地に集中していますね」
ここまで言いかけると、ようやく雪風が気づいた。流石だ。
彼女は学ぶ事に貪欲だからね。ファリスやジュールにもそれが全くないとは言わないけれど……視点が違う。
雪風は何でも取り込む。自分の力に変えようとする。根本は同じだけどね。
「その通り。エスリーア公爵領にもあるみたいだけど、これは――」
――イシェルタ伯母様のせいかもしれない。
そんな事を言いかけて口を閉ざした。あの人とは血が繋がっていないどころか種族すら違う。良い思い出は何もないけど、一応身内だった人だ。そんな人の恥をわざわざ口に出したくなかった。
「ともかく、他の種族の貴族に多くの拠点がある。しかも、ご丁寧に私と敵対している勢力ばかり。この事実はお母様に伝えようと思うんだけど……」
この地図がなければ気付くことはなかっただろう。あるいは気付く前に移動されていたかもしれない。やはりこの地図を手に入れたのは僥倖だった。
お父様とお母様に一度話して対応するとしよう。あまり女王陛下に言うと、でしゃばりが過ぎると叩かれる可能性があるし、どこかで握り潰されるかもしれない。だけど、お父様を経由するならまず間違いなく届く。それなら、確実性の高い二人に話を持っていくべきだろう。
「女王陛下には報告されなくてよろしいのですか?」
「どこまで彼らの手が伸びているかわからない以上、私達が持っている手段を使った方がいいと思うの。リシュファス公爵家直属の隠密部隊を使えば、お父様には確実に伝わるしね」
今は多分、フォロウが私のところについているはずだ。仮にいなかったとしても彼の姉であるフィンナがお母様のところにいる。どちらとも必ず任務を遂行する頼もしい人達だ。
「報告するのはわかったのですが、それでなんで私達が?」
私の意図がある程度伝わったジュールの疑問もわかる。
「今は必要ないのだけど、お父様達の判断次第では私達も動くかもしれないって事を伝えておこうと思ってね。各々準備だけはしておいて欲しいの」
その可能性は非常に高い。ダークエルフ族の拠点を襲撃して町の防御が手薄になってはいけないし、私達には他の拠点を潰したという実績がある。いつでも行動が起こせるように準備するのは大切な事なのだ。
「僕はいつでも準備出来ております」
「わ、私もです!」
「むしろ準備する事がなかったような気がする」
各々好き勝手に言っているけれど、準備の必要もないって事なのだろう。雪風以外は人造命具を使って戦うからだろうけれど――
「雪風はそうかもしれないけれど、二人は違うでしょう? 人造命具以外の防衛手段もってる?」
「わたしは魔導が使えるからいいもーん」
私の忠告にファリスは全く気にしていない様子で笑顔を浮かべている。確かに彼女は魔導を使える。今まで魔力が尽きたのを見たことがないし、彼女も私と同じように底なしに近いのだろう。
「貴女の魔導は大規模なものが中心でしょうが。もう少しコントロールする術を身に付けなさい」
「……はーい」
「ジュールも。わかった?」
「……は、はい」
ジュールも戸惑うように頷いていたけれど、この子は多分わかっていないだろう。ファリスや私のように魔力量が尋常じゃない者達の戦い方を真似なんてまず出来ない。ファリスと訓練を積んでるんだろうけれど、それで身に着いたのが魔力消費を度外視した戦い方では先が見えている。
もちろん完全に悪いというわけではないけれど……ジュールは私の契約スライムだ。これから彼女に向けられる期待はどんどん大きくなっていくだろう。
出来ればそれに圧し潰されないように頑張ってもらいたい。そう思って拠点制圧に動く前に呼び出したんだけれど……今後どうなるかに期待といったところか。
最悪、私や雪風が指導をするのも悪くないだろう。
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