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280・予想以上の国
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「寒い」
魔王祭本選が開かれる国――マデロームのワイバーン発着場に降り立った私が最初に放った一言がそれだった。
「……そうですね。流石にノースト地方と言われるだけはあります」
「どうせなら、ビーリラやペストラの月に来たかったわね」
ワイバーンでノースト地方に入ってからずっと思っていたけれど、流石にちょっと寒すぎるんじゃないだろうか? 動きに支障が出るほどじゃないけれど、私以外だったらわからないくらいの気温だ。
現に雪風は――
「……? どうされました?」
「……いいえ、なんでもない」
――むしろ私以上に平常心を保っているようで驚いた。流石戦闘民族とも言われている種族だ。鬼人族はサウエス地方と同じ、南の方にしかいないのに……よく寒さに強くなれるものだと感心する。
やっぱり冬着の準備をして正解だった。いつものドレス姿じゃ、流石に寒い。中継都市に寄った時に雪国仕様のもこもこコートを着てワイバーンに乗った甲斐があったというものだ。それでも顔が寒いけど。
「よく彼らは元気に動けているわね」
ワイバーン発着場で働いているドワーフ族の男性が片手で荷物を担いで、意気揚々と運んでいる。明らかに私達よりも薄着なのに、どうしてあんな風に元気でいられるのだろう?
「ここの地方のドワーフ族は酒を飲んで身体の体温を上げているらしいですよ。元々この地域に根付いている人種ですから、適応するように変化していったのでしょう」
なるほど。確かに、同じ種族でも、中央や他の地方にいるドワーフ族はこの寒さには弱いだろう。人というのは、環境に適応するように作られているのだと、この地方のドワーフ族は教えてくれたという事だ。
……なんてちょっと格好良い風に考えてみたけれど、あの筋肉ムキムキに何か教えられたと思うと、あまり釈然としないけど。
「そんな顔をされて……どうされましたか?」
「なんでもない」
どうやら、変な顔をしていたようだ。雪風に心配そうに尋ねられた。
「それよりも……早く宿を取りましょう。ここで立っていても仕方ないしね」
前回――去年は学園での行事の一環だったし、先にエンドラル学園に話を通していたから寮の一部を借りる事が出来た。だけど今回は私が一人。もちろん、この国の学園――ヒュワード学園にも何も伝えていない。
そうなれば当然、宿を抑える必要があるだろう。時間があれば同じようにドワーフ族と魔人族が共存しているエンドラガン王国にも行ってみたいものだけど……流石にそれは無理そうだしね。
「わかりました。それでは、参りましょうか」
いつの間にか地図を広げて、王都の構造を確かめている雪風は、当然のように歩き始めていた。
というか、本当にいつの間にあんなものを手に入れたんだろう……?
――
王都ガンスラッドの街並みは、中央やサウエス地方のそれとは建設様式が違うようだ。
レンガを使った建築物が結構多くて、ちらほらと降る白い雪とのコントラストがより綺麗に見える。
「サウエス地方とは全く違う街並み、景色……本当に真新しい物が多くて綺麗……」
「そうですね。この寒さも風情があっていいですね。……あ、着きました」
雪風の案内のおかげで、無事に宿街に辿り着いた私達は……とりあえずそれなりに綺麗で、私がいても不思議じゃない宿を選んで入る事にした。貴族という身なりなのだから、あまり庶民的な宿を選んでしまうと、万が一他の貴族達に見つけられると面倒な事になる。
そんな厄介事から遠ざかる為の選択だったんだけど――
「あれ? エールティア姫殿下ではないですか」
そこにいたのはオルキアだった。相変わらず見慣れた――いや、いつものよりも厚手になってる決闘官の服を着こんでいる。
「貴女は――オルキアね。久しぶり」
「覚えていただいて光悦至極でございます」
相変わらず妙に胡散臭い感じがするけれど、彼女は誰にでもああいう風に接するのだろう。それに……特に悪意を感じる事はない。でも他のは感じるから、少なくとも好意は持ってくれているようだ。
「今回の決闘官は貴女が?」
「ええ。ワタシもドワーフ族の技術が気になりましてね。それに……今回は粒揃いが多いみたいですから、直接見たいと思っていました」
にやーっと笑う彼女が本当にそんな風に思っているかはわからないけど……とりあえずそのまま受け取る事にしよう。
それよりも彼女の決闘官としての力は確かだし、ある意味安心していいだろう。
「エールティア姫殿下。貴女のことも、ワタシ興味があります。今度一緒にお茶でもいかがでしょうか?」
「……そうね。誘って頂けるのなら、応じる事もやぶさかではないわ」
「ああ、よかった。それでは、その時を楽しみにしておりますね」
仰々しい仕草で礼をした彼女は、そのまま部屋に案内されていった。どうやら、彼女もここに泊まるらしい。
「……相変わらず、何を考えているかわからない御仁でしたね」
「そうね。悪い子じゃないんだろうけど……」
もう少し態度や口調が違えば、可愛らしく見えるのに……性格で損をしているタイプなのだろう。
魔王祭本選が開かれる国――マデロームのワイバーン発着場に降り立った私が最初に放った一言がそれだった。
「……そうですね。流石にノースト地方と言われるだけはあります」
「どうせなら、ビーリラやペストラの月に来たかったわね」
ワイバーンでノースト地方に入ってからずっと思っていたけれど、流石にちょっと寒すぎるんじゃないだろうか? 動きに支障が出るほどじゃないけれど、私以外だったらわからないくらいの気温だ。
現に雪風は――
「……? どうされました?」
「……いいえ、なんでもない」
――むしろ私以上に平常心を保っているようで驚いた。流石戦闘民族とも言われている種族だ。鬼人族はサウエス地方と同じ、南の方にしかいないのに……よく寒さに強くなれるものだと感心する。
やっぱり冬着の準備をして正解だった。いつものドレス姿じゃ、流石に寒い。中継都市に寄った時に雪国仕様のもこもこコートを着てワイバーンに乗った甲斐があったというものだ。それでも顔が寒いけど。
「よく彼らは元気に動けているわね」
ワイバーン発着場で働いているドワーフ族の男性が片手で荷物を担いで、意気揚々と運んでいる。明らかに私達よりも薄着なのに、どうしてあんな風に元気でいられるのだろう?
「ここの地方のドワーフ族は酒を飲んで身体の体温を上げているらしいですよ。元々この地域に根付いている人種ですから、適応するように変化していったのでしょう」
なるほど。確かに、同じ種族でも、中央や他の地方にいるドワーフ族はこの寒さには弱いだろう。人というのは、環境に適応するように作られているのだと、この地方のドワーフ族は教えてくれたという事だ。
……なんてちょっと格好良い風に考えてみたけれど、あの筋肉ムキムキに何か教えられたと思うと、あまり釈然としないけど。
「そんな顔をされて……どうされましたか?」
「なんでもない」
どうやら、変な顔をしていたようだ。雪風に心配そうに尋ねられた。
「それよりも……早く宿を取りましょう。ここで立っていても仕方ないしね」
前回――去年は学園での行事の一環だったし、先にエンドラル学園に話を通していたから寮の一部を借りる事が出来た。だけど今回は私が一人。もちろん、この国の学園――ヒュワード学園にも何も伝えていない。
そうなれば当然、宿を抑える必要があるだろう。時間があれば同じようにドワーフ族と魔人族が共存しているエンドラガン王国にも行ってみたいものだけど……流石にそれは無理そうだしね。
「わかりました。それでは、参りましょうか」
いつの間にか地図を広げて、王都の構造を確かめている雪風は、当然のように歩き始めていた。
というか、本当にいつの間にあんなものを手に入れたんだろう……?
――
王都ガンスラッドの街並みは、中央やサウエス地方のそれとは建設様式が違うようだ。
レンガを使った建築物が結構多くて、ちらほらと降る白い雪とのコントラストがより綺麗に見える。
「サウエス地方とは全く違う街並み、景色……本当に真新しい物が多くて綺麗……」
「そうですね。この寒さも風情があっていいですね。……あ、着きました」
雪風の案内のおかげで、無事に宿街に辿り着いた私達は……とりあえずそれなりに綺麗で、私がいても不思議じゃない宿を選んで入る事にした。貴族という身なりなのだから、あまり庶民的な宿を選んでしまうと、万が一他の貴族達に見つけられると面倒な事になる。
そんな厄介事から遠ざかる為の選択だったんだけど――
「あれ? エールティア姫殿下ではないですか」
そこにいたのはオルキアだった。相変わらず見慣れた――いや、いつものよりも厚手になってる決闘官の服を着こんでいる。
「貴女は――オルキアね。久しぶり」
「覚えていただいて光悦至極でございます」
相変わらず妙に胡散臭い感じがするけれど、彼女は誰にでもああいう風に接するのだろう。それに……特に悪意を感じる事はない。でも他のは感じるから、少なくとも好意は持ってくれているようだ。
「今回の決闘官は貴女が?」
「ええ。ワタシもドワーフ族の技術が気になりましてね。それに……今回は粒揃いが多いみたいですから、直接見たいと思っていました」
にやーっと笑う彼女が本当にそんな風に思っているかはわからないけど……とりあえずそのまま受け取る事にしよう。
それよりも彼女の決闘官としての力は確かだし、ある意味安心していいだろう。
「エールティア姫殿下。貴女のことも、ワタシ興味があります。今度一緒にお茶でもいかがでしょうか?」
「……そうね。誘って頂けるのなら、応じる事もやぶさかではないわ」
「ああ、よかった。それでは、その時を楽しみにしておりますね」
仰々しい仕草で礼をした彼女は、そのまま部屋に案内されていった。どうやら、彼女もここに泊まるらしい。
「……相変わらず、何を考えているかわからない御仁でしたね」
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もう少し態度や口調が違えば、可愛らしく見えるのに……性格で損をしているタイプなのだろう。
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