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247・未熟な聖黒スライム①(ジュールside)
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「凄い音ですね。ティア様がご無事なら良いのですけど……」
エールティアが兵士達と交戦を開始してしばらく経った時。リュネー、ジュール、雪風の三人は大きく迂回するようにアルティーナの所を目指していた。
「大丈夫。ティアちゃんはずっと強いから。それにこんなに地面が揺れるほどの魔導を使ってるんだもの。問題ないよ」
不安そうなジュールに対し、リュネーは安心させるように軽い口調で言った。それは確固たる信頼といっても良いだろう。
出会って僅か一年。だが、その時間を濃厚に過ごして来たのは間違いなかった。
だからこそ、目的地を目指して走る事が出来る。
「そう、ですね。私達のティア様は、そう簡単にやられませんよね」
「僕達は自身の役目を全うする。そうして主のお役に立つ事が出来る」
「……そうでしょうか? そんな簡単なものではないのではなくて?」
声のする方――前方から、紫色の髪と目をした少女が姿を見せた。突然現れた敵に、三者がそれぞれの武器を手に持って構えて立ち止まる。
無闇に突っ込むのは三流。それはエールティアがたまに行う戦闘訓練で嫌と言うほど叩き込まれた経験が生きていた。
「どなたですか?」
「無粋ですわね。名を聞くのなら、先に名乗るのが道理ではなくて?」
「……ジュールです」
「リュネー・シルケット」
「雪風・桜咲と申します」
あっさり言い返された三人は、思わず普通に挨拶を返してしまう。ここで卑怯な相手であれば、攻撃されても不思議ではなかったのだが、幸いにも彼女達の前に立つ少女はそうではなかった。
「私はスキュス。貴女達を始末しに参りました」
「……たった一人で私達を、ですか」
「あら、不服だと言いたげですわね。自信があるのはよろしいですが、過剰なのはあまり感心しませんね」
警戒心を強める三人に対して、スキュスは優雅に腰のホルダーから鞭を取り出した。先端に刃が付いているところから、これが戦闘用だと窺い知れる。
「さあ……行きますわよ!」
中距離まで詰めたスキュスは、ジュールに向かって鞭を振り下ろす。それはしなやかに動き、蛇のように動きながら襲いかかってくる。
「……くっ!」
慣れない鞭の動きに戸惑いながら、なんとか避けて距離を詰めようとするが――
「【イービルスフィア】」
それを見越したスキュスは、同じように距離を取りながら魔導を解き放つ。三人とスキュスの間に大きな闇色の球体が出現する。それが周囲に黒い波動を拡散させて、触れた物を吹き飛ばしていた。
「これじゃ、近づけないね」
「でも……」
三人には【イービルスフィア】の影響が強いが、発動者本人であるスキュスには全く影響を及ぼしていない。スキュスが闇色の球体の近くにいるせいで、近距離戦を行う事がほとんど不可能に近くなってしまった。
「任せてください! 【ウォータープレス】!」
ジュールの魔導によって、スキュスの頭上に大きな水の塊が出現する。それがまっすぐ下に落ちて、発動中の【イービルスフィア】に衝突。二つが同時に消滅し、スキュスを守っていた魔導が消え去った。
「ふふ、中々やりますわね」
「近接戦なら僕の出番です!」
二つの魔導がぶつかる直前。雪風は『風阿』を抜いて走り出していた。必ずジュールがどうにかしてくれる――その信頼を表しているかのように。
「これで――」
「面白くなってきましたわ」
楽しそうに微笑むスキュスの顔には、距離を詰められたことによる焦りは微塵もなかった。
むしろ、戦いそのものを愉しんでいる様子すらある。
雪風はそれに迷うことなく刃を振るうと――なんの抵抗もなくスキュスの身体を通り抜けてしまった。
「……! 手応えがない……!?」
「あら残念。外れですわ」
スキュスの声が聞こえたと同時に、雪風は何かに当たったかのように弾き飛ばされてしまった。
「雪風!?」
「なっ……なにがっ……」
予期しないところから受けた攻撃に戸惑っている雪風に向かって、スキュスは更なる攻撃を重ねていく。
スキュス自身の姿は見えている。だが時折、鞭の軌道とは全く違う場所から攻撃が飛んでくる。
辛うじてそれを察知し、躱したところで、魔導も攻撃もスキュスの身体を通り過ぎていってしまう。
不慣れな戦い。見えない攻撃。当たらない斬撃。そのどれもが、彼女達の精神を消耗させるのには十分だった。
「これじゃ……!」
「ジリ貧ですね。見えない敵。これほど厄介なものとは……だけど、僕は……!」
「ちょっと待ってて……もう少し……」
雪風が闘志を燃やし、ジュールが弱気になっている中、リュネーは何か考えを巡らせているようだった。
「ふふっ、無駄ですわ。【ダメージサンクチュアリ】!」
三人の反撃を許さないと言うかのように、スキュスは更なる魔導を発動させる。それと同時に地面が黒く染まり、怪しげな赤紫のもやも立ち込め、不気味な雰囲気に変わっていった。
「な、なにこれ……?」
「なにか……嫌な感じがします……」
「さあ、第二ラウンドの開始と行きましょう。もっと私を楽しませてちょうだい」
怪しげな笑みと共に、スキュスはゆっくりと歩きだす。
それは自らの勝利を確信している者の微笑み。圧倒的強者だと思っている者の姿だった。
エールティアが兵士達と交戦を開始してしばらく経った時。リュネー、ジュール、雪風の三人は大きく迂回するようにアルティーナの所を目指していた。
「大丈夫。ティアちゃんはずっと強いから。それにこんなに地面が揺れるほどの魔導を使ってるんだもの。問題ないよ」
不安そうなジュールに対し、リュネーは安心させるように軽い口調で言った。それは確固たる信頼といっても良いだろう。
出会って僅か一年。だが、その時間を濃厚に過ごして来たのは間違いなかった。
だからこそ、目的地を目指して走る事が出来る。
「そう、ですね。私達のティア様は、そう簡単にやられませんよね」
「僕達は自身の役目を全うする。そうして主のお役に立つ事が出来る」
「……そうでしょうか? そんな簡単なものではないのではなくて?」
声のする方――前方から、紫色の髪と目をした少女が姿を見せた。突然現れた敵に、三者がそれぞれの武器を手に持って構えて立ち止まる。
無闇に突っ込むのは三流。それはエールティアがたまに行う戦闘訓練で嫌と言うほど叩き込まれた経験が生きていた。
「どなたですか?」
「無粋ですわね。名を聞くのなら、先に名乗るのが道理ではなくて?」
「……ジュールです」
「リュネー・シルケット」
「雪風・桜咲と申します」
あっさり言い返された三人は、思わず普通に挨拶を返してしまう。ここで卑怯な相手であれば、攻撃されても不思議ではなかったのだが、幸いにも彼女達の前に立つ少女はそうではなかった。
「私はスキュス。貴女達を始末しに参りました」
「……たった一人で私達を、ですか」
「あら、不服だと言いたげですわね。自信があるのはよろしいですが、過剰なのはあまり感心しませんね」
警戒心を強める三人に対して、スキュスは優雅に腰のホルダーから鞭を取り出した。先端に刃が付いているところから、これが戦闘用だと窺い知れる。
「さあ……行きますわよ!」
中距離まで詰めたスキュスは、ジュールに向かって鞭を振り下ろす。それはしなやかに動き、蛇のように動きながら襲いかかってくる。
「……くっ!」
慣れない鞭の動きに戸惑いながら、なんとか避けて距離を詰めようとするが――
「【イービルスフィア】」
それを見越したスキュスは、同じように距離を取りながら魔導を解き放つ。三人とスキュスの間に大きな闇色の球体が出現する。それが周囲に黒い波動を拡散させて、触れた物を吹き飛ばしていた。
「これじゃ、近づけないね」
「でも……」
三人には【イービルスフィア】の影響が強いが、発動者本人であるスキュスには全く影響を及ぼしていない。スキュスが闇色の球体の近くにいるせいで、近距離戦を行う事がほとんど不可能に近くなってしまった。
「任せてください! 【ウォータープレス】!」
ジュールの魔導によって、スキュスの頭上に大きな水の塊が出現する。それがまっすぐ下に落ちて、発動中の【イービルスフィア】に衝突。二つが同時に消滅し、スキュスを守っていた魔導が消え去った。
「ふふ、中々やりますわね」
「近接戦なら僕の出番です!」
二つの魔導がぶつかる直前。雪風は『風阿』を抜いて走り出していた。必ずジュールがどうにかしてくれる――その信頼を表しているかのように。
「これで――」
「面白くなってきましたわ」
楽しそうに微笑むスキュスの顔には、距離を詰められたことによる焦りは微塵もなかった。
むしろ、戦いそのものを愉しんでいる様子すらある。
雪風はそれに迷うことなく刃を振るうと――なんの抵抗もなくスキュスの身体を通り抜けてしまった。
「……! 手応えがない……!?」
「あら残念。外れですわ」
スキュスの声が聞こえたと同時に、雪風は何かに当たったかのように弾き飛ばされてしまった。
「雪風!?」
「なっ……なにがっ……」
予期しないところから受けた攻撃に戸惑っている雪風に向かって、スキュスは更なる攻撃を重ねていく。
スキュス自身の姿は見えている。だが時折、鞭の軌道とは全く違う場所から攻撃が飛んでくる。
辛うじてそれを察知し、躱したところで、魔導も攻撃もスキュスの身体を通り過ぎていってしまう。
不慣れな戦い。見えない攻撃。当たらない斬撃。そのどれもが、彼女達の精神を消耗させるのには十分だった。
「これじゃ……!」
「ジリ貧ですね。見えない敵。これほど厄介なものとは……だけど、僕は……!」
「ちょっと待ってて……もう少し……」
雪風が闘志を燃やし、ジュールが弱気になっている中、リュネーは何か考えを巡らせているようだった。
「ふふっ、無駄ですわ。【ダメージサンクチュアリ】!」
三人の反撃を許さないと言うかのように、スキュスは更なる魔導を発動させる。それと同時に地面が黒く染まり、怪しげな赤紫のもやも立ち込め、不気味な雰囲気に変わっていった。
「な、なにこれ……?」
「なにか……嫌な感じがします……」
「さあ、第二ラウンドの開始と行きましょう。もっと私を楽しませてちょうだい」
怪しげな笑みと共に、スキュスはゆっくりと歩きだす。
それは自らの勝利を確信している者の微笑み。圧倒的強者だと思っている者の姿だった。
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