上 下
315 / 676

315・届かぬ刃

しおりを挟む
 中々決着のつかない決闘だけど、観客は全く飽きもせずに決闘に集中しているみたいだ。
 彼の人造命具が魔導を斬り捨てるから、必然的に高威力の相殺しにくい魔導に限られてくる。そうなると派手な魔導を連発する事になるから、それで盛り上がってるとも言えるけれど。

 簡単な対抗策はこちらも人造命具を使って戦う事。あれを抜けば、無理なく倒すことが出来るだろう。

「そっちは人造命具は抜かないのか? 扱えないって事もないんだろう?」
「ふふっ、どうかしらね」

 振り下ろされた刃を避けながら、売り言葉に買い言葉で応じる。確かに、ローランは他の誰かと違って、人造命具を使うに値する人物だろう。だけど……彼の脅威はあの鎧くらいだ。
 もちろん、剣の技術や魔力量。魔導のレパートリーの多さを考えても彼の強さは今まで人物と一線を画しているだろう。

 その全てが彼が今までのどの相手よりも格上だと教えてくれる。けれど、それだけだ。
 戦いを積み重ね、頭に彼の動き、技術を叩きこみながら評価を続ける。彼には強さがある。だからこそ言える。彼自身はあまり戦いが好きじゃない。どっちかというと嫌いと言ってもいいだろう。

 いくら動きが鋭くても、卓越した技術があっても……肝心の彼の心が付いていってない。

 ――出来れば戦いたくない。争わないとどうすることも出来なから、仕方なく戦ってる。

 経験や能力と心がちぐはぐだからこそ、生じる隙がある。最初は彼の強さに目が行きすぎていて中々見えなかったけれど……今はそれがわかる。

「【バインドソーン】」

 ローランの足元に茨を召喚して、彼の気を逸らす。もちろん、全身鎧を纏っている彼にはあまり意味がない。けれど、一瞬だけ気を逸らせれば問題ない。
 懐に潜り込んだ私に迎撃する為に剣を振りかざしたけれど……それは悪手だ。振り下ろす前に手首を掴み、引き寄せる。たったこれだけで彼は体勢を崩してしまう。

「なっ……急にっ……!?」
「残念ね。【プロトンサンダー】!」

 そのままローランの胸元に手のひらを当てて、魔導を発動させる。雷の光線が至近距離から放たれる。いくら鎧が頑丈でも、この距離からの一撃。無事では済まない。

「【イグニアンクス】!」

 私から逃れようと蹴り上げようとしてきたローランに対し、【プロトンサンダー】を放っていた方の腕で防御に移る。そのまま人型の炎を召喚する魔導を発動させる。

「……くっ!」
「さあ、焼かれなさい」

 人型の炎がローランに触れたと同時に彼の側から離れて、更に畳みかけるべく行動に移す。

「【フレアフォールン】!」

 空中から炎の太陽が落ちてくる。なんとか【イグニアンクス】を振り払ったローランを休めることなく、連続の攻撃が襲い掛かる。私の方も魔力を最大限高めて解き放ってるからか、少しだけ疲労感を覚える。
 もう何度魔導を発動させたかわからない。あの鎧を纏ってから、彼の防御力は本当に硬い。

 本当なら【レフレルクス】みたいな超広範囲に無差別に攻撃する魔導を使ってかく乱させて、そっちに気を取られている間に本命を叩きこむ……ってやりたいんだけれど、彼の【イミテート・イノセンシア】は並大抵の魔導で太刀打ちできるものではない。雨のように降らせたり、分裂させたり……物量で押す系統の魔導は、一発一発に込められる魔力が制限されてしまう。

 単純火力が高い魔導じゃないとむしろ魔力を消費するだけで終わってしまう。だから、必然的に魔力消費量の多い魔導を連発する事になる。そして――

「【エルノエンド】」

 人造命具を見せない代わりに、私の扱う魔導の中でも最強と呼ぶに相応しいものを見せてあげよう。
 イメージが全てである魔導の極致の一つ。私のイメージする『世界の終わり』。

 私とローランの間の空間がひび割れ、黒に近い色合いの穴が開く。それが少しずつ、世界を侵食するように広がり、飲み込んでいく。私が作り出した【フレアフォールン】も削り取られていって、その全てが【エルノエンド】の力になっていく。

「な……なんだ……その魔導は……?」

 ローランが驚いた様子でその様子を眺めていた。
 彼の目からもこれの異質さが理解出来るのだろう。本来なら『制御』なんて言葉が思いつかない程の空虚。あらゆるものを飲み込んでいくそれは、放っておけば世界の全てを飲み込んでも止まる事はないだろう。
 待っているのは世界の終焉。魔導というのは基本的に発動者の手を離れる事はない。自らのイメージなのだから、コントロールすることくらい出来て当然なのだ。だけどこの魔導は……一分くらいで私の制御を離れて暴走してしまう。おまけに際限なく魔力を吸い取っていくから、使った後は異様に疲れる。正直、欠陥が多すぎて使い勝手が悪すぎる魔導だ。
 だけど、ローランはそんな事を知らない。なら、次にとる行動は――

「くっ……斬り裂け! 【フィリンベーニス・レプリカ】!!」

 判断に迷ったローランは、やはり魔力を断つ剣で斬る事にしたみたいだ。大方、剣で可能な限り威力を削って、鎧の力で防ぎきる戦法なのだろう。
 ……その剣が【フィリンベーニス】だって事には驚いたけれど、その判断は間違いだ。

「ちっ……こ、こんなっ……!?」

 案の定、ローランの人造命具は触れた瞬間に形を失い、分解されていってしまう。
 成す術も無く消えていくその武器に、すぐさま魔導を打ち込むけれど……そんな事をすれば、魔力を与えるだけだ。これを消すには、私が魔力の供給を止めて閉じ込めるように制御するか、この魔導を上回る威力のなにかをぶつけるしかない。
 防御力に特化した性能をした彼の剣は、最初から届かなくて当然だった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様

コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」  ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。  幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。  早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると―― 「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」  やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。  一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、 「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」  悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。  なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?  でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。  というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
異世界に転生したフランカは公爵夫人として暮らしてきたが、前世から叶えたい夢があった。パティシエールになる。その夢を叶えようと夫である王国財務総括大臣ドミニクに相談するも答えはノー。夫婦らしい交流も、信頼もない中、三年の月日が近づき──フランカは賭に出る。白い結婚三年目で離縁できる条件を満たしていると迫り、夢を叶えられないのなら離縁すると宣言。そこから公爵家一同でフランカに考え直すように動き、ドミニクと話し合いの機会を得るのだがこの夫、山のように隠し事はあった。  無言で睨む夫だが、心の中は──。 【詰んだああああああああああ! もうチェックメイトじゃないか!? 情状酌量の余地はないと!? ああ、どうにかして侍女の準備を阻まなければ! いやそれでは根本的な解決にならない! だいたいなぜ後妻? そんな者はいないのに……。ど、どどどどどうしよう。いなくなるって聞いただけで悲しい。死にたい……うう】 4万文字ぐらいの中編になります。 ※小説なろう、エブリスタに記載してます

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます

無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。

美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。 飲めないお酒を飲んでぶったおれた。 気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。 その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった

処理中です...