427 / 676
427・一つの区切り
しおりを挟む
ヴァティグが抜けてヒューが加わった私達は、行きと同じ人数でガリュドスの町に帰ってきた。
私達を出迎えてくれたファリス、ジュール、レアディ、アロズの四人は不思議そうな顔でヒューに注目を集めていた。
ベアルが変な事を言う前に私が説明すると、ファリスとジュールは『流石エールティア!』みたいな視線を向けてきて、雪風の事を素直に称賛していた。アロズは半ば現実の出来事を上手く飲み込む事が出来ないようで、相変わらず驚きながら私達と雪風、ヒューと視線を移していた。
一方――
「甘いな。だから一度死ぬような事になんだよ」
ヒューと似た感想を口にしたのはレアディだった。
その発言にジュールは嫌そうに睨むけれど、肝心の彼は全く興味を持っていなかった。それに対して更にジュールはヒートアップしてしまう。
「どこが甘いんですか! 遺される人の事を考えるのがそんなに悪いんですか!?」
「当たり前だ。何処にいると思ってんだ? 戦場だろうが。そんなもん抱えてる奴なんてな、星の数ほどいるんだよ。そいつらと戦う時も一人一人想いやって戦うのかよ。馬鹿にしてんのか?」
食ってかかりそうになるジュールだったけど、それはファリスに止められてしまう。だからレアディの言葉の雨をそのまま浴びる形になってしまい、余計に火に油を注いでしまう結果になった。
……ガキには付き合ってらんねぇ割にはきっちり言い返す辺り、余程思う所があるのかもしれない。
「エールティアの姫さんはどう思うよ。あんたもおんなじか?」
放っておいたらこっちに飛び火してしまった。ジュールの方も期待する視線を向けてくる辺り、答えないという選択肢は用意されていないらしい。
どう答えようかと思案していたけれど……二人があまりにも圧力を掛けてくるから仕方なく答えることにした。
「……大切な人は誰にでもいる。だからこそ、戦っている相手にそれを重ねてしまうのも否定できない。雪風がヒューが庇護している子ラミィってこの事を思い出して刃が止まるのもね」
私の言葉にジュールはさも当然のように胸を張って得意げな顔をしていた。それに対してレアディから残念そうな視線を向けられているのがわかる。
二人とも、まだ気が早いと言うか……やっぱり仲が良い部分もあるようだ。
「最後まで聞きなさいな。それでも、理解出来るだけ。私だったらそんな事気にせずに殺すわね。確かに彼らにも大切な人がいるのでしょう。だけどそんなもの、誰にだってあるもの。一々気にしていたら、戦うことすら出来なくなる。何のために自分が戦っているのか……それだけは頭に入れておかないとね」
雪風の選択は間違ってはいない。だけど、それは今誰も犠牲になっていないからだ。もしヒューが暴れて私が怪我をしたとなれば、それだけで雪風の今後の人生に影響があるだろう。そのまま逃げられても、余計な情報を持ち帰られてしまうだろう。
だからこそ、命を奪うと決意したなら躊躇ってはいけない。レアディはそれがわかっているから、『甘い』と言ったのだ。
今度は彼の方が納得した顔を浮かべ、ジュールが不満そうにする。こればっかりは仕方ない。
「……それで、この人はどうするの?」
これ以上話を続けても意味がないとファリスがヒューへの処遇を聞いてきた。
「まずはガンドルグ王とお父様に報告しましょう。それまでは私たちが見張っているしかないでしょうね」
こうして連れてきてしまった以上、最後まで面倒を見ないといけない。
……まあ、監視は私が行えば問題ないでしょう。雪風だったら、たぶんまた迷うだろう。レアディとアロズにはそこまでの信頼がある訳でもない。
「……それしかないですね。でしたら私に――」
「いいえ。彼は私が見張る事にする。聞きたいこともあるし、彼自身かなり強い。雪風でも苦戦したくらいだしね」
まともに相手が出来るのはファリスくらいじゃないかと思う。レアディとアロズは彼と同じ施設の生まれで、今まで一度も勝てなかったらしいし、雪風も抑え込むのは難しいだろう。ジュールはファリスと一緒に何かしているみたいだけど……まだまだ任せられないかな。
「ですが、ティア様は拠点の方にも行ってお疲れなのでは――」
「ありがとう。だけど大丈夫よ」
ベアルとも約束したし、彼は絶対に逃さないように動かなければならない。最悪手にかける必要が出てくるから、それが出来る人じゃなければ見張りの意味はない。
「だったらわたしと交代でしよう? そしたらティアちゃんの負担も少しは和らぐよ!」
ここで勢いよく手を上げたのはファリス。彼女なら確かにヒューとも互角に戦えるはずだ。町の被害は大きくなりそうだけど……そうなる前に私も動けるだろうし、すぐに彼を制圧する事も出来るだろう。
「それじゃあ、私とファリスで見張りをしましょう。ベアルそれでいいわね?」
「こちらとしてはヒューが逃げ出さなければ問題ありませんよ」
ベアルの方も私たちの好きにすればいいとお墨付きももらえたし、ここは私とファリスでヒューを見張る事にしよう。
私達を出迎えてくれたファリス、ジュール、レアディ、アロズの四人は不思議そうな顔でヒューに注目を集めていた。
ベアルが変な事を言う前に私が説明すると、ファリスとジュールは『流石エールティア!』みたいな視線を向けてきて、雪風の事を素直に称賛していた。アロズは半ば現実の出来事を上手く飲み込む事が出来ないようで、相変わらず驚きながら私達と雪風、ヒューと視線を移していた。
一方――
「甘いな。だから一度死ぬような事になんだよ」
ヒューと似た感想を口にしたのはレアディだった。
その発言にジュールは嫌そうに睨むけれど、肝心の彼は全く興味を持っていなかった。それに対して更にジュールはヒートアップしてしまう。
「どこが甘いんですか! 遺される人の事を考えるのがそんなに悪いんですか!?」
「当たり前だ。何処にいると思ってんだ? 戦場だろうが。そんなもん抱えてる奴なんてな、星の数ほどいるんだよ。そいつらと戦う時も一人一人想いやって戦うのかよ。馬鹿にしてんのか?」
食ってかかりそうになるジュールだったけど、それはファリスに止められてしまう。だからレアディの言葉の雨をそのまま浴びる形になってしまい、余計に火に油を注いでしまう結果になった。
……ガキには付き合ってらんねぇ割にはきっちり言い返す辺り、余程思う所があるのかもしれない。
「エールティアの姫さんはどう思うよ。あんたもおんなじか?」
放っておいたらこっちに飛び火してしまった。ジュールの方も期待する視線を向けてくる辺り、答えないという選択肢は用意されていないらしい。
どう答えようかと思案していたけれど……二人があまりにも圧力を掛けてくるから仕方なく答えることにした。
「……大切な人は誰にでもいる。だからこそ、戦っている相手にそれを重ねてしまうのも否定できない。雪風がヒューが庇護している子ラミィってこの事を思い出して刃が止まるのもね」
私の言葉にジュールはさも当然のように胸を張って得意げな顔をしていた。それに対してレアディから残念そうな視線を向けられているのがわかる。
二人とも、まだ気が早いと言うか……やっぱり仲が良い部分もあるようだ。
「最後まで聞きなさいな。それでも、理解出来るだけ。私だったらそんな事気にせずに殺すわね。確かに彼らにも大切な人がいるのでしょう。だけどそんなもの、誰にだってあるもの。一々気にしていたら、戦うことすら出来なくなる。何のために自分が戦っているのか……それだけは頭に入れておかないとね」
雪風の選択は間違ってはいない。だけど、それは今誰も犠牲になっていないからだ。もしヒューが暴れて私が怪我をしたとなれば、それだけで雪風の今後の人生に影響があるだろう。そのまま逃げられても、余計な情報を持ち帰られてしまうだろう。
だからこそ、命を奪うと決意したなら躊躇ってはいけない。レアディはそれがわかっているから、『甘い』と言ったのだ。
今度は彼の方が納得した顔を浮かべ、ジュールが不満そうにする。こればっかりは仕方ない。
「……それで、この人はどうするの?」
これ以上話を続けても意味がないとファリスがヒューへの処遇を聞いてきた。
「まずはガンドルグ王とお父様に報告しましょう。それまでは私たちが見張っているしかないでしょうね」
こうして連れてきてしまった以上、最後まで面倒を見ないといけない。
……まあ、監視は私が行えば問題ないでしょう。雪風だったら、たぶんまた迷うだろう。レアディとアロズにはそこまでの信頼がある訳でもない。
「……それしかないですね。でしたら私に――」
「いいえ。彼は私が見張る事にする。聞きたいこともあるし、彼自身かなり強い。雪風でも苦戦したくらいだしね」
まともに相手が出来るのはファリスくらいじゃないかと思う。レアディとアロズは彼と同じ施設の生まれで、今まで一度も勝てなかったらしいし、雪風も抑え込むのは難しいだろう。ジュールはファリスと一緒に何かしているみたいだけど……まだまだ任せられないかな。
「ですが、ティア様は拠点の方にも行ってお疲れなのでは――」
「ありがとう。だけど大丈夫よ」
ベアルとも約束したし、彼は絶対に逃さないように動かなければならない。最悪手にかける必要が出てくるから、それが出来る人じゃなければ見張りの意味はない。
「だったらわたしと交代でしよう? そしたらティアちゃんの負担も少しは和らぐよ!」
ここで勢いよく手を上げたのはファリス。彼女なら確かにヒューとも互角に戦えるはずだ。町の被害は大きくなりそうだけど……そうなる前に私も動けるだろうし、すぐに彼を制圧する事も出来るだろう。
「それじゃあ、私とファリスで見張りをしましょう。ベアルそれでいいわね?」
「こちらとしてはヒューが逃げ出さなければ問題ありませんよ」
ベアルの方も私たちの好きにすればいいとお墨付きももらえたし、ここは私とファリスでヒューを見張る事にしよう。
0
お気に入りに追加
160
あなたにおすすめの小説
飯屋の娘は魔法を使いたくない?
秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。
魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。
それを見ていた貴族の青年が…。
異世界転生の話です。
のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。
※ 表紙は星影さんの作品です。
※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。
余命半年のはずが?異世界生活始めます
ゆぃ♫
ファンタジー
静波杏花、本日病院で健康診断の結果を聞きに行き半年の余命と判明…
不運が重なり、途方に暮れていると…
確認はしていますが、拙い文章で誤字脱字もありますが読んでいただけると嬉しいです。
初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。
ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。
※短いお話です。
※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。
大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる
遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」
「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」
S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。
村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。
しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。
とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。
転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜
家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。
そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?!
しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...?
ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...?
不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。
拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。
小説家になろう様でも公開しております。
【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革
うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。
優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。
家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。
主人公は、魔法・知識チートは持っていません。
加筆修正しました。
お手に取って頂けたら嬉しいです。
『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?
mio
ファンタジー
特別になることを望む『平凡』な大学生・弥登陽斗はある日突然亡くなる。
神様に『特別』になりたい願いを叶えてやると言われ、生まれ変わった先は異世界の第7皇子!? しかも母親はなんだかさびれた離宮に追いやられているし、騎士団に入っている兄はなかなか会うことができない。それでも穏やかな日々。
そんな生活も母の死を境に変わっていく。なぜか絡んでくる異母兄弟をあしらいつつ、兄の元で剣に魔法に、いろいろと学んでいくことに。兄と兄の部下との新たな日常に、以前とはまた違った幸せを感じていた。
日常を壊し、強制的に終わらせたとある不幸が起こるまでは。
神様、一つ言わせてください。僕が言っていた特別はこういうことではないと思うんですけど!?
他サイトでも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる