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322・本の中の君
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準決勝が終わった次の日。私は一人、王都ガンスラッドの誇る大図書館へと足を踏み入れていた。
雪桜花のことわざにある『善は急げ』というものがある。
出来れば雪風も一緒に来て欲しかったのだけど……あんまり彼女を酷使するのは悪いだろうしね。
闘技場も整備が必要だ。どうせ会場はしばらく使い物にならないんだし、この時間を最大限活用させて貰おう。
国には必ず一つは大きな図書館が存在する。他国と自国の歴史を保存する大切な場所だからだ。
例えどんな国柄であっても、それは例外ではない。そして……様々な国に影響を及ぼした初代魔王様の逸話は色んなところに散らばっている。
マデロームでもちょっとしたコーナーになっている程だ。
初代魔王様から二人の娘の話まで。スライム族のアシュルや黒竜人族の祖先であるフレイアールと竜語使いの少女のラブストーリーもある。虫食いのように棚が空いているから、貸し出しているものも多いのだろう。
これだけ多くても、ティリアースと比べたらずっと少ない。
……まあ、初代魔王様が治めていた国でもあるし、歴史に深く関わっているのだから当然だろう。あの方の本だけで何冊ある事か……。
だけど、このくらいの方が探しやすい。多いのと探しやすいのは決してイコールじゃないからだ。
初代魔王様は戦いの中に身を置く事が多かったから、必然的に人造命具を使う機会も多かったはずだ。
今まではあまり知ろうとしなかったから、調べもしなかった。
あの方の成し遂げた偉業や、作り上げた歴史さえ勉強していればそれで良かったしね。戦闘については事細かに書いているものとそうじゃないものがあるしね。
早速幾つか手に取ってみる。近くには読むスペースもちゃんとあるから、そこに座って本を広げてみる……のだけれど、私が求める知識はあまり書いていない。手当たり次第に漁って、読み耽っても、初代魔王様が使っていた魔導の種類がわかっただけだ。
……【リ・バース】に【ガイストート】。最初は聞き覚えがなかった気がしていたけれど、よく考えたら前世に彼が――ローランが使用するのを見た事がある。
特に私との激戦を制するには、回復系の魔導が必要になって来る。
あまり記憶になかったのは、それ以上に鮮明に焼きついたものが多かったからだ。
それに……あの時はかなり精神的に不安定だったからね。
今思い出しただけでも少し恥ずかしくなる。
――とりあえず。彼の魔導と初代魔王様の扱う魔導は似過ぎている。どんな効果が起こるかは定かでないけれど……ファリスが使っていたのとそんなに変わりはしないだろう。
結局、謎を深めただけだった私が手に取ったのはとある一冊の本。
それはセツオウカのセツキ王との戦闘に関して、事細かに書かれている本だった。どうやら何冊も本を刊行していて、これはその一冊だった。
パラパラ、と本をめくって……ある程度読み進めた辺りで指の動きを止める。
そこに書いてあるのは初代魔王様の人造命具の事についてで……そこには確かに【フィリンベーニス】を使ってセツキ王と戦っていたと書かれていた。
「……フィリン……ベーニス」
――【人造命剣・フィリンベーニス】
その剣はよく知っている。あれの特性を把握している程度には、前世でも何度も刃を交えてきた。【人造命鎧・ヴァイシュニル】と合わせる事で最大限の力を発揮する剣。
あれには私も手を焼いた。あの人との記憶は戦いの中でしかなかったけれど、どれも大切な思い出だった。人に絶望していた私と、人を信じ続けた彼。あの時決して分かり合えなかったからこそ、今こうしてここにいるのだから。
……今なら、彼の気持ちが少しはわかる気がする。だからと言って、あんな風に見たことのない誰かまで信じることは出来ないけれど。
この本はセツキ王との同盟を結んで、セントラルの王の宴に呼ばれて準備をした辺りまでしか書かれていなかった。少し残念に思ったけれど、続巻が他にもずらっと並んでいて、長期シリーズ化されているのがよくわかった。その全てを見る時間はないけれど、まるで見たかのような細かい文章で、鮮明にそれが浮かんでくるかのようだ。更に所々に初代魔王様について書かれていて、当時あの方がどう思われていたのかなどが伝わってくる。
一体誰が書いたのかと気になって著者を確認してみる。ロマネスク……って人物らしいけれど、全く知らない人だ。一体どういう人物がここまでのものを書いたんだろうか。
案外、初代魔王の腹心の一人なのかもしれない。おかげで結構わかったことがある。
それは初代魔王様が私が良く知っている人物の転生した姿であるかもしれない……という事と、ファリスとローランは初代魔王様と何らかの関係があるということだった。
それも私のように血を受け継いでいるとか、そういう繋がりじゃない。もっと……魂的なところが繋がっているという事だ。
本には【ガイストート】や少し言い方が違う【シャドーステイク】と呼ばれる魔導を使用したという記述がある。いくら魔導が自由だとはいえ、似ている人造命具に似ている魔導……それを扱っているのがファリスとローランだなんて無理がある。都合が良すぎる。
こには何か……私には想像もつかない事が行われている。そう思わざるを得ない程の出来事だった。
雪桜花のことわざにある『善は急げ』というものがある。
出来れば雪風も一緒に来て欲しかったのだけど……あんまり彼女を酷使するのは悪いだろうしね。
闘技場も整備が必要だ。どうせ会場はしばらく使い物にならないんだし、この時間を最大限活用させて貰おう。
国には必ず一つは大きな図書館が存在する。他国と自国の歴史を保存する大切な場所だからだ。
例えどんな国柄であっても、それは例外ではない。そして……様々な国に影響を及ぼした初代魔王様の逸話は色んなところに散らばっている。
マデロームでもちょっとしたコーナーになっている程だ。
初代魔王様から二人の娘の話まで。スライム族のアシュルや黒竜人族の祖先であるフレイアールと竜語使いの少女のラブストーリーもある。虫食いのように棚が空いているから、貸し出しているものも多いのだろう。
これだけ多くても、ティリアースと比べたらずっと少ない。
……まあ、初代魔王様が治めていた国でもあるし、歴史に深く関わっているのだから当然だろう。あの方の本だけで何冊ある事か……。
だけど、このくらいの方が探しやすい。多いのと探しやすいのは決してイコールじゃないからだ。
初代魔王様は戦いの中に身を置く事が多かったから、必然的に人造命具を使う機会も多かったはずだ。
今まではあまり知ろうとしなかったから、調べもしなかった。
あの方の成し遂げた偉業や、作り上げた歴史さえ勉強していればそれで良かったしね。戦闘については事細かに書いているものとそうじゃないものがあるしね。
早速幾つか手に取ってみる。近くには読むスペースもちゃんとあるから、そこに座って本を広げてみる……のだけれど、私が求める知識はあまり書いていない。手当たり次第に漁って、読み耽っても、初代魔王様が使っていた魔導の種類がわかっただけだ。
……【リ・バース】に【ガイストート】。最初は聞き覚えがなかった気がしていたけれど、よく考えたら前世に彼が――ローランが使用するのを見た事がある。
特に私との激戦を制するには、回復系の魔導が必要になって来る。
あまり記憶になかったのは、それ以上に鮮明に焼きついたものが多かったからだ。
それに……あの時はかなり精神的に不安定だったからね。
今思い出しただけでも少し恥ずかしくなる。
――とりあえず。彼の魔導と初代魔王様の扱う魔導は似過ぎている。どんな効果が起こるかは定かでないけれど……ファリスが使っていたのとそんなに変わりはしないだろう。
結局、謎を深めただけだった私が手に取ったのはとある一冊の本。
それはセツオウカのセツキ王との戦闘に関して、事細かに書かれている本だった。どうやら何冊も本を刊行していて、これはその一冊だった。
パラパラ、と本をめくって……ある程度読み進めた辺りで指の動きを止める。
そこに書いてあるのは初代魔王様の人造命具の事についてで……そこには確かに【フィリンベーニス】を使ってセツキ王と戦っていたと書かれていた。
「……フィリン……ベーニス」
――【人造命剣・フィリンベーニス】
その剣はよく知っている。あれの特性を把握している程度には、前世でも何度も刃を交えてきた。【人造命鎧・ヴァイシュニル】と合わせる事で最大限の力を発揮する剣。
あれには私も手を焼いた。あの人との記憶は戦いの中でしかなかったけれど、どれも大切な思い出だった。人に絶望していた私と、人を信じ続けた彼。あの時決して分かり合えなかったからこそ、今こうしてここにいるのだから。
……今なら、彼の気持ちが少しはわかる気がする。だからと言って、あんな風に見たことのない誰かまで信じることは出来ないけれど。
この本はセツキ王との同盟を結んで、セントラルの王の宴に呼ばれて準備をした辺りまでしか書かれていなかった。少し残念に思ったけれど、続巻が他にもずらっと並んでいて、長期シリーズ化されているのがよくわかった。その全てを見る時間はないけれど、まるで見たかのような細かい文章で、鮮明にそれが浮かんでくるかのようだ。更に所々に初代魔王様について書かれていて、当時あの方がどう思われていたのかなどが伝わってくる。
一体誰が書いたのかと気になって著者を確認してみる。ロマネスク……って人物らしいけれど、全く知らない人だ。一体どういう人物がここまでのものを書いたんだろうか。
案外、初代魔王の腹心の一人なのかもしれない。おかげで結構わかったことがある。
それは初代魔王様が私が良く知っている人物の転生した姿であるかもしれない……という事と、ファリスとローランは初代魔王様と何らかの関係があるということだった。
それも私のように血を受け継いでいるとか、そういう繋がりじゃない。もっと……魂的なところが繋がっているという事だ。
本には【ガイストート】や少し言い方が違う【シャドーステイク】と呼ばれる魔導を使用したという記述がある。いくら魔導が自由だとはいえ、似ている人造命具に似ている魔導……それを扱っているのがファリスとローランだなんて無理がある。都合が良すぎる。
こには何か……私には想像もつかない事が行われている。そう思わざるを得ない程の出来事だった。
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