232 / 676
232・抗議するスライム
しおりを挟む
「ずるいです。私は、貴女様のお役に立つなら、死んでもいいのに……」
ぼそっと呟いたジュールの言葉に胸が打たれる。共に戦いたい……そういう気持ちが湧いてくるけれど、ぐっと拳を握り締めて、感情を抑える。
「……本当に死んだらどうするの? 結界は一度だけ死んだ事実を消してくれる。だけど二度目はない。もし、私の采配ミスのせいで本当に貴女達がいなくなってしまったら……!!」
――今度こそ、本当に戻れなくなる。
大好きだから。失いたくないから。誰一人欠けて欲しくない。
これは私のわがままだ。ジュールにもレイアにも……リュネーや雪風にも、譲るつもりは全くない。
誰にもひどい目に遭って欲しくなかった。
「ティア様、それでも私は――!」
「そんな風に自己犠牲で物事を語られても、嬉しくないわ。私は、貴女達に生きていて欲しいの。万が一なんて起こって欲しくない」
「……力があるって見せればいいのですか?」
決意を込めた瞳で睨んでくるジュールだけど……生憎、彼女の本気には欠片程凄みを感じない。
だけど……それもいいのかもしれない。ジュールの力では敵わない。それをしっかりと理解させなければならないだろう。
「……わかった。それで貴女が納得するのなら。だけど……それで私を納得させることが出来なければ――」
「わかっています。その時は諦めます」
言質は取れた。ジュールには悪いけれど……少しだけ相手をしてあげるしかないようだ。
――
戦うという事になった私達は、庭園の方にやってきた。
剣を抜いて私に向けてきたジュールは、一人前に殺気を放っている。可愛らしいものだ。
「ジュール、わかってるわね」
「……はい」
「それじゃあ、どこからでも掛かってきなさい」
くいくい、と指で挑発するようにアピールしてあげると、あっさりと乗って斬りかかってきた。
わかりやすい剣筋だ。素直……といえば聞こえがいいだろう。
さっさと倒してあげてもいいけど……今の状態で軽く倒しても納得する事はないだろう。
「くっ……! このっ!」
ぶんぶんと振り回して一生懸命さが伝わってくる。だけど……そろそろ終わりにしよう。
「【エアルヴェ・シュネイス】」
発動の瞬間、世界が白く染まる。上空がひび割れ、光が差し込んでくる。庭園に生えている草花も全てが白く染まって消えていく。雪雨に使ったのと同じ魔力量だと流石に危ないだろうから、範囲と威力を絞ったのだけれど……それでもジュールには押し返せない程の威力を持たせている。
「くぅ……これっ……は……!!」
「さあ、これを止めてみなさい。ジュール!」
少しずつ強くなっていく光の中で、ジュールは私に応えるように次々と魔導を放っていくけれど……そのどれもが私の【エアルヴェ・シュネイス】を相殺させるほどの威力を持っていなかった。
「な、……!」
段々声すら聞こえなくなるほどに白さが塗りつぶして何も聞こえなくなる。
しばらくして、徐々に色を取り戻した世界から現れたのは……ボロボロになって地面に倒れているジュールの姿だった。
本来の威力から大分抑えて発動させたおかげで、原形も留めているし、命に別状もない。
だけど、これ以上戦いを続ける事は不可能だろう。
「わ、わ……た、し……」
「……ジュール。いくら気持ちが強くても、想いがあっても……力がなかったら意味がないのよ」
倒れているジュールをそのままにして、私は一人、館の方に戻った。ついでにメイドに草花がぼろぼろになっているから庭師に頼んでおくようにお願いしていた。
「……よろしかったのですか?」
館に入ると、遠目に見ていた雪風が声を掛けてきた。ジュールはこっちに夢中で気付かなかったみたいだけど。
「貴女こそ。ジュールみたいに挑まなくてもいいの?」
「はははっ、ご冗談を。僕は自らの実力を理解しております。それに……主人の足手まといになるくらいでしたら、死んだほうがマシですよ」
力なく笑っている雪風は、本当は悔しいのだろう。
「それに、エールティア様が僕達の事を大切思ってくださっているのは伝わってきますから」
「……そう」
「ですが……エールティア様も忘れないでくださいね。僕達も貴女様を大切にしているという事を」
「ありがとう、雪風。覚えておくわ。それと……ジュールをよろしくね」
「任されました」
雪風が頭を下げて応えてくれるのを確認して、私は自分の部屋へと戻る事にした。部屋に入って、軽く自己嫌悪に陥る。
あんな事でしか解決出来なかったのだろうか? もっとスマートなやり方があったんじゃないだろうか? そんな風に思うなら、もう少し考えればよかったんだけど……私はこういうやり方しか知らない。
こういう場面に遭うたびに、いくら生まれ変わっても、結局戦う事でしか物事を解決出来ない自分に嫌気が差すけれど……それでも、みんなが必要以上に傷つくのは……見たくなかった。
例えそれが矛盾している感情なのだとしても。それが最小限になるのなら、自分の手で――そう思うのは、果たして悪い事なのだろうか?
ぼそっと呟いたジュールの言葉に胸が打たれる。共に戦いたい……そういう気持ちが湧いてくるけれど、ぐっと拳を握り締めて、感情を抑える。
「……本当に死んだらどうするの? 結界は一度だけ死んだ事実を消してくれる。だけど二度目はない。もし、私の采配ミスのせいで本当に貴女達がいなくなってしまったら……!!」
――今度こそ、本当に戻れなくなる。
大好きだから。失いたくないから。誰一人欠けて欲しくない。
これは私のわがままだ。ジュールにもレイアにも……リュネーや雪風にも、譲るつもりは全くない。
誰にもひどい目に遭って欲しくなかった。
「ティア様、それでも私は――!」
「そんな風に自己犠牲で物事を語られても、嬉しくないわ。私は、貴女達に生きていて欲しいの。万が一なんて起こって欲しくない」
「……力があるって見せればいいのですか?」
決意を込めた瞳で睨んでくるジュールだけど……生憎、彼女の本気には欠片程凄みを感じない。
だけど……それもいいのかもしれない。ジュールの力では敵わない。それをしっかりと理解させなければならないだろう。
「……わかった。それで貴女が納得するのなら。だけど……それで私を納得させることが出来なければ――」
「わかっています。その時は諦めます」
言質は取れた。ジュールには悪いけれど……少しだけ相手をしてあげるしかないようだ。
――
戦うという事になった私達は、庭園の方にやってきた。
剣を抜いて私に向けてきたジュールは、一人前に殺気を放っている。可愛らしいものだ。
「ジュール、わかってるわね」
「……はい」
「それじゃあ、どこからでも掛かってきなさい」
くいくい、と指で挑発するようにアピールしてあげると、あっさりと乗って斬りかかってきた。
わかりやすい剣筋だ。素直……といえば聞こえがいいだろう。
さっさと倒してあげてもいいけど……今の状態で軽く倒しても納得する事はないだろう。
「くっ……! このっ!」
ぶんぶんと振り回して一生懸命さが伝わってくる。だけど……そろそろ終わりにしよう。
「【エアルヴェ・シュネイス】」
発動の瞬間、世界が白く染まる。上空がひび割れ、光が差し込んでくる。庭園に生えている草花も全てが白く染まって消えていく。雪雨に使ったのと同じ魔力量だと流石に危ないだろうから、範囲と威力を絞ったのだけれど……それでもジュールには押し返せない程の威力を持たせている。
「くぅ……これっ……は……!!」
「さあ、これを止めてみなさい。ジュール!」
少しずつ強くなっていく光の中で、ジュールは私に応えるように次々と魔導を放っていくけれど……そのどれもが私の【エアルヴェ・シュネイス】を相殺させるほどの威力を持っていなかった。
「な、……!」
段々声すら聞こえなくなるほどに白さが塗りつぶして何も聞こえなくなる。
しばらくして、徐々に色を取り戻した世界から現れたのは……ボロボロになって地面に倒れているジュールの姿だった。
本来の威力から大分抑えて発動させたおかげで、原形も留めているし、命に別状もない。
だけど、これ以上戦いを続ける事は不可能だろう。
「わ、わ……た、し……」
「……ジュール。いくら気持ちが強くても、想いがあっても……力がなかったら意味がないのよ」
倒れているジュールをそのままにして、私は一人、館の方に戻った。ついでにメイドに草花がぼろぼろになっているから庭師に頼んでおくようにお願いしていた。
「……よろしかったのですか?」
館に入ると、遠目に見ていた雪風が声を掛けてきた。ジュールはこっちに夢中で気付かなかったみたいだけど。
「貴女こそ。ジュールみたいに挑まなくてもいいの?」
「はははっ、ご冗談を。僕は自らの実力を理解しております。それに……主人の足手まといになるくらいでしたら、死んだほうがマシですよ」
力なく笑っている雪風は、本当は悔しいのだろう。
「それに、エールティア様が僕達の事を大切思ってくださっているのは伝わってきますから」
「……そう」
「ですが……エールティア様も忘れないでくださいね。僕達も貴女様を大切にしているという事を」
「ありがとう、雪風。覚えておくわ。それと……ジュールをよろしくね」
「任されました」
雪風が頭を下げて応えてくれるのを確認して、私は自分の部屋へと戻る事にした。部屋に入って、軽く自己嫌悪に陥る。
あんな事でしか解決出来なかったのだろうか? もっとスマートなやり方があったんじゃないだろうか? そんな風に思うなら、もう少し考えればよかったんだけど……私はこういうやり方しか知らない。
こういう場面に遭うたびに、いくら生まれ変わっても、結局戦う事でしか物事を解決出来ない自分に嫌気が差すけれど……それでも、みんなが必要以上に傷つくのは……見たくなかった。
例えそれが矛盾している感情なのだとしても。それが最小限になるのなら、自分の手で――そう思うのは、果たして悪い事なのだろうか?
0
お気に入りに追加
160
あなたにおすすめの小説
飯屋の娘は魔法を使いたくない?
秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。
魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。
それを見ていた貴族の青年が…。
異世界転生の話です。
のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。
※ 表紙は星影さんの作品です。
※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。
余命半年のはずが?異世界生活始めます
ゆぃ♫
ファンタジー
静波杏花、本日病院で健康診断の結果を聞きに行き半年の余命と判明…
不運が重なり、途方に暮れていると…
確認はしていますが、拙い文章で誤字脱字もありますが読んでいただけると嬉しいです。
実家が没落したので、こうなったら落ちるところまで落ちてやります。
黒蜜きな粉
ファンタジー
ある日を境にタニヤの生活は変わってしまった。
実家は爵位を剥奪され、領地を没収された。
父は刑死、それにショックを受けた母は自ら命を絶った。
まだ学生だったタニヤは学費が払えなくなり学校を退学。
そんなタニヤが生活費を稼ぐために始めたのは冒険者だった。
しかし、どこへ行っても元貴族とバレると嫌がらせを受けてしまう。
いい加減にこんな生活はうんざりだと思っていたときに出会ったのは、商人だと名乗る怪しい者たちだった。
騙されていたって構わない。
もう金に困ることなくお腹いっぱい食べられるなら、裏家業だろうがなんでもやってやる。
タニヤは商人の元へ転職することを決意する。
転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜
家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。
そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?!
しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...?
ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...?
不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。
拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。
小説家になろう様でも公開しております。
【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革
うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。
優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。
家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。
主人公は、魔法・知識チートは持っていません。
加筆修正しました。
お手に取って頂けたら嬉しいです。
公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。
『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?
mio
ファンタジー
特別になることを望む『平凡』な大学生・弥登陽斗はある日突然亡くなる。
神様に『特別』になりたい願いを叶えてやると言われ、生まれ変わった先は異世界の第7皇子!? しかも母親はなんだかさびれた離宮に追いやられているし、騎士団に入っている兄はなかなか会うことができない。それでも穏やかな日々。
そんな生活も母の死を境に変わっていく。なぜか絡んでくる異母兄弟をあしらいつつ、兄の元で剣に魔法に、いろいろと学んでいくことに。兄と兄の部下との新たな日常に、以前とはまた違った幸せを感じていた。
日常を壊し、強制的に終わらせたとある不幸が起こるまでは。
神様、一つ言わせてください。僕が言っていた特別はこういうことではないと思うんですけど!?
他サイトでも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる