316 / 676
316・敗北を刻む者
しおりを挟む
私が【エルノエンド】を閉じた後――ローランは人造命具が半壊した姿でボロボロになっていた。片腕、片足はなくなって、身体の一部分も欠けていた。
観客席が言葉を失っているのもわかる。結界が発動しても尚、ローランの身体は見るに堪えない姿になっていたのだ。
『ガ、ガルちゃん……? け、結界は……?』
震える声でシューリアがガルドラに聞いていた。その声音はどこかすがる様で……目の前の現実を受け入れられないみたいだ。
それも当然だろう。この結界は今まであらゆる死傷を癒してきた。身体がボロボロになっても、命に別条がない程度の怪我で済んでいた。
それが今回は重傷――それも、欠損が激しい状態のまま横たわっていた。それも結界は既に発動しているにも関わらず、だ。
実況席付近から気まずい空気を感じる。ガルドラもオルキアも、まさかこんなことになるとは思ってもみなかったのだろう。
私はゆっくりとローランの側に近寄る。荒い息を吐いて目を閉じている。生きてはいるけれど、今のままじゃいずれ血を流しすぎて死んでしまうだろう。
体中が重りでも詰め込んだんじゃないかってくらいに重い。立っているだけでもやっとで、頭の中にもやがかかっているような気がして、まともに思考出来るか不安を感じるほどだ。
それでも、今見ているかもしれないファリスにそれを悟らせたくない。私が使った【エルノエンド】は、欠点が知られなければ最強に近い。私がこんな恐ろしい魔導を使える――その事実が有利に働くだろうしね。
「……【テリオスセラピア】」
あらゆる傷を完全に癒す魔導を発動させた私は、ただでさえ魔力の大半を消費した身体に鞭を打つような真似をして余計に消耗してしまう。
……ものすごく眠い。やっぱり、変な意地を張らずに、素直に人造命具で勝負した方が良かったのかも……。
『す、すごい! 腕が生えてきてる!!』
『あらゆる傷を癒す魔導……これほどの力を持っているとはな』
『流石聖黒族の姫君、ですね。見て下さい。柔らかな光に包まれたあの姿。奇跡とは、こういう事を言うのかもしれませんね』
感心するような声が聞こえてくるけれど、今はそんな事どうでもいい。早く勝敗を宣言して、終わらせて欲しい。
疲れを見せないようにすることがこれほどきついことだとは思いもしなかった。昔はもっと素直に疲れをアピール出来てた。だからこそ、わざわざ他人の機嫌を窺うような真似はしなかった。
だけど、今の私はしがらみが多すぎる。気軽に弱みを見せられるような身分じゃない。だからこそ、疲れや弱気に負けている場合じゃない。
腕と足が元に戻って、苦しげに息をしていたローランも、落ち着いて安らかな呼吸に戻っていた。
意識は失ったままだけど、これでもう問題ないだろう。
『戻った……みたいだけど……』
シューリアが呟いている間に、白衣を着た大人達が数人現れる。担架にローランを乗せて、そのまま会場から去っていく姿を見送って……ガルドラが一度咳払いをしていた。
『アクシデントはありましたが、彼は恐らく問題ないでしょう。それよりガルドラ決闘官。勝者に宣言を』
『うむ。それでは――勝者エールティア・リシュファス!』
ガルドラの勝利宣言によって、静まっていた観客席が騒ぎ出して、歓声が上がり始める。それと同時に私を恐れるような視線を感じるけれど……そんなものは昔から慣れている。
声に応えるように軽く手を振って、会場から離れて、控え室に戻る。
「エールティア様! お疲れ様――」
モニターで決闘を見ていた雪風が駆け寄ってきたと同時に、私の緊張の糸が切れてしまった。崩れるように彼女に身体を預けて、力が入らなくなってしまう。
「だ、大丈夫……ですか?」
「ええ……ちょっと、張り切り過ぎたみたい」
慌てた雪風は、私をソファのところまで連れて行ってくれた。
沈み込むほど柔らかなソファに身体を預けると、一気に疲れが噴き出しているのがわかる。
「やっぱり、彼は強かったのですね」
「……そうね」
守りを重視にして、隙を窺いながら攻める。シンプルにして強力だけど、それ故に一度崩す方法がわかれば簡単だ。彼はあの鎧にかなり自信を持っていた。実際【エアルヴェ・シュネイス】を防いでいたしね。
加減して発動したとはいえ、多少傷ついただけで終わったのには参った。だからこそ、魔導による攻撃は基本的に無防備になると気づいたんだけどね。
もし【エルノエンド】を使わなくても、高威力の魔導を連発すればどうにかなっただろう。至近距離で自分にも影響が出そうな魔導を放つなんて、常人にはわからないだろうしね。
魔導なしだったら、一般人には地味な戦いが続いただろうし……これで良かったと思う。
段々とまぶたが重くなっていって……眠くなってくるのを感じる。
こういうところで眠るのはあまり、良くないんだろうけど……立て続けに魔導を放ったせいで、今はかなり疲れてる。
それに、何かあれば雪風が守ってくれる……だろうしね。
観客席が言葉を失っているのもわかる。結界が発動しても尚、ローランの身体は見るに堪えない姿になっていたのだ。
『ガ、ガルちゃん……? け、結界は……?』
震える声でシューリアがガルドラに聞いていた。その声音はどこかすがる様で……目の前の現実を受け入れられないみたいだ。
それも当然だろう。この結界は今まであらゆる死傷を癒してきた。身体がボロボロになっても、命に別条がない程度の怪我で済んでいた。
それが今回は重傷――それも、欠損が激しい状態のまま横たわっていた。それも結界は既に発動しているにも関わらず、だ。
実況席付近から気まずい空気を感じる。ガルドラもオルキアも、まさかこんなことになるとは思ってもみなかったのだろう。
私はゆっくりとローランの側に近寄る。荒い息を吐いて目を閉じている。生きてはいるけれど、今のままじゃいずれ血を流しすぎて死んでしまうだろう。
体中が重りでも詰め込んだんじゃないかってくらいに重い。立っているだけでもやっとで、頭の中にもやがかかっているような気がして、まともに思考出来るか不安を感じるほどだ。
それでも、今見ているかもしれないファリスにそれを悟らせたくない。私が使った【エルノエンド】は、欠点が知られなければ最強に近い。私がこんな恐ろしい魔導を使える――その事実が有利に働くだろうしね。
「……【テリオスセラピア】」
あらゆる傷を完全に癒す魔導を発動させた私は、ただでさえ魔力の大半を消費した身体に鞭を打つような真似をして余計に消耗してしまう。
……ものすごく眠い。やっぱり、変な意地を張らずに、素直に人造命具で勝負した方が良かったのかも……。
『す、すごい! 腕が生えてきてる!!』
『あらゆる傷を癒す魔導……これほどの力を持っているとはな』
『流石聖黒族の姫君、ですね。見て下さい。柔らかな光に包まれたあの姿。奇跡とは、こういう事を言うのかもしれませんね』
感心するような声が聞こえてくるけれど、今はそんな事どうでもいい。早く勝敗を宣言して、終わらせて欲しい。
疲れを見せないようにすることがこれほどきついことだとは思いもしなかった。昔はもっと素直に疲れをアピール出来てた。だからこそ、わざわざ他人の機嫌を窺うような真似はしなかった。
だけど、今の私はしがらみが多すぎる。気軽に弱みを見せられるような身分じゃない。だからこそ、疲れや弱気に負けている場合じゃない。
腕と足が元に戻って、苦しげに息をしていたローランも、落ち着いて安らかな呼吸に戻っていた。
意識は失ったままだけど、これでもう問題ないだろう。
『戻った……みたいだけど……』
シューリアが呟いている間に、白衣を着た大人達が数人現れる。担架にローランを乗せて、そのまま会場から去っていく姿を見送って……ガルドラが一度咳払いをしていた。
『アクシデントはありましたが、彼は恐らく問題ないでしょう。それよりガルドラ決闘官。勝者に宣言を』
『うむ。それでは――勝者エールティア・リシュファス!』
ガルドラの勝利宣言によって、静まっていた観客席が騒ぎ出して、歓声が上がり始める。それと同時に私を恐れるような視線を感じるけれど……そんなものは昔から慣れている。
声に応えるように軽く手を振って、会場から離れて、控え室に戻る。
「エールティア様! お疲れ様――」
モニターで決闘を見ていた雪風が駆け寄ってきたと同時に、私の緊張の糸が切れてしまった。崩れるように彼女に身体を預けて、力が入らなくなってしまう。
「だ、大丈夫……ですか?」
「ええ……ちょっと、張り切り過ぎたみたい」
慌てた雪風は、私をソファのところまで連れて行ってくれた。
沈み込むほど柔らかなソファに身体を預けると、一気に疲れが噴き出しているのがわかる。
「やっぱり、彼は強かったのですね」
「……そうね」
守りを重視にして、隙を窺いながら攻める。シンプルにして強力だけど、それ故に一度崩す方法がわかれば簡単だ。彼はあの鎧にかなり自信を持っていた。実際【エアルヴェ・シュネイス】を防いでいたしね。
加減して発動したとはいえ、多少傷ついただけで終わったのには参った。だからこそ、魔導による攻撃は基本的に無防備になると気づいたんだけどね。
もし【エルノエンド】を使わなくても、高威力の魔導を連発すればどうにかなっただろう。至近距離で自分にも影響が出そうな魔導を放つなんて、常人にはわからないだろうしね。
魔導なしだったら、一般人には地味な戦いが続いただろうし……これで良かったと思う。
段々とまぶたが重くなっていって……眠くなってくるのを感じる。
こういうところで眠るのはあまり、良くないんだろうけど……立て続けに魔導を放ったせいで、今はかなり疲れてる。
それに、何かあれば雪風が守ってくれる……だろうしね。
0
お気に入りに追加
160
あなたにおすすめの小説
毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。
克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様
コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」
ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。
幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。
早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると――
「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」
やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。
一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、
「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」
悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。
なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?
でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。
というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!
白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
異世界に転生したフランカは公爵夫人として暮らしてきたが、前世から叶えたい夢があった。パティシエールになる。その夢を叶えようと夫である王国財務総括大臣ドミニクに相談するも答えはノー。夫婦らしい交流も、信頼もない中、三年の月日が近づき──フランカは賭に出る。白い結婚三年目で離縁できる条件を満たしていると迫り、夢を叶えられないのなら離縁すると宣言。そこから公爵家一同でフランカに考え直すように動き、ドミニクと話し合いの機会を得るのだがこの夫、山のように隠し事はあった。
無言で睨む夫だが、心の中は──。
【詰んだああああああああああ! もうチェックメイトじゃないか!? 情状酌量の余地はないと!? ああ、どうにかして侍女の準備を阻まなければ! いやそれでは根本的な解決にならない! だいたいなぜ後妻? そんな者はいないのに……。ど、どどどどどうしよう。いなくなるって聞いただけで悲しい。死にたい……うう】
4万文字ぐらいの中編になります。
※小説なろう、エブリスタに記載してます
【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます
無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。
美少女に転生して料理して生きてくことになりました。
ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。
飲めないお酒を飲んでぶったおれた。
気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。
その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる