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227・違和感ある転入生

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 普段の日常にレイアとの訓練が追加されてからしばらくが経ったメイルラの8の日。その日の教室は、普段以上に騒がしかった。

「ああ、おはよう。エールティアさん」
「おはよう。どうしたの? この騒ぎは」

 いつもならもっと静か……というか、こんな興奮した空気にはならないはずなのに、今日は朝から変だ。
 そんな疑問を抱いていると、珍しくウォルカが私の方に近づいてきた。

「実はね、アストラが職員室の前を通り過ぎた時、転入生が来るって話を聞いたんだって」
「へぇ……で、ここに来るって事?」
「みたいだよ。ベルーザ先生の声音がいつも以上に真剣だったって」

 あの先生は大体真面目そうな声色していると思うけれど……すっかり出来上がってる空気の中に水を差したくなかったから、黙っていよう。

「来るのは男の子ですか? 女の子ですか?」
「……わからないね。アストラも、転入生が来るって聞いただけらしいし」

 ジュールの問いかけに、悩むような素振りを見せながらウォルカは答えた。
 ……と同時に私も納得する。性別も何もわからないから、教室の中でどんな人が来るのか考えている――そういう事だ。

「どんな子が来るんだろうね」
「さあ……こんな時期に来るんだから、なにかあるのかもね」

 新しい学年になって早々転校するということは、複雑な事情があるのかもしれない……。そんな風に勘繰られても仕方ないことだろう。

 ジュールとリュネーも、ウォルカと一緒に転入生について盛り上がっていると、ベルーザ先生が教室に入ってきた。

「そろそろ席につけ。朝礼を始めるぞ」

 騒いでいたみんなが急いで席に着く。そわそわとした様子は隠せてないから、ベルーザ先生が訝しむような目で見ていたけど。

「先生、今日、新しい子が来るんですよね?」

 落ち着きのないアストラが、勢いよく手をあげて聞いてきた。ベルーザ先生はどこか呆れたような顔をしていた。

「全く、どこから仕入れたのか知らないが……まあ良い。全員知ってるなら話は早いな。入ってこい!」

 若干面倒くさそうにしていたベルーザ先生の呼びかけに教室に入ってきたのは……かなり綺麗な女の子だった。

「おお……」
「か、かわいい……」
「ティア様の方が可愛いですよ」
「二人とも可愛くて綺麗。これが真理」
「それなら、納得です」

 最初が男子達の反応。次がジュールと男子の会話だけれど……なんでさりげなく混ざってるのやら。

 だけど、女子の方からも感嘆の息を漏らしている子もいるし、私から見てもお人形のような可憐さを醸し出している。

 色鮮やかなプラチナブロンドの髪は美しく、青い目は宝石のようにも見える。私のように身体は小さいけれど、それが尚のこと儚さを際立たせていた。
 間違いなく魔人族の女の子……なんだけど、違和感がある。

 何かが違う。そんな気がするんだけど、どこが違うかは具体的にわからない。

「はじめまして。ロスミーナと申します。どうぞ、よろしくお願いします」

 ぺこりと挨拶をする彼女の姿に、魅了される生徒が続出する。

「ロスミーナはエールティアの隣の席だ。いいな?」
「わかりました」

 すたすたと歩く彼女の所作は、どこか洗練されている。歩き方が貴族のそれだけど……どこか遠くの国から来た子なのかも。
 それに……今まで見た魔人族の子供の中でも、かなり魔力を感じる。

「エールティアさん……でしたね。よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくね。ロスミーナ……さんって呼んだ方がいい?」
「いいえ、エールティアさんのお好きなようにお呼びください」

 ふふっ、と軽やかに微笑む所作は、美しいと呼ぶに相応しい。
 ……やっぱり何処かで見たことがあるような気がする。それもちょっと前に。

「どうしました?」
「いえ、どこかで会ったことがあるような気がしたものだから……」
「ふふっ、もしかしたら会ったことがあるのかもしれせんね」

 ロスミーナは微笑んで私の隣の席に座った。左にリュネー。右にロスミーナと、男の子なら両手に花みたいな状況。

 やはり男の子には堪らないのだろう。私と……ロスミーナから見て右隣りにいるエルフ族の男子に羨ましげな視線が注がれる。

 誰もが何の疑いもなく受け入れている……そんな中、私だけ違和感が胸を満たしていた。
 間違いなくどこかで会った事はある。直感でしかないけれど、隣にいる違和感の塊である少女より、信用出来た。

 あんまりじろじろと見たら失礼に当たるだろうから視線は向けなかったけれど……胸中は穏やかじゃない。
 だけど不思議と、嫌な感じはしない。敵ではない……それもまた、直感が教えてくれる。

「落ち着け! それじゃあそろそろ授業を始めるぞ。まずは経済の回り方について――」

 騒然としていた教室を、ベルーザ先生は一喝で黙らせて、教科書を開き始める。それを見て、他の生徒も慌てて教科書を開いて――私も同じように合わせておく。

 ……彼女が来た事によって、また一つ歯車が動き出したような、新しい段階へと移ったような……そんな奇妙な予感を胸に秘めながら。
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