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277・困った襲来者
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「いやー、エールティアちゃん、すごくつよかったね! びゅびゅびゅ! って音がしたかと思うと、ひゅんひゅん! て避けて――」
魔王祭予選が終わって数日。別荘を訪れていたニュンターが身振り手振りであの時の決闘を熱く語ってくれていた。どうやらあの戦いが気に入ったようで、来るたびにこの話で盛り上がっていた。
それ自体がかなり微笑ましくて、私の方もうんうんと頷きながら聞いていた。
魔王祭本選が始まるまでの穏やかな時間。心を落ち着かせる大切なひと時というものは、唐突に崩れるものだ。そう、それはちょうど……扉を叩いて来訪者を告げた女性の使用人の不安そうな顔と一緒に。
「……どうしたの?」
「はい。ええっと……エールティア殿下にどうしてもお目通りをと仰られるお方がいらっしゃっておりまして……雪風様が対応されているのですが……」
どうにも歯切れの悪い話し方で目を左右に泳がせている。どういう風に説明したらいいのか、頭の中で考えが纏まってないのだろう。という事は、それだけの大物――地位の高い者がやってきたということだ。
……それだけで大体どんな人物がやってきたのかはわかる。だけど、確証がない状態で物事を進めるのはあまりよろしくない。特に、重要な案件になるかもしれない事なら尚更だ。
「落ち着きなさい」
慌てていた使用人を宥めるように、なるべく優し気な表情を作って接する事にした。
いつもなら色々と賑やかなニュンターも、今ばかりは気を遣っているのか、じーっと
「ほら、深呼吸して」
「……すー……はー……すー、はー」
「少しでも落ち着いたなら、ゆっくり話しなさい」
「……はい。クァータ外交官がエールティア殿下にお目通りを願いたい……と」
やっぱり……というか、予想していた通りで気が抜けてしまう。
大方、あまりにもニュンターが入り浸っているから、強硬な手段に訴えたのだろう。本人が直接乗り込んでくれば、私の方も無下にすることは出来ない。
「あたしがいるのにー」
クァータの存在に反応して、ぶすくれた表情を浮かべたニュンターだけど、こればっかりはどうにもならない。外交官とは、いわば国の顔の一つだ。これを適当な扱いをして追い出したとなれば、間違いなくディエダムの顔を汚したとして揉め事に発展する事になる。
なりたいとは言ってないのだけれど、王太子として次期女王の地位を確立しつつある今、彼を無視するのはよろしくない。
「……仕方ないわね。今はニュンター女王陛下もいらしています。陛下とのお話が終わってから改めてお話をしましょう、と伝えておいてくれる?」
「その……よろしいのですか?」
彼女は不安そうな声を上げるけれど、私はそれに力強く頷き返した。
ここで外交官側を優先するということは、ニュンター側――フェリシューアに泥を塗る事に繋がりかねない。
「国の君主と国の使い――どっちの位が高いかわからない人ではないでしょう」
ティリアースはディエダムとも、フェリシューアとも対等に付き合う。ルティエル女王陛下はサウエス地方の国々を大切にしているが、決して安易に優遇はしていない。
その意思表示を私もしっかりとしなければならない。だからこそ、クァータ外交官は後回しにする。
「かしこまりました」
頭を下げて部屋を後にする使用人の女性を見送って……思わずため息を漏らしてしまう。本来なら、女王陛下がいらっしゃるこの場に来る事自体が間違いなのだが……流石にニュンターにも多少の非はあるからなんとも言えない。
毎日のように私の館に顔を見せにきているものだから、クァータ側も何も行動を起こせない。それが溜まった結果だろう。
「……いくの?」
「行かないと、いつまで経ってもいるでしょうね。それに……この事を周辺の国に広められては、厄介な事になる」
「でもそれは、向こうが私がいるのに――!」
少しずつ声のトーンが大きくなっていくニュンターの唇に人差し指を当てて、優しく塞ぐ。
それだけでニュンターは意図を汲んでくれたのか、不満げな表情のままだけど静かにしてくれた。
「それでも、ディエダム側から不当な扱いを受けたと抗議が上がれば、私や……最悪、貴女の方にも責が行くことになるかもしれない」
「そんなこと――」
「いえ、クァータ外交官の説明の仕方次第で十分に可能でしょう。フェリシューアはディエダムとティリアースの関係が深まるのを恐れて、毎日のように来訪し、外交官を近寄らせなかった――そう言われてしまえば、全ては終わりです」
それでも納得出来ないと言いたげなニュンターにアリェンは相変わらずの表情で当然そうなる、と言うかのように語っていた。
「んもう! わかった! わかったよ!」
ニュンターは微妙に不満が残る顔をしているけれど、何を言っても無駄だと言う事は理解してくれたみたいだ。
ぶつぶつと小声で文句は言ってるけれど、シュニアに慰めてもらっていた。
……とりあえず、ニュンターからも許可をもらった事だし、クァータ外交官と会ってみる事にしよう。
こんな困ったことをしてくれた男と会うのは嫌だけど……仕方がないだろう。
魔王祭予選が終わって数日。別荘を訪れていたニュンターが身振り手振りであの時の決闘を熱く語ってくれていた。どうやらあの戦いが気に入ったようで、来るたびにこの話で盛り上がっていた。
それ自体がかなり微笑ましくて、私の方もうんうんと頷きながら聞いていた。
魔王祭本選が始まるまでの穏やかな時間。心を落ち着かせる大切なひと時というものは、唐突に崩れるものだ。そう、それはちょうど……扉を叩いて来訪者を告げた女性の使用人の不安そうな顔と一緒に。
「……どうしたの?」
「はい。ええっと……エールティア殿下にどうしてもお目通りをと仰られるお方がいらっしゃっておりまして……雪風様が対応されているのですが……」
どうにも歯切れの悪い話し方で目を左右に泳がせている。どういう風に説明したらいいのか、頭の中で考えが纏まってないのだろう。という事は、それだけの大物――地位の高い者がやってきたということだ。
……それだけで大体どんな人物がやってきたのかはわかる。だけど、確証がない状態で物事を進めるのはあまりよろしくない。特に、重要な案件になるかもしれない事なら尚更だ。
「落ち着きなさい」
慌てていた使用人を宥めるように、なるべく優し気な表情を作って接する事にした。
いつもなら色々と賑やかなニュンターも、今ばかりは気を遣っているのか、じーっと
「ほら、深呼吸して」
「……すー……はー……すー、はー」
「少しでも落ち着いたなら、ゆっくり話しなさい」
「……はい。クァータ外交官がエールティア殿下にお目通りを願いたい……と」
やっぱり……というか、予想していた通りで気が抜けてしまう。
大方、あまりにもニュンターが入り浸っているから、強硬な手段に訴えたのだろう。本人が直接乗り込んでくれば、私の方も無下にすることは出来ない。
「あたしがいるのにー」
クァータの存在に反応して、ぶすくれた表情を浮かべたニュンターだけど、こればっかりはどうにもならない。外交官とは、いわば国の顔の一つだ。これを適当な扱いをして追い出したとなれば、間違いなくディエダムの顔を汚したとして揉め事に発展する事になる。
なりたいとは言ってないのだけれど、王太子として次期女王の地位を確立しつつある今、彼を無視するのはよろしくない。
「……仕方ないわね。今はニュンター女王陛下もいらしています。陛下とのお話が終わってから改めてお話をしましょう、と伝えておいてくれる?」
「その……よろしいのですか?」
彼女は不安そうな声を上げるけれど、私はそれに力強く頷き返した。
ここで外交官側を優先するということは、ニュンター側――フェリシューアに泥を塗る事に繋がりかねない。
「国の君主と国の使い――どっちの位が高いかわからない人ではないでしょう」
ティリアースはディエダムとも、フェリシューアとも対等に付き合う。ルティエル女王陛下はサウエス地方の国々を大切にしているが、決して安易に優遇はしていない。
その意思表示を私もしっかりとしなければならない。だからこそ、クァータ外交官は後回しにする。
「かしこまりました」
頭を下げて部屋を後にする使用人の女性を見送って……思わずため息を漏らしてしまう。本来なら、女王陛下がいらっしゃるこの場に来る事自体が間違いなのだが……流石にニュンターにも多少の非はあるからなんとも言えない。
毎日のように私の館に顔を見せにきているものだから、クァータ側も何も行動を起こせない。それが溜まった結果だろう。
「……いくの?」
「行かないと、いつまで経ってもいるでしょうね。それに……この事を周辺の国に広められては、厄介な事になる」
「でもそれは、向こうが私がいるのに――!」
少しずつ声のトーンが大きくなっていくニュンターの唇に人差し指を当てて、優しく塞ぐ。
それだけでニュンターは意図を汲んでくれたのか、不満げな表情のままだけど静かにしてくれた。
「それでも、ディエダム側から不当な扱いを受けたと抗議が上がれば、私や……最悪、貴女の方にも責が行くことになるかもしれない」
「そんなこと――」
「いえ、クァータ外交官の説明の仕方次第で十分に可能でしょう。フェリシューアはディエダムとティリアースの関係が深まるのを恐れて、毎日のように来訪し、外交官を近寄らせなかった――そう言われてしまえば、全ては終わりです」
それでも納得出来ないと言いたげなニュンターにアリェンは相変わらずの表情で当然そうなる、と言うかのように語っていた。
「んもう! わかった! わかったよ!」
ニュンターは微妙に不満が残る顔をしているけれど、何を言っても無駄だと言う事は理解してくれたみたいだ。
ぶつぶつと小声で文句は言ってるけれど、シュニアに慰めてもらっていた。
……とりあえず、ニュンターからも許可をもらった事だし、クァータ外交官と会ってみる事にしよう。
こんな困ったことをしてくれた男と会うのは嫌だけど……仕方がないだろう。
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