425 / 676
425・決着の瞬間(雪風side)
しおりを挟む
あらゆる属性の魔導が入り乱れ、雪風の持ち味である刀での戦闘を行う事が出来ず、あまり慣れない魔導戦を強いられている事もあり、苦戦し、徐々に圧されていく。
「【風土・瞬足撃】!」
魔導による攻撃の隙間を縫うように加速の魔導を発動し、一気に間合いを詰めようと画策する雪風だったが、それを見透かしていないヒューではなかった。
「【バインドリキッド】!」
直線しか進むことが出来ない弱点を見切り、進路上に相手を拘束する水の罠を仕掛けられてしまう。急に止まって曲がるなどという事が出来ない以上、罠に容易く引っかかり、再び全身を水で拘束されてしまう雪風。
しかし、彼女には最初からそんな事は承知の上だった。
「【炎風・燃刃】!」
自らの武器に炎を纏わせ、辛うじて動かせた腕を駆使し、拘束している水を全て斬り捨てる。
「遅い。【フレアボム】!」
拘束を断ち切って攻勢に移ろうとしたその瞬間、雪風の身体に赤く引きある球体が触れると同時に爆発を引き起こす。
「【リアマエンハンブレ】!」
追撃と言わんばかりに放たれた魔導は、空中に幾つもの小さな炎の塊を出現させ、まるで流星群のように雪風に向かって降らせていく。
続々と地上に落ちていく炎の星屑達が襲い掛かる中、雪風は体勢を低くして一気に突き抜ける選択肢を選んだ。
荒れ狂うように地表に振ってくる炎を掻い潜りながら走る雪風。それを遮るように魔導で造られた雷が次々と行く手を遮り、彼女の肌を焼いていく。
「――っ!」
疾る痛みに耐えながら前に突き進む雪風の振り抜いた刃が雷の光で煌めき、魔力を宿したかのような軌道を描いて斬撃が放たれた。首の皮一枚で避けたヒューは、そのまま水面を狩るように蹴りを放った。
それを後ろに飛ぶように避けた雪風は、放たれた炎の槍を刀で防ぎ、着地と同時に襲い掛かる炎を斬り払う。
「【マルチプルランス】!」
「【光風・流反鏡】!」
複数の魔力の槍が同時に出現し、一斉に雪風に向かって解き放たれる。広範囲に展開されているそれらの槍は、隙間も少なく普通に避けるのも難しい一撃。雪風は刀で宙を描くように身体ごと回転させる。その軌道が光り輝く輪になって前方に出現する。それはまるで鏡の様であり、ヒューの生み出した魔力の槍がそれに触れた瞬間、大きな音が鳴り響き、その力のまま彼の方へと弾き返されていく。
予想外の反撃に驚いたヒューの動きが一瞬鈍り、魔力の槍が飛んでくる前に同じ魔導で迎撃する。
同じ魔導が激しくぶつかり合い、小さな爆発が引き起こされる。視界を遮るそれらを切り裂くように突っ込んでいく雪風は自らの感覚を信じて駆け抜けていく。
その体内に封じ込められた力を爆発させるように身体能力を解放させる雪風。自らの魂である【凛音天昇】を敵に切っ先を向けるように構え、ヒューへと肉薄した彼女は最速の一撃を浴びせるべく、突きを繰り出す。
それは彼女がこの世に産まれ、刀を振り続けた人生の中で最も速く――そして鋭い一撃だった。
「――っ!?」
回避が間に合わなかったヒューの右肩を縫い留められるように突き刺され、辛うじて持っていた剣を落としてしまう。
今更壊れた剣など使う気も起きなかったヒューだったが、緩んだ手の方に意識を向けたその一瞬が勝敗を分けた。
自らと相手の動きに意識を集中させていた雪風がその隙を見逃すはずもなく、抜き放たれた刃はなんの迷いもなくヒューの首を狩るべく襲い掛かる。
ほんの僅かな時間での攻防。明暗分かれたヒューにはその斬撃が緩やかに見えた。自らの命が絶たれる瞬間――それはまるで今まで殺してきた者が受けた恐怖をお前も味わえと言いたげにゆっくりと迫りくる。
……しかし、肝心のヒューはそれを全く感じていなかった。今までの戦いで自らを上回る者などただの一人もいなかった。卑怯な弱者に殺されるのではなく、真に自分を上回る強者によって命を絶たれる。その事に対し、彼はなんの不満もなかった。
――ただ一つ。心残りがあるとすればラミィの事だろう。
彼にとってラミィは守るべき存在であり、唯一心許している大切な子だった。そんな彼女がたった一人でこれから生きていかなければならない。それだけが心残りだった。
かといってこれ以上何も出来る事はない。もはや後は死を待つのみ――だったのだが、ラミィの事が頭によぎったのは彼だけではなかった。
(どうして。どうしてこんな時に……!!)
自らを殺した相手。何の躊躇も情けもなく葬った敵。それは戦い。真剣な命のやり取りだったからこそ、納得している。だからこそ、自分も彼に対してはなんの迷いもなく命を奪う事が出来る。そのはずなのに、脳内にはあの幼くか弱い少女の姿がちらついてしまう。
今まで戦っていた時には全く考えもしなかったのだが、確実に殺れると思った事に対する油断か慢心か……。一度頭の中に現れた少女の残像を消すことは容易くなく……。
雪風は結局、最後まで刃を振るう事が出来なかった。殺す事に一点を置いたその刃は、ヒューの首の皮一枚を斬る程度にとどまり――エールティア達が見たのは、止めを刺せずにに歯噛みする雪風の姿だった。
「【風土・瞬足撃】!」
魔導による攻撃の隙間を縫うように加速の魔導を発動し、一気に間合いを詰めようと画策する雪風だったが、それを見透かしていないヒューではなかった。
「【バインドリキッド】!」
直線しか進むことが出来ない弱点を見切り、進路上に相手を拘束する水の罠を仕掛けられてしまう。急に止まって曲がるなどという事が出来ない以上、罠に容易く引っかかり、再び全身を水で拘束されてしまう雪風。
しかし、彼女には最初からそんな事は承知の上だった。
「【炎風・燃刃】!」
自らの武器に炎を纏わせ、辛うじて動かせた腕を駆使し、拘束している水を全て斬り捨てる。
「遅い。【フレアボム】!」
拘束を断ち切って攻勢に移ろうとしたその瞬間、雪風の身体に赤く引きある球体が触れると同時に爆発を引き起こす。
「【リアマエンハンブレ】!」
追撃と言わんばかりに放たれた魔導は、空中に幾つもの小さな炎の塊を出現させ、まるで流星群のように雪風に向かって降らせていく。
続々と地上に落ちていく炎の星屑達が襲い掛かる中、雪風は体勢を低くして一気に突き抜ける選択肢を選んだ。
荒れ狂うように地表に振ってくる炎を掻い潜りながら走る雪風。それを遮るように魔導で造られた雷が次々と行く手を遮り、彼女の肌を焼いていく。
「――っ!」
疾る痛みに耐えながら前に突き進む雪風の振り抜いた刃が雷の光で煌めき、魔力を宿したかのような軌道を描いて斬撃が放たれた。首の皮一枚で避けたヒューは、そのまま水面を狩るように蹴りを放った。
それを後ろに飛ぶように避けた雪風は、放たれた炎の槍を刀で防ぎ、着地と同時に襲い掛かる炎を斬り払う。
「【マルチプルランス】!」
「【光風・流反鏡】!」
複数の魔力の槍が同時に出現し、一斉に雪風に向かって解き放たれる。広範囲に展開されているそれらの槍は、隙間も少なく普通に避けるのも難しい一撃。雪風は刀で宙を描くように身体ごと回転させる。その軌道が光り輝く輪になって前方に出現する。それはまるで鏡の様であり、ヒューの生み出した魔力の槍がそれに触れた瞬間、大きな音が鳴り響き、その力のまま彼の方へと弾き返されていく。
予想外の反撃に驚いたヒューの動きが一瞬鈍り、魔力の槍が飛んでくる前に同じ魔導で迎撃する。
同じ魔導が激しくぶつかり合い、小さな爆発が引き起こされる。視界を遮るそれらを切り裂くように突っ込んでいく雪風は自らの感覚を信じて駆け抜けていく。
その体内に封じ込められた力を爆発させるように身体能力を解放させる雪風。自らの魂である【凛音天昇】を敵に切っ先を向けるように構え、ヒューへと肉薄した彼女は最速の一撃を浴びせるべく、突きを繰り出す。
それは彼女がこの世に産まれ、刀を振り続けた人生の中で最も速く――そして鋭い一撃だった。
「――っ!?」
回避が間に合わなかったヒューの右肩を縫い留められるように突き刺され、辛うじて持っていた剣を落としてしまう。
今更壊れた剣など使う気も起きなかったヒューだったが、緩んだ手の方に意識を向けたその一瞬が勝敗を分けた。
自らと相手の動きに意識を集中させていた雪風がその隙を見逃すはずもなく、抜き放たれた刃はなんの迷いもなくヒューの首を狩るべく襲い掛かる。
ほんの僅かな時間での攻防。明暗分かれたヒューにはその斬撃が緩やかに見えた。自らの命が絶たれる瞬間――それはまるで今まで殺してきた者が受けた恐怖をお前も味わえと言いたげにゆっくりと迫りくる。
……しかし、肝心のヒューはそれを全く感じていなかった。今までの戦いで自らを上回る者などただの一人もいなかった。卑怯な弱者に殺されるのではなく、真に自分を上回る強者によって命を絶たれる。その事に対し、彼はなんの不満もなかった。
――ただ一つ。心残りがあるとすればラミィの事だろう。
彼にとってラミィは守るべき存在であり、唯一心許している大切な子だった。そんな彼女がたった一人でこれから生きていかなければならない。それだけが心残りだった。
かといってこれ以上何も出来る事はない。もはや後は死を待つのみ――だったのだが、ラミィの事が頭によぎったのは彼だけではなかった。
(どうして。どうしてこんな時に……!!)
自らを殺した相手。何の躊躇も情けもなく葬った敵。それは戦い。真剣な命のやり取りだったからこそ、納得している。だからこそ、自分も彼に対してはなんの迷いもなく命を奪う事が出来る。そのはずなのに、脳内にはあの幼くか弱い少女の姿がちらついてしまう。
今まで戦っていた時には全く考えもしなかったのだが、確実に殺れると思った事に対する油断か慢心か……。一度頭の中に現れた少女の残像を消すことは容易くなく……。
雪風は結局、最後まで刃を振るう事が出来なかった。殺す事に一点を置いたその刃は、ヒューの首の皮一枚を斬る程度にとどまり――エールティア達が見たのは、止めを刺せずにに歯噛みする雪風の姿だった。
0
お気に入りに追加
160
あなたにおすすめの小説
飯屋の娘は魔法を使いたくない?
秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。
魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。
それを見ていた貴族の青年が…。
異世界転生の話です。
のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。
※ 表紙は星影さんの作品です。
※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。
余命半年のはずが?異世界生活始めます
ゆぃ♫
ファンタジー
静波杏花、本日病院で健康診断の結果を聞きに行き半年の余命と判明…
不運が重なり、途方に暮れていると…
確認はしていますが、拙い文章で誤字脱字もありますが読んでいただけると嬉しいです。
実家が没落したので、こうなったら落ちるところまで落ちてやります。
黒蜜きな粉
ファンタジー
ある日を境にタニヤの生活は変わってしまった。
実家は爵位を剥奪され、領地を没収された。
父は刑死、それにショックを受けた母は自ら命を絶った。
まだ学生だったタニヤは学費が払えなくなり学校を退学。
そんなタニヤが生活費を稼ぐために始めたのは冒険者だった。
しかし、どこへ行っても元貴族とバレると嫌がらせを受けてしまう。
いい加減にこんな生活はうんざりだと思っていたときに出会ったのは、商人だと名乗る怪しい者たちだった。
騙されていたって構わない。
もう金に困ることなくお腹いっぱい食べられるなら、裏家業だろうがなんでもやってやる。
タニヤは商人の元へ転職することを決意する。
転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜
家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。
そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?!
しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...?
ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...?
不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。
拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。
小説家になろう様でも公開しております。
【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革
うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。
優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。
家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。
主人公は、魔法・知識チートは持っていません。
加筆修正しました。
お手に取って頂けたら嬉しいです。
公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。
『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?
mio
ファンタジー
特別になることを望む『平凡』な大学生・弥登陽斗はある日突然亡くなる。
神様に『特別』になりたい願いを叶えてやると言われ、生まれ変わった先は異世界の第7皇子!? しかも母親はなんだかさびれた離宮に追いやられているし、騎士団に入っている兄はなかなか会うことができない。それでも穏やかな日々。
そんな生活も母の死を境に変わっていく。なぜか絡んでくる異母兄弟をあしらいつつ、兄の元で剣に魔法に、いろいろと学んでいくことに。兄と兄の部下との新たな日常に、以前とはまた違った幸せを感じていた。
日常を壊し、強制的に終わらせたとある不幸が起こるまでは。
神様、一つ言わせてください。僕が言っていた特別はこういうことではないと思うんですけど!?
他サイトでも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる