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226・言い訳と特訓
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授業が終わってようやく一息吐いた私に、心配そうな視線を向けている子が二人。リュネーとジュールだった。
「ティア様、どうかされたのですか? かなり考え込んでおられたみたいですけど……」
「初代魔王様が『人造命具』を四つも使いこなすって聞いたからつい、ね。あの方の血を引くのだから、私もそれくらいこなせないとアルティーナには勝てないのかな……と思ってね」
あながち嘘は言ってない。普通に考えて『人造命具』を四つも所有しているなんて有り得ない事だからだ。
まあ、アルティーナの下りは完全に嘘なんだけど。
聖黒族の歴史の中で、『人造命具』をそこまで使いこなしているのは、後にも先にも初代魔王様だけだ。アルティーナがそれだけの素質を持ってるとは思えないし、心配するだけ無駄だ。
だけど、二人の気を逸らすのには十分だったみたいで、納得顔をしていた。
「ですが大丈夫ですよ! あんな人にティア様が負けるはずがありません!!」
何の根拠もない自信だけど、ついつい頬が緩んでしまった。断言されるほど信頼されているのが伝わってくる。
「ティアちゃんも初代魔王様の血を引いてるんだから、大丈夫だよ。でも、ティアちゃんが次期女王様かー……」
「まだ候補の域を出てないけどね」
「それでも凄い事だと思うけどな。シルケットはお兄様に決まってるからね」
そこはベルンに何か遭ったら、リュネーが次期王位継承者なんだけど……彼女はそこまで考えてないようだ。まあ、お兄様大好きっ子だから考えもしないんだろうけどね。
「そういえば、アルティーナ様とはどういった形で決着をつけるのでしょうか?」
ジュールの疑問に、私の方も首を傾げてしまった。言われてみたら確かにそうだ。
王位継承権を持つ者同士で争う……そういう風には聞いていたけど、実際どんな風になるのかは全く聞いていない。
歴史上、そういう話は何度かあったらしいけれど、その度に行われている決闘は違ったそうだ。
今回がどういう風になるのか、話題にも上ってなかったからまだ決まってないのかも……。
「何にせよ、決まったことに全力で取り組む。それだけね」
「聖黒族はある意味力が全てのような部分があるから……多分戦う事になるよね」
そんな戦闘民族じゃあるまいし……と一瞬思ったけど、よくよく考えたら色々と思い当たる節があったから何も言わなかった。
「どんな妨害工作が起きても、ティア様は絶対に負けません! それに……私達がついてますから」
「ふふふっ、そうだね。レイアちゃんもいるし、雪風ちゃんもいるもんね」
リュネーの言葉にウォルカとフォルスの二人を忘れてるな……と内心思ったけれど、それを言葉に出すのはやめておいた。
私も忘れていたし、魔王祭以降はあまり二人と会う事がないから必然的に忘れがちになってしまう。
……いや、ウォルカとは同じクラスだから挨拶ぐらいはするんだけど……やっぱり印象が薄い。
「心強いのはいいんだけど……全然音沙汰ないのはあまり良い気はしないわね」
こっちからしてみたら、さっさと終わらせて魔王祭に向けて意識を切り替えたいとも思う。流石に下見までさせてもらって出ないなんて事になったら、仕方がないとはいえ、不満が出てしまうだろう。
しかも、ライニーとあれだけ派手にやりあってしまったのに出ないなんてなったら、国としても汚点になりえる。
それは女王陛下もわかってると思うけれど……。
「今は未だ待つしかない。って顔してるよ?」
「実際その通りだしね。それより、今日の放課後の事を考えましょうか」
「今日もレイアさんと一緒に?」
「うん」
レイアが退院してから、ほぼ毎日リハビリがてらの訓練に付き合っている。
彼女は入院していた時に更に力に目覚めたのか、より一層力を感じるようになっていた。だけど、それはただ単に身体・戦闘能力が大幅に向上した、というだけだ。
前の決闘の時と同じで、戦闘経験が圧倒的に不足している。あれじゃ、力に振り回されてるだけで、私と挑んだ時と同じ結果になるのが目に見えている。アルフとの約束は今年の魔王祭だし、徐々に力をつけていくのと違って急激に手に入れた力を制御するにはひたすら戦って慣れるしかない。
だけど、ただ適当な相手と闇雲に戦っても意味がない。それなりに経験を持った相手とじっくりと戦うのが一番だ。
そうなると適任者は私か雪風になる。リュネーもジュールも、学園に来るまではほとんど戦闘なんてしたことがなかったし、ウォルカは体格が違いすぎる。フォルスは鍛冶の方に寄りがちだし、そもそも教えるのに向いていない。
そして、雪風は基本的に私の側にいるか、館にいる。常に一緒にいる訳じゃないけれど、雪風にどうせ頼むのであれば、私が教えても変わらない、というわけだ。
「毎日よく頑張るよね。どう? 少しは成果出た?」
「ふふっ、当然」
急激に……という訳ではなけれど、少しずつ、動きは良くなってきている。
身体の動かし方や経験を積んでいっているおかげだろう。後は判断能力を鍛える事が出来たら、まだまだ強くなれるだろう。今からそれを考えると、楽しみで仕方ない。
自分の教えで誰かが強くなっている……まさかこういう気分を味わう事になるとは思わなかったけれど、案外悪くない。そう思った。
「ティア様、どうかされたのですか? かなり考え込んでおられたみたいですけど……」
「初代魔王様が『人造命具』を四つも使いこなすって聞いたからつい、ね。あの方の血を引くのだから、私もそれくらいこなせないとアルティーナには勝てないのかな……と思ってね」
あながち嘘は言ってない。普通に考えて『人造命具』を四つも所有しているなんて有り得ない事だからだ。
まあ、アルティーナの下りは完全に嘘なんだけど。
聖黒族の歴史の中で、『人造命具』をそこまで使いこなしているのは、後にも先にも初代魔王様だけだ。アルティーナがそれだけの素質を持ってるとは思えないし、心配するだけ無駄だ。
だけど、二人の気を逸らすのには十分だったみたいで、納得顔をしていた。
「ですが大丈夫ですよ! あんな人にティア様が負けるはずがありません!!」
何の根拠もない自信だけど、ついつい頬が緩んでしまった。断言されるほど信頼されているのが伝わってくる。
「ティアちゃんも初代魔王様の血を引いてるんだから、大丈夫だよ。でも、ティアちゃんが次期女王様かー……」
「まだ候補の域を出てないけどね」
「それでも凄い事だと思うけどな。シルケットはお兄様に決まってるからね」
そこはベルンに何か遭ったら、リュネーが次期王位継承者なんだけど……彼女はそこまで考えてないようだ。まあ、お兄様大好きっ子だから考えもしないんだろうけどね。
「そういえば、アルティーナ様とはどういった形で決着をつけるのでしょうか?」
ジュールの疑問に、私の方も首を傾げてしまった。言われてみたら確かにそうだ。
王位継承権を持つ者同士で争う……そういう風には聞いていたけど、実際どんな風になるのかは全く聞いていない。
歴史上、そういう話は何度かあったらしいけれど、その度に行われている決闘は違ったそうだ。
今回がどういう風になるのか、話題にも上ってなかったからまだ決まってないのかも……。
「何にせよ、決まったことに全力で取り組む。それだけね」
「聖黒族はある意味力が全てのような部分があるから……多分戦う事になるよね」
そんな戦闘民族じゃあるまいし……と一瞬思ったけど、よくよく考えたら色々と思い当たる節があったから何も言わなかった。
「どんな妨害工作が起きても、ティア様は絶対に負けません! それに……私達がついてますから」
「ふふふっ、そうだね。レイアちゃんもいるし、雪風ちゃんもいるもんね」
リュネーの言葉にウォルカとフォルスの二人を忘れてるな……と内心思ったけれど、それを言葉に出すのはやめておいた。
私も忘れていたし、魔王祭以降はあまり二人と会う事がないから必然的に忘れがちになってしまう。
……いや、ウォルカとは同じクラスだから挨拶ぐらいはするんだけど……やっぱり印象が薄い。
「心強いのはいいんだけど……全然音沙汰ないのはあまり良い気はしないわね」
こっちからしてみたら、さっさと終わらせて魔王祭に向けて意識を切り替えたいとも思う。流石に下見までさせてもらって出ないなんて事になったら、仕方がないとはいえ、不満が出てしまうだろう。
しかも、ライニーとあれだけ派手にやりあってしまったのに出ないなんてなったら、国としても汚点になりえる。
それは女王陛下もわかってると思うけれど……。
「今は未だ待つしかない。って顔してるよ?」
「実際その通りだしね。それより、今日の放課後の事を考えましょうか」
「今日もレイアさんと一緒に?」
「うん」
レイアが退院してから、ほぼ毎日リハビリがてらの訓練に付き合っている。
彼女は入院していた時に更に力に目覚めたのか、より一層力を感じるようになっていた。だけど、それはただ単に身体・戦闘能力が大幅に向上した、というだけだ。
前の決闘の時と同じで、戦闘経験が圧倒的に不足している。あれじゃ、力に振り回されてるだけで、私と挑んだ時と同じ結果になるのが目に見えている。アルフとの約束は今年の魔王祭だし、徐々に力をつけていくのと違って急激に手に入れた力を制御するにはひたすら戦って慣れるしかない。
だけど、ただ適当な相手と闇雲に戦っても意味がない。それなりに経験を持った相手とじっくりと戦うのが一番だ。
そうなると適任者は私か雪風になる。リュネーもジュールも、学園に来るまではほとんど戦闘なんてしたことがなかったし、ウォルカは体格が違いすぎる。フォルスは鍛冶の方に寄りがちだし、そもそも教えるのに向いていない。
そして、雪風は基本的に私の側にいるか、館にいる。常に一緒にいる訳じゃないけれど、雪風にどうせ頼むのであれば、私が教えても変わらない、というわけだ。
「毎日よく頑張るよね。どう? 少しは成果出た?」
「ふふっ、当然」
急激に……という訳ではなけれど、少しずつ、動きは良くなってきている。
身体の動かし方や経験を積んでいっているおかげだろう。後は判断能力を鍛える事が出来たら、まだまだ強くなれるだろう。今からそれを考えると、楽しみで仕方ない。
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