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222・帰ってきた日常
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レイアが目を覚ましてから、私達は色々な事を話した。
今まで離れていた時間を埋めるように。
「レイア……本当にごめんなさい。私――」
「ううん、こっちこそ迷惑かけてごめんね。それと……止めてくれてありがとう」
レイアは憑き物の落ちたような顔をしてるけれど……それ以上に昔の彼女とはまるで違うように感じる。纏う魔力が違うように見える。
「……レイア、ちょっと変わった?」
「あははっ、そんなわけないでしょ。寝すぎてまだ調子でないのかも」
軽く笑って受け流してるけれど……いや、いいか。あまり深く追求する必要もない。
レイアは今まで通り、私の知ってるレイアな訳だし、何も問題ない。
「レイアちゃん、学園にはいつ来れる?」
「んーと……お医者さんからはまだしばらくは様子を見ないとって」
かなり眠っていたんだし、目が覚めてそれですぐに退院って訳にもいかないだろう。
体力も低下しているだろうしね。私が完璧な状態に戻してあげてもいいんだけど……あんまり色々してもレイアの為にはならない。それに……魔導は身体を癒す事も、心を落ち着かせて安らぎを与える事も出来る。でも、精神の疲れをいやす事は出来ない。
レイアに必要なのは心の休息だろう。
「また学園に一緒に通える日を楽しみにしてる。だから……早く元気になって、またいつも通りの日々を過ごしましょう? リュネーやジュール……雪風と一緒に」
「あは、ティアちゃん、それ女の子ばっかりだよ」
「それじゃあ、フォルスとウォルカも一緒に、ね」
普段は先に女の子ばっかりで遊んだりしていたから、必然的に二人の事を忘れていた。
……まあいいか。ここにはいないんだし。
「うん! ……ありがとうティアちゃん」
「え? 私、お礼言われるようなこと、言った?」
別に当たり前の事を言っただけなんだけど、なんでだろう? と首を傾げていると、レイアはくすくすと笑いだした。
「全部だよ。おにいさ――」
一瞬『お兄様』と言いかけたレイアは、一度顔を伏せる。だけどすぐに自信に満ちた表情で顔を上げた。
「兄さんの事も、私の事を叱咤してくれた事も。あの時……迷子だった私を見つけ出してくれた事も、おかしくなった私を助けてくれた事も全部。ティアちゃんのおかげだから。ずっとお礼を言いたかったの」
「……そう。なら、受け取っておくわ」
今までの事のお礼を言われるなんて、ちょっとくすぐったい。レイアも少し恥ずかしかったのか、ちょっと顔が赤いような気がする。
「……私の前でイチャついたら駄目ですよ」
「イチャついてない!」
「でも照れてるじゃないですか。顔真っ赤にして」
「してない!」
ジュールが不満そうな顔で文句を言っていると、レイアが慌ててそれを否定する。
どこか嬉しそうにじゃれ合ってる二人の姿を見ると、どっちかというとイチャついてるのは二人なんじゃないだろうか? と思うほどだ。
「……ふふ」
「ティア様?」
「ごめんなさい。二人が楽しそうにしてるからつい、ね」
「ティアちゃんまでぇ……」
レイアが情けない声を上げたけれど、しばらくして三人で笑い合った。ここにリュネーがいないのが残念だ。今度はリュネーも連れて、最初に集まった四人で一緒にお茶でもしよう。そんな風に思いながら、笑い続けた。
――
レイアが意識を取り戻してから数日、学園には再び穏やかな日常が戻ってきた。
……もっとも、私には王位継承者争いとか、ファリスという謎の少女とかにいつ悩まされるかわからないんだけど、今のところは平穏なままだ。
強いて言うなら、本格的に二年生としての活動を開始したくらいか。
授業の内容も自国の歴史を中心に教えていた内容から、他国の歴史に文化や流通なども授業内容に加わっていた。座学としてより濃い内容になって、クラスメイトの一人が数学が難しいって嘆いていたっけ。
特待生クラスの方も三年生のクラスに所属する事になって、先生と戦闘訓練を積む事になった……んだけど、最近では私の方が教える側に回りがちで、あまり意味がなかった。
……まあ、こちらの分野では教わる必要がないのがそれに拍車をかけてるんだけどね。
レイアも後三日で戻ってくるみたいだし、夏休みが終わるまではいよいよ普通の日常を送れる事になりそうだ。そう思って特待生クラスに入ると、どこかぴりぴりとした雰囲気に包まれていた。
「……どうしたの?」
「ん、ああ。エールティア殿か」
「蒼鬼先輩。いつもと違うけど……何かあったの?」
「特待生クラスはこの時期になると、二年と三年の合同訓練を行うしきたりがある。去年は拙僧達が先輩方に揉まれたのだが、今年は逆の立場になったと言う訳だな」
「それで、なんでこんなにぴりぴりした雰囲気になるの?」
「今年の二年は粒揃いと聞く。エールティア殿には劣るとしても、それに近い者達がいるに違いない。先を行く者として、後ろを付いて来る者に遅れをとる訳には行かぬだろう」
なるほど、そういう理由だったのか。でも、私が来た時以上の気がするんだけど……。
「私の時は普通だったじゃない?」
「エールティア殿は戦績から規格外だったではないか。他の者と比べられぬだろう」
確かに上級生相手に決闘ふっかけたりしたけれど……なんだか複雑な気分だ。規格外なのは確かなんだけど、納得出来ない。そんな気分で席に着くのだった。
今まで離れていた時間を埋めるように。
「レイア……本当にごめんなさい。私――」
「ううん、こっちこそ迷惑かけてごめんね。それと……止めてくれてありがとう」
レイアは憑き物の落ちたような顔をしてるけれど……それ以上に昔の彼女とはまるで違うように感じる。纏う魔力が違うように見える。
「……レイア、ちょっと変わった?」
「あははっ、そんなわけないでしょ。寝すぎてまだ調子でないのかも」
軽く笑って受け流してるけれど……いや、いいか。あまり深く追求する必要もない。
レイアは今まで通り、私の知ってるレイアな訳だし、何も問題ない。
「レイアちゃん、学園にはいつ来れる?」
「んーと……お医者さんからはまだしばらくは様子を見ないとって」
かなり眠っていたんだし、目が覚めてそれですぐに退院って訳にもいかないだろう。
体力も低下しているだろうしね。私が完璧な状態に戻してあげてもいいんだけど……あんまり色々してもレイアの為にはならない。それに……魔導は身体を癒す事も、心を落ち着かせて安らぎを与える事も出来る。でも、精神の疲れをいやす事は出来ない。
レイアに必要なのは心の休息だろう。
「また学園に一緒に通える日を楽しみにしてる。だから……早く元気になって、またいつも通りの日々を過ごしましょう? リュネーやジュール……雪風と一緒に」
「あは、ティアちゃん、それ女の子ばっかりだよ」
「それじゃあ、フォルスとウォルカも一緒に、ね」
普段は先に女の子ばっかりで遊んだりしていたから、必然的に二人の事を忘れていた。
……まあいいか。ここにはいないんだし。
「うん! ……ありがとうティアちゃん」
「え? 私、お礼言われるようなこと、言った?」
別に当たり前の事を言っただけなんだけど、なんでだろう? と首を傾げていると、レイアはくすくすと笑いだした。
「全部だよ。おにいさ――」
一瞬『お兄様』と言いかけたレイアは、一度顔を伏せる。だけどすぐに自信に満ちた表情で顔を上げた。
「兄さんの事も、私の事を叱咤してくれた事も。あの時……迷子だった私を見つけ出してくれた事も、おかしくなった私を助けてくれた事も全部。ティアちゃんのおかげだから。ずっとお礼を言いたかったの」
「……そう。なら、受け取っておくわ」
今までの事のお礼を言われるなんて、ちょっとくすぐったい。レイアも少し恥ずかしかったのか、ちょっと顔が赤いような気がする。
「……私の前でイチャついたら駄目ですよ」
「イチャついてない!」
「でも照れてるじゃないですか。顔真っ赤にして」
「してない!」
ジュールが不満そうな顔で文句を言っていると、レイアが慌ててそれを否定する。
どこか嬉しそうにじゃれ合ってる二人の姿を見ると、どっちかというとイチャついてるのは二人なんじゃないだろうか? と思うほどだ。
「……ふふ」
「ティア様?」
「ごめんなさい。二人が楽しそうにしてるからつい、ね」
「ティアちゃんまでぇ……」
レイアが情けない声を上げたけれど、しばらくして三人で笑い合った。ここにリュネーがいないのが残念だ。今度はリュネーも連れて、最初に集まった四人で一緒にお茶でもしよう。そんな風に思いながら、笑い続けた。
――
レイアが意識を取り戻してから数日、学園には再び穏やかな日常が戻ってきた。
……もっとも、私には王位継承者争いとか、ファリスという謎の少女とかにいつ悩まされるかわからないんだけど、今のところは平穏なままだ。
強いて言うなら、本格的に二年生としての活動を開始したくらいか。
授業の内容も自国の歴史を中心に教えていた内容から、他国の歴史に文化や流通なども授業内容に加わっていた。座学としてより濃い内容になって、クラスメイトの一人が数学が難しいって嘆いていたっけ。
特待生クラスの方も三年生のクラスに所属する事になって、先生と戦闘訓練を積む事になった……んだけど、最近では私の方が教える側に回りがちで、あまり意味がなかった。
……まあ、こちらの分野では教わる必要がないのがそれに拍車をかけてるんだけどね。
レイアも後三日で戻ってくるみたいだし、夏休みが終わるまではいよいよ普通の日常を送れる事になりそうだ。そう思って特待生クラスに入ると、どこかぴりぴりとした雰囲気に包まれていた。
「……どうしたの?」
「ん、ああ。エールティア殿か」
「蒼鬼先輩。いつもと違うけど……何かあったの?」
「特待生クラスはこの時期になると、二年と三年の合同訓練を行うしきたりがある。去年は拙僧達が先輩方に揉まれたのだが、今年は逆の立場になったと言う訳だな」
「それで、なんでこんなにぴりぴりした雰囲気になるの?」
「今年の二年は粒揃いと聞く。エールティア殿には劣るとしても、それに近い者達がいるに違いない。先を行く者として、後ろを付いて来る者に遅れをとる訳には行かぬだろう」
なるほど、そういう理由だったのか。でも、私が来た時以上の気がするんだけど……。
「私の時は普通だったじゃない?」
「エールティア殿は戦績から規格外だったではないか。他の者と比べられぬだろう」
確かに上級生相手に決闘ふっかけたりしたけれど……なんだか複雑な気分だ。規格外なのは確かなんだけど、納得出来ない。そんな気分で席に着くのだった。
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