285 / 676
285・孤高のガンマン
しおりを挟む
闘技場の外に出た私達は適当に売店で食べ物を買って、控え室に戻ってきた。
暇なら一度宿に帰るのもありなんだけど……宿に戻ったところで、会場を見る事ができる魔導具はここにしかない。
ジュールとカイゼルの試合を見たいのなら、ここで見るしかないのだ。
「決闘は……終わっているみたいですね」
雪風の声に魔導具の画面に視線を向けると……シューリアが新しい出場者の名前を呼んでいた。
『さあて、白熱してきたね! 次は……わたしと同じ、ミスタリクス学園出身の、カイゼルくんだよ!』
シューリアの元気の良い声と共に現れたのは、褐色の肌に赤茶色の髪の少年。黒い外套を身に纏っていて、その鍛えられた身体を隠しているようだった。
「あれが、カイゼル・ベールグですか。先程戦っていた者達の印象が吹き飛びそうですね」
雪風が驚くように呟いたそれには同意せざるを得ない。立ち居振る舞いが常人のそれとは違う。鋭い眼光に、今すぐにでも弾けるように行動を起こせそうに見える。
『続きまして、アリュンディス学園からの刺客。セイラルニス選手の入場だよ!』
声と同時に姿を見せたセイラルニスと呼ばれた男の子は……獣人族みたいだ。それも力の強い虎獣人族で、厳つい斧を片手で担いでいた。
「相手は……明らかに近接戦専門って言った感じね」
確か、カイゼルは銃が主要な武装だから……どっちかというとセイラルニスの方が不利に見える。だけど、それを全く感じさせたないのは、それだけセイラルニスも自分の強さに自信を持っているのだろう。
『両者ともに睨み合っております! それじゃガルちゃん、お願いね』
『……よし。結界の魔導具は展開完了だ。それでは両者共に死力を尽くせ』
開始の言葉と同時に動き出したのはカイゼルだった。
外套の方から破裂音が聞こえて、弾が飛んでいくのが見えた。
僅かな魔力を弾の形に凝縮して、小さいながらも高威力の攻撃を行う事ができる魔導銃。当たれば間違いなく致命傷となり得る場所に打ち込まれたが、セイラルニスは持っている戦斧で斬り落とすように防いだ。
彼の早撃ちは中々反応できるものじゃない。それに対して嬉しそうにしているセイラルニスは、かなりの実力の持ち主だろう。
「雪風、どうみる?」
「そうですね……。最初はカイゼルさんが有利なのかと思いましたが、魔導銃の弾速に対応出来るのでしたら、セイラルニスさんの方が有利なのではないかと」
確かに、たった一度のやり取りだけで、カイゼルの飛び道具は、普通に使用してもセイラルニスには通用しない事が証明されている。
その一点だけを見たら、確かにカイゼルが不利に見えるだろう。
「よく見てるけれど……まだまだね」
「エールティア様は違う、と?」
「カイゼルの表情に焦りが一つも見えない。あれだけに頼っているのなら、戸惑いや驚きに染まって、動きが雑になるはず。それがないという事は――」
一旦口を閉ざして、頬杖を突いて改めて画面を見る。相変わらず美しく動く男だ。動作になんの迷いもない。普通なら冷や汗を掻くであろう場面でも、表情一つ変える事なく戦い続けるその姿は、見るものを惹きつける。
セイラルニスの放つ魔導と斬撃の雨を掻い潜りながら、カイゼルは踊りながら隙を狙うように魔弾を放つけれど、そのことごとくが防がれてしまっている。観客の方は既にセイラルニスの勝利を確信している方が大半であり、カイゼルにはあまり興味を示していない。
むしろその目には一点の曇りもない。まるで自らの勝利が揺らぎのないものだと思っているようにも見えた。
大きく局面が動いたのはそれから少し経った時。
しびれを切らしたセイラルニスが魔導でカイゼルの周辺を炎で囲うように走らせ、行動を制限させる。動きを止めざるを得なかったカイゼルの目の前に迫ったセイラルニスは、迷うことなくその斧を振り上げる。
各ごくぉ決めたのか、カイゼルの銃口がセイラルニスの眉間に向けられて、銃弾が発射される。しかしそれはセイラルニスには見切られていて、斧であっさりと弾かれてしまい――その瞬間、セイラルニスの左胸から弾が突き抜けて行った。
『なっ、にぃ……?』
突然の出来事に呆然と言葉を発したセイラルニスに対して、カイゼルは悠然と立っている。そんな彼の手には――二丁の魔導銃が握られていた。
「なるほど」
一丁しか持っていないと思い込ませることで、隠し持っているもう一丁の魔導銃による奇襲が最大限の効果を発揮する……という訳だ。
『そこまで。勝者カイゼル・ベールグ』
『すごい! 一気にカイゼルくんが逆転しました!』
勝利宣言と同時に大きく沸く観客席。カイゼルはさも当然であるかのように堂々と去っていった。
ファリスの時とは違って、多少見応えがあった試合だった。だけど――
「やっぱり、最初から全部を見せるつもりはないってことね」
カイゼルの手の内があれで全部だとは到底思えない。まだ何か隠している事は間違いないだろう。
まあ、それも仕方ないか。ここで全てをさらけ出して、対策を取られる訳にもいかないだろうからね。
暇なら一度宿に帰るのもありなんだけど……宿に戻ったところで、会場を見る事ができる魔導具はここにしかない。
ジュールとカイゼルの試合を見たいのなら、ここで見るしかないのだ。
「決闘は……終わっているみたいですね」
雪風の声に魔導具の画面に視線を向けると……シューリアが新しい出場者の名前を呼んでいた。
『さあて、白熱してきたね! 次は……わたしと同じ、ミスタリクス学園出身の、カイゼルくんだよ!』
シューリアの元気の良い声と共に現れたのは、褐色の肌に赤茶色の髪の少年。黒い外套を身に纏っていて、その鍛えられた身体を隠しているようだった。
「あれが、カイゼル・ベールグですか。先程戦っていた者達の印象が吹き飛びそうですね」
雪風が驚くように呟いたそれには同意せざるを得ない。立ち居振る舞いが常人のそれとは違う。鋭い眼光に、今すぐにでも弾けるように行動を起こせそうに見える。
『続きまして、アリュンディス学園からの刺客。セイラルニス選手の入場だよ!』
声と同時に姿を見せたセイラルニスと呼ばれた男の子は……獣人族みたいだ。それも力の強い虎獣人族で、厳つい斧を片手で担いでいた。
「相手は……明らかに近接戦専門って言った感じね」
確か、カイゼルは銃が主要な武装だから……どっちかというとセイラルニスの方が不利に見える。だけど、それを全く感じさせたないのは、それだけセイラルニスも自分の強さに自信を持っているのだろう。
『両者ともに睨み合っております! それじゃガルちゃん、お願いね』
『……よし。結界の魔導具は展開完了だ。それでは両者共に死力を尽くせ』
開始の言葉と同時に動き出したのはカイゼルだった。
外套の方から破裂音が聞こえて、弾が飛んでいくのが見えた。
僅かな魔力を弾の形に凝縮して、小さいながらも高威力の攻撃を行う事ができる魔導銃。当たれば間違いなく致命傷となり得る場所に打ち込まれたが、セイラルニスは持っている戦斧で斬り落とすように防いだ。
彼の早撃ちは中々反応できるものじゃない。それに対して嬉しそうにしているセイラルニスは、かなりの実力の持ち主だろう。
「雪風、どうみる?」
「そうですね……。最初はカイゼルさんが有利なのかと思いましたが、魔導銃の弾速に対応出来るのでしたら、セイラルニスさんの方が有利なのではないかと」
確かに、たった一度のやり取りだけで、カイゼルの飛び道具は、普通に使用してもセイラルニスには通用しない事が証明されている。
その一点だけを見たら、確かにカイゼルが不利に見えるだろう。
「よく見てるけれど……まだまだね」
「エールティア様は違う、と?」
「カイゼルの表情に焦りが一つも見えない。あれだけに頼っているのなら、戸惑いや驚きに染まって、動きが雑になるはず。それがないという事は――」
一旦口を閉ざして、頬杖を突いて改めて画面を見る。相変わらず美しく動く男だ。動作になんの迷いもない。普通なら冷や汗を掻くであろう場面でも、表情一つ変える事なく戦い続けるその姿は、見るものを惹きつける。
セイラルニスの放つ魔導と斬撃の雨を掻い潜りながら、カイゼルは踊りながら隙を狙うように魔弾を放つけれど、そのことごとくが防がれてしまっている。観客の方は既にセイラルニスの勝利を確信している方が大半であり、カイゼルにはあまり興味を示していない。
むしろその目には一点の曇りもない。まるで自らの勝利が揺らぎのないものだと思っているようにも見えた。
大きく局面が動いたのはそれから少し経った時。
しびれを切らしたセイラルニスが魔導でカイゼルの周辺を炎で囲うように走らせ、行動を制限させる。動きを止めざるを得なかったカイゼルの目の前に迫ったセイラルニスは、迷うことなくその斧を振り上げる。
各ごくぉ決めたのか、カイゼルの銃口がセイラルニスの眉間に向けられて、銃弾が発射される。しかしそれはセイラルニスには見切られていて、斧であっさりと弾かれてしまい――その瞬間、セイラルニスの左胸から弾が突き抜けて行った。
『なっ、にぃ……?』
突然の出来事に呆然と言葉を発したセイラルニスに対して、カイゼルは悠然と立っている。そんな彼の手には――二丁の魔導銃が握られていた。
「なるほど」
一丁しか持っていないと思い込ませることで、隠し持っているもう一丁の魔導銃による奇襲が最大限の効果を発揮する……という訳だ。
『そこまで。勝者カイゼル・ベールグ』
『すごい! 一気にカイゼルくんが逆転しました!』
勝利宣言と同時に大きく沸く観客席。カイゼルはさも当然であるかのように堂々と去っていった。
ファリスの時とは違って、多少見応えがあった試合だった。だけど――
「やっぱり、最初から全部を見せるつもりはないってことね」
カイゼルの手の内があれで全部だとは到底思えない。まだ何か隠している事は間違いないだろう。
まあ、それも仕方ないか。ここで全てをさらけ出して、対策を取られる訳にもいかないだろうからね。
0
お気に入りに追加
160
あなたにおすすめの小説
飯屋の娘は魔法を使いたくない?
秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。
魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。
それを見ていた貴族の青年が…。
異世界転生の話です。
のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。
※ 表紙は星影さんの作品です。
※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。
余命半年のはずが?異世界生活始めます
ゆぃ♫
ファンタジー
静波杏花、本日病院で健康診断の結果を聞きに行き半年の余命と判明…
不運が重なり、途方に暮れていると…
確認はしていますが、拙い文章で誤字脱字もありますが読んでいただけると嬉しいです。
実家が没落したので、こうなったら落ちるところまで落ちてやります。
黒蜜きな粉
ファンタジー
ある日を境にタニヤの生活は変わってしまった。
実家は爵位を剥奪され、領地を没収された。
父は刑死、それにショックを受けた母は自ら命を絶った。
まだ学生だったタニヤは学費が払えなくなり学校を退学。
そんなタニヤが生活費を稼ぐために始めたのは冒険者だった。
しかし、どこへ行っても元貴族とバレると嫌がらせを受けてしまう。
いい加減にこんな生活はうんざりだと思っていたときに出会ったのは、商人だと名乗る怪しい者たちだった。
騙されていたって構わない。
もう金に困ることなくお腹いっぱい食べられるなら、裏家業だろうがなんでもやってやる。
タニヤは商人の元へ転職することを決意する。
【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革
うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。
優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。
家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。
主人公は、魔法・知識チートは持っていません。
加筆修正しました。
お手に取って頂けたら嬉しいです。
初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。
ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。
※短いお話です。
※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。
転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜
家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。
そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?!
しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...?
ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...?
不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。
拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。
小説家になろう様でも公開しております。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる