227 / 676
227・違和感ある転入生
しおりを挟む
普段の日常にレイアとの訓練が追加されてからしばらくが経ったメイルラの8の日。その日の教室は、普段以上に騒がしかった。
「ああ、おはよう。エールティアさん」
「おはよう。どうしたの? この騒ぎは」
いつもならもっと静か……というか、こんな興奮した空気にはならないはずなのに、今日は朝から変だ。
そんな疑問を抱いていると、珍しくウォルカが私の方に近づいてきた。
「実はね、アストラが職員室の前を通り過ぎた時、転入生が来るって話を聞いたんだって」
「へぇ……で、ここに来るって事?」
「みたいだよ。ベルーザ先生の声音がいつも以上に真剣だったって」
あの先生は大体真面目そうな声色していると思うけれど……すっかり出来上がってる空気の中に水を差したくなかったから、黙っていよう。
「来るのは男の子ですか? 女の子ですか?」
「……わからないね。アストラも、転入生が来るって聞いただけらしいし」
ジュールの問いかけに、悩むような素振りを見せながらウォルカは答えた。
……と同時に私も納得する。性別も何もわからないから、教室の中でどんな人が来るのか考えている――そういう事だ。
「どんな子が来るんだろうね」
「さあ……こんな時期に来るんだから、なにかあるのかもね」
新しい学年になって早々転校するということは、複雑な事情があるのかもしれない……。そんな風に勘繰られても仕方ないことだろう。
ジュールとリュネーも、ウォルカと一緒に転入生について盛り上がっていると、ベルーザ先生が教室に入ってきた。
「そろそろ席につけ。朝礼を始めるぞ」
騒いでいたみんなが急いで席に着く。そわそわとした様子は隠せてないから、ベルーザ先生が訝しむような目で見ていたけど。
「先生、今日、新しい子が来るんですよね?」
落ち着きのないアストラが、勢いよく手をあげて聞いてきた。ベルーザ先生はどこか呆れたような顔をしていた。
「全く、どこから仕入れたのか知らないが……まあ良い。全員知ってるなら話は早いな。入ってこい!」
若干面倒くさそうにしていたベルーザ先生の呼びかけに教室に入ってきたのは……かなり綺麗な女の子だった。
「おお……」
「か、かわいい……」
「ティア様の方が可愛いですよ」
「二人とも可愛くて綺麗。これが真理」
「それなら、納得です」
最初が男子達の反応。次がジュールと男子の会話だけれど……なんでさりげなく混ざってるのやら。
だけど、女子の方からも感嘆の息を漏らしている子もいるし、私から見てもお人形のような可憐さを醸し出している。
色鮮やかなプラチナブロンドの髪は美しく、青い目は宝石のようにも見える。私のように身体は小さいけれど、それが尚のこと儚さを際立たせていた。
間違いなく魔人族の女の子……なんだけど、違和感がある。
何かが違う。そんな気がするんだけど、どこが違うかは具体的にわからない。
「はじめまして。ロスミーナと申します。どうぞ、よろしくお願いします」
ぺこりと挨拶をする彼女の姿に、魅了される生徒が続出する。
「ロスミーナはエールティアの隣の席だ。いいな?」
「わかりました」
すたすたと歩く彼女の所作は、どこか洗練されている。歩き方が貴族のそれだけど……どこか遠くの国から来た子なのかも。
それに……今まで見た魔人族の子供の中でも、かなり魔力を感じる。
「エールティアさん……でしたね。よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくね。ロスミーナ……さんって呼んだ方がいい?」
「いいえ、エールティアさんのお好きなようにお呼びください」
ふふっ、と軽やかに微笑む所作は、美しいと呼ぶに相応しい。
……やっぱり何処かで見たことがあるような気がする。それもちょっと前に。
「どうしました?」
「いえ、どこかで会ったことがあるような気がしたものだから……」
「ふふっ、もしかしたら会ったことがあるのかもしれせんね」
ロスミーナは微笑んで私の隣の席に座った。左にリュネー。右にロスミーナと、男の子なら両手に花みたいな状況。
やはり男の子には堪らないのだろう。私と……ロスミーナから見て右隣りにいるエルフ族の男子に羨ましげな視線が注がれる。
誰もが何の疑いもなく受け入れている……そんな中、私だけ違和感が胸を満たしていた。
間違いなくどこかで会った事はある。直感でしかないけれど、隣にいる違和感の塊である少女より、信用出来た。
あんまりじろじろと見たら失礼に当たるだろうから視線は向けなかったけれど……胸中は穏やかじゃない。
だけど不思議と、嫌な感じはしない。敵ではない……それもまた、直感が教えてくれる。
「落ち着け! それじゃあそろそろ授業を始めるぞ。まずは経済の回り方について――」
騒然としていた教室を、ベルーザ先生は一喝で黙らせて、教科書を開き始める。それを見て、他の生徒も慌てて教科書を開いて――私も同じように合わせておく。
……彼女が来た事によって、また一つ歯車が動き出したような、新しい段階へと移ったような……そんな奇妙な予感を胸に秘めながら。
「ああ、おはよう。エールティアさん」
「おはよう。どうしたの? この騒ぎは」
いつもならもっと静か……というか、こんな興奮した空気にはならないはずなのに、今日は朝から変だ。
そんな疑問を抱いていると、珍しくウォルカが私の方に近づいてきた。
「実はね、アストラが職員室の前を通り過ぎた時、転入生が来るって話を聞いたんだって」
「へぇ……で、ここに来るって事?」
「みたいだよ。ベルーザ先生の声音がいつも以上に真剣だったって」
あの先生は大体真面目そうな声色していると思うけれど……すっかり出来上がってる空気の中に水を差したくなかったから、黙っていよう。
「来るのは男の子ですか? 女の子ですか?」
「……わからないね。アストラも、転入生が来るって聞いただけらしいし」
ジュールの問いかけに、悩むような素振りを見せながらウォルカは答えた。
……と同時に私も納得する。性別も何もわからないから、教室の中でどんな人が来るのか考えている――そういう事だ。
「どんな子が来るんだろうね」
「さあ……こんな時期に来るんだから、なにかあるのかもね」
新しい学年になって早々転校するということは、複雑な事情があるのかもしれない……。そんな風に勘繰られても仕方ないことだろう。
ジュールとリュネーも、ウォルカと一緒に転入生について盛り上がっていると、ベルーザ先生が教室に入ってきた。
「そろそろ席につけ。朝礼を始めるぞ」
騒いでいたみんなが急いで席に着く。そわそわとした様子は隠せてないから、ベルーザ先生が訝しむような目で見ていたけど。
「先生、今日、新しい子が来るんですよね?」
落ち着きのないアストラが、勢いよく手をあげて聞いてきた。ベルーザ先生はどこか呆れたような顔をしていた。
「全く、どこから仕入れたのか知らないが……まあ良い。全員知ってるなら話は早いな。入ってこい!」
若干面倒くさそうにしていたベルーザ先生の呼びかけに教室に入ってきたのは……かなり綺麗な女の子だった。
「おお……」
「か、かわいい……」
「ティア様の方が可愛いですよ」
「二人とも可愛くて綺麗。これが真理」
「それなら、納得です」
最初が男子達の反応。次がジュールと男子の会話だけれど……なんでさりげなく混ざってるのやら。
だけど、女子の方からも感嘆の息を漏らしている子もいるし、私から見てもお人形のような可憐さを醸し出している。
色鮮やかなプラチナブロンドの髪は美しく、青い目は宝石のようにも見える。私のように身体は小さいけれど、それが尚のこと儚さを際立たせていた。
間違いなく魔人族の女の子……なんだけど、違和感がある。
何かが違う。そんな気がするんだけど、どこが違うかは具体的にわからない。
「はじめまして。ロスミーナと申します。どうぞ、よろしくお願いします」
ぺこりと挨拶をする彼女の姿に、魅了される生徒が続出する。
「ロスミーナはエールティアの隣の席だ。いいな?」
「わかりました」
すたすたと歩く彼女の所作は、どこか洗練されている。歩き方が貴族のそれだけど……どこか遠くの国から来た子なのかも。
それに……今まで見た魔人族の子供の中でも、かなり魔力を感じる。
「エールティアさん……でしたね。よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくね。ロスミーナ……さんって呼んだ方がいい?」
「いいえ、エールティアさんのお好きなようにお呼びください」
ふふっ、と軽やかに微笑む所作は、美しいと呼ぶに相応しい。
……やっぱり何処かで見たことがあるような気がする。それもちょっと前に。
「どうしました?」
「いえ、どこかで会ったことがあるような気がしたものだから……」
「ふふっ、もしかしたら会ったことがあるのかもしれせんね」
ロスミーナは微笑んで私の隣の席に座った。左にリュネー。右にロスミーナと、男の子なら両手に花みたいな状況。
やはり男の子には堪らないのだろう。私と……ロスミーナから見て右隣りにいるエルフ族の男子に羨ましげな視線が注がれる。
誰もが何の疑いもなく受け入れている……そんな中、私だけ違和感が胸を満たしていた。
間違いなくどこかで会った事はある。直感でしかないけれど、隣にいる違和感の塊である少女より、信用出来た。
あんまりじろじろと見たら失礼に当たるだろうから視線は向けなかったけれど……胸中は穏やかじゃない。
だけど不思議と、嫌な感じはしない。敵ではない……それもまた、直感が教えてくれる。
「落ち着け! それじゃあそろそろ授業を始めるぞ。まずは経済の回り方について――」
騒然としていた教室を、ベルーザ先生は一喝で黙らせて、教科書を開き始める。それを見て、他の生徒も慌てて教科書を開いて――私も同じように合わせておく。
……彼女が来た事によって、また一つ歯車が動き出したような、新しい段階へと移ったような……そんな奇妙な予感を胸に秘めながら。
0
お気に入りに追加
160
あなたにおすすめの小説
余命半年のはずが?異世界生活始めます
ゆぃ♫
ファンタジー
静波杏花、本日病院で健康診断の結果を聞きに行き半年の余命と判明…
不運が重なり、途方に暮れていると…
確認はしていますが、拙い文章で誤字脱字もありますが読んでいただけると嬉しいです。
飯屋の娘は魔法を使いたくない?
秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。
魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。
それを見ていた貴族の青年が…。
異世界転生の話です。
のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。
※ 表紙は星影さんの作品です。
※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。
実家が没落したので、こうなったら落ちるところまで落ちてやります。
黒蜜きな粉
ファンタジー
ある日を境にタニヤの生活は変わってしまった。
実家は爵位を剥奪され、領地を没収された。
父は刑死、それにショックを受けた母は自ら命を絶った。
まだ学生だったタニヤは学費が払えなくなり学校を退学。
そんなタニヤが生活費を稼ぐために始めたのは冒険者だった。
しかし、どこへ行っても元貴族とバレると嫌がらせを受けてしまう。
いい加減にこんな生活はうんざりだと思っていたときに出会ったのは、商人だと名乗る怪しい者たちだった。
騙されていたって構わない。
もう金に困ることなくお腹いっぱい食べられるなら、裏家業だろうがなんでもやってやる。
タニヤは商人の元へ転職することを決意する。
初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。
ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。
※短いお話です。
※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。
はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。
転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜
家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。
そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?!
しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...?
ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...?
不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。
拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。
小説家になろう様でも公開しております。
【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革
うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。
優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。
家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。
主人公は、魔法・知識チートは持っていません。
加筆修正しました。
お手に取って頂けたら嬉しいです。
公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる