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312・偽りの純粋
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ローランが身に纏った鎧を改めて見てみる。【神偽絶鎧『イミテート・イノセンシア』】で呼び出された鎧は、なんというか……異質なものだった。
鎧も兜も……全部真っ白な布に泥を塗って拭いたような、そんな感じの奇妙な色をしている。
マントが透明に近い透き通った白をしていて、汚れがきちんと取れていれば綺麗な純白の鎧になっていただろう。派手というより、美しい感じの装飾が施されているから余計に残念に思う。
神聖な物に泥をぶちまけたかのような……そんな事を思わせる鎧を纏ったローランは、私の驚きを全く気にせずに襲い掛かってくる。
「くっ……」
鋭い斬撃が二度、三度と恐ろしい速さで繰り出され、私もギリギリそれを避けていく……んだけど、ここでネックになってくるのが【マルチプルランス】で出現している魔力の槍だ。私とローランの魔導がぶつかりあっていう間に再び発動していたのだろう。再充填が完了している魔力の槍は、また私の隙を狙って飛んでくる。
「……っ、ほんっとうに厄介な魔導ね」
「誉め言葉として受け取りましょう。【シャドーステーク】」
ローランの魔導が発動したけれど、特に何かが出てくるという事も無くて疑問が湧き上がる。
――けれど、それはすぐに間違いだったと思い知る事になる。
「なっ……か、身体が……!?」
突然自分の身体が自由に動かなくなって、その原因を突き止めるために周囲を見回すと……影に異変を見つける。足の方に深々と突き刺さっているのは、黒い杭。それが私の影を縫い留めるように深々と突き刺さっていた。
動きを制限された私に、容赦なく魔力の槍が襲い掛かってくる。
「【フリーズレイン】!」
それを迎撃する為に、氷の雨を降らせる。魔力の槍とぶつかったそれは、数度衝突して散っていく。一応【フリーズレイン】で相殺できるみたいだけど……魔力の槍を一本迎え撃つのにこれでは割に合わない。
残った氷の雨がローランに向かっていった……のだけど、彼の鎧に阻まれてしまう。
当たった瞬間、鎧が淡く発光して相殺していた。並の魔導ではあれを超える事は出来なさそうだ。
黒い杭がなくなって、唐突に身体が自由になった私は体勢を崩してしまう。
それを見逃さないとでもいうかのように振り上げるように剣を振るってくる。的確に隙を狙ってくる様は、学生のそれとは明らかに一線を画している。
なんとか首皮一枚で避ける事には成功した私は、【トキシックスピア】を発動させながらローランから距離を取ろうとする――のだけれど、それを嘲笑うようにローランは突撃してきた。
魔導によって生み出された毒の槍を喰らっても、彼は一切動じずに平然としている。
『す、すごい! ガルちゃん、あれは……?』
『……あの魔導、人造命具とはまた違うものを感じる。オルキア決闘官。貴殿はどうみる?』
『あれは……いや、まさか……』
私ですら見たことのない魔導に聞き覚えがあるらしいオルキアの見解を聞いてみたいけれど、流石にあまり話を聞いている余裕はない。
「余所見とは……随分と余裕ですね!」
「……ふふっ、私に一撃入れるには少し足りないわね」
迫ってくるローランの斬撃に思考を切り替える。少しでも集中力を切らしたら、致命的な一撃を受ける事になる。
そんな確信がひりついた感覚として伝わってきて、心を高鳴らせる。
魔導と斬撃で徐々に私を追い詰めてくるローラン。今までの決闘ではこれほどの冴え渡る動きを見せてはいなかった。的確な判断。学生のそれを凌駕する技術。そしてそれを十全に扱えている身体能力と魔力。どれをとっても一級品だ。観客達の声も耳に入らなくなるほど、思考が彼の一挙手一投足に向いている。
素手で渡り合うには、ほんの少しの油断も許されない。経験、技術、魔力、判断……全てを駆使しして臨まなければいけない。
「いつまでそうやって逃げる事が出来ます……かね! 【ウーニャビエント】!」
風が爪の形に具現化して、私に向かった振り下ろされる。
一つ、二つ……三つ。立て続けに放たれた風の爪との剣による斬撃の連携が私を立て続けに襲い掛かる。
「【シルドアームズ】!」
再び腕に魔力の盾を作り出して、風の爪を防ぎながらローランの斬撃を避けていく。右から左。振り上げ、返すように振り下ろし、素早い動きで次々と斬りつけてくる彼の動きは本当に素晴らしい。
鋭い突きを接近しながらかわし、カウンター気味に顔面に向けて拳を放った。それを顔を動かすだけで避けて、掴みかかろうとしてくるのだから流石だ。
だが、これで彼もわかっただろう。そんな鎧をいくら身に纏っていても、私には届かない。
その純粋な白を濁した鎧では魔導は防げても、私に対抗する手段を持たない。
いつまでも決着がつかずに戦い続ける事になるかもだけど……私は一向に構わない。最終的に勝つのは私だ。
時間さえかければ彼を打倒する事が出来る私に対し、今の戦術ではジリ貧になる事がわかっているであろうローランがどう切り返してくるのか……今から楽しみで仕方ない。
なにしろ彼はまだ隠し玉を持っている。これほどの実力者ならもう一つ人造命具を持っていてもおかしくないし、あの鎧にもまだ何かあるかもしれない。
そんな先の出来事を考えると、自然と頬が緩む。早く、もっと見せて欲しい。本気を出すと言うのであれば、その全てを見せて掛かってきて欲しい。私の全力を見せるのに足る相手かどうか……はっきりさせてあげるから。
鎧も兜も……全部真っ白な布に泥を塗って拭いたような、そんな感じの奇妙な色をしている。
マントが透明に近い透き通った白をしていて、汚れがきちんと取れていれば綺麗な純白の鎧になっていただろう。派手というより、美しい感じの装飾が施されているから余計に残念に思う。
神聖な物に泥をぶちまけたかのような……そんな事を思わせる鎧を纏ったローランは、私の驚きを全く気にせずに襲い掛かってくる。
「くっ……」
鋭い斬撃が二度、三度と恐ろしい速さで繰り出され、私もギリギリそれを避けていく……んだけど、ここでネックになってくるのが【マルチプルランス】で出現している魔力の槍だ。私とローランの魔導がぶつかりあっていう間に再び発動していたのだろう。再充填が完了している魔力の槍は、また私の隙を狙って飛んでくる。
「……っ、ほんっとうに厄介な魔導ね」
「誉め言葉として受け取りましょう。【シャドーステーク】」
ローランの魔導が発動したけれど、特に何かが出てくるという事も無くて疑問が湧き上がる。
――けれど、それはすぐに間違いだったと思い知る事になる。
「なっ……か、身体が……!?」
突然自分の身体が自由に動かなくなって、その原因を突き止めるために周囲を見回すと……影に異変を見つける。足の方に深々と突き刺さっているのは、黒い杭。それが私の影を縫い留めるように深々と突き刺さっていた。
動きを制限された私に、容赦なく魔力の槍が襲い掛かってくる。
「【フリーズレイン】!」
それを迎撃する為に、氷の雨を降らせる。魔力の槍とぶつかったそれは、数度衝突して散っていく。一応【フリーズレイン】で相殺できるみたいだけど……魔力の槍を一本迎え撃つのにこれでは割に合わない。
残った氷の雨がローランに向かっていった……のだけど、彼の鎧に阻まれてしまう。
当たった瞬間、鎧が淡く発光して相殺していた。並の魔導ではあれを超える事は出来なさそうだ。
黒い杭がなくなって、唐突に身体が自由になった私は体勢を崩してしまう。
それを見逃さないとでもいうかのように振り上げるように剣を振るってくる。的確に隙を狙ってくる様は、学生のそれとは明らかに一線を画している。
なんとか首皮一枚で避ける事には成功した私は、【トキシックスピア】を発動させながらローランから距離を取ろうとする――のだけれど、それを嘲笑うようにローランは突撃してきた。
魔導によって生み出された毒の槍を喰らっても、彼は一切動じずに平然としている。
『す、すごい! ガルちゃん、あれは……?』
『……あの魔導、人造命具とはまた違うものを感じる。オルキア決闘官。貴殿はどうみる?』
『あれは……いや、まさか……』
私ですら見たことのない魔導に聞き覚えがあるらしいオルキアの見解を聞いてみたいけれど、流石にあまり話を聞いている余裕はない。
「余所見とは……随分と余裕ですね!」
「……ふふっ、私に一撃入れるには少し足りないわね」
迫ってくるローランの斬撃に思考を切り替える。少しでも集中力を切らしたら、致命的な一撃を受ける事になる。
そんな確信がひりついた感覚として伝わってきて、心を高鳴らせる。
魔導と斬撃で徐々に私を追い詰めてくるローラン。今までの決闘ではこれほどの冴え渡る動きを見せてはいなかった。的確な判断。学生のそれを凌駕する技術。そしてそれを十全に扱えている身体能力と魔力。どれをとっても一級品だ。観客達の声も耳に入らなくなるほど、思考が彼の一挙手一投足に向いている。
素手で渡り合うには、ほんの少しの油断も許されない。経験、技術、魔力、判断……全てを駆使しして臨まなければいけない。
「いつまでそうやって逃げる事が出来ます……かね! 【ウーニャビエント】!」
風が爪の形に具現化して、私に向かった振り下ろされる。
一つ、二つ……三つ。立て続けに放たれた風の爪との剣による斬撃の連携が私を立て続けに襲い掛かる。
「【シルドアームズ】!」
再び腕に魔力の盾を作り出して、風の爪を防ぎながらローランの斬撃を避けていく。右から左。振り上げ、返すように振り下ろし、素早い動きで次々と斬りつけてくる彼の動きは本当に素晴らしい。
鋭い突きを接近しながらかわし、カウンター気味に顔面に向けて拳を放った。それを顔を動かすだけで避けて、掴みかかろうとしてくるのだから流石だ。
だが、これで彼もわかっただろう。そんな鎧をいくら身に纏っていても、私には届かない。
その純粋な白を濁した鎧では魔導は防げても、私に対抗する手段を持たない。
いつまでも決着がつかずに戦い続ける事になるかもだけど……私は一向に構わない。最終的に勝つのは私だ。
時間さえかければ彼を打倒する事が出来る私に対し、今の戦術ではジリ貧になる事がわかっているであろうローランがどう切り返してくるのか……今から楽しみで仕方ない。
なにしろ彼はまだ隠し玉を持っている。これほどの実力者ならもう一つ人造命具を持っていてもおかしくないし、あの鎧にもまだ何かあるかもしれない。
そんな先の出来事を考えると、自然と頬が緩む。早く、もっと見せて欲しい。本気を出すと言うのであれば、その全てを見せて掛かってきて欲しい。私の全力を見せるのに足る相手かどうか……はっきりさせてあげるから。
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