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283・つまらない遊び(ファリスside)
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『それじゃ、早速最初の試合を始めるよ! まずは……数々の敵を一撃の元に葬り去ってきた少女! ファリス選手の入場です!』
名前を呼ばれ、会場に入場するファリスの心の中に占める感情――それは『退屈』だった。
彼女の上に立っている者達は、優勝させる為にファリスやローランを送り込んだ。だが、それはあくまで彼らの目論みの中だけであり、ファリスにとっては心の底からどうでもいい企みでしかなかった。
彼女にとって魔王祭とは、エールティアと会う為の口実でしか無かった。元々最初から戦えるとも思っていなかったし、出来るならば決勝で最高に盛り上がる戦いをしたいという感情もあった。
しかし、それまでの行程は苦痛そのもの。他の一切に興味のない彼女からしてみれば、路傍の石と同じ無価値でしかなかった。
「はぁ……」
「……ため息吐くほどの余裕があるのか?」
どうでも良さそうなファリスに対して、苛立つ声を上げたのは対戦者であるエグゼスだった。
魔王祭予選を勝ち上がって来た彼は、自分の力にある程度の自信を持っていた。戦いを勝ち抜き、優勝を目指す彼と最初に相対するのは現在注目されている優勝候補の一人。
実力を示す絶好の機会なのだが、肝心のファリスは全く興味がない様子だった。その事に苛立ちを募らせたエグゼスは、剣を持つ手に力が入るのがわかった。
(そっちがその気なら、ぶっ潰してやる……!)
『え、ええと……二人とも、睨み合って気合十分って感じですね! それじゃ、ガルちゃんよろしく!』
異様な雰囲気に包まれている会場に戸惑いながらも、シューリアはガルドラに開始を促した。それと同時に発動された魔導具から、あらゆる致命傷を一度だけ無効化する結界が展開される。
『それでは、両者死力を尽くせ。決闘を開始!』
高らかに開始を宣言したガルドラは、次の瞬間に我を疑う事となる。本気でぶつかろうとしていたエグゼスは、剣を構えて突撃しようとした。
……目の前には、既に誰もいないというのに。
「退屈な男。消えて」
エグゼスは、最後の瞬間まで自分が何をされたのかわからなかった。いや、会場を注視していた大部分も同じだった。
開始と同時に一気にエグゼスの背後に移動し、飛び上がりながら回転を加え、勢いを殺さずに後ろ首を蹴り抜く。
たったそれだけの単純な作業を僅か数秒で行ったのだ。
堂々と立つファリスに対し、エグゼスは会場の壁にぶつかり、痛みと衝撃で気を失っていた。
常人にはエグゼスが勝手に吹き飛んで、壁にめり込んで終わってしまったかのようにしか見えなかった。
だからこそ、どういう反応をすれば良いのかわからず、会場は静寂に包まれてしまった。
そんな事にすら全く興味の無いファリスは、決闘は終わったと宣言するかのように出口の方へと歩き出した。その間、退屈そうな顔を崩す事はなかった。
『け……けっ……決、着ぅぅぅぅ!? 信じられない! え、うそ!』
会場がざわつき始めた頃、正気に戻ったシューリアが我が目を疑うようにファリスとエグゼスを交互に見ていた。
しかし、いくら見比べても事実は変わらず……その場にいた全員がそれを受け入れ飲み込んだ時――会場は大きく騒ぎ出した。
疑問、感激、驚愕――。
あらゆる感情に満ちた会場だったが、ファリスにとってはどうでも良い事だった。
例えどんな言葉を投げかけられても、彼女の心を満たす事はない。空虚のまま、伽藍堂のまま。
「……少しは嬉しそうにしたらどうだ?」
呆れた言葉を投げかけるローランに対し、何の感情を抱いているのかわからない瞳で、ファリスは彼を見つめた。
「あんなどうでもいい勝利を喜べって? 馬鹿な事を言わないでよ。アリを踏み潰して嬉しい年じゃないのよ」
「それ以前だろうに」
「……何か言った?」
「何にも」
エグゼスには何の反応もしなかったファリスだったが、ローランの呟きには苛立ちをもって応じていた。
興味の無い相手――エールティア以外の人物に対して適当に相手をするファリスにとって、それがどれほどの価値を持つのか。その事実に、二人は気づかぬままに。
「わかってると思うが、足を掬われるような事だけはするなよ」
「誰に向かって言ってるの? わたしは……いいえ、わたし達は他の誰にも負けない。それはあなたが一番わかってると思うんだけど」
「わかんないから言ってるんだよ。俺はお前と違って自分の強さを過剰に信じてないからな」
ローランのその言葉に、ファリスの苛立ちは更に募っていく。それは自分と同格では無いにしろ、強者としての自覚がないものに対するものだった。
当然、それに気づかないローランは態度を改める事はない。何度も思い知らされているファリスは、唇を少し噛み締め、怒りを飲み干す。
「はぁ……とりあえず、あなたに言われるまでも無いわ。それに油断するな、なんてもっとマシなのが来るようになってから言いなさい」
話疲れたと言いたげに疲れた表情を浮かべて、ひらひらと片手を振って歩き去るファリス。残されたローランは、まるで苦労人のような顔をしていた。
名前を呼ばれ、会場に入場するファリスの心の中に占める感情――それは『退屈』だった。
彼女の上に立っている者達は、優勝させる為にファリスやローランを送り込んだ。だが、それはあくまで彼らの目論みの中だけであり、ファリスにとっては心の底からどうでもいい企みでしかなかった。
彼女にとって魔王祭とは、エールティアと会う為の口実でしか無かった。元々最初から戦えるとも思っていなかったし、出来るならば決勝で最高に盛り上がる戦いをしたいという感情もあった。
しかし、それまでの行程は苦痛そのもの。他の一切に興味のない彼女からしてみれば、路傍の石と同じ無価値でしかなかった。
「はぁ……」
「……ため息吐くほどの余裕があるのか?」
どうでも良さそうなファリスに対して、苛立つ声を上げたのは対戦者であるエグゼスだった。
魔王祭予選を勝ち上がって来た彼は、自分の力にある程度の自信を持っていた。戦いを勝ち抜き、優勝を目指す彼と最初に相対するのは現在注目されている優勝候補の一人。
実力を示す絶好の機会なのだが、肝心のファリスは全く興味がない様子だった。その事に苛立ちを募らせたエグゼスは、剣を持つ手に力が入るのがわかった。
(そっちがその気なら、ぶっ潰してやる……!)
『え、ええと……二人とも、睨み合って気合十分って感じですね! それじゃ、ガルちゃんよろしく!』
異様な雰囲気に包まれている会場に戸惑いながらも、シューリアはガルドラに開始を促した。それと同時に発動された魔導具から、あらゆる致命傷を一度だけ無効化する結界が展開される。
『それでは、両者死力を尽くせ。決闘を開始!』
高らかに開始を宣言したガルドラは、次の瞬間に我を疑う事となる。本気でぶつかろうとしていたエグゼスは、剣を構えて突撃しようとした。
……目の前には、既に誰もいないというのに。
「退屈な男。消えて」
エグゼスは、最後の瞬間まで自分が何をされたのかわからなかった。いや、会場を注視していた大部分も同じだった。
開始と同時に一気にエグゼスの背後に移動し、飛び上がりながら回転を加え、勢いを殺さずに後ろ首を蹴り抜く。
たったそれだけの単純な作業を僅か数秒で行ったのだ。
堂々と立つファリスに対し、エグゼスは会場の壁にぶつかり、痛みと衝撃で気を失っていた。
常人にはエグゼスが勝手に吹き飛んで、壁にめり込んで終わってしまったかのようにしか見えなかった。
だからこそ、どういう反応をすれば良いのかわからず、会場は静寂に包まれてしまった。
そんな事にすら全く興味の無いファリスは、決闘は終わったと宣言するかのように出口の方へと歩き出した。その間、退屈そうな顔を崩す事はなかった。
『け……けっ……決、着ぅぅぅぅ!? 信じられない! え、うそ!』
会場がざわつき始めた頃、正気に戻ったシューリアが我が目を疑うようにファリスとエグゼスを交互に見ていた。
しかし、いくら見比べても事実は変わらず……その場にいた全員がそれを受け入れ飲み込んだ時――会場は大きく騒ぎ出した。
疑問、感激、驚愕――。
あらゆる感情に満ちた会場だったが、ファリスにとってはどうでも良い事だった。
例えどんな言葉を投げかけられても、彼女の心を満たす事はない。空虚のまま、伽藍堂のまま。
「……少しは嬉しそうにしたらどうだ?」
呆れた言葉を投げかけるローランに対し、何の感情を抱いているのかわからない瞳で、ファリスは彼を見つめた。
「あんなどうでもいい勝利を喜べって? 馬鹿な事を言わないでよ。アリを踏み潰して嬉しい年じゃないのよ」
「それ以前だろうに」
「……何か言った?」
「何にも」
エグゼスには何の反応もしなかったファリスだったが、ローランの呟きには苛立ちをもって応じていた。
興味の無い相手――エールティア以外の人物に対して適当に相手をするファリスにとって、それがどれほどの価値を持つのか。その事実に、二人は気づかぬままに。
「わかってると思うが、足を掬われるような事だけはするなよ」
「誰に向かって言ってるの? わたしは……いいえ、わたし達は他の誰にも負けない。それはあなたが一番わかってると思うんだけど」
「わかんないから言ってるんだよ。俺はお前と違って自分の強さを過剰に信じてないからな」
ローランのその言葉に、ファリスの苛立ちは更に募っていく。それは自分と同格では無いにしろ、強者としての自覚がないものに対するものだった。
当然、それに気づかないローランは態度を改める事はない。何度も思い知らされているファリスは、唇を少し噛み締め、怒りを飲み干す。
「はぁ……とりあえず、あなたに言われるまでも無いわ。それに油断するな、なんてもっとマシなのが来るようになってから言いなさい」
話疲れたと言いたげに疲れた表情を浮かべて、ひらひらと片手を振って歩き去るファリス。残されたローランは、まるで苦労人のような顔をしていた。
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