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424・鬼神族VS聖黒族(レイア&雪風side)

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 格闘戦から魔導戦へと移り、近接戦へと変わっていく戦いは、更に熾烈を極めていく。

「な、なんなのあれ……」

 レイアの呟きすら剣戟の音に紛れ消えてしまう。彼女の驚きは解放された人造命具を雪風が自在に操っている事もあるのだが、それ以上にヒューが顔色ひとつ変えずその動きについて行っている事がレイアには予想外だった。

 確かに、【凛音天昇りんねてんしょう】を抜き放った雪風の動きは格段に良くなっていた。さながら水を得た魚のように生き生きとしていた。今までのどこにそこまでの力を隠していたのか……そんな風に錯覚してしまいそうになる程、雪風の動きは跳ね上がっていた。

 相変わらず力に振り回されている節はあるものの、レイアの目には普段とは遜色なく動けていた。しかし、それと同等以上の動きでヒューは互角に渡り合っていた。それも人造命具も使わず、でだ。
 見るからに切れ味が悪く、押し潰すような使い方が似合う武骨な剣を、ヒューはまるで自分の手足かのように使いこなしていた。

 身体能力を上げる人造命具を操る雪風は、レイアが知る以上の動きを見せていた。今の彼女には太刀打ち出来ないと思わせる程の実力を発揮しているはずなのに、ヒューは涼しげな顔を保っていたままだった。

(雪風はあんなに強いのに……なんで押し切れないの? なんで……あの人はあんなに強いの?)

 レイアは自分が強くなっている実感はあった。しかし、目の前の戦いはその次元を遥かに超えていた。それで必死だったならまどわかるが、ヒューはそれがさも当然であるかのような態度だったのだ。

 人造命具には大なり小なり能力が備わっている。それこそ普通の武器など霞む程の効果を持っている程だ。カイゼルの【人造命銃・ラフレンスタル】然り、レイアの【人造命冠・パイソウィーク】然りだ。
 そんな強者の操る一点物の武器相手に通常の武器で渡り合えるほどの強さは持っていない。それに動揺する事なく、果敢に攻撃を仕掛けていく神経も、だ。

 一秒たりとも見逃せないこの戦いを、レイアは食い入るように見守っていた。

 ――

「【バインドリキッド】!」

 幾度となく剣戟を交わし続け、互いに一歩も引かず埒が明かない。どちらかの体力が尽きるまで斬撃の応酬をし続けるのを嫌ったヒューによって、再び水の罠を仕掛けられたのだが――

「二度も通じません! 【土水・岩濁流】!」

 魔導によって出現した岩と泥の混ざった大きな水の流れは、【バインドリキッド】を飲み込んでヒューへと雪崩れ込む。

「くっ……ぐぅぅぅっっ!!」

 流れに呑まれたヒューは、ある程度流された所で動きを止める。

「【鬼神化・修羅金剛】!」

 ここで一気に畳みかけるべく、雪風は自らの切り札を発動させる。自らの枷を解き放ち、鬼神族として全ての能力を一時的に限界を超えて引き上げる。
 一見自殺行為に見えるが、この魔導は彼女の精神の段階も引き上げる。共にバランスが取れた理想の状態まで押し上げられる為、慣れてしまえば普段よりも効率的な戦闘が可能になる。

「――行きます!」

 力強く地面を蹴り上げ、体勢の崩れたヒューに追撃を掛ける。【凛音天昇りんねてんしょう】が振り下ろされる直前。ヒュー自身もほとんど勘で剣で防御の構えを取ったのだが……ただでさえ使われている金属の強度以外は何の変哲もない剣。人造命具とまともに戦えるだけでも規格外だった。
 限界を超えた雪風の一撃は剣を斬り捨て、もはや何も防ぐ手立てはない。そう思えたその瞬間――

「――【聖黒せいこく光心闇身こうしんあんしん】!」

 発動した魔導により、【凛音天昇りんねてんしょう】の刃は届く前に見えない何かに防がれ、雪風の身体は吹き飛ばされてしまった。

 幸いにも雪風に外傷はなかったが、何が起こったのか理解できなかった彼女はヒューの状態に目を見張る。

 光と闇。そのように形容出来る何かがヒューの中へと入り込み、一つに混ざっていったのだ。

「……っ!」

 驚きのあまり言葉を失ったそれは、何もその光景が神秘的だったからではない。彼女は本能的にあれが自らの【鬼神化・修羅金剛】と同じ系統の強化魔導だということを察していたからだ。
 彼女の驚きはその強化によって再び壁を感じた事だ。限界以上に強化された雪風でさえ、今のヒューは恐ろしく強敵に感じた。
 超えられない壁では決してない。だが容易ではない。それほどの力を感じていた。

「……それが貴方の本気ですか」
「さあな。戦ってみればわかるさ」
「その折れた剣で戦うのですか? 貴方も人造命具を――」

 雪風の言葉を遮るように攻めてくるヒュー。驚きながらも【凛音天昇りんねてんしょう】を合わせた結果、ヒューの武器は更に砕け、もはや道具としての体を為していない。そのまま攻撃に転ずる雪風だったが、そのままするりとかわして懐に潜り込まれてしまう。

(不味い……! 拳が飛んでくる!)

 何度もボディブローを喰らう訳にはいかないと身構えている雪風は、拳を受け流しつつ反撃を試みようとしたのだが――

「【ブラックインパルス】!」

 近距離で発動した黒い衝撃波に成す術も無く吹き飛ばされる雪風。辛うじて体勢を整えたところで仕切りなおすように向かい合う。
 近距離戦闘を繰り広げていくものだと思っていただけに、完全に虚を突かれた形になった雪風は驚き、自然と笑みが零れた。
 自らが最強の敵と認めた相手。その本気を見る事が出来る。命がけの戦いであるというにも関わらず、雪風の心は高揚していく。それは正に、戦いの中に生を見出す鬼人族の覚醒した鬼神族として正しい姿だった。
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