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330・決着宣言
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自分の人造命具を手放し、距離を取ったと同時に【イグニアンクス】と【トーネルニムバス】が襲いかかり、彼女の身体を焼き尽くした。
まるで雷と炎が踊っているかのような光景が収まると……ファリスが握りしめた剣を離さないまま、私の元につっこんでいているのが確認できた。
それに慌てるような声を上げるのはガルドラ。
『待て! 勝敗は既についている!』
実況、解説席の方から急いで決闘場に飛び降りてきたガルドラの制止を振り切るように、より速度を上げて私に肉薄し、刃を振り下ろした。
会場内から悲鳴が聞こえる中、私は彼女の真意を悟っていた。
振り下ろされた刃は私の頭を真っ二つに切る寸前で止まり――髪の毛が数本短くなった程度で済んだ。
「……やってくれるじゃない。わたしの思考がわかったってこと?」
「以前戦った時より単純になってる。もう少ししっかり経験を積まないとね」
私は強者として見下ろし、ファリスはどこか焦がれるような想いで見上げる。
静かに人造命具が消えていって、彼女は何も言わずに後ろを振り向いた。
「ファリス・スーア。決闘が終わったことはわかっていたはずだ。それでも尚戦いを続けるという事は……」
「斬るつもりは初めからなかったし、ティアちゃんもそれはわかってたと思うけど? あまり説教言わないでよね」
「ま、待て……!」
ガルドラが怒鳴るように呼び止めようとしたのだけど、ファリスは気にも留めずに片手をひらひらさせてさっさと会場を後にしてしまった。
残されたのは私とガルドラの二人。先程までの決闘の雰囲気が嘘のように静まり返ってしまった。
『あ、えっと……と、とりあえず、ガルちゃん……』
戸惑うように声を上げるシューリアをじっと見つめて、ガルドラはそっとため息をついた。どうやらオルキアが代わりにシューリアの隣に座ってマイクを握っているようだ。
『くふふ、ちょっとしたトラブルがあったけれど……改めて今年度の魔王祭を勝ち抜き、優勝をその手に掴んだ者の名は――エールティア・リシュファス!!』
大きな歓声が上がって、雪桜花伝統の花火の魔導が空に咲き乱れる音が聞こえる。
楽しそうな声が響いて、みんなが私の勝利を祝ってくれているように思えるほどだ。
「エールティア・リシュファス」
歓声を上げている観客のみんなに視線を向けていると、ガルドラが私に声を掛けてきた。その表情からはどんな気持ちでいるのか理解できないけれど……その声音はどこか嬉しそうだった。
「よくここまで勝ち抜いた。聖黒族の名に恥じない素晴らしい戦いの数々――貴公こそ正に、最強と呼ぶに相応しいだろう」
「……ありがとう」
仰々しい事を言うなぁ……と思うけれど、それだけ魔王祭が重要視されているという事だろう。
とりあえず礼を言うと、ガルドラが丁寧に頭を下げて会場を後にする。
流石に飛び降りた時のような身のこなしを見せる事はなかった。わざわざ戻るのにそこまでする必要はないのだけれど……少しだけ期待していただけに残念だ。
『会場が元に戻り次第、表彰式を行いたいと思います。それまでの僅かな間、魔王祭の残り火をお楽しみください』
『それじゃあみんな、まったねー!』
オルキアとシューリアの言葉を背に、私も会場の外に出る。通り慣れた通路から控え室に入ると――そこには待っていましたというかのように雪風がこちらを注視していた。
「エールティア様! おめでとうございます!」
「ええ、ありがとう」
感激した! とでも言うように両手を合わせて嬉しそうにしている。下手をしたら優勝者である私よりも喜んでいるんじゃないだろうか? と思えるくらいだ。
逆に、私がそこまで喜んでいない事に疑問を感じているくらいだ。
「あまり嬉しくないのですか?」
「いいえ、すごく嬉しいわ。ただ、騒ぎ立てる事もないってこと」
その答えが不服だったのか、釈然としない表情をしているけれど……こればっかりは仕方ない。
もちろん面白いと思える戦いもあったけれど、勝って当たり前の戦いばかりだったし……初めて命の危機を感じたファリスの人造命具も――彼女は結局使う事はなかった。
ファリスのおかげで高まった戦意は中途半端に残っているし、この昂る気持ちは不完全燃焼気味で、どうにももどかしい。
だけどまあ、魔王祭で得られたことも多い。ローランもファリスも……私が知っている勇者『ローラン』とは似ているようで違っていた。
彼の剣技、魔導、人造命具――それらをこの身で何度も体験したからこそよくわかる。二人とも、彼の領域までまだ辿り着いていない。色々と足りないものがあったけれど……明らかに戦闘経験が不足している。
彼とはもっとひりひりとした……本当に命がけの戦いをしていた。以前より魔力量が上がっているとはいえ、以前の彼とあまり変わらなければ死闘になっていたはずだ。
相変わらずなんであの二人が私の事を知っているかは謎だけれど、初代魔王様の記憶の一部を受け継いでいると考えればそれも納得できる。
魔王祭が始まる前も、決勝が始まる前ももやもやとした気持ちがあったけれど、ファリスと戦ったおかげで少しは解決したし、すっきりとした気分になった。
それだけでもこの魔王祭に出場した甲斐があったというものだろう。優勝も出来たし、ティリアースの強さを知らしめることも出来たしね。
まるで雷と炎が踊っているかのような光景が収まると……ファリスが握りしめた剣を離さないまま、私の元につっこんでいているのが確認できた。
それに慌てるような声を上げるのはガルドラ。
『待て! 勝敗は既についている!』
実況、解説席の方から急いで決闘場に飛び降りてきたガルドラの制止を振り切るように、より速度を上げて私に肉薄し、刃を振り下ろした。
会場内から悲鳴が聞こえる中、私は彼女の真意を悟っていた。
振り下ろされた刃は私の頭を真っ二つに切る寸前で止まり――髪の毛が数本短くなった程度で済んだ。
「……やってくれるじゃない。わたしの思考がわかったってこと?」
「以前戦った時より単純になってる。もう少ししっかり経験を積まないとね」
私は強者として見下ろし、ファリスはどこか焦がれるような想いで見上げる。
静かに人造命具が消えていって、彼女は何も言わずに後ろを振り向いた。
「ファリス・スーア。決闘が終わったことはわかっていたはずだ。それでも尚戦いを続けるという事は……」
「斬るつもりは初めからなかったし、ティアちゃんもそれはわかってたと思うけど? あまり説教言わないでよね」
「ま、待て……!」
ガルドラが怒鳴るように呼び止めようとしたのだけど、ファリスは気にも留めずに片手をひらひらさせてさっさと会場を後にしてしまった。
残されたのは私とガルドラの二人。先程までの決闘の雰囲気が嘘のように静まり返ってしまった。
『あ、えっと……と、とりあえず、ガルちゃん……』
戸惑うように声を上げるシューリアをじっと見つめて、ガルドラはそっとため息をついた。どうやらオルキアが代わりにシューリアの隣に座ってマイクを握っているようだ。
『くふふ、ちょっとしたトラブルがあったけれど……改めて今年度の魔王祭を勝ち抜き、優勝をその手に掴んだ者の名は――エールティア・リシュファス!!』
大きな歓声が上がって、雪桜花伝統の花火の魔導が空に咲き乱れる音が聞こえる。
楽しそうな声が響いて、みんなが私の勝利を祝ってくれているように思えるほどだ。
「エールティア・リシュファス」
歓声を上げている観客のみんなに視線を向けていると、ガルドラが私に声を掛けてきた。その表情からはどんな気持ちでいるのか理解できないけれど……その声音はどこか嬉しそうだった。
「よくここまで勝ち抜いた。聖黒族の名に恥じない素晴らしい戦いの数々――貴公こそ正に、最強と呼ぶに相応しいだろう」
「……ありがとう」
仰々しい事を言うなぁ……と思うけれど、それだけ魔王祭が重要視されているという事だろう。
とりあえず礼を言うと、ガルドラが丁寧に頭を下げて会場を後にする。
流石に飛び降りた時のような身のこなしを見せる事はなかった。わざわざ戻るのにそこまでする必要はないのだけれど……少しだけ期待していただけに残念だ。
『会場が元に戻り次第、表彰式を行いたいと思います。それまでの僅かな間、魔王祭の残り火をお楽しみください』
『それじゃあみんな、まったねー!』
オルキアとシューリアの言葉を背に、私も会場の外に出る。通り慣れた通路から控え室に入ると――そこには待っていましたというかのように雪風がこちらを注視していた。
「エールティア様! おめでとうございます!」
「ええ、ありがとう」
感激した! とでも言うように両手を合わせて嬉しそうにしている。下手をしたら優勝者である私よりも喜んでいるんじゃないだろうか? と思えるくらいだ。
逆に、私がそこまで喜んでいない事に疑問を感じているくらいだ。
「あまり嬉しくないのですか?」
「いいえ、すごく嬉しいわ。ただ、騒ぎ立てる事もないってこと」
その答えが不服だったのか、釈然としない表情をしているけれど……こればっかりは仕方ない。
もちろん面白いと思える戦いもあったけれど、勝って当たり前の戦いばかりだったし……初めて命の危機を感じたファリスの人造命具も――彼女は結局使う事はなかった。
ファリスのおかげで高まった戦意は中途半端に残っているし、この昂る気持ちは不完全燃焼気味で、どうにももどかしい。
だけどまあ、魔王祭で得られたことも多い。ローランもファリスも……私が知っている勇者『ローラン』とは似ているようで違っていた。
彼の剣技、魔導、人造命具――それらをこの身で何度も体験したからこそよくわかる。二人とも、彼の領域までまだ辿り着いていない。色々と足りないものがあったけれど……明らかに戦闘経験が不足している。
彼とはもっとひりひりとした……本当に命がけの戦いをしていた。以前より魔力量が上がっているとはいえ、以前の彼とあまり変わらなければ死闘になっていたはずだ。
相変わらずなんであの二人が私の事を知っているかは謎だけれど、初代魔王様の記憶の一部を受け継いでいると考えればそれも納得できる。
魔王祭が始まる前も、決勝が始まる前ももやもやとした気持ちがあったけれど、ファリスと戦ったおかげで少しは解決したし、すっきりとした気分になった。
それだけでもこの魔王祭に出場した甲斐があったというものだろう。優勝も出来たし、ティリアースの強さを知らしめることも出来たしね。
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