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285・孤高のガンマン
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闘技場の外に出た私達は適当に売店で食べ物を買って、控え室に戻ってきた。
暇なら一度宿に帰るのもありなんだけど……宿に戻ったところで、会場を見る事ができる魔導具はここにしかない。
ジュールとカイゼルの試合を見たいのなら、ここで見るしかないのだ。
「決闘は……終わっているみたいですね」
雪風の声に魔導具の画面に視線を向けると……シューリアが新しい出場者の名前を呼んでいた。
『さあて、白熱してきたね! 次は……わたしと同じ、ミスタリクス学園出身の、カイゼルくんだよ!』
シューリアの元気の良い声と共に現れたのは、褐色の肌に赤茶色の髪の少年。黒い外套を身に纏っていて、その鍛えられた身体を隠しているようだった。
「あれが、カイゼル・ベールグですか。先程戦っていた者達の印象が吹き飛びそうですね」
雪風が驚くように呟いたそれには同意せざるを得ない。立ち居振る舞いが常人のそれとは違う。鋭い眼光に、今すぐにでも弾けるように行動を起こせそうに見える。
『続きまして、アリュンディス学園からの刺客。セイラルニス選手の入場だよ!』
声と同時に姿を見せたセイラルニスと呼ばれた男の子は……獣人族みたいだ。それも力の強い虎獣人族で、厳つい斧を片手で担いでいた。
「相手は……明らかに近接戦専門って言った感じね」
確か、カイゼルは銃が主要な武装だから……どっちかというとセイラルニスの方が不利に見える。だけど、それを全く感じさせたないのは、それだけセイラルニスも自分の強さに自信を持っているのだろう。
『両者ともに睨み合っております! それじゃガルちゃん、お願いね』
『……よし。結界の魔導具は展開完了だ。それでは両者共に死力を尽くせ』
開始の言葉と同時に動き出したのはカイゼルだった。
外套の方から破裂音が聞こえて、弾が飛んでいくのが見えた。
僅かな魔力を弾の形に凝縮して、小さいながらも高威力の攻撃を行う事ができる魔導銃。当たれば間違いなく致命傷となり得る場所に打ち込まれたが、セイラルニスは持っている戦斧で斬り落とすように防いだ。
彼の早撃ちは中々反応できるものじゃない。それに対して嬉しそうにしているセイラルニスは、かなりの実力の持ち主だろう。
「雪風、どうみる?」
「そうですね……。最初はカイゼルさんが有利なのかと思いましたが、魔導銃の弾速に対応出来るのでしたら、セイラルニスさんの方が有利なのではないかと」
確かに、たった一度のやり取りだけで、カイゼルの飛び道具は、普通に使用してもセイラルニスには通用しない事が証明されている。
その一点だけを見たら、確かにカイゼルが不利に見えるだろう。
「よく見てるけれど……まだまだね」
「エールティア様は違う、と?」
「カイゼルの表情に焦りが一つも見えない。あれだけに頼っているのなら、戸惑いや驚きに染まって、動きが雑になるはず。それがないという事は――」
一旦口を閉ざして、頬杖を突いて改めて画面を見る。相変わらず美しく動く男だ。動作になんの迷いもない。普通なら冷や汗を掻くであろう場面でも、表情一つ変える事なく戦い続けるその姿は、見るものを惹きつける。
セイラルニスの放つ魔導と斬撃の雨を掻い潜りながら、カイゼルは踊りながら隙を狙うように魔弾を放つけれど、そのことごとくが防がれてしまっている。観客の方は既にセイラルニスの勝利を確信している方が大半であり、カイゼルにはあまり興味を示していない。
むしろその目には一点の曇りもない。まるで自らの勝利が揺らぎのないものだと思っているようにも見えた。
大きく局面が動いたのはそれから少し経った時。
しびれを切らしたセイラルニスが魔導でカイゼルの周辺を炎で囲うように走らせ、行動を制限させる。動きを止めざるを得なかったカイゼルの目の前に迫ったセイラルニスは、迷うことなくその斧を振り上げる。
各ごくぉ決めたのか、カイゼルの銃口がセイラルニスの眉間に向けられて、銃弾が発射される。しかしそれはセイラルニスには見切られていて、斧であっさりと弾かれてしまい――その瞬間、セイラルニスの左胸から弾が突き抜けて行った。
『なっ、にぃ……?』
突然の出来事に呆然と言葉を発したセイラルニスに対して、カイゼルは悠然と立っている。そんな彼の手には――二丁の魔導銃が握られていた。
「なるほど」
一丁しか持っていないと思い込ませることで、隠し持っているもう一丁の魔導銃による奇襲が最大限の効果を発揮する……という訳だ。
『そこまで。勝者カイゼル・ベールグ』
『すごい! 一気にカイゼルくんが逆転しました!』
勝利宣言と同時に大きく沸く観客席。カイゼルはさも当然であるかのように堂々と去っていった。
ファリスの時とは違って、多少見応えがあった試合だった。だけど――
「やっぱり、最初から全部を見せるつもりはないってことね」
カイゼルの手の内があれで全部だとは到底思えない。まだ何か隠している事は間違いないだろう。
まあ、それも仕方ないか。ここで全てをさらけ出して、対策を取られる訳にもいかないだろうからね。
暇なら一度宿に帰るのもありなんだけど……宿に戻ったところで、会場を見る事ができる魔導具はここにしかない。
ジュールとカイゼルの試合を見たいのなら、ここで見るしかないのだ。
「決闘は……終わっているみたいですね」
雪風の声に魔導具の画面に視線を向けると……シューリアが新しい出場者の名前を呼んでいた。
『さあて、白熱してきたね! 次は……わたしと同じ、ミスタリクス学園出身の、カイゼルくんだよ!』
シューリアの元気の良い声と共に現れたのは、褐色の肌に赤茶色の髪の少年。黒い外套を身に纏っていて、その鍛えられた身体を隠しているようだった。
「あれが、カイゼル・ベールグですか。先程戦っていた者達の印象が吹き飛びそうですね」
雪風が驚くように呟いたそれには同意せざるを得ない。立ち居振る舞いが常人のそれとは違う。鋭い眼光に、今すぐにでも弾けるように行動を起こせそうに見える。
『続きまして、アリュンディス学園からの刺客。セイラルニス選手の入場だよ!』
声と同時に姿を見せたセイラルニスと呼ばれた男の子は……獣人族みたいだ。それも力の強い虎獣人族で、厳つい斧を片手で担いでいた。
「相手は……明らかに近接戦専門って言った感じね」
確か、カイゼルは銃が主要な武装だから……どっちかというとセイラルニスの方が不利に見える。だけど、それを全く感じさせたないのは、それだけセイラルニスも自分の強さに自信を持っているのだろう。
『両者ともに睨み合っております! それじゃガルちゃん、お願いね』
『……よし。結界の魔導具は展開完了だ。それでは両者共に死力を尽くせ』
開始の言葉と同時に動き出したのはカイゼルだった。
外套の方から破裂音が聞こえて、弾が飛んでいくのが見えた。
僅かな魔力を弾の形に凝縮して、小さいながらも高威力の攻撃を行う事ができる魔導銃。当たれば間違いなく致命傷となり得る場所に打ち込まれたが、セイラルニスは持っている戦斧で斬り落とすように防いだ。
彼の早撃ちは中々反応できるものじゃない。それに対して嬉しそうにしているセイラルニスは、かなりの実力の持ち主だろう。
「雪風、どうみる?」
「そうですね……。最初はカイゼルさんが有利なのかと思いましたが、魔導銃の弾速に対応出来るのでしたら、セイラルニスさんの方が有利なのではないかと」
確かに、たった一度のやり取りだけで、カイゼルの飛び道具は、普通に使用してもセイラルニスには通用しない事が証明されている。
その一点だけを見たら、確かにカイゼルが不利に見えるだろう。
「よく見てるけれど……まだまだね」
「エールティア様は違う、と?」
「カイゼルの表情に焦りが一つも見えない。あれだけに頼っているのなら、戸惑いや驚きに染まって、動きが雑になるはず。それがないという事は――」
一旦口を閉ざして、頬杖を突いて改めて画面を見る。相変わらず美しく動く男だ。動作になんの迷いもない。普通なら冷や汗を掻くであろう場面でも、表情一つ変える事なく戦い続けるその姿は、見るものを惹きつける。
セイラルニスの放つ魔導と斬撃の雨を掻い潜りながら、カイゼルは踊りながら隙を狙うように魔弾を放つけれど、そのことごとくが防がれてしまっている。観客の方は既にセイラルニスの勝利を確信している方が大半であり、カイゼルにはあまり興味を示していない。
むしろその目には一点の曇りもない。まるで自らの勝利が揺らぎのないものだと思っているようにも見えた。
大きく局面が動いたのはそれから少し経った時。
しびれを切らしたセイラルニスが魔導でカイゼルの周辺を炎で囲うように走らせ、行動を制限させる。動きを止めざるを得なかったカイゼルの目の前に迫ったセイラルニスは、迷うことなくその斧を振り上げる。
各ごくぉ決めたのか、カイゼルの銃口がセイラルニスの眉間に向けられて、銃弾が発射される。しかしそれはセイラルニスには見切られていて、斧であっさりと弾かれてしまい――その瞬間、セイラルニスの左胸から弾が突き抜けて行った。
『なっ、にぃ……?』
突然の出来事に呆然と言葉を発したセイラルニスに対して、カイゼルは悠然と立っている。そんな彼の手には――二丁の魔導銃が握られていた。
「なるほど」
一丁しか持っていないと思い込ませることで、隠し持っているもう一丁の魔導銃による奇襲が最大限の効果を発揮する……という訳だ。
『そこまで。勝者カイゼル・ベールグ』
『すごい! 一気にカイゼルくんが逆転しました!』
勝利宣言と同時に大きく沸く観客席。カイゼルはさも当然であるかのように堂々と去っていった。
ファリスの時とは違って、多少見応えがあった試合だった。だけど――
「やっぱり、最初から全部を見せるつもりはないってことね」
カイゼルの手の内があれで全部だとは到底思えない。まだ何か隠している事は間違いないだろう。
まあ、それも仕方ないか。ここで全てをさらけ出して、対策を取られる訳にもいかないだろうからね。
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