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351・唐突の和解
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適当に宿の周辺を散歩して戻ってみると――なんだか言い表すことが難しい雰囲気を二人は纏っていた。
長年の宿敵のようであり、数日しか経っていない友のように思える。
そんな微妙な雰囲気で向かい合ってる二人の間に一体何があったんだろうか?
強者としての余裕を感じさせるファリスと、何か含みのある笑みを浮かべているジュール。
明らかに部屋の外に出る前とは空気が違っていた。前よりは若干柔らかくなっと……と思う。
「話、終わった?」
「うん! ね? ジュール」
「え、そ、そうですね」
相変わらず華やかな笑みを向けてくれているファリスに対して、どこかぎこちなく笑うジュール。
想像していたのよりは大分マシとはいえ、中で一体何が起こったんだろう? 私抜きでは衝突するのが目に浮かぶ程だっただけに、この光景は本当に驚きの一言に尽きる。
まさか仲良く(?)なるなんてね。
表面的なのは見ててわかるけれど、それでも上辺だけでも笑顔で接する事が出来るなら……とりあえずはそれでいいと思う。
最初から満面の笑みで握手を交わし合って、仲良しこよしが出来るとは思っていない。
これ以上を望むのはむしろ欲張りだと言えるだろう。
「良かった。それでジュール、調子はどう? ずっと眠っていたみたいだけど……」
「……はい。ティア様のお蔭で大分良くなりました」
ファリスに向けていたぎこちない笑顔よりは大分マシだけど、どこか困ったようにジュールは微笑んでいた。
やっぱり、引き合わせたことに対して困惑しているんだろうか? 事前に話を通しておけば良かったかも……と軽く自己嫌悪に陥ってしまう。
「えっと、ティア様が私を助けて下さったそうですので……その……本当に申し訳ございませんでした!」
微笑んでいたジュールは勢いよく立ち上がって、頭を下げてきた。
あまりの勢いの良さにそのまま机にぶつかるんじゃないかと思ったほどだ。
「ジュール、ちょっと落ち着いて」
「いえ、本来なら私がティア様を助けなければいけないのに……」
必死さが現れるほどに一生懸命で、その姿勢が心に強く残る。どうやら、随分気にしているようだ。
「別に気にする必要なんてないのに……」
「ティアちゃん、素直に受け取った方が良いよ」
ジュールの謝っている姿に戸惑う私に対し、ファリスは呆れた目で私を見ていた。
もう今日で何度その目を向けられただろう? なんでかさっぱりわからない。
「でも、あれは私が自分の好きでやった事で……」
「だとしても。上の者は下の者の謝罪を受け取って、許してあげないといけないの。それが務め」
「務め……ね」
随分知ったような口を聞いていると思うけれど、ファリスの言う事は気になる。
彼女は『ローラン』の記憶を持っているのだし、その観点から何か思うところがあるのかもしれない。
「本当ならティアちゃんを守るのがあの子の役目なの。それを逆に守ってもらって救ってもらう……そんな恥と罪を『気にしないで』なんて言葉で済ませるのは酷でしょう。彼女は貴女の仲間でも友達でもない。君主と仰いだ貴女を支える臣下だってことを、きちんと受け止めないと」
「……ちょっと、そんな言い方――」
「貴女は黙ってて」
ジュールが何か言いたげにしているのを、ファリスは鋭い視線で黙らせてしまう。
向き直った彼女の視線は冷たいけれど、突き放すようなものじゃなかった。
頭の中で冷静に彼女が教えてくれた事を反芻する。
私はジュールの事を【契約】スライムだと思っていた。だからこそ、私の側にいてくれるんだと。
臣下だと思っていたけれど、それ以上に友人であり、傷ついてほしくないと思っていた。
だから……こんな事になったのだろう。
「わかった。ジュール、貴女の謝罪素直に受け入れるわ。だから……これからはもっと強くなりなさい。私の【契約】スライムに相応しい子にね」
「――! はい! 私、もっと強くなります!」
輝かしい程の笑顔を見せて深く頭を下げたジュールは、先程のような困った感じではなく、晴れ晴れとした笑顔だった。
ちらりとファリスの方を見ると、満足そうに頷いていた。
……やれやれ、これから先はもっと上の者としての振る舞いを求められそうだ。
元々一人で過ごしてきたし、戦ってきた。だからそういうのには慣れていないのに。
「ええ。期待しているわ」
きゃっきゃと騒いでいるジュール。微笑ましい気持ちになる。
これから先も彼女は強くなるだろう。ファリスはジュールに対して思うところがあるみたいだけど、鬼人族の言葉で表すならそれは杞憂というものだろう。
その後しばらくはジュールと話をして、宿から出た。
今日は色々あったけれど、ファリスとジュールがほどほどに仲が良くなってよかった。そう思う事にしよう。
明日も今日のように穏やかな一日が過ごせれば……そう思う。
出来ればずっと続いてほしいと思うんだけれど、それは流石に無理な話だろう。
だからこそ、この僅かな安息の時間を大切にしていきたい。次の戦いを勝ち抜いて、再びこの安寧を取り戻す為に。
長年の宿敵のようであり、数日しか経っていない友のように思える。
そんな微妙な雰囲気で向かい合ってる二人の間に一体何があったんだろうか?
強者としての余裕を感じさせるファリスと、何か含みのある笑みを浮かべているジュール。
明らかに部屋の外に出る前とは空気が違っていた。前よりは若干柔らかくなっと……と思う。
「話、終わった?」
「うん! ね? ジュール」
「え、そ、そうですね」
相変わらず華やかな笑みを向けてくれているファリスに対して、どこかぎこちなく笑うジュール。
想像していたのよりは大分マシとはいえ、中で一体何が起こったんだろう? 私抜きでは衝突するのが目に浮かぶ程だっただけに、この光景は本当に驚きの一言に尽きる。
まさか仲良く(?)なるなんてね。
表面的なのは見ててわかるけれど、それでも上辺だけでも笑顔で接する事が出来るなら……とりあえずはそれでいいと思う。
最初から満面の笑みで握手を交わし合って、仲良しこよしが出来るとは思っていない。
これ以上を望むのはむしろ欲張りだと言えるだろう。
「良かった。それでジュール、調子はどう? ずっと眠っていたみたいだけど……」
「……はい。ティア様のお蔭で大分良くなりました」
ファリスに向けていたぎこちない笑顔よりは大分マシだけど、どこか困ったようにジュールは微笑んでいた。
やっぱり、引き合わせたことに対して困惑しているんだろうか? 事前に話を通しておけば良かったかも……と軽く自己嫌悪に陥ってしまう。
「えっと、ティア様が私を助けて下さったそうですので……その……本当に申し訳ございませんでした!」
微笑んでいたジュールは勢いよく立ち上がって、頭を下げてきた。
あまりの勢いの良さにそのまま机にぶつかるんじゃないかと思ったほどだ。
「ジュール、ちょっと落ち着いて」
「いえ、本来なら私がティア様を助けなければいけないのに……」
必死さが現れるほどに一生懸命で、その姿勢が心に強く残る。どうやら、随分気にしているようだ。
「別に気にする必要なんてないのに……」
「ティアちゃん、素直に受け取った方が良いよ」
ジュールの謝っている姿に戸惑う私に対し、ファリスは呆れた目で私を見ていた。
もう今日で何度その目を向けられただろう? なんでかさっぱりわからない。
「でも、あれは私が自分の好きでやった事で……」
「だとしても。上の者は下の者の謝罪を受け取って、許してあげないといけないの。それが務め」
「務め……ね」
随分知ったような口を聞いていると思うけれど、ファリスの言う事は気になる。
彼女は『ローラン』の記憶を持っているのだし、その観点から何か思うところがあるのかもしれない。
「本当ならティアちゃんを守るのがあの子の役目なの。それを逆に守ってもらって救ってもらう……そんな恥と罪を『気にしないで』なんて言葉で済ませるのは酷でしょう。彼女は貴女の仲間でも友達でもない。君主と仰いだ貴女を支える臣下だってことを、きちんと受け止めないと」
「……ちょっと、そんな言い方――」
「貴女は黙ってて」
ジュールが何か言いたげにしているのを、ファリスは鋭い視線で黙らせてしまう。
向き直った彼女の視線は冷たいけれど、突き放すようなものじゃなかった。
頭の中で冷静に彼女が教えてくれた事を反芻する。
私はジュールの事を【契約】スライムだと思っていた。だからこそ、私の側にいてくれるんだと。
臣下だと思っていたけれど、それ以上に友人であり、傷ついてほしくないと思っていた。
だから……こんな事になったのだろう。
「わかった。ジュール、貴女の謝罪素直に受け入れるわ。だから……これからはもっと強くなりなさい。私の【契約】スライムに相応しい子にね」
「――! はい! 私、もっと強くなります!」
輝かしい程の笑顔を見せて深く頭を下げたジュールは、先程のような困った感じではなく、晴れ晴れとした笑顔だった。
ちらりとファリスの方を見ると、満足そうに頷いていた。
……やれやれ、これから先はもっと上の者としての振る舞いを求められそうだ。
元々一人で過ごしてきたし、戦ってきた。だからそういうのには慣れていないのに。
「ええ。期待しているわ」
きゃっきゃと騒いでいるジュール。微笑ましい気持ちになる。
これから先も彼女は強くなるだろう。ファリスはジュールに対して思うところがあるみたいだけど、鬼人族の言葉で表すならそれは杞憂というものだろう。
その後しばらくはジュールと話をして、宿から出た。
今日は色々あったけれど、ファリスとジュールがほどほどに仲が良くなってよかった。そう思う事にしよう。
明日も今日のように穏やかな一日が過ごせれば……そう思う。
出来ればずっと続いてほしいと思うんだけれど、それは流石に無理な話だろう。
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