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315・届かぬ刃

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 中々決着のつかない決闘だけど、観客は全く飽きもせずに決闘に集中しているみたいだ。
 彼の人造命具が魔導を斬り捨てるから、必然的に高威力の相殺しにくい魔導に限られてくる。そうなると派手な魔導を連発する事になるから、それで盛り上がってるとも言えるけれど。

 簡単な対抗策はこちらも人造命具を使って戦う事。あれを抜けば、無理なく倒すことが出来るだろう。

「そっちは人造命具は抜かないのか? 扱えないって事もないんだろう?」
「ふふっ、どうかしらね」

 振り下ろされた刃を避けながら、売り言葉に買い言葉で応じる。確かに、ローランは他の誰かと違って、人造命具を使うに値する人物だろう。だけど……彼の脅威はあの鎧くらいだ。
 もちろん、剣の技術や魔力量。魔導のレパートリーの多さを考えても彼の強さは今まで人物と一線を画しているだろう。

 その全てが彼が今までのどの相手よりも格上だと教えてくれる。けれど、それだけだ。
 戦いを積み重ね、頭に彼の動き、技術を叩きこみながら評価を続ける。彼には強さがある。だからこそ言える。彼自身はあまり戦いが好きじゃない。どっちかというと嫌いと言ってもいいだろう。

 いくら動きが鋭くても、卓越した技術があっても……肝心の彼の心が付いていってない。

 ――出来れば戦いたくない。争わないとどうすることも出来なから、仕方なく戦ってる。

 経験や能力と心がちぐはぐだからこそ、生じる隙がある。最初は彼の強さに目が行きすぎていて中々見えなかったけれど……今はそれがわかる。

「【バインドソーン】」

 ローランの足元に茨を召喚して、彼の気を逸らす。もちろん、全身鎧を纏っている彼にはあまり意味がない。けれど、一瞬だけ気を逸らせれば問題ない。
 懐に潜り込んだ私に迎撃する為に剣を振りかざしたけれど……それは悪手だ。振り下ろす前に手首を掴み、引き寄せる。たったこれだけで彼は体勢を崩してしまう。

「なっ……急にっ……!?」
「残念ね。【プロトンサンダー】!」

 そのままローランの胸元に手のひらを当てて、魔導を発動させる。雷の光線が至近距離から放たれる。いくら鎧が頑丈でも、この距離からの一撃。無事では済まない。

「【イグニアンクス】!」

 私から逃れようと蹴り上げようとしてきたローランに対し、【プロトンサンダー】を放っていた方の腕で防御に移る。そのまま人型の炎を召喚する魔導を発動させる。

「……くっ!」
「さあ、焼かれなさい」

 人型の炎がローランに触れたと同時に彼の側から離れて、更に畳みかけるべく行動に移す。

「【フレアフォールン】!」

 空中から炎の太陽が落ちてくる。なんとか【イグニアンクス】を振り払ったローランを休めることなく、連続の攻撃が襲い掛かる。私の方も魔力を最大限高めて解き放ってるからか、少しだけ疲労感を覚える。
 もう何度魔導を発動させたかわからない。あの鎧を纏ってから、彼の防御力は本当に硬い。

 本当なら【レフレルクス】みたいな超広範囲に無差別に攻撃する魔導を使ってかく乱させて、そっちに気を取られている間に本命を叩きこむ……ってやりたいんだけれど、彼の【イミテート・イノセンシア】は並大抵の魔導で太刀打ちできるものではない。雨のように降らせたり、分裂させたり……物量で押す系統の魔導は、一発一発に込められる魔力が制限されてしまう。

 単純火力が高い魔導じゃないとむしろ魔力を消費するだけで終わってしまう。だから、必然的に魔力消費量の多い魔導を連発する事になる。そして――

「【エルノエンド】」

 人造命具を見せない代わりに、私の扱う魔導の中でも最強と呼ぶに相応しいものを見せてあげよう。
 イメージが全てである魔導の極致の一つ。私のイメージする『世界の終わり』。

 私とローランの間の空間がひび割れ、黒に近い色合いの穴が開く。それが少しずつ、世界を侵食するように広がり、飲み込んでいく。私が作り出した【フレアフォールン】も削り取られていって、その全てが【エルノエンド】の力になっていく。

「な……なんだ……その魔導は……?」

 ローランが驚いた様子でその様子を眺めていた。
 彼の目からもこれの異質さが理解出来るのだろう。本来なら『制御』なんて言葉が思いつかない程の空虚。あらゆるものを飲み込んでいくそれは、放っておけば世界の全てを飲み込んでも止まる事はないだろう。
 待っているのは世界の終焉。魔導というのは基本的に発動者の手を離れる事はない。自らのイメージなのだから、コントロールすることくらい出来て当然なのだ。だけどこの魔導は……一分くらいで私の制御を離れて暴走してしまう。おまけに際限なく魔力を吸い取っていくから、使った後は異様に疲れる。正直、欠陥が多すぎて使い勝手が悪すぎる魔導だ。
 だけど、ローランはそんな事を知らない。なら、次にとる行動は――

「くっ……斬り裂け! 【フィリンベーニス・レプリカ】!!」

 判断に迷ったローランは、やはり魔力を断つ剣で斬る事にしたみたいだ。大方、剣で可能な限り威力を削って、鎧の力で防ぎきる戦法なのだろう。
 ……その剣が【フィリンベーニス】だって事には驚いたけれど、その判断は間違いだ。

「ちっ……こ、こんなっ……!?」

 案の定、ローランの人造命具は触れた瞬間に形を失い、分解されていってしまう。
 成す術も無く消えていくその武器に、すぐさま魔導を打ち込むけれど……そんな事をすれば、魔力を与えるだけだ。これを消すには、私が魔力の供給を止めて閉じ込めるように制御するか、この魔導を上回る威力のなにかをぶつけるしかない。
 防御力に特化した性能をした彼の剣は、最初から届かなくて当然だった。
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