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276・否定する力
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雪風の放つ【無音天鈴】は例えるなら透明な感じだ。無音になって、その後に響く鈴の音の清らかさと美しさ。
そして……最後に襲い掛かってくる無数の斬撃。物理と魔導の合わせ技のような奥義に、私も感嘆のため息を吐くほどだ。
よく、ここまでの力を見せてくれたと思う。今目の前に広がる光景は、正に雪風のみが為せる技だと言えるだろう。
残念なのは……この感謝の気持ちを彼女に直接伝える事が出来ない事だ。
だから、せめて彼女の技に報いる事に決めた。
そして……彼女と私の差を思い知らせる。この一撃で。
「【人造命剣・ミディナルーネ】」
久しぶりに呼び出した私の人造命具。それは漆黒の剣。他人はこれを禍々しいなんて言うけれど、私に言わせればこの剣は虚しさを秘めている。他には誰もいない、寄り添う事を許さない孤高の頂点。それがこの剣だ。
「久しぶりね。私の人造命具」
転生してからは、この剣を呼び出す事はなかった。そもそもそこまでする必要がなかった……というのもあるけど。
「さあ、その全てを否定しなさい。【ミディナルーネ】」
名前を呼ばれた剣は、応えるかのように脈動する。迫り来る無数の斬撃に向かって、ミディナルーネを一振り。それだけで雪風の構築した空間は跡形もなく消し飛んだ。
「こ、こんな事……っ」
そして姿を見せるのは、驚愕の表情を浮かべている雪風。余程自信がある技だったのだろう。可愛らしく激しい動揺を見せてくれる雪風に、愛おしさすら感じる。
ほんの僅かな瞬間。だけど、それは致命的な隙になった。
迫り来る私への反応が一瞬遅れ……いとも容易くその左胸を貫いた。
「がっ……く、う……!」
だけどそこで諦めないのがまた彼女らしい。心臓を僅かに逸れたのだろう。致命的な傷を負いながら、刀を振り下ろしてきた。
もし、これが万全な状態からの一撃なら、私に傷を負わせる事が出来ただろう。それだけの至近距離。だが、彼女が諦めないことくらい織り込み済みだ。
「【イグニアンクス】」
雪風を貫いた剣をすぐさま引き抜き、回避すると同時に魔導を解き放つ。雪風の周囲に炎が巻き起こり、発動者の姿を模した炎の人形を象っていく。完成したソレは、雪風に抱きつくと……一気に本性を現す。
跡形も無く焼き払おうとする為の炎の柱が立った後……そこにはいたるところが焼けている雪風が姿を表した。
決闘官の魔導が発動していない所を見ると、まだ死んではいないようだ。ここまで来たら、死んだ方が身体に傷が残らずに癒えるだろうに。
魔力というのは、薄い膜のように身体に張り巡らせて守る事も出来る。魔導として発動するわけじゃないから大した効果は期待出来ないけれど、最低限身を守る事が出来るという訳だ。
……それでも、魔人族や獣人族だったら終わっていただろう。鬼人族という生命力が為せる技なのかもしれない。
「……くっ……あ……」
もう言葉を口にする事も出来ないのだろう。それでも戦意を失わないのは流石だ。こんな子が私の下に付いているのだから、頼もしく感じる。
だからこそ、しっかりと止めを差してあげないといけない。中途半端に決闘を終わらせたら可哀想だからね。
「雪風。貴女はよく戦ったわ。だから……最後は私の手で、ね」
止めとばかりにミディナルーネを突き立てる。動きの鈍い彼女の命を絶つことなど、私には造作もないことだ。その瞬間に結界が発動して、その死もなかったことになって……私が彼女に突き立てた刃は、脇をすり抜けて地面に刺さった事になっていた。
相変わらずすごい魔導具だ。そんなに広くない効果範囲に少なくない魔力。そして、人数制限。それを補って余りある程の効果を与えてくれる。
……それでも、あの平原での決闘を考えたら感動が薄くなるんだけどね。あれは、魔力量の多い人材を大量に投入して作り出した結界だから、魔王祭のように毎年使うなんて出来ないだろうけどね。
聞いた話では、決闘委員会に所属している人の半数が動けなくなったって聞いてる。あれは本当に特別な例外なのだろう。
『……け、けけけ、決着ぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!』
呆然としていた司会が机を叩いて勢い良く立ち上がって叫んでいた。
それと同時に同じように茫然自失となっていた観客にも声が戻り、割れんばかりの歓声が響き渡る。
『雪風選手の怒涛の攻めを鮮やかに躱し、強烈な一撃を叩きこんだエールティア選手!! あれほどの攻撃を全て避け、強者の実力を見せつけたその姿は、まさに王者の風格! これこそティリアースの次期女王!!』
なんだか凄く感動した! とでもいうかのように、次々と言葉を垂れ流してるけど……まあ、そんなことはどうでもいいか。
改めて雪風の方に視線を移すと、彼女は普段以上に私を尊敬しているような眼差しを向けていた。
こういう時、普通なら悔しさとか無力感とか……そういう負の感情を抱くと思うんだけど……。
きっと、それだけ慕われているって事なんだろう。ちょっと気恥ずかしくなってくるけれど、悪い気分じゃない。
……あまり過剰に尊敬されても、それはそれで重荷になるから、適度に駄目なところも見せないとダメかも知れない。いや……見せてるはずなんだけどなぁ。
そして……最後に襲い掛かってくる無数の斬撃。物理と魔導の合わせ技のような奥義に、私も感嘆のため息を吐くほどだ。
よく、ここまでの力を見せてくれたと思う。今目の前に広がる光景は、正に雪風のみが為せる技だと言えるだろう。
残念なのは……この感謝の気持ちを彼女に直接伝える事が出来ない事だ。
だから、せめて彼女の技に報いる事に決めた。
そして……彼女と私の差を思い知らせる。この一撃で。
「【人造命剣・ミディナルーネ】」
久しぶりに呼び出した私の人造命具。それは漆黒の剣。他人はこれを禍々しいなんて言うけれど、私に言わせればこの剣は虚しさを秘めている。他には誰もいない、寄り添う事を許さない孤高の頂点。それがこの剣だ。
「久しぶりね。私の人造命具」
転生してからは、この剣を呼び出す事はなかった。そもそもそこまでする必要がなかった……というのもあるけど。
「さあ、その全てを否定しなさい。【ミディナルーネ】」
名前を呼ばれた剣は、応えるかのように脈動する。迫り来る無数の斬撃に向かって、ミディナルーネを一振り。それだけで雪風の構築した空間は跡形もなく消し飛んだ。
「こ、こんな事……っ」
そして姿を見せるのは、驚愕の表情を浮かべている雪風。余程自信がある技だったのだろう。可愛らしく激しい動揺を見せてくれる雪風に、愛おしさすら感じる。
ほんの僅かな瞬間。だけど、それは致命的な隙になった。
迫り来る私への反応が一瞬遅れ……いとも容易くその左胸を貫いた。
「がっ……く、う……!」
だけどそこで諦めないのがまた彼女らしい。心臓を僅かに逸れたのだろう。致命的な傷を負いながら、刀を振り下ろしてきた。
もし、これが万全な状態からの一撃なら、私に傷を負わせる事が出来ただろう。それだけの至近距離。だが、彼女が諦めないことくらい織り込み済みだ。
「【イグニアンクス】」
雪風を貫いた剣をすぐさま引き抜き、回避すると同時に魔導を解き放つ。雪風の周囲に炎が巻き起こり、発動者の姿を模した炎の人形を象っていく。完成したソレは、雪風に抱きつくと……一気に本性を現す。
跡形も無く焼き払おうとする為の炎の柱が立った後……そこにはいたるところが焼けている雪風が姿を表した。
決闘官の魔導が発動していない所を見ると、まだ死んではいないようだ。ここまで来たら、死んだ方が身体に傷が残らずに癒えるだろうに。
魔力というのは、薄い膜のように身体に張り巡らせて守る事も出来る。魔導として発動するわけじゃないから大した効果は期待出来ないけれど、最低限身を守る事が出来るという訳だ。
……それでも、魔人族や獣人族だったら終わっていただろう。鬼人族という生命力が為せる技なのかもしれない。
「……くっ……あ……」
もう言葉を口にする事も出来ないのだろう。それでも戦意を失わないのは流石だ。こんな子が私の下に付いているのだから、頼もしく感じる。
だからこそ、しっかりと止めを差してあげないといけない。中途半端に決闘を終わらせたら可哀想だからね。
「雪風。貴女はよく戦ったわ。だから……最後は私の手で、ね」
止めとばかりにミディナルーネを突き立てる。動きの鈍い彼女の命を絶つことなど、私には造作もないことだ。その瞬間に結界が発動して、その死もなかったことになって……私が彼女に突き立てた刃は、脇をすり抜けて地面に刺さった事になっていた。
相変わらずすごい魔導具だ。そんなに広くない効果範囲に少なくない魔力。そして、人数制限。それを補って余りある程の効果を与えてくれる。
……それでも、あの平原での決闘を考えたら感動が薄くなるんだけどね。あれは、魔力量の多い人材を大量に投入して作り出した結界だから、魔王祭のように毎年使うなんて出来ないだろうけどね。
聞いた話では、決闘委員会に所属している人の半数が動けなくなったって聞いてる。あれは本当に特別な例外なのだろう。
『……け、けけけ、決着ぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!』
呆然としていた司会が机を叩いて勢い良く立ち上がって叫んでいた。
それと同時に同じように茫然自失となっていた観客にも声が戻り、割れんばかりの歓声が響き渡る。
『雪風選手の怒涛の攻めを鮮やかに躱し、強烈な一撃を叩きこんだエールティア選手!! あれほどの攻撃を全て避け、強者の実力を見せつけたその姿は、まさに王者の風格! これこそティリアースの次期女王!!』
なんだか凄く感動した! とでもいうかのように、次々と言葉を垂れ流してるけど……まあ、そんなことはどうでもいいか。
改めて雪風の方に視線を移すと、彼女は普段以上に私を尊敬しているような眼差しを向けていた。
こういう時、普通なら悔しさとか無力感とか……そういう負の感情を抱くと思うんだけど……。
きっと、それだけ慕われているって事なんだろう。ちょっと気恥ずかしくなってくるけれど、悪い気分じゃない。
……あまり過剰に尊敬されても、それはそれで重荷になるから、適度に駄目なところも見せないとダメかも知れない。いや……見せてるはずなんだけどなぁ。
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