302 / 676
302・対照的な二人(レイアside)
しおりを挟む
魔王祭も五回戦。まもなく終盤戦に突入するといったところで、観客達はどんどん白熱していく決闘に魅入られるように熱狂していく。
『さあ、いよいよ五回戦だよ! これに勝った人が準々決勝に進める事になるんだけど……今回の決闘はまたすごい組み合わせだよね。だって――』
『選手入場をする前に名前を口にしようとするな。早く入場させろ』
『んもう! 相変わらずガルちゃんは固いなぁ……。えっと、こほん。それじゃ、雪雨選手とレイア選手の入場だよ! みんな、しっかり応援してねー!』
四回戦辺りから同時に入場する方式に変わり、観客達の待ち時間が少しだけ短くなった。二人の選手が入場し、会場は熱気に包まれる。
周囲から響いてくる歓声に応えるように手を振るうレイアに対し、雪雨は眼前に立ちふさがる敵を見つめるのみ。両者の異なった反応に、観客が余計に賑わいを見せるのも仕方のない事だろう。
『アルフくんを降したレイアちゃんが戦うのが、去年アルフくんと激戦を繰り広げた雪雨くんっていうのは、運命みたいなのを感じますよね! ……感じるよね?』
『……結界具は問題なく発動している。さあ、二人とも死力を尽くせ。決闘、開始』
『ちょっとガルちゃん、無視しないでよ!』
姦しく騒ぎたてるシューリアを無視して、ガルドラが決闘開始を宣言し、オルキアがそれを楽しそうに眺めている――。
今年の魔王祭が始まって以降、この調子が続いているためか、選手も観客もすっかり慣れているようだった。
開始の宣言と同時に弾け飛ぶように金剛覇刀を抜き放ちながら迫りくる雪雨に対し、レイアは魔導による攻撃を行う。
大きな土塊を敵の頭上に落とす【ガイアプレス】。
ジャマダハルの先端から放つ事が癖になっている熱線を浴びせる魔導【フレアレイ】。
それらを簡単に避けられないよう、地面を凍らせ、スリップさせる事に特化した【フリーズスリップ】を仕掛け、雪雨の行動を制限したり、その間に熱線の氷版ともいえる【フリーズブラスト】を叩きこむ。
レイアが様々な経験から編み出した魔導が、雪雨に次々と襲い掛かる。彼はそれを時には同じように魔導で応戦し、回避をしながら自らの愛刀である金剛覇刀で防ぐ。攻撃に転じる事が出来ずに少しずつ苛立ちを募らせていく雪雨に対し、レイアは酷く冷静だった。
アルフを降した次の日。レイアは彼の口から全てを教えてもらった。
彼女は黒竜人族と竜人族の間に生まれたある意味混血児とも呼ばれる人種で、両親に愛情を注がれて育ったこと。その後、レイアの両親は幼い彼女と旅行に行っている間に事故で死に、親戚であるルーフの家族に育てられた事。
そのまま放置され、昨今に至る今までどこにいたのかすらわからなかった……という事。
勿論、その話の全てが本当ではない事をレイアは知っていた。旅行で事故に遭った――そう告白するアルフの様子は明らかにおかしかったし、話だけで何の確証もない話だったからだ。
一生懸命隠していた『本当』の事を教えてもらったレイアは、特に感情が動かなかった自分に驚いていた。
そのまま一日――二日と考え、結局答えを出したのは実際にアルフと決着をつけ、雪雨と戦う直前になってからだった。
どうあがいても自分の『今』を変える事が出来ず、今はただ、エールティアの為に戦って、彼女を守るために生きる――という事。
以前のレイアであれば、家族の事に多少固執していたり、何か思い悩む事も多かっただろう。
だが、今の彼女にはエールティアがいた。リュネーや他の仲間達もいる。もうすでに……僅かな言葉を一々深く、延々と悩み続ける彼女ではなくなっていた。
今はただ、決勝にて再びエールティアと相見えることを望んで。
「はははっ! 中々やるな! アルフを倒しただけはある!!」
様々な魔導により、攻めあぐねていた雪雨は、自らに檄を飛ばすように吠える。
それと同時に、自分の中のレイアの評価を書き換える。十全の状態で相手をするに足る猛者であると、彼の心の中に留める。
対するレイアは、多少油断していた。宿敵とも言っていいアルフを降し、絵に描いたような快進撃。心は浮つき、上を目指して飛び立つ。
そして、決闘の相手が一度アルフに敗北した雪雨である事も、彼女が油断する理由たりえた。
肌で雪雨の強さは感じていても、アルフを降した自分が負けるはずがない。だって、自分はこんなにも強くなり、成長したのだから。
今までが弱者であり続けたが故の慢心。自らの最強の敵を打ち倒したからこそ生じた心の隙。賢しさを身につけたばかりの幼い子供であるが故に、レイアは自らの勝利を求めた。
強者に必要な揺るぎない自信は身につけても、自我が伴わなず、遠く先を見上げる幼い瞳。
対するは己と同等の強者であると認め、自らが持ち合わせている情報を全て更新し、眼前の敵を討ち滅ぼさんと見据える眼。
あまりにも違いすぎる二人だが、今はまだ拮抗の状態を保っていた。それも――もうすぐ終わりを迎える事になる。
『さあ、いよいよ五回戦だよ! これに勝った人が準々決勝に進める事になるんだけど……今回の決闘はまたすごい組み合わせだよね。だって――』
『選手入場をする前に名前を口にしようとするな。早く入場させろ』
『んもう! 相変わらずガルちゃんは固いなぁ……。えっと、こほん。それじゃ、雪雨選手とレイア選手の入場だよ! みんな、しっかり応援してねー!』
四回戦辺りから同時に入場する方式に変わり、観客達の待ち時間が少しだけ短くなった。二人の選手が入場し、会場は熱気に包まれる。
周囲から響いてくる歓声に応えるように手を振るうレイアに対し、雪雨は眼前に立ちふさがる敵を見つめるのみ。両者の異なった反応に、観客が余計に賑わいを見せるのも仕方のない事だろう。
『アルフくんを降したレイアちゃんが戦うのが、去年アルフくんと激戦を繰り広げた雪雨くんっていうのは、運命みたいなのを感じますよね! ……感じるよね?』
『……結界具は問題なく発動している。さあ、二人とも死力を尽くせ。決闘、開始』
『ちょっとガルちゃん、無視しないでよ!』
姦しく騒ぎたてるシューリアを無視して、ガルドラが決闘開始を宣言し、オルキアがそれを楽しそうに眺めている――。
今年の魔王祭が始まって以降、この調子が続いているためか、選手も観客もすっかり慣れているようだった。
開始の宣言と同時に弾け飛ぶように金剛覇刀を抜き放ちながら迫りくる雪雨に対し、レイアは魔導による攻撃を行う。
大きな土塊を敵の頭上に落とす【ガイアプレス】。
ジャマダハルの先端から放つ事が癖になっている熱線を浴びせる魔導【フレアレイ】。
それらを簡単に避けられないよう、地面を凍らせ、スリップさせる事に特化した【フリーズスリップ】を仕掛け、雪雨の行動を制限したり、その間に熱線の氷版ともいえる【フリーズブラスト】を叩きこむ。
レイアが様々な経験から編み出した魔導が、雪雨に次々と襲い掛かる。彼はそれを時には同じように魔導で応戦し、回避をしながら自らの愛刀である金剛覇刀で防ぐ。攻撃に転じる事が出来ずに少しずつ苛立ちを募らせていく雪雨に対し、レイアは酷く冷静だった。
アルフを降した次の日。レイアは彼の口から全てを教えてもらった。
彼女は黒竜人族と竜人族の間に生まれたある意味混血児とも呼ばれる人種で、両親に愛情を注がれて育ったこと。その後、レイアの両親は幼い彼女と旅行に行っている間に事故で死に、親戚であるルーフの家族に育てられた事。
そのまま放置され、昨今に至る今までどこにいたのかすらわからなかった……という事。
勿論、その話の全てが本当ではない事をレイアは知っていた。旅行で事故に遭った――そう告白するアルフの様子は明らかにおかしかったし、話だけで何の確証もない話だったからだ。
一生懸命隠していた『本当』の事を教えてもらったレイアは、特に感情が動かなかった自分に驚いていた。
そのまま一日――二日と考え、結局答えを出したのは実際にアルフと決着をつけ、雪雨と戦う直前になってからだった。
どうあがいても自分の『今』を変える事が出来ず、今はただ、エールティアの為に戦って、彼女を守るために生きる――という事。
以前のレイアであれば、家族の事に多少固執していたり、何か思い悩む事も多かっただろう。
だが、今の彼女にはエールティアがいた。リュネーや他の仲間達もいる。もうすでに……僅かな言葉を一々深く、延々と悩み続ける彼女ではなくなっていた。
今はただ、決勝にて再びエールティアと相見えることを望んで。
「はははっ! 中々やるな! アルフを倒しただけはある!!」
様々な魔導により、攻めあぐねていた雪雨は、自らに檄を飛ばすように吠える。
それと同時に、自分の中のレイアの評価を書き換える。十全の状態で相手をするに足る猛者であると、彼の心の中に留める。
対するレイアは、多少油断していた。宿敵とも言っていいアルフを降し、絵に描いたような快進撃。心は浮つき、上を目指して飛び立つ。
そして、決闘の相手が一度アルフに敗北した雪雨である事も、彼女が油断する理由たりえた。
肌で雪雨の強さは感じていても、アルフを降した自分が負けるはずがない。だって、自分はこんなにも強くなり、成長したのだから。
今までが弱者であり続けたが故の慢心。自らの最強の敵を打ち倒したからこそ生じた心の隙。賢しさを身につけたばかりの幼い子供であるが故に、レイアは自らの勝利を求めた。
強者に必要な揺るぎない自信は身につけても、自我が伴わなず、遠く先を見上げる幼い瞳。
対するは己と同等の強者であると認め、自らが持ち合わせている情報を全て更新し、眼前の敵を討ち滅ぼさんと見据える眼。
あまりにも違いすぎる二人だが、今はまだ拮抗の状態を保っていた。それも――もうすぐ終わりを迎える事になる。
0
お気に入りに追加
160
あなたにおすすめの小説
飯屋の娘は魔法を使いたくない?
秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。
魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。
それを見ていた貴族の青年が…。
異世界転生の話です。
のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。
※ 表紙は星影さんの作品です。
※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。
余命半年のはずが?異世界生活始めます
ゆぃ♫
ファンタジー
静波杏花、本日病院で健康診断の結果を聞きに行き半年の余命と判明…
不運が重なり、途方に暮れていると…
確認はしていますが、拙い文章で誤字脱字もありますが読んでいただけると嬉しいです。
実家が没落したので、こうなったら落ちるところまで落ちてやります。
黒蜜きな粉
ファンタジー
ある日を境にタニヤの生活は変わってしまった。
実家は爵位を剥奪され、領地を没収された。
父は刑死、それにショックを受けた母は自ら命を絶った。
まだ学生だったタニヤは学費が払えなくなり学校を退学。
そんなタニヤが生活費を稼ぐために始めたのは冒険者だった。
しかし、どこへ行っても元貴族とバレると嫌がらせを受けてしまう。
いい加減にこんな生活はうんざりだと思っていたときに出会ったのは、商人だと名乗る怪しい者たちだった。
騙されていたって構わない。
もう金に困ることなくお腹いっぱい食べられるなら、裏家業だろうがなんでもやってやる。
タニヤは商人の元へ転職することを決意する。
大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる
遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」
「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」
S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。
村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。
しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。
とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。
転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜
家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。
そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?!
しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...?
ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...?
不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。
拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。
小説家になろう様でも公開しております。
【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革
うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。
優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。
家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。
主人公は、魔法・知識チートは持っていません。
加筆修正しました。
お手に取って頂けたら嬉しいです。
公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる