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416・宿屋での話し合い

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 ヴァティグとベアルの二人と合流した私達は、とりあえず宿に向かう事にした。
 今後の積もる話をしなければならない。最初レアディは酒場に行こうと言っていたけれど、流石に却下。あんな場所で重要な話なんてどこから聞いているかわからない以上、するべきではない。
 酒の席で話した憶測だと決めつけさせるのも簡単だけれど、万が一の事を考えたら酒場なんて選択肢は存在しない。

 結局それなりに広い宿を取って落ち着くことに合意した。

 ――

 それから少しの間泊まれる場所を探し出した私達は、とりあえず人数を分ける事にした。
 流石に六人も七人も一部屋に入れる訳にはいかない。結局まずは私ともう一人から話を聞くことにした……という訳だ。

 私の為に用意された無闇に豪華な場所ではなく、綺麗に整えられた家具にベッド。整えられた清潔感の溢れる部屋に好感が持てた。
 話し合いをする所はそれなりに広い空間の部屋で、現在はヴァティグとベアル。それと私と雪風の計四人だった。

「――まず何から話をしましょうか」
「それでは、まずは簡単な状況説明。それと貴女がたの目的を改めて教えてください」

 一番最初に確認するのは良い事だろう。
 という訳で、ここに来る理由の一つになった雪風から説明を始める。
 マデロームで起こった事。そしてダークエルフ族が総力を挙げて世界中に存在している国々に戦いを仕掛けてきた事から、複製体の人達を仲間に引き込み、手分けして彼らの生まれた拠点に乗り込んだ事など……可能な限り簡潔に話す事となった。

「――そこから先は貴方がたもご存知の通り、ここに軍事拠点が存在するという情報を入手し、そちらの国王様に一筆したためた次第です」
「それは確かな筋からの情報なのですか?」

 ヴァティグの疑念はもっともだ。これは私達が掴んだ情報であって、確証出来るものは何もない。雪風に情報をもたらしたヒューが嘘をついていない保証がどこにもなかった。
 それを雪風もわかっているのか、どうにも自信なさげな表情をしていた。

「……私達も暇ではありません。不確かな情報でこの国を混乱させる訳にはいかないのです」
「それはわかります。ですが、ダークエルフ族は何を考えているのでしょう? それは聖黒族やこのサウエス地方の英雄達への復讐なのではないでしょうか」
「それは貴女方に限った話……そうでしょう?」

 私の返事に対して、何処か冷めた目を向けてくるベアル。
 恐らく、二人とも私達の言葉を信じていない。むしろ今はそんな事をしている場合じゃないとさえ思っていそうだ。

 気持ちはわかるけれど……ここで折れてしまってはそもそも何のためにここまで来たのかわからなくなる。

「初代魔王と同盟を結び、共に時代を戦い抜いたビアティグ王……そんな人物が作った国が私達と完全に無関係である。そう仰るのですか?」
「そうは言っておりません。ですが、直接関係のある種族は貴女の方なのでは? ということです」
「ならばその近隣にある国々に拠点を置くのも合理的だと考えます。彼らの狙いは聖黒族。ティリアースに直接拠点を築き上げることにリスクを感じていたら、周辺諸国に目を向けるのは当然でしょう」

 理屈のこねあいのような話し合いが続く。もし本当にこの国に拠点があったとしたら、発覚した時にどんな事になるかわからない相手じゃないはずなんだけど……。まるで拒絶されているようにさえ思う。

「ガンドルグ王は書状を受け取り、私にある程度この国で力を行使できる権利を与えてくださいました。それはガンドルグ王が私達の言葉を信じ、託してくれたのではないのですか?」
「……貴女様の仰る通りです。申し訳ありません」

 あれだけ突っ込んできた割には随分と簡単に頭を下げたな……なんて思ったけれど、顔を上げてまず最初に目にしたのが力強い視線だった。

「――ですが、私達も自国の事を思ってのことなのです。そこだけはお忘れなきようお願い申し上げます」

 まっすぐな視線は彼の想いを伝えてくれる。
 ……考えてみたらそれもそうだろう。彼らからしてみたら私達は土足で踏み荒そうとしているのと変わらないということだ。

「貴方の気持ち、しっかりと伝わりました。ですが、ここで退く訳にもいきません。話が平行線である以上、ここは当初の予定通り、ダークエルフ族の軍事拠点を捜索しましょう。見つかったならそれでよし。もし見つからなかったら……可能な限りお父様に口利きをする。それでなんとか納得してもらえないかしら?」

 これ以上必要ない時間に煩わされるのも御免だ。なら、今私が出来る限りの融通を付けるしかない。
 ヴァティグとベアルは顔を合わせてしばらく考え込んでいた後――結論が出たのか、やる気に満ちた顔で頷いていた。

「わかりました。今はそれで貴女方に付いて行きましょう。戦闘面では極力足手まといにはならないと約束しましょう」

 ……そこは『極力』なのか。
 まあいい。そこについては何を言っても実際見てみないとわからない。そしてそんな時間はない以上、こっちも彼らを信じるしかないだろう。
 今は一刻を争う。話が整ったのなら、明日にでも行動あるのみだ。
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