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210・上の空
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誕生祭から三日が経ったある日。私の頭の中は、未だにあの日のことが焼き付いて離れなかった。
初めてのキスが衝撃的だったからかもだけど……あの生々しい感触が、今ので口の中に残っているような気がする。
それは学園に通っていても気になってしまって……つい、思い出してしまう。
「ティア様、大丈夫ですか?」
「え? あ、うん」
お昼休み。心配そうにのぞき込んできたジュールに、気の抜けた返事をしてしまった。
どうにも、授業の方にも身が入らない。気が付くとあの場面が頭の中に湧き上がってきてしまう。
「……はぁ」
なんであの子は私の事を知っていたんだろう? あの後、探したけれど結局出てこないし。
あの時はあんなに怒ったのに、不思議と嫌……という気分はなかった。だからと言って、されたいって訳でもないんだけど。
「ティアちゃん、どうしたの?」
「……別に、どうもしないわよ」
「えー、そんな風には見えないんだけど……」
じーっとこっちを覗き込んでいるリュネーの口元の方に自然と目が行って……あの日の感触をまた思い出してさっと目を逸らす。
「……もしかして、誕生祭の時、何かあった?」
「――っ! な、ないったら!」
机をばんっ! と強く叩いてしまったからか、周りから注目を集めてしまった。
視線が注いでくる中、居心地が悪くなって、席を立つ。
「……ごめんなさい。でも、本当に何もないから」
居心地が悪くなって、逃げるように特待生クラスの方に歩き出した。そろそろお昼休みも終わるし……なんて言い訳がましい事を考えながら。
――
「エールティア……」
特待生クラスに行って、外での戦闘訓練が終わって休憩時間。誰かから呆れたような声で呼ばれてしまった。声のする方を向くと、そこにはハクロ先輩がいた。
「ハクロ先輩……」
「お前……やる気はあるのか?」
「やる気って……なかったら来ないわよ。急にどうしたの?」
呆れた顔でじろーっとこっちを見ているハクロ先輩は、情けないものを見るような目をしていた。
「戦闘訓練の授業中、ずっと上の空だったじゃないか。一体どうした?」
「……よく、気付けたねー。あんなに鋭い攻撃ばっかりなのに……」
「拙僧も、エールティア殿の攻撃にはついていけぬ……」
はあはあ、と息を切らせている二人を横に、ハクロ先輩は涼しい顔をしていた。どうやら、魔王祭本選での激戦が、彼をまた一つ強くしたみたいだ。以前のハクロ先輩なら、同じように……とは言わないけれど、ある程度はばてていたはずだ。
「普段なら、もっと容赦のない攻撃をしてくる。それなのに……手を抜いた攻撃が度々あった。一体どうしたんだ?」
真剣な表情で見てくるハクロ先輩。それを見て、思わず悪い事をした気持ちになってしまう。
リュネーの時と同じように居心地の悪さを感じるけれど、流石に授業を抜け出すようなことは出来ない。どうしたものだろうか……?
「困ったことがあったのなら、先輩に聞いてくれたらいいよー。こう見えても、ぼく達は一つ上だしねー」
シェイン先輩の穏やかな笑顔が眩しい。確かに、みんな私よりも一つ上なんだけど……転生前も考えれば、私の方が年上になるだろうけど。……だけど、シェイン先輩の言葉にも一理ある。せっかくだから、一つ質問してみよう。
「……先輩方は、キスした事あります?」
一瞬、きょとんとした表情をした三人は、互いの顔を見比べて……不思議そうにしていた。
「驚いたね。君がそんな事を聞いてくるなんて……」
「そうですな。そのような事とは、無縁の女人だと認識しておりました」
「……まさか、そんなことで悩んでいたのか?」
二人は意外そうに。最後の一人は呆れたような顔でこっちを見てきた。ハクロ先輩には『そんなこと』でも、私にとっては大事だ。
「どうでもいい事でしょう。それで……どうなんです?」
「どうもこうも……拙僧はそういうのに疎いので……」
「僕も。強くなること以外に興味ないね」
どうやら蒼鬼先輩とハクロ先輩はからっきしのようだ。……まあ、この二人は最初からわかっていたことだけど。
「……へえー、やっぱり君もなんだかんだ女の子なんだねー」
本命と言ってもいいシェイン先輩の方はにやにやと笑ってうんうん頷いてる。やっぱり、軽薄そうな顔をしてるからか、こっちの方は経験豊富のようだ。
「エールティアちゃんは、キスしたい人がいるの?」
「いるというか……されたというか」
「へぇ……大胆な子もいるんだね。魔王祭に一緒にいた男の子?」
「いいえ、全く知らない子」
「その子、やるね」
女の子だと言わなかったのは、シェイン先輩がまた鬱陶しくなるだろうと予感があったからだ。
「いきなり唇を奪うなんて……その子、前から君のこと知ってるんだろうね。で、どうだった?」
「どう……って。何が?」
「嫌だったとか、驚いたとか……あるんじゃない?」
やたらと質問してくる。私の方が色々聞きたいことがあるのに……。
「私の聞きたいことには答えてくれるんですよね?」
「うん。ぼくがわかる範囲でねー」
……結局、具体的な事をぼやかして教えた対価は、シェイン先輩の恋愛経験という、なんとも微妙なものだった。
やっぱり自分の気持ちは自分で解決するしかない。そんな結論に到達するのが、少し遅かった。
私のやった事は、つまり恥の上塗りでしかなかったのだった……。
初めてのキスが衝撃的だったからかもだけど……あの生々しい感触が、今ので口の中に残っているような気がする。
それは学園に通っていても気になってしまって……つい、思い出してしまう。
「ティア様、大丈夫ですか?」
「え? あ、うん」
お昼休み。心配そうにのぞき込んできたジュールに、気の抜けた返事をしてしまった。
どうにも、授業の方にも身が入らない。気が付くとあの場面が頭の中に湧き上がってきてしまう。
「……はぁ」
なんであの子は私の事を知っていたんだろう? あの後、探したけれど結局出てこないし。
あの時はあんなに怒ったのに、不思議と嫌……という気分はなかった。だからと言って、されたいって訳でもないんだけど。
「ティアちゃん、どうしたの?」
「……別に、どうもしないわよ」
「えー、そんな風には見えないんだけど……」
じーっとこっちを覗き込んでいるリュネーの口元の方に自然と目が行って……あの日の感触をまた思い出してさっと目を逸らす。
「……もしかして、誕生祭の時、何かあった?」
「――っ! な、ないったら!」
机をばんっ! と強く叩いてしまったからか、周りから注目を集めてしまった。
視線が注いでくる中、居心地が悪くなって、席を立つ。
「……ごめんなさい。でも、本当に何もないから」
居心地が悪くなって、逃げるように特待生クラスの方に歩き出した。そろそろお昼休みも終わるし……なんて言い訳がましい事を考えながら。
――
「エールティア……」
特待生クラスに行って、外での戦闘訓練が終わって休憩時間。誰かから呆れたような声で呼ばれてしまった。声のする方を向くと、そこにはハクロ先輩がいた。
「ハクロ先輩……」
「お前……やる気はあるのか?」
「やる気って……なかったら来ないわよ。急にどうしたの?」
呆れた顔でじろーっとこっちを見ているハクロ先輩は、情けないものを見るような目をしていた。
「戦闘訓練の授業中、ずっと上の空だったじゃないか。一体どうした?」
「……よく、気付けたねー。あんなに鋭い攻撃ばっかりなのに……」
「拙僧も、エールティア殿の攻撃にはついていけぬ……」
はあはあ、と息を切らせている二人を横に、ハクロ先輩は涼しい顔をしていた。どうやら、魔王祭本選での激戦が、彼をまた一つ強くしたみたいだ。以前のハクロ先輩なら、同じように……とは言わないけれど、ある程度はばてていたはずだ。
「普段なら、もっと容赦のない攻撃をしてくる。それなのに……手を抜いた攻撃が度々あった。一体どうしたんだ?」
真剣な表情で見てくるハクロ先輩。それを見て、思わず悪い事をした気持ちになってしまう。
リュネーの時と同じように居心地の悪さを感じるけれど、流石に授業を抜け出すようなことは出来ない。どうしたものだろうか……?
「困ったことがあったのなら、先輩に聞いてくれたらいいよー。こう見えても、ぼく達は一つ上だしねー」
シェイン先輩の穏やかな笑顔が眩しい。確かに、みんな私よりも一つ上なんだけど……転生前も考えれば、私の方が年上になるだろうけど。……だけど、シェイン先輩の言葉にも一理ある。せっかくだから、一つ質問してみよう。
「……先輩方は、キスした事あります?」
一瞬、きょとんとした表情をした三人は、互いの顔を見比べて……不思議そうにしていた。
「驚いたね。君がそんな事を聞いてくるなんて……」
「そうですな。そのような事とは、無縁の女人だと認識しておりました」
「……まさか、そんなことで悩んでいたのか?」
二人は意外そうに。最後の一人は呆れたような顔でこっちを見てきた。ハクロ先輩には『そんなこと』でも、私にとっては大事だ。
「どうでもいい事でしょう。それで……どうなんです?」
「どうもこうも……拙僧はそういうのに疎いので……」
「僕も。強くなること以外に興味ないね」
どうやら蒼鬼先輩とハクロ先輩はからっきしのようだ。……まあ、この二人は最初からわかっていたことだけど。
「……へえー、やっぱり君もなんだかんだ女の子なんだねー」
本命と言ってもいいシェイン先輩の方はにやにやと笑ってうんうん頷いてる。やっぱり、軽薄そうな顔をしてるからか、こっちの方は経験豊富のようだ。
「エールティアちゃんは、キスしたい人がいるの?」
「いるというか……されたというか」
「へぇ……大胆な子もいるんだね。魔王祭に一緒にいた男の子?」
「いいえ、全く知らない子」
「その子、やるね」
女の子だと言わなかったのは、シェイン先輩がまた鬱陶しくなるだろうと予感があったからだ。
「いきなり唇を奪うなんて……その子、前から君のこと知ってるんだろうね。で、どうだった?」
「どう……って。何が?」
「嫌だったとか、驚いたとか……あるんじゃない?」
やたらと質問してくる。私の方が色々聞きたいことがあるのに……。
「私の聞きたいことには答えてくれるんですよね?」
「うん。ぼくがわかる範囲でねー」
……結局、具体的な事をぼやかして教えた対価は、シェイン先輩の恋愛経験という、なんとも微妙なものだった。
やっぱり自分の気持ちは自分で解決するしかない。そんな結論に到達するのが、少し遅かった。
私のやった事は、つまり恥の上塗りでしかなかったのだった……。
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