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391・模擬戦場(ファリスside)
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フレルアの先導によって一行が辿り着いたのは先程の場所よりもずっと広い部屋だった。
「ここは……」
その光景にファリスとローランは見覚えがあった。そこは拠点の中でも最も防御力の厚い部屋――訓練室だった。
「そこの二人は知っているだろう。 ここでならば、多少暴れても問題なかろう」
「……本当に戦うのか?」
「何を今更。もしかして怖気づいたの?」
「そういう訳じゃないさ。ただ、他に方法はなかったのかなって思ってさ」
小馬鹿にするようなファリスにうんざりする視線を向けるローラン。
戦う事自体に不満がある訳ではなく、戦わないで済むならその方がいい。そういう想いから口から出た言葉だった。
「我が住処にある物を欲するならば、相応の力を示してもらう……。なにも不自然なことはあるまい」
「その割には、僕達が探索するのを認めてくださったじゃないですか」
若干呆れた様子のアルフの言葉に、レイアはうんうんと頷いていた。
確かにフレルアは最初、アルフ達の探索の邪魔をすることはなかった。それが何か情報を求めた途端、この有様である。
「あの時は我に頼らず、自らの手で探そうとしていたからな。だが、我に答えを求めるのであれば……相応の対価を求めるのは当然だ」
フレルアは訓練室の中央の壁側に設置されている台座に手を置いて魔力を注ぎ込んだ。その瞬間、淡い光がフレルアを包み込み、訓練室全体に広がっていった。この現象は魔王祭で決闘官が用いている結界具で発生する光と全く同一のものだった。
「金銭や宝石などは必要ない。栄誉や名声すら無用だ。我が欲しいのは、我の認める実力者である事の証明のみ。弱者には何もなし得ぬ。為そうとする者の力を見せてみよ」
訓練所の奥。振り返ったフレルアは悠然と微笑む。それは強者の笑み。エールティアが戦いで相手に向けるそれと同じだった。
四人の視線が自然と交差する。誰が出るか。全員で出るか。
「ここはわたしが――」
「私が出ます」
誰も出ないのを見て、自分の出番だと得意げに出てこようとしたファリスを遮るようにレイアが歩み出した。
「ちょっと! 割り込まないでよ!」
先程まで行く気満々だったファリスは、出鼻を挫かれて不満そうに唇を尖らせる。
引っ込め! と言いたげに睨んだ彼女は、レイアの瞳を見てそれを抑えた。
まっすぐ。今のレイアにはもはやフレルアしか見ていなかった。
「……勝てるの?」
「わからない。けど……やってみたいの。お願い」
視線はフレルアを見据え、決して離さない。今の彼女では勝てないかも――いや、まず勝てない。それはファリスだけではなく、レイア本人ですらわかっている事だ。
だが、それを含めても試してみたい気持ちにさせられる。それはアルフも同じ気持ちだった。
(わかるよ。僕も同じ気持ちだ。あの方――いいや、彼は僕達の御先祖様を元に創られている。だからこそ……こんなにも惹かれ合う)
アルフとレイアには、目の前の人物が――フレルアの複製元がどんな人物か。心の奥底ではなく、本能で察した。
恐らく、他の種族ではこうはならないであろう。
彼らが『黒竜人族』であり、濃く血を受け継いだ者達だからこそ分かった事だ。
そして――本能で察したからこそ、拳を交えたくなったのだ。それは強さを求める彼らの本能。
「私からお相手、お願いしても?」
相対したレイアを見定めるフレルア。しかし、それはやがて残念なものを見る目に変わる。明らかな実力の違い。それを覆せるだけの力や光るものがないと判断されたが所以であった。
「我は構わぬが……本当に良いのだな? 手加減などを期待しているのであれば――即座に誅するぞ」
濃密な死の気配。ねっとりと絡みつくようなそれはレイアに身体中を舐めまわすような感覚を与えるほどだった。
少しでも間違えれば瞬く間に滅ぼされる。そんな確信めいた予感に支配され、息が詰まるようなそれは、否応なく死ぬのだと教えてくれた。
「手加減なんて最初から期待してない。本気の貴方と戦いたいんです」
「……よかろう! ならば、存分に振るうが良い!」
レイアの瞳の奥底に宿る闘志を目の当たりにしたフレルアは、戦闘態勢を取る。
しかし、フレルアは先に仕掛けることはなかった。それは挑戦者を待つ王者。
あまりの風格・威圧に一瞬たじろいだレイアは、身体中に力を入れる。飛び出すように走り出した彼女は、まっすぐフレルアの身体に向けて飛び出し、拳を突き出す。
最速の拳が確実にフレルアの腹部を捉えた――筈だったのだが、彼の姿はまるで空蝉ように消え、捉えたと思っていた拳は空しく空を切ってしまった。
「……っ」
驚きはしたが、レイアにとっては予測の範囲内。ファリスの拳打すら防ぎ、かわしきった程の実力の持ち主なのだ。
それよりも大事なのはその先。それを踏まえた上でどう行動するか……その一点に尽きた。
戦いは未だ始まったばかり。圧倒的な実力差があるそれをどう覆すか……。それは全て、レイアが積み重ねて来た経験と持ち前の度胸に掛かっていた。
「ここは……」
その光景にファリスとローランは見覚えがあった。そこは拠点の中でも最も防御力の厚い部屋――訓練室だった。
「そこの二人は知っているだろう。 ここでならば、多少暴れても問題なかろう」
「……本当に戦うのか?」
「何を今更。もしかして怖気づいたの?」
「そういう訳じゃないさ。ただ、他に方法はなかったのかなって思ってさ」
小馬鹿にするようなファリスにうんざりする視線を向けるローラン。
戦う事自体に不満がある訳ではなく、戦わないで済むならその方がいい。そういう想いから口から出た言葉だった。
「我が住処にある物を欲するならば、相応の力を示してもらう……。なにも不自然なことはあるまい」
「その割には、僕達が探索するのを認めてくださったじゃないですか」
若干呆れた様子のアルフの言葉に、レイアはうんうんと頷いていた。
確かにフレルアは最初、アルフ達の探索の邪魔をすることはなかった。それが何か情報を求めた途端、この有様である。
「あの時は我に頼らず、自らの手で探そうとしていたからな。だが、我に答えを求めるのであれば……相応の対価を求めるのは当然だ」
フレルアは訓練室の中央の壁側に設置されている台座に手を置いて魔力を注ぎ込んだ。その瞬間、淡い光がフレルアを包み込み、訓練室全体に広がっていった。この現象は魔王祭で決闘官が用いている結界具で発生する光と全く同一のものだった。
「金銭や宝石などは必要ない。栄誉や名声すら無用だ。我が欲しいのは、我の認める実力者である事の証明のみ。弱者には何もなし得ぬ。為そうとする者の力を見せてみよ」
訓練所の奥。振り返ったフレルアは悠然と微笑む。それは強者の笑み。エールティアが戦いで相手に向けるそれと同じだった。
四人の視線が自然と交差する。誰が出るか。全員で出るか。
「ここはわたしが――」
「私が出ます」
誰も出ないのを見て、自分の出番だと得意げに出てこようとしたファリスを遮るようにレイアが歩み出した。
「ちょっと! 割り込まないでよ!」
先程まで行く気満々だったファリスは、出鼻を挫かれて不満そうに唇を尖らせる。
引っ込め! と言いたげに睨んだ彼女は、レイアの瞳を見てそれを抑えた。
まっすぐ。今のレイアにはもはやフレルアしか見ていなかった。
「……勝てるの?」
「わからない。けど……やってみたいの。お願い」
視線はフレルアを見据え、決して離さない。今の彼女では勝てないかも――いや、まず勝てない。それはファリスだけではなく、レイア本人ですらわかっている事だ。
だが、それを含めても試してみたい気持ちにさせられる。それはアルフも同じ気持ちだった。
(わかるよ。僕も同じ気持ちだ。あの方――いいや、彼は僕達の御先祖様を元に創られている。だからこそ……こんなにも惹かれ合う)
アルフとレイアには、目の前の人物が――フレルアの複製元がどんな人物か。心の奥底ではなく、本能で察した。
恐らく、他の種族ではこうはならないであろう。
彼らが『黒竜人族』であり、濃く血を受け継いだ者達だからこそ分かった事だ。
そして――本能で察したからこそ、拳を交えたくなったのだ。それは強さを求める彼らの本能。
「私からお相手、お願いしても?」
相対したレイアを見定めるフレルア。しかし、それはやがて残念なものを見る目に変わる。明らかな実力の違い。それを覆せるだけの力や光るものがないと判断されたが所以であった。
「我は構わぬが……本当に良いのだな? 手加減などを期待しているのであれば――即座に誅するぞ」
濃密な死の気配。ねっとりと絡みつくようなそれはレイアに身体中を舐めまわすような感覚を与えるほどだった。
少しでも間違えれば瞬く間に滅ぼされる。そんな確信めいた予感に支配され、息が詰まるようなそれは、否応なく死ぬのだと教えてくれた。
「手加減なんて最初から期待してない。本気の貴方と戦いたいんです」
「……よかろう! ならば、存分に振るうが良い!」
レイアの瞳の奥底に宿る闘志を目の当たりにしたフレルアは、戦闘態勢を取る。
しかし、フレルアは先に仕掛けることはなかった。それは挑戦者を待つ王者。
あまりの風格・威圧に一瞬たじろいだレイアは、身体中に力を入れる。飛び出すように走り出した彼女は、まっすぐフレルアの身体に向けて飛び出し、拳を突き出す。
最速の拳が確実にフレルアの腹部を捉えた――筈だったのだが、彼の姿はまるで空蝉ように消え、捉えたと思っていた拳は空しく空を切ってしまった。
「……っ」
驚きはしたが、レイアにとっては予測の範囲内。ファリスの拳打すら防ぎ、かわしきった程の実力の持ち主なのだ。
それよりも大事なのはその先。それを踏まえた上でどう行動するか……その一点に尽きた。
戦いは未だ始まったばかり。圧倒的な実力差があるそれをどう覆すか……。それは全て、レイアが積み重ねて来た経験と持ち前の度胸に掛かっていた。
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