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307・本気の猫人族
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「まさか、道連れにするつもりだったなんてね。これじゃ、貴方も生き残れないでしょうに」
「にゃは。ここまでしないと貴女は倒せないからにゃー。一緒に逝って欲しいのにゃー」
相変わらず語尾を伸ばしていて、間延びしたように聞こえるけれど……そのセリフが頭上から二つの巨星が背なってる状況じゃなかったらどんなに良かった事か。
「残念ね。とても魅力的な提案だけれど……謹んでお断り申し上げますわ」
「そう邪険にしないで欲しいのにゃー」
苦笑いを浮かべるさまは、困った優男風の王子様って感じだ。
ベルンには悪いけれど……そんな王子様と一緒に心中なんてごめんだ。
……仕方ない。あんまりこれで終わらせるのもどうかと思ったけれど、特攻まがいの事をされても困る。
それに、私は前に……先に進まないといけないのだから。
「……【エアルヴェ・シュネイス】」
発動した瞬間、空がひび割れて白い光が差し込んでくる。ベルンが発動させた二つの炎の星を少しずつ掻き消していく。
「……やっぱり、その魔導が鬼門なのにゃー」
「ふふ、対処、出来る?」
苦虫を嚙み潰したような表情をしているところを見ると、あまり対策出来てないと見たけれど……。
「……にゃは。『ラピッド・ガンコルド』【ラピッド・ガントルネ】!!」
ベルンが選んだのは、【エアルヴェ・シュネイス】が影響を及ぼす前に私を仕留める事だった。
無数と言っていい氷と風の弾がベルンの周辺に展開していく。
「……ボクの勝ちにゃー!」
次々と襲い掛かる弾と同時に、ベルンが高らかに勝利宣言をするけれど……それはどうだろうか?
「残念ね。その程度の小細工では、私は敗れはしない」
魔導の発動に夢中になっていたからか、ベルンは自分の身体強化魔導が切れている事に気付いていないようだった。迷わずベルンの身体に蹴りを入れて、彼と距離を取って、こちらに向かってくる無数の弾を避けていく。
流石に距離や態勢の事を考えたら長く避けることは出来ないけれど――
「【プロトンサンダー】!」
――それなら、まとめて焼き払えばいい。
最大限魔力を込めた【プロトンサンダー】は、極太の雷の光線を生み出して周辺を薙ぎ払っていく。
片っ端から魔導の弾を焼きはらった【プロトンサンダー】は【エアルヴェ・シュネイス】の光に包まれてその力を分解されていく。
「そ、そんにゃ……」
がくりと崩れ落ちそうなベルンは、それでも膝を付いて地に伏せることは王子としてのプライドが許さないのだろう。懸命に足に力を入れて立っていた。一瞬だけ浮かべた絶望の表情がやたらと印象的で……見慣れたはずの顔が、新鮮に感じる。
白い光が全体を包み込んで、綺麗に染め上げていく。何も見えなくなって、独りぼっち。相変わらずの白の世界に包まれて、ベルンの必死さを思い返す。
それと同時に……酷く虚しい気持ちになっていく。あれだけの魔導の嵐。魔力だって相応に消費しただろうし、様々な書物を読んで知識を蓄えて……魔王祭の為に心身ともに鍛え上げてきたのだろう。
そんな努力も全て無に還っていく。この魔導に白く染め上げられて。
やがて終わる白の世界。あらゆる色が一気に戻ってくる。そこには先程ベルンが使っていた魔導の数々は影も形もなくなっていた。
二つの炎の星。無数の風と氷の弾。それら全てが本当にそこにあったのだろうか? と疑問を感じるほど何もなかった。
そして……肝心のベルンはボロボロになってはいるものの、他の人達のように倒れ伏すことはなく、膝を付いているだけに留まっていた。
『相変わらず凄まじい威力だね……。ガルちゃん、結界は――?』
『うむ、ベルン・シルケットから結界の発動を確認した。よって……勝者、エールティア・リシュファス』
勝者の宣言が上がると同時に、響く歓声。それを受けるのは勝者の私と――
「にゃはは、負けちゃったのにゃー」
「ベルン……良い決闘だったわ」
負けて悔しい気持ちが強いのか、苦しくも笑みを見せているベルン。敗者の姿だけれども、【エアルヴェ・シュネイス】を受けて立っている彼の意地が見える。去年よりもずっと強くなっている。雪雨もレイアも、ベルンもずっと強くなっていっている。
私だけ何も変わらずに、ただ強さの上に座っているだけのような気がしてしまう。それが唐突に……虚しく感じてしまう。
……とは言っても、流石にそれを前面に出すのはよろしくないから、とりあえず笑っておくけどね。
こんな大勢の人の前で、観客達も見ている。辛そうな表情は似合わないだろう。
「にゃはは、ありがとうにゃー。やっぱり、エールティア姫は強かったにゃー」
「貴方も、ね」
確かに私には届かなかったけれど、ベルンはずっと強くなっていた。彼が来年も出る事が出来るなら、もと楽しみが広がっていったんだろうけれど……それが少しだけ残念に思う。
……そんな先の話よりも、次の決闘の事について考えた方が良いかも知れない。
雪雨とファリスの戦い。それと――私のローランの戦いが……控えているのだから。
「にゃは。ここまでしないと貴女は倒せないからにゃー。一緒に逝って欲しいのにゃー」
相変わらず語尾を伸ばしていて、間延びしたように聞こえるけれど……そのセリフが頭上から二つの巨星が背なってる状況じゃなかったらどんなに良かった事か。
「残念ね。とても魅力的な提案だけれど……謹んでお断り申し上げますわ」
「そう邪険にしないで欲しいのにゃー」
苦笑いを浮かべるさまは、困った優男風の王子様って感じだ。
ベルンには悪いけれど……そんな王子様と一緒に心中なんてごめんだ。
……仕方ない。あんまりこれで終わらせるのもどうかと思ったけれど、特攻まがいの事をされても困る。
それに、私は前に……先に進まないといけないのだから。
「……【エアルヴェ・シュネイス】」
発動した瞬間、空がひび割れて白い光が差し込んでくる。ベルンが発動させた二つの炎の星を少しずつ掻き消していく。
「……やっぱり、その魔導が鬼門なのにゃー」
「ふふ、対処、出来る?」
苦虫を嚙み潰したような表情をしているところを見ると、あまり対策出来てないと見たけれど……。
「……にゃは。『ラピッド・ガンコルド』【ラピッド・ガントルネ】!!」
ベルンが選んだのは、【エアルヴェ・シュネイス】が影響を及ぼす前に私を仕留める事だった。
無数と言っていい氷と風の弾がベルンの周辺に展開していく。
「……ボクの勝ちにゃー!」
次々と襲い掛かる弾と同時に、ベルンが高らかに勝利宣言をするけれど……それはどうだろうか?
「残念ね。その程度の小細工では、私は敗れはしない」
魔導の発動に夢中になっていたからか、ベルンは自分の身体強化魔導が切れている事に気付いていないようだった。迷わずベルンの身体に蹴りを入れて、彼と距離を取って、こちらに向かってくる無数の弾を避けていく。
流石に距離や態勢の事を考えたら長く避けることは出来ないけれど――
「【プロトンサンダー】!」
――それなら、まとめて焼き払えばいい。
最大限魔力を込めた【プロトンサンダー】は、極太の雷の光線を生み出して周辺を薙ぎ払っていく。
片っ端から魔導の弾を焼きはらった【プロトンサンダー】は【エアルヴェ・シュネイス】の光に包まれてその力を分解されていく。
「そ、そんにゃ……」
がくりと崩れ落ちそうなベルンは、それでも膝を付いて地に伏せることは王子としてのプライドが許さないのだろう。懸命に足に力を入れて立っていた。一瞬だけ浮かべた絶望の表情がやたらと印象的で……見慣れたはずの顔が、新鮮に感じる。
白い光が全体を包み込んで、綺麗に染め上げていく。何も見えなくなって、独りぼっち。相変わらずの白の世界に包まれて、ベルンの必死さを思い返す。
それと同時に……酷く虚しい気持ちになっていく。あれだけの魔導の嵐。魔力だって相応に消費しただろうし、様々な書物を読んで知識を蓄えて……魔王祭の為に心身ともに鍛え上げてきたのだろう。
そんな努力も全て無に還っていく。この魔導に白く染め上げられて。
やがて終わる白の世界。あらゆる色が一気に戻ってくる。そこには先程ベルンが使っていた魔導の数々は影も形もなくなっていた。
二つの炎の星。無数の風と氷の弾。それら全てが本当にそこにあったのだろうか? と疑問を感じるほど何もなかった。
そして……肝心のベルンはボロボロになってはいるものの、他の人達のように倒れ伏すことはなく、膝を付いているだけに留まっていた。
『相変わらず凄まじい威力だね……。ガルちゃん、結界は――?』
『うむ、ベルン・シルケットから結界の発動を確認した。よって……勝者、エールティア・リシュファス』
勝者の宣言が上がると同時に、響く歓声。それを受けるのは勝者の私と――
「にゃはは、負けちゃったのにゃー」
「ベルン……良い決闘だったわ」
負けて悔しい気持ちが強いのか、苦しくも笑みを見せているベルン。敗者の姿だけれども、【エアルヴェ・シュネイス】を受けて立っている彼の意地が見える。去年よりもずっと強くなっている。雪雨もレイアも、ベルンもずっと強くなっていっている。
私だけ何も変わらずに、ただ強さの上に座っているだけのような気がしてしまう。それが唐突に……虚しく感じてしまう。
……とは言っても、流石にそれを前面に出すのはよろしくないから、とりあえず笑っておくけどね。
こんな大勢の人の前で、観客達も見ている。辛そうな表情は似合わないだろう。
「にゃはは、ありがとうにゃー。やっぱり、エールティア姫は強かったにゃー」
「貴方も、ね」
確かに私には届かなかったけれど、ベルンはずっと強くなっていた。彼が来年も出る事が出来るなら、もと楽しみが広がっていったんだろうけれど……それが少しだけ残念に思う。
……そんな先の話よりも、次の決闘の事について考えた方が良いかも知れない。
雪雨とファリスの戦い。それと――私のローランの戦いが……控えているのだから。
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