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421・雪風へのメッセンジャー
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先に拠点を出た私達は、しばらくの間この付近で時間を潰すことにした。
「レイア達……無事ですかね」
「あの子なら大丈夫。危なくなったらちゃんと逃げる事が出来る子だから」
逆に心配なのはベアルだ。ヴァティグはそれなりに出来るけれど、ベアルはそんなに戦える人物じゃない。
恐らく一番足を引っ張る可能性が高いのは彼だろう。余計な事をしてピンチになってなきゃいいけど……。
なんて考えていたら、人数的に三人くらいの気配がこちらに近づいてくるのがわかった。かなり警戒しているのが伝わってきてるけれど――
「エールティア様! レイア達が戻ってきましたよ!」
嬉しそうな雪風は、落ち込んだ様子でこちらに近づいてくるレイア達を迎え入れた。あの顔からすると――どうやら目に見えた成果は得られなかったようだ。
「ティアちゃん……その――」
「あまり気にする必要はないわ。こっちは良い物を見つけたし……レイア達が無事だったのなら、それが一番大事なことだから」
申し訳なさそうに頭を伏せるレイアに出来るだけ優しい声音で彼女を励ますと、少しはいつもの通りの表情を見せてくれるようになった。
「ティアちゃん……! あ、ありがとう……」
「ふふっ、どういたしまして」
「……で、そっちはどうだったのですか? 何か収穫は?」
私とレイアが和やかにしていると、こちらの成果が気になったヴァティグが割り込んできた。
あまりこうしている場合でもないのだけれど……ちょっと気が緩んでいる証なのかもしれない。
「収穫はあった――けれど、それは後でゆっくりと話しましょう。それよりも今は拠点を潰すのが一番なのでは?」
「……そうですね。わかりました」
腑に落ちていない様子のヴァティグだったけれど、優先順位はしっかりとしていて助かる。
「あ、そうだ。雪風に伝言を頼まれていたんだっけ」
「僕……ですか?」
レイアは思い出したような顔をしていたけれど、雪風に伝言というのも可笑しな話だ。だけど雪風は心当たりがあるのか『やっぱり……』という表情をしていた。
「はい。えっと――『ここの森にある開けた場所にいる』とヒューを名乗る男性が」
「! ヒューが……。わかりました。ありがとうございます」
まさかレイア達がヒューと出会っていたとはね。よく傷一つなく無事でいられたものだ。
雪風は神妙な面持ちで頷いていた。多分……拠点を潰した後で行くつもりなのだろう。
一度負けた強敵にもう一度挑む――前回は救われたけれど、今回は命の危機が訪れる可能性もある。
本当は止めた方が良いのだろう。だけど、これは彼女の戦いだ。人には必ず訪れる試練。雪風にとって、それは今だろう。
「ヒューに会いに行くのは良いけれど、それよりやれることを終わらせておきましょう」
雪風の為にもなるべく早くこの拠点を潰す。そう結論を出した私は、全身の魔力を集中させ、より深く確かにイメージを構築させていく。
今まではセーブを掛けてきたけれど、今回はなんの気兼ねもなく放つことが出来る。
……今回の一撃は多くの命を奪う事になるだろう。今までは寸前のところで留まっていた事も多かったけれど、こればかりはそうも言ってはいられない。この手を再び血に染める。そんな事を考えると、やっぱり思うところはある。
だけど奪った命よりも多くの命が救われる。昔の事を考えたら意外な話だけどね。
意識を集中させ、力を収束させていく。拠点を飲み込む白い破壊の奔流。その全てを解き放つ――!
「【エアルヴェ・シュネイス】!!」
解き放った魔導は拠点の上空がひび割れ、白い光が流れ出る。見張りの兵士が慌てふためく様子がよく見える。
逃げればまだ救いはあるはずなのに、それが出来ないほど思考が麻痺しているのだろう。
白い光は拠点全体を覆いつくし、何もかもが染め上げられていく。
「す、すごい……」
「ここまでの魔導、初めて見た……」
ヴァティグ達が驚いた様子で拠点が包み込まれている光景を見ているけれど、それ以上にその目には畏怖が宿っていた。
無理もないことだろう。拠点は結構な広さがあったし、それを全て包み込むような魔導なんて中々見る事が出来ないしね。
やがて光が収まって拠点が姿を表した時そこには――何も残っていなかった。
さっきまでダークエルフ族の軍事拠点があったなんて思えないくらい綺麗さっぱりに片付いた。
「エールティア様。お疲れ様です」
「ありがとう」
雪風の労いの言葉に癒されながら残党がいないか索敵の魔導を展開させる。万が一逃げ出すことに成功した人がいたら面倒な事になるかもだしね。
「ティアちゃん……その、大丈夫?」
「ええ。レイアもお疲れ様」
一瞬のうちにあの拠点を消してしまったせいか、心配そうに覗き込んできたレイアに笑顔を向ける。
地図も手に入れたし、収穫は十分にあったと言える。
ヴァティグやベアルにも拠点の場所を教えることもできたし、彼らの信用も無事勝ち取る事が出来た。
今回の拠点侵略は、成功だと言えるだろう。後は――雪風の戦いが残るのみ、ね。
「レイア達……無事ですかね」
「あの子なら大丈夫。危なくなったらちゃんと逃げる事が出来る子だから」
逆に心配なのはベアルだ。ヴァティグはそれなりに出来るけれど、ベアルはそんなに戦える人物じゃない。
恐らく一番足を引っ張る可能性が高いのは彼だろう。余計な事をしてピンチになってなきゃいいけど……。
なんて考えていたら、人数的に三人くらいの気配がこちらに近づいてくるのがわかった。かなり警戒しているのが伝わってきてるけれど――
「エールティア様! レイア達が戻ってきましたよ!」
嬉しそうな雪風は、落ち込んだ様子でこちらに近づいてくるレイア達を迎え入れた。あの顔からすると――どうやら目に見えた成果は得られなかったようだ。
「ティアちゃん……その――」
「あまり気にする必要はないわ。こっちは良い物を見つけたし……レイア達が無事だったのなら、それが一番大事なことだから」
申し訳なさそうに頭を伏せるレイアに出来るだけ優しい声音で彼女を励ますと、少しはいつもの通りの表情を見せてくれるようになった。
「ティアちゃん……! あ、ありがとう……」
「ふふっ、どういたしまして」
「……で、そっちはどうだったのですか? 何か収穫は?」
私とレイアが和やかにしていると、こちらの成果が気になったヴァティグが割り込んできた。
あまりこうしている場合でもないのだけれど……ちょっと気が緩んでいる証なのかもしれない。
「収穫はあった――けれど、それは後でゆっくりと話しましょう。それよりも今は拠点を潰すのが一番なのでは?」
「……そうですね。わかりました」
腑に落ちていない様子のヴァティグだったけれど、優先順位はしっかりとしていて助かる。
「あ、そうだ。雪風に伝言を頼まれていたんだっけ」
「僕……ですか?」
レイアは思い出したような顔をしていたけれど、雪風に伝言というのも可笑しな話だ。だけど雪風は心当たりがあるのか『やっぱり……』という表情をしていた。
「はい。えっと――『ここの森にある開けた場所にいる』とヒューを名乗る男性が」
「! ヒューが……。わかりました。ありがとうございます」
まさかレイア達がヒューと出会っていたとはね。よく傷一つなく無事でいられたものだ。
雪風は神妙な面持ちで頷いていた。多分……拠点を潰した後で行くつもりなのだろう。
一度負けた強敵にもう一度挑む――前回は救われたけれど、今回は命の危機が訪れる可能性もある。
本当は止めた方が良いのだろう。だけど、これは彼女の戦いだ。人には必ず訪れる試練。雪風にとって、それは今だろう。
「ヒューに会いに行くのは良いけれど、それよりやれることを終わらせておきましょう」
雪風の為にもなるべく早くこの拠点を潰す。そう結論を出した私は、全身の魔力を集中させ、より深く確かにイメージを構築させていく。
今まではセーブを掛けてきたけれど、今回はなんの気兼ねもなく放つことが出来る。
……今回の一撃は多くの命を奪う事になるだろう。今までは寸前のところで留まっていた事も多かったけれど、こればかりはそうも言ってはいられない。この手を再び血に染める。そんな事を考えると、やっぱり思うところはある。
だけど奪った命よりも多くの命が救われる。昔の事を考えたら意外な話だけどね。
意識を集中させ、力を収束させていく。拠点を飲み込む白い破壊の奔流。その全てを解き放つ――!
「【エアルヴェ・シュネイス】!!」
解き放った魔導は拠点の上空がひび割れ、白い光が流れ出る。見張りの兵士が慌てふためく様子がよく見える。
逃げればまだ救いはあるはずなのに、それが出来ないほど思考が麻痺しているのだろう。
白い光は拠点全体を覆いつくし、何もかもが染め上げられていく。
「す、すごい……」
「ここまでの魔導、初めて見た……」
ヴァティグ達が驚いた様子で拠点が包み込まれている光景を見ているけれど、それ以上にその目には畏怖が宿っていた。
無理もないことだろう。拠点は結構な広さがあったし、それを全て包み込むような魔導なんて中々見る事が出来ないしね。
やがて光が収まって拠点が姿を表した時そこには――何も残っていなかった。
さっきまでダークエルフ族の軍事拠点があったなんて思えないくらい綺麗さっぱりに片付いた。
「エールティア様。お疲れ様です」
「ありがとう」
雪風の労いの言葉に癒されながら残党がいないか索敵の魔導を展開させる。万が一逃げ出すことに成功した人がいたら面倒な事になるかもだしね。
「ティアちゃん……その、大丈夫?」
「ええ。レイアもお疲れ様」
一瞬のうちにあの拠点を消してしまったせいか、心配そうに覗き込んできたレイアに笑顔を向ける。
地図も手に入れたし、収穫は十分にあったと言える。
ヴァティグやベアルにも拠点の場所を教えることもできたし、彼らの信用も無事勝ち取る事が出来た。
今回の拠点侵略は、成功だと言えるだろう。後は――雪風の戦いが残るのみ、ね。
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