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328・気付いた感情
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「やっぱりティアちゃんもわたしとの戦いが楽しいんでしょ? わたしになら、何も隠さなくていいんだよ」
くすくすと笑いながら、ファリスは打ち付けるように剣を振り回す。力任せの攻撃だけど、彼女の力と速さを合わせると乱暴な攻撃も凶悪に変わる。
下手に流すより受け止める方が最善だと判断した私は、防御に集中しながら言葉を聞いていた。
「もっと全力を見せてよ。本気を出して? 傷つき傷つけ、一緒に高みに昇りましょう? わたしなら、あなたの全てに応えて見せるから!」
言葉を口にする彼女の表情はとても楽しそうで、戦うのが心底楽しい――周囲からはそういう風に映るだろう。
だけど、ファリスの目はどこまでまっすぐで、全く笑っていなかった。求めるような、縋るような……そんな真面目な気持ちがにじんでいるように思えた。
こんなに強くて、私が苦戦する程の実力を持っていて……それでもファリスは私に固執している。
それはただ単に、昔のローランの記憶を持っているから……という訳ではないように思えた。
「……っ! 考え事してる余裕がまだあるって事? いいわ、なら……もっと本気にしてあげる! 【メルトスノウ】!」
「その魔導は使わせない! 【ディスターブ】!」
再び【斬桜血華】のような魔導を使って来ようとしたファリスを制するように妨害魔導を発動させる。
生憎だが、そこらへんは予習済みだ。転生前も見たことがあるし、初代魔王様もこの魔導を使用したと文献にも残っていたしね。
……流石に【幽世の門】や【斬桜血華】なんかは文献でしか見たことがなかったから対処に頭を悩ませたけれどね。
ここで妨害魔導が飛んでくることを想定していなかったのか、なんなく発動を阻止する事に成功した。一瞬驚きの表情を浮かべたファリスの隙を突くように攻撃に転じる。
素早く近づいて連撃を放つ私に一度二度と鋭い斬撃を重ねて、ファリスが余計な行動をしないように隙を封殺するように動いて行く。
「あは、情熱的になってきた! もっと……もっと魅せて! 【アクラスール】!」
空中に次々と水の槍が生成されて、それと同時に私はファリスから距離を取る。彼女自身は一切離れる気がなくて、半ば自分もろとも攻撃しようとしていたからだ。
今回も自分だけダメージを受けない……なんてそんな都合の良い魔導ではないだろう。自傷覚悟でやってるとしたらよくやる。だけど、そういう思い付きが戦いを面白く――
「……ふふっ」
範囲を広げて、水の槍が雨のように降り出してきた。可能な限り隙間を埋めて降ってきているけれど、さっきの【斬桜血華】と違って動きは単調。大きさもそれなりにあるし、一度に降ってくる量も少ない。十分に避ける事は出来る。
だからこそ、こうして考える余裕があるんだけどね。自然と頬が緩む。よくよく考えたら、ローランの記憶を持った女の子が縋るように私を見つめて、本気を引き出させたくて一生懸命攻撃してきているんだもの。
一度そんな考えに至ったら、目の前の存在がどうしようもなく愛おしくなってくる。よくよく考えたら、彼女は私の気を引こうと色々とやってきていた。
……もちろん、やりすぎな面も多かったけど、それも私が気になるからなのだろう。なら――
「【アグレッシブ・スピード】!!」
――もう、少しずつ実力を引き出すような真似はやめよう。
ファリスとは約束した。最初から全力で戦おう……と。だけど、やっぱり私はどこか力を出し切れずに、苦戦しながらやり続ける事になった。今まで観察して、相手の力量の少し上を行くような戦い方をしていたせいで、それが染みついてしまっていたのだろう。
一度それに気付いたら、思考を切り替えるのは簡単だ。意識的に力を使っていけばいい。
「――っ!?」
距離を取るか逃げるか……詰め寄るにしても、緩急を付けながら接近するという戦法を取る事が多かった。
まっすぐ、急接近した私の刃が彼女を捉え、振り下ろされた斬撃は胸に鮮やかな傷を残し、血を噴き出させた。
驚きに顔を染めるファリスに対し、沈黙したまま更に切り返すように一撃。流石に二度目には対処してきて、上手く斬撃を防いでいた。
「……ティア……ちゃん?」
疑問を投げかける彼女の瞳は、期待するような色合いを帯びていた。待ち望んだ戦い……望み通り、してあげようじゃないか。
「ここからは一切加減はしない」
たった一言。それだけでファリスには様々なことが伝わったのだろう。本当に喜びに満ちた笑顔を浮かべて、私の一挙手一投足に注目しているようだった。
意識を切り替え、今までのファリスの動き。攻撃の仕方。生じる隙など……あらゆる事を思い返しながら頭の中に叩き込んでいく。
そこから導き出されるのは攻略法と勝算。彼女の思考を理解して、行動に移す。
「【ミラー・アバター】」
作り出すのはもう一人の私。今回はどこかに潜んで様子を見るようなやり方ではない。私の隣でもう一人の私が鏡の中から現れ、姿を見せた。
さあ、それでは始めましょう。これが本当の……私と貴女の決闘。もはや逃げも隠れもしないしさせない。どちらかが終わるまで……楽しみましょう。
くすくすと笑いながら、ファリスは打ち付けるように剣を振り回す。力任せの攻撃だけど、彼女の力と速さを合わせると乱暴な攻撃も凶悪に変わる。
下手に流すより受け止める方が最善だと判断した私は、防御に集中しながら言葉を聞いていた。
「もっと全力を見せてよ。本気を出して? 傷つき傷つけ、一緒に高みに昇りましょう? わたしなら、あなたの全てに応えて見せるから!」
言葉を口にする彼女の表情はとても楽しそうで、戦うのが心底楽しい――周囲からはそういう風に映るだろう。
だけど、ファリスの目はどこまでまっすぐで、全く笑っていなかった。求めるような、縋るような……そんな真面目な気持ちがにじんでいるように思えた。
こんなに強くて、私が苦戦する程の実力を持っていて……それでもファリスは私に固執している。
それはただ単に、昔のローランの記憶を持っているから……という訳ではないように思えた。
「……っ! 考え事してる余裕がまだあるって事? いいわ、なら……もっと本気にしてあげる! 【メルトスノウ】!」
「その魔導は使わせない! 【ディスターブ】!」
再び【斬桜血華】のような魔導を使って来ようとしたファリスを制するように妨害魔導を発動させる。
生憎だが、そこらへんは予習済みだ。転生前も見たことがあるし、初代魔王様もこの魔導を使用したと文献にも残っていたしね。
……流石に【幽世の門】や【斬桜血華】なんかは文献でしか見たことがなかったから対処に頭を悩ませたけれどね。
ここで妨害魔導が飛んでくることを想定していなかったのか、なんなく発動を阻止する事に成功した。一瞬驚きの表情を浮かべたファリスの隙を突くように攻撃に転じる。
素早く近づいて連撃を放つ私に一度二度と鋭い斬撃を重ねて、ファリスが余計な行動をしないように隙を封殺するように動いて行く。
「あは、情熱的になってきた! もっと……もっと魅せて! 【アクラスール】!」
空中に次々と水の槍が生成されて、それと同時に私はファリスから距離を取る。彼女自身は一切離れる気がなくて、半ば自分もろとも攻撃しようとしていたからだ。
今回も自分だけダメージを受けない……なんてそんな都合の良い魔導ではないだろう。自傷覚悟でやってるとしたらよくやる。だけど、そういう思い付きが戦いを面白く――
「……ふふっ」
範囲を広げて、水の槍が雨のように降り出してきた。可能な限り隙間を埋めて降ってきているけれど、さっきの【斬桜血華】と違って動きは単調。大きさもそれなりにあるし、一度に降ってくる量も少ない。十分に避ける事は出来る。
だからこそ、こうして考える余裕があるんだけどね。自然と頬が緩む。よくよく考えたら、ローランの記憶を持った女の子が縋るように私を見つめて、本気を引き出させたくて一生懸命攻撃してきているんだもの。
一度そんな考えに至ったら、目の前の存在がどうしようもなく愛おしくなってくる。よくよく考えたら、彼女は私の気を引こうと色々とやってきていた。
……もちろん、やりすぎな面も多かったけど、それも私が気になるからなのだろう。なら――
「【アグレッシブ・スピード】!!」
――もう、少しずつ実力を引き出すような真似はやめよう。
ファリスとは約束した。最初から全力で戦おう……と。だけど、やっぱり私はどこか力を出し切れずに、苦戦しながらやり続ける事になった。今まで観察して、相手の力量の少し上を行くような戦い方をしていたせいで、それが染みついてしまっていたのだろう。
一度それに気付いたら、思考を切り替えるのは簡単だ。意識的に力を使っていけばいい。
「――っ!?」
距離を取るか逃げるか……詰め寄るにしても、緩急を付けながら接近するという戦法を取る事が多かった。
まっすぐ、急接近した私の刃が彼女を捉え、振り下ろされた斬撃は胸に鮮やかな傷を残し、血を噴き出させた。
驚きに顔を染めるファリスに対し、沈黙したまま更に切り返すように一撃。流石に二度目には対処してきて、上手く斬撃を防いでいた。
「……ティア……ちゃん?」
疑問を投げかける彼女の瞳は、期待するような色合いを帯びていた。待ち望んだ戦い……望み通り、してあげようじゃないか。
「ここからは一切加減はしない」
たった一言。それだけでファリスには様々なことが伝わったのだろう。本当に喜びに満ちた笑顔を浮かべて、私の一挙手一投足に注目しているようだった。
意識を切り替え、今までのファリスの動き。攻撃の仕方。生じる隙など……あらゆる事を思い返しながら頭の中に叩き込んでいく。
そこから導き出されるのは攻略法と勝算。彼女の思考を理解して、行動に移す。
「【ミラー・アバター】」
作り出すのはもう一人の私。今回はどこかに潜んで様子を見るようなやり方ではない。私の隣でもう一人の私が鏡の中から現れ、姿を見せた。
さあ、それでは始めましょう。これが本当の……私と貴女の決闘。もはや逃げも隠れもしないしさせない。どちらかが終わるまで……楽しみましょう。
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