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367・召喚される姫

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 最初は難航しそうだと思っていた治療だけど、予想以上にスゥが活躍してくれていた。
 私が治療する頃にはある程度身体の傷が癒されていて、それ以外――『欠損』などの状態異常を治すだけでよくなっていた。
 体力を回復した分、痛みや苦しみを感じやすくなってるみたいだけど……これは不可抗力として割り切って欲しい。

 次々と治療を終えていく私達の隣ではファリスとアイビグが一生懸命患者を移動したり掃除をしてくれて、環境を整えてくれたおかげで大分楽が出来た。

「ティアちゃん、こっちは終わったよー」

 疲れた様子であらかた患者を運び終えた二人が戻ってきた。

「お疲れ様。二人とも、よく頑張ってくれたわね」
「ああ。ま、この程度なんてことないけどな」
「……はふぅ」

 こちらの方も後は私の領分の患者だけになって、スゥが消耗した様子でアイビグの肩に降り立って、だるそうにうつぶせになった。

「三人とも、後は私に任せて――」
「し、失礼します!」

 労いの言葉を投げかけている途中で一人の兵士が割って入ってきた。
 私の言葉を中断したせいで、思いっきりファリスに睨まれて萎縮してしまったけれど……一体何の用で来たのだろう?

「え、ええと――」
「ああ、気にしないで。……ファリス」
「はーい」

 不満そうに顔を背けた様子に、兵士も少しは落ち着きを取り戻したようだ。

「で、改めて話してもらえる?」
「は、はい! 実は……マンヒュルド王がエールティア公爵令嬢様にお会いになられたいと……」

 ……予想は出来ていた事だ。私も一応貴族だし、そんな人物があちこちで色々していたら有名にもなるだろう。むしろ遅いくらいだ。

「随分時間が掛かったんじゃない? 本当ならもっと早く呼び出しても遅くなかったのに」
「はい、エールティア様は治療院にて手当を行っているとのことでしたので、それが終わる頃合いに……とのことでした」

 なるほど。こちらの邪魔をしないように、か。それはありがたい。途中で割り込まれたりしたら、迷惑でしかないものね。その点を考えると、少し好感が持てる。
 それと、さっき萎縮する事になったファリスの視線にも平静を保って話をする兵士にも、ね。普通の胆力では怖気づいてしまうはずだからね。

「そう……もうすぐここでの仕事も終わるから、引き継ぎが終わり次第向かうと伝えてくれる?」
「はい。わかりました!」

 びしっと敬礼をした兵士は、きびきびとした動きで治療院から出て行った。

「……いいの? なんだか面倒な事になりそう」

 ファリスの言葉ももっともだけど……

「今更でしょう。もう十分面倒よ」
「……だねー」

 それをスゥが同意するのはちょっと違うような気がするけど……気にしたら負けかも。
 とりあえず、今は院長に引き継ぎをしよう。終わり次第といっても、国王からの呼び出しなのだ。なるべく早く行かないとね。

 ――

 忙しそうにしている院長になんとか引き継ぎを終えた私達は、夕方になる前に辿り着くことができた。
 慌ただしくなった事には悪いと思うけれど、これも国王に呼び出された不運と言える。彼には仕方がないと諦めてもらった。

「なんとか来れたけど……本当に行くの?」

 二度目のファリスの問いかけに頷く。ここまで来て今更引き返すのはありえない。というか――

「ファリスもアイビグも、一度宿に戻りなさい。ここからは私一人でいいから」
「えー! いや!」

 思いっきり駄々をこねたファリスは『なんで? どうして?』とでも言いだけに不満をぶつけてきた。
 むーっと頰を膨らませて睨んでくるけれど、こればかりは容認出来ない。

「ファリス。アイビグとスゥは私達のいる宿を知らないの。だからその案内をお願いしたいと思ったんだけど……」

 どうしたものか……思案する。打算目的でちょっと可愛らしくお願いしてみた。
 柄じゃないのはわかってるけれど、少しはファリスの心に響かないかな思ったからだが――

「うっ……」

 どうやら効果があったみたいで、心揺さぶられたような表情を浮かべていた。

「し、仕方ないなぁ……今回だけだよ?」

 あっさり折れてくれたファリスは、笑顔をうかれているようだった。

「アイビグ、スゥはファリスについて行ってちょうだい。あまり変なところをうろうろしてらダメだからね?」
「ああわかった」

 結構軽い感じで応えてくれたけど……本当に大丈夫なのだろうか? 心配なら連れて行くというのも一つの手なのだろうけど……ここでもし彼らの素性が知れて、今回の騒動の主犯と関係者ということにでもなったら……どんな酷い目に遭うかわからない。

 それに、私の立場も悪くなるかもしれない――と様々な可能性を考えた結果、彼らを連れて行かない方がいいと結論付けたというわけだ。
 しっかりとファリス達が見えなくなるまで見送ったあと、軽く息を整えるように呼吸をして、昂った感情を落ち着ける。

「さて、それじゃあ行きましょう――」

 普段はあまり気にしないでいるけれど、久しぶりにまともな貴族として向かいあう事になるだろう。ボロが出ないように気をつけないとね。
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