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411・帰還の鬼人族(雪風side)
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レアディ達が朝帰りをしてこっぴどく叱られた翌日――雪風はレアディ達がもたらした情報を整理していた。
それは商人たちの売り物の流れ。食べ物が多く買い占められ、鳥車を用意してくれと頼んでいたりして長旅もこなせるようにしている者もいる以上、そこには別の地方に移る者も存在するという事だった。
武器に防具に食糧。それが大量に必要になる行為と言えば――戦争。これ一択だ。そしてヒューの話ではガンドルグのガリュドスと呼ばれる町の近くにある森に重要な拠点の一つがあると教えてもらっていた。それが嘘か本当かはわからない。だが、雪風はそれを信じることにしたのだ。
あの状況で嘘を吐くような真似をする男には見えなかった。そして……いずれ彼と決着をつけたい。それが雪風の思いだった。
考え込んでいるうちに時間がきたのか、扉をノックする音が聞こえ、雪雨が部屋へと入ってきた。
「雪風、準備はいいか?」
「……はい。こちらは問題ありません」
元々大した荷物を持ってなかった雪風は、軽く荷造りしてそれで終わっていた。
「レアディ達はどうなんですか?」
「あいつらは既に準備を終わらせてワイバーンの手配してる途中だろう」
雪雨の気持ちが雪風にはよくわかる。結局朝まで飲み明かした二人は、どこか言い訳じみた言い方で弁明を図ったのだ。何とか許しを得た彼らは、ちょっと羽目を外しすぎたのを自覚していたのか素直に従っていた。
「あの人達、確か朝まで飲んでたんですよね。鬼人族でもないのによく二日酔いになりませんでしたよね」
呆れたように呟く雪風の言葉は正しい。鬼人族以外の種族でここまで酒豪なのは中々存在しない。朝から次の日の夜明けまで飲んだ上で二日酔いもしないのは鬼人族くらいなものだった。
もっとも、朝から晩まで飲みっぱなしというわけではなかったのだが……ただでさえ彼らへの偏見が強い彼女には、それだけの情報ではわからないことだった。
「毎日飲んでりゃ強くもなるだろ。準備が出来たんなら俺達も行くぞ。これ以上お前らに振り回されんのはごめんだ」
「……やっぱり大変でした?」
一応罪悪感は抱いているのだろう。若干申し訳なさそうな雪風の視線に雪雨は鼻を鳴らした。
「当たり前だ。そもそも俺は誰かを従える器じゃねえんだよ。俺一人なら気持ちよく暴れられるってのに、お前らみたいに手のかかる奴らがいたら、そっちにまで気を回さなきゃなんねえ。リーダーってのはつくづく損な役回りだよ」
ため息混じりに語る雪雨だったが、彼でなければレアディ達をここまで御する事は出来なかっただろう。
雪風のように真面目であれば、彼らとの関係に不和が生じていたのは目に見えていたし、実力が劣れば確実に下に見られていた。妙に縛り付けても成果は得られないし、エールティア至上主義を押し付けられれば反発するだろう。
それを考えれば、雪雨は良くやれている方だった。
今回の件は雪風が忠誠心を爆発させた挙句、功を焦った結果だったが、それがなければほどほどにそつなくこなしていただろう。
面倒見が良いのはレアディばかりではなく、雪雨も同じだったと言える。
「でも僕は雪雨様がリーダーで良かったと思ってるよ」
「はは、だったらしっかり俺の言う事を聞けよ」
軽く笑い飛ばした雪雨の背中は、雪風からすれば大きく見えた。
今は雪風の方が強くなってしまった。一度死んで手にした力は強大で、持て余すくらいだ。
だけど、それでもいつか雪雨に追い抜かれてしまう事を彼女は悟っていた。
(何があっても最後には笑い飛ばせるから――どこまでも前を向いて歩いていける貴方様だから、近いうちに僕を再び追い抜いてしまうのでしょう。それでも構いません。僕はあの方の背を見て歩いていけるなら、それが幸せですから)
心の中に涼しい風が吹いて雪風の気持ちを穏やかにさせる。どこか楽しそうに微笑んでいる彼女を気味の悪いものでも見てるかのような雪雨は、恐る恐る言葉を紡ぐ。
「お前……なんか変なもの食べたか?」
「……なんでですか」
「いきなり空を見上げて笑い出すからだ。そんなに良い天気か?」
「……はあ」
どこか空気の読めない発言に雪風はどっと力が抜けていくのがわかった。
穏やかな日差しの中、良い気分で散歩していたらいきなり水をぶっかけられた……そんな感じの気分になった雪風は、何も言わずに歩き出す。
それを不思議そうに眺めながら後をついていく形で歩く雪雨。
こうして彼らの遠征は終わりを告げる。エールティアも、他の拠点で頑張っているアルフ達も今頃は同じように合流地点へと向かっているだろう。
それぞれの戦いは幕を閉じ、これからは新しい戦いが幕を開ける。本格的にダークエルフ族と事を構える三年生目の始まり。
――もっとも、このまま戦争を続けて学生生活は二年で打ち切りという可能性も十分にあった。
いずれにせよ、彼女達の戦いは始まったばかり。今後どうなるか……それはエールティアやその仲間達にかかっているのだった。
それは商人たちの売り物の流れ。食べ物が多く買い占められ、鳥車を用意してくれと頼んでいたりして長旅もこなせるようにしている者もいる以上、そこには別の地方に移る者も存在するという事だった。
武器に防具に食糧。それが大量に必要になる行為と言えば――戦争。これ一択だ。そしてヒューの話ではガンドルグのガリュドスと呼ばれる町の近くにある森に重要な拠点の一つがあると教えてもらっていた。それが嘘か本当かはわからない。だが、雪風はそれを信じることにしたのだ。
あの状況で嘘を吐くような真似をする男には見えなかった。そして……いずれ彼と決着をつけたい。それが雪風の思いだった。
考え込んでいるうちに時間がきたのか、扉をノックする音が聞こえ、雪雨が部屋へと入ってきた。
「雪風、準備はいいか?」
「……はい。こちらは問題ありません」
元々大した荷物を持ってなかった雪風は、軽く荷造りしてそれで終わっていた。
「レアディ達はどうなんですか?」
「あいつらは既に準備を終わらせてワイバーンの手配してる途中だろう」
雪雨の気持ちが雪風にはよくわかる。結局朝まで飲み明かした二人は、どこか言い訳じみた言い方で弁明を図ったのだ。何とか許しを得た彼らは、ちょっと羽目を外しすぎたのを自覚していたのか素直に従っていた。
「あの人達、確か朝まで飲んでたんですよね。鬼人族でもないのによく二日酔いになりませんでしたよね」
呆れたように呟く雪風の言葉は正しい。鬼人族以外の種族でここまで酒豪なのは中々存在しない。朝から次の日の夜明けまで飲んだ上で二日酔いもしないのは鬼人族くらいなものだった。
もっとも、朝から晩まで飲みっぱなしというわけではなかったのだが……ただでさえ彼らへの偏見が強い彼女には、それだけの情報ではわからないことだった。
「毎日飲んでりゃ強くもなるだろ。準備が出来たんなら俺達も行くぞ。これ以上お前らに振り回されんのはごめんだ」
「……やっぱり大変でした?」
一応罪悪感は抱いているのだろう。若干申し訳なさそうな雪風の視線に雪雨は鼻を鳴らした。
「当たり前だ。そもそも俺は誰かを従える器じゃねえんだよ。俺一人なら気持ちよく暴れられるってのに、お前らみたいに手のかかる奴らがいたら、そっちにまで気を回さなきゃなんねえ。リーダーってのはつくづく損な役回りだよ」
ため息混じりに語る雪雨だったが、彼でなければレアディ達をここまで御する事は出来なかっただろう。
雪風のように真面目であれば、彼らとの関係に不和が生じていたのは目に見えていたし、実力が劣れば確実に下に見られていた。妙に縛り付けても成果は得られないし、エールティア至上主義を押し付けられれば反発するだろう。
それを考えれば、雪雨は良くやれている方だった。
今回の件は雪風が忠誠心を爆発させた挙句、功を焦った結果だったが、それがなければほどほどにそつなくこなしていただろう。
面倒見が良いのはレアディばかりではなく、雪雨も同じだったと言える。
「でも僕は雪雨様がリーダーで良かったと思ってるよ」
「はは、だったらしっかり俺の言う事を聞けよ」
軽く笑い飛ばした雪雨の背中は、雪風からすれば大きく見えた。
今は雪風の方が強くなってしまった。一度死んで手にした力は強大で、持て余すくらいだ。
だけど、それでもいつか雪雨に追い抜かれてしまう事を彼女は悟っていた。
(何があっても最後には笑い飛ばせるから――どこまでも前を向いて歩いていける貴方様だから、近いうちに僕を再び追い抜いてしまうのでしょう。それでも構いません。僕はあの方の背を見て歩いていけるなら、それが幸せですから)
心の中に涼しい風が吹いて雪風の気持ちを穏やかにさせる。どこか楽しそうに微笑んでいる彼女を気味の悪いものでも見てるかのような雪雨は、恐る恐る言葉を紡ぐ。
「お前……なんか変なもの食べたか?」
「……なんでですか」
「いきなり空を見上げて笑い出すからだ。そんなに良い天気か?」
「……はあ」
どこか空気の読めない発言に雪風はどっと力が抜けていくのがわかった。
穏やかな日差しの中、良い気分で散歩していたらいきなり水をぶっかけられた……そんな感じの気分になった雪風は、何も言わずに歩き出す。
それを不思議そうに眺めながら後をついていく形で歩く雪雨。
こうして彼らの遠征は終わりを告げる。エールティアも、他の拠点で頑張っているアルフ達も今頃は同じように合流地点へと向かっているだろう。
それぞれの戦いは幕を閉じ、これからは新しい戦いが幕を開ける。本格的にダークエルフ族と事を構える三年生目の始まり。
――もっとも、このまま戦争を続けて学生生活は二年で打ち切りという可能性も十分にあった。
いずれにせよ、彼女達の戦いは始まったばかり。今後どうなるか……それはエールティアやその仲間達にかかっているのだった。
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