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428・監視の日々
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雪風達と一緒にガリュドスの町に戻って数日。相変わらず私達はヒューの監視を続けていた。
その間も彼は特に揉め事を起こすなどという事はなく、落ち着いた様子で大人しくしていた。
いつもと同じように朝食をもって彼がいる部屋の中へと入る。
「朝ごはん、持ってきたわよ」
コンコンコン、ノックの音を響かせて中に入ると、そこには窓から外を眺めているヒューの姿があった。
「ありがとう」
相変わらず素っ気ない返答で、窓の外を眺めるのをやめた彼は、私の方に視線を移してきた。
「どうしたの?」
「随分と俺の処遇を決めるのに時間が掛かっているなと思ってな」
「今、お父様がティリアース女王に報告しているだろうからもう少し掛かるでしょうね」
私が手紙で女王陛下に報告しても良かったのだけど、途中で握り潰される事を恐れて、一度お父様を経由する事にした。そのせいか、少し手間取っているようだ。ガンドルグ王の方からは既に返答をもらっていて、話し合いの席が成立するまではこちらで預かるようにとお達しを受けていた。
「そうか」
「何にせよ、尋問が始まれば貴方も色々質問攻めに遭うのだからしばらくはゆっくりしていなさい」
どうせこんな風に緩やかな時間が過ごせるのは今のうちだ。尋問中は寝ても覚めても質問が飛んでくる事だろう。彼がなんでも答えてくれれば早く終わるのだけど……。
ため息混じりに彼を見ていたのが気になったのか、からかうように笑みを浮かべていて少しイラッとくる。
「どうした? あまり真面目に答えなさそうで心配か?」
「いいえ。むしろ尋問中もそんな態度取るつもりかと思って心配ね」
別にそんな心配はしていないけれど、とりあえず何か言っておいた。
ヒューが楽しそうに笑って食事を始めている横で、私はあの拠点から持ち出した地図を広げて中身を確認する。
「……あそこにあった地図か。よく持ち出せたな」
「何か見つけないと、忍び込んだ意味もないからね」
この数日の内に色々確認すれば良かったんだけど、複製を作る為に職人に預けていた。原本以外にも二つずつ作ってもらい、ティリアース、ガンドルグ両王家に渡す用とこちらで使う用の三つ。とりあえずはこれだけあれば双方から不満が出る事はないだろう。
全国とサウエス地方の詳細が描かれている二つの地図を見比べてみる。改めて見ると、やはり三つの色の点で何かを示しているようだ。
「……わかるのか?」
「なんとなく、ね。赤が軍事用。青が補給用。黒が貴方達がいた――恐らく生産用拠点のマークね」
ガンドルグ王国のガリュドスの近くにも赤色の点がぽつんと設置されている。そこから少し離れたところには青い点がある。
「よくわかるな。――いや、予測したってところか」
「当たらずしも遠からずってところでしょう? 他の地図も合わせて見れば確定的になるでしょうしね」
雪風に頼んで持ってもらっていた分も後で合わせて見れば、より確信に迫れる。問題は……そこまで時間があるだろうか? という点くらいだろう。
「お前みたいなのを敵に回すなんて恐ろしい事この上ないな。それで、雪風はまだ着かないのか?」
なにを熱心に窓を眺めていると思えば、雪風の帰りを待っているのか。
彼女は今、私達から離れて一人でヒュー達がいた拠点に向かっている。あの拠点に一人残しているラミィを連れてきたいと彼女たっての要望だった。
私としても特に反対することがなかったし、行かせる事にした。最初は色々と考えさせられた。いくら複製体とはいえ、まだまだ幼い女の子をこんなところに連れてきていいのか? なにか良からぬ事に巻き込まれてしまうのではないか? なんて本当に様々なことだ。
私も直接ラミィに会ったことがある訳じゃないからわからないけれど……それでも、幼い子を巻き込んでいい理由にはならない。
それをヒューも感じ取っていたのだろう。ラミィを連れてくるのに大分渋っていたけれど、私が全力で保護する事を約束した結果、今のように連れてくるのを楽しみに待つようになったという訳だ。
最初は驚いて「どうしてそこまでしてくれるんだ?」なんて聞いてくるものだから――
「当たり前でしょう。私はこれでもティリアースの王族に連なる者ですもの。国の名に泥を塗るような真似をするわけがないでしょう」
――と大見得を切った成果とも言える。
一度約束した事は必ず守る。だから、ラミィが何か危ない事に巻き込まれそうになったら全力で守ってみせる。
……そのかわり、尋問の時は全て正直に話すように答えるように約束を交わしている。だからこそ、彼もあんなに楽しみに待つことが出来たというわけだ。
「雪風は今頃拠点に着いた頃でしょう。もう少し大人しく待っていなさい」
「……あ、ああ」
落ち着きを取り戻したヒューは、ようやく食事の方に気が付いたようだ。
雪風が着くか、もしくはヒューの尋問が始まるか……とにかくそれまではもうしばらくの間、彼が窓を眺めてぼんやりしている日々が続きそうだ。
その間も彼は特に揉め事を起こすなどという事はなく、落ち着いた様子で大人しくしていた。
いつもと同じように朝食をもって彼がいる部屋の中へと入る。
「朝ごはん、持ってきたわよ」
コンコンコン、ノックの音を響かせて中に入ると、そこには窓から外を眺めているヒューの姿があった。
「ありがとう」
相変わらず素っ気ない返答で、窓の外を眺めるのをやめた彼は、私の方に視線を移してきた。
「どうしたの?」
「随分と俺の処遇を決めるのに時間が掛かっているなと思ってな」
「今、お父様がティリアース女王に報告しているだろうからもう少し掛かるでしょうね」
私が手紙で女王陛下に報告しても良かったのだけど、途中で握り潰される事を恐れて、一度お父様を経由する事にした。そのせいか、少し手間取っているようだ。ガンドルグ王の方からは既に返答をもらっていて、話し合いの席が成立するまではこちらで預かるようにとお達しを受けていた。
「そうか」
「何にせよ、尋問が始まれば貴方も色々質問攻めに遭うのだからしばらくはゆっくりしていなさい」
どうせこんな風に緩やかな時間が過ごせるのは今のうちだ。尋問中は寝ても覚めても質問が飛んでくる事だろう。彼がなんでも答えてくれれば早く終わるのだけど……。
ため息混じりに彼を見ていたのが気になったのか、からかうように笑みを浮かべていて少しイラッとくる。
「どうした? あまり真面目に答えなさそうで心配か?」
「いいえ。むしろ尋問中もそんな態度取るつもりかと思って心配ね」
別にそんな心配はしていないけれど、とりあえず何か言っておいた。
ヒューが楽しそうに笑って食事を始めている横で、私はあの拠点から持ち出した地図を広げて中身を確認する。
「……あそこにあった地図か。よく持ち出せたな」
「何か見つけないと、忍び込んだ意味もないからね」
この数日の内に色々確認すれば良かったんだけど、複製を作る為に職人に預けていた。原本以外にも二つずつ作ってもらい、ティリアース、ガンドルグ両王家に渡す用とこちらで使う用の三つ。とりあえずはこれだけあれば双方から不満が出る事はないだろう。
全国とサウエス地方の詳細が描かれている二つの地図を見比べてみる。改めて見ると、やはり三つの色の点で何かを示しているようだ。
「……わかるのか?」
「なんとなく、ね。赤が軍事用。青が補給用。黒が貴方達がいた――恐らく生産用拠点のマークね」
ガンドルグ王国のガリュドスの近くにも赤色の点がぽつんと設置されている。そこから少し離れたところには青い点がある。
「よくわかるな。――いや、予測したってところか」
「当たらずしも遠からずってところでしょう? 他の地図も合わせて見れば確定的になるでしょうしね」
雪風に頼んで持ってもらっていた分も後で合わせて見れば、より確信に迫れる。問題は……そこまで時間があるだろうか? という点くらいだろう。
「お前みたいなのを敵に回すなんて恐ろしい事この上ないな。それで、雪風はまだ着かないのか?」
なにを熱心に窓を眺めていると思えば、雪風の帰りを待っているのか。
彼女は今、私達から離れて一人でヒュー達がいた拠点に向かっている。あの拠点に一人残しているラミィを連れてきたいと彼女たっての要望だった。
私としても特に反対することがなかったし、行かせる事にした。最初は色々と考えさせられた。いくら複製体とはいえ、まだまだ幼い女の子をこんなところに連れてきていいのか? なにか良からぬ事に巻き込まれてしまうのではないか? なんて本当に様々なことだ。
私も直接ラミィに会ったことがある訳じゃないからわからないけれど……それでも、幼い子を巻き込んでいい理由にはならない。
それをヒューも感じ取っていたのだろう。ラミィを連れてくるのに大分渋っていたけれど、私が全力で保護する事を約束した結果、今のように連れてくるのを楽しみに待つようになったという訳だ。
最初は驚いて「どうしてそこまでしてくれるんだ?」なんて聞いてくるものだから――
「当たり前でしょう。私はこれでもティリアースの王族に連なる者ですもの。国の名に泥を塗るような真似をするわけがないでしょう」
――と大見得を切った成果とも言える。
一度約束した事は必ず守る。だから、ラミィが何か危ない事に巻き込まれそうになったら全力で守ってみせる。
……そのかわり、尋問の時は全て正直に話すように答えるように約束を交わしている。だからこそ、彼もあんなに楽しみに待つことが出来たというわけだ。
「雪風は今頃拠点に着いた頃でしょう。もう少し大人しく待っていなさい」
「……あ、ああ」
落ち着きを取り戻したヒューは、ようやく食事の方に気が付いたようだ。
雪風が着くか、もしくはヒューの尋問が始まるか……とにかくそれまではもうしばらくの間、彼が窓を眺めてぼんやりしている日々が続きそうだ。
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