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206・パーティーの中
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私の謝罪から再開されたパーティーは、いつも以上の賑わいを見せていた。やっぱり、私の行動によるところが多い。
「さて……」
無事にリュンリュの父親も見つかったし、心の中に残った荷が下りたような気分になったところで、まだ残っている事がある。パーティーの途中で一度離席して、町の広場に行って、みんなにお披露目をしないといけないのだ。
これも毎年の恒例行事と言っても良い。というか、お父様が生まれる前から、この町では聖黒族の誕生日を盛大に祝っているらしい。お父様の誕生日も、私の時と同じくらい祝っている。
……まあ、今年は魔王祭に行ってしまったから祝う事は出来なかったけどね。
その分、お土産を買ったり、こっそり手紙を届けたりしていたんだけど……やっぱり突発的だったから心残りがある。多分……来年も同じように祝う事が出来ないから、何かしら対策を立てておかないといけないかな。
「エールティア様」
これからどうしようかと考えていたら、リュンリュの父親のセイゼフさんが話しかけてきた。
「これは……セイゼフ様。どうされました?」
「いえ、改めてお礼を申し上げたくてですね。私共の仕事は敬われる事もありますが、それ以上に僻み妬みが多いものです」
セイゼフさんの話にはどこか共感できる。転生前もそして今も。そういう社会の中にいるのだから。
「そうでしょうね。どこの世界も、似たようなものでしょう」
「ははっ、仰る通りです。特にリュンリュのように幼い子は余計に狙われやすい。私達も気を付けてはいたのですが……護衛を巻かれてしまってはどうする事も出来ませんでした」
「? リュンリュは両親と三人で来たと言っていましたが……」
迷子になったリュンリュを探しているセイゼフさんが、合流した部下達に指示をだした――というのは聞いたけれど、それは初耳だった。
「出来る限りあの子に気付かれないように忍ばせていましたからね。あの子にはあまり自由を与えてやることが出来ません。ですからせめて、親子水入らずの時間を……例え偽りであっても与えてあげたかったのですよ」
悲し気な表情で言葉にするセイゼフさんは、父親の表情だった。それだけ、リュンリュの事を大切に思っているのだろう。
「大丈夫ですよ。その想いはちゃんとリュンリュに伝わっていますよ」
「はははっ、そうだと良いのですがね。……もう一つ聞きたいことがあるのですが、よろしいですか?」
軽く笑っていたセイゼフさんが、ふと気づいたような顔をして聞いてきた。
「ええ、どうぞ」
「あの時、リュンリュと私が再会した時、貴女は随分驚かれていましたね。あの子の父親が私だと知らなかったように」
実際、全く知らなかったのだから無理もないと思う。別に損得を考えて助けた訳じゃないしね。
「私や……貴女方のような人種は常に損得で物事を考えると思うのですが、一体何故助けようとしてくれたのですか?」
「せっかくのお祭りの日に、泣いて過ごすような子がいるなんて嫌ですもの。全員なんて無理だけど……せめて目の前の子ぐらい、助けてあげたい。偽善かもしれませんけどね」
まっすぐ見つめてくるセイゼフさんを見返す。別に何のやましい事もない。私の本心だったし、それ以上でも、以下でもない理由だったからだ。
「……ふっ、敵いませんね。貴女は母君に似て、優しい瞳をしておられる」
「お母様を――母をご存知なのですか?」
「ええ。まだ私が駆け出しだった時。盗賊に襲われましてね。その時に命を救われました。まさか親子二代に渡ってリシュファス家の方々に助けられるとは思いもしませんでしたよ」
セイゼフさんは遠い過去を懐かしむように笑うけれど……想像がつかない。お母様はあまり戦わない人だからだろう。魔導ならまだしも、武器を使う姿が全然頭に浮かんでこない。
「……想像出来ないって顔をされてますね。昔も今も……あの方は決断できる人ですよ。だからこそ、あの方の周りには人が集まる」
「それはわかります」
お母様の周りには自然と誰かが集まってくる。だから色んな事を知ってるし、教えてくれる。
「ふふっ、あの方の血を貴女も確かに引いている。今回、それがわかっただけでもこの地に来た甲斐がありました」
そういう純粋な好意を向けられると、少しくすぐったい。子供ならまだわかるけれど、それが大人の――しかも男の人なのだから、照れ臭く感じてしまう。
「ぱぱー」
二人で話していると、リュンリュがキャッキャとはしゃぎながらこちらに近づいてきた。
「リュンリュ。どうしたんだ?」
「これ! すっごくおいしい!」
お皿を両手に持って料理を運んでくるその姿は、とても愛らしかった。
セイゼフさんは笑みを浮かべて、リュンリュの頭を撫でて皿を受け取った。
「ありがとう。これは一緒に食べようか。……それでは、エールティア様。失礼いたします」
「ええ。話が聞けて、楽しかったわ」
「おねーちゃん、ばいばい!」
父親と一緒に嬉しそうに手を振って歩いているリュンリュに、私も同じように振り返して……二人の幸せそうな姿を見送る。やっぱり、助けてよかった。改めて、そう思えるような光景に、自然と笑みが零れた。
「さて……」
無事にリュンリュの父親も見つかったし、心の中に残った荷が下りたような気分になったところで、まだ残っている事がある。パーティーの途中で一度離席して、町の広場に行って、みんなにお披露目をしないといけないのだ。
これも毎年の恒例行事と言っても良い。というか、お父様が生まれる前から、この町では聖黒族の誕生日を盛大に祝っているらしい。お父様の誕生日も、私の時と同じくらい祝っている。
……まあ、今年は魔王祭に行ってしまったから祝う事は出来なかったけどね。
その分、お土産を買ったり、こっそり手紙を届けたりしていたんだけど……やっぱり突発的だったから心残りがある。多分……来年も同じように祝う事が出来ないから、何かしら対策を立てておかないといけないかな。
「エールティア様」
これからどうしようかと考えていたら、リュンリュの父親のセイゼフさんが話しかけてきた。
「これは……セイゼフ様。どうされました?」
「いえ、改めてお礼を申し上げたくてですね。私共の仕事は敬われる事もありますが、それ以上に僻み妬みが多いものです」
セイゼフさんの話にはどこか共感できる。転生前もそして今も。そういう社会の中にいるのだから。
「そうでしょうね。どこの世界も、似たようなものでしょう」
「ははっ、仰る通りです。特にリュンリュのように幼い子は余計に狙われやすい。私達も気を付けてはいたのですが……護衛を巻かれてしまってはどうする事も出来ませんでした」
「? リュンリュは両親と三人で来たと言っていましたが……」
迷子になったリュンリュを探しているセイゼフさんが、合流した部下達に指示をだした――というのは聞いたけれど、それは初耳だった。
「出来る限りあの子に気付かれないように忍ばせていましたからね。あの子にはあまり自由を与えてやることが出来ません。ですからせめて、親子水入らずの時間を……例え偽りであっても与えてあげたかったのですよ」
悲し気な表情で言葉にするセイゼフさんは、父親の表情だった。それだけ、リュンリュの事を大切に思っているのだろう。
「大丈夫ですよ。その想いはちゃんとリュンリュに伝わっていますよ」
「はははっ、そうだと良いのですがね。……もう一つ聞きたいことがあるのですが、よろしいですか?」
軽く笑っていたセイゼフさんが、ふと気づいたような顔をして聞いてきた。
「ええ、どうぞ」
「あの時、リュンリュと私が再会した時、貴女は随分驚かれていましたね。あの子の父親が私だと知らなかったように」
実際、全く知らなかったのだから無理もないと思う。別に損得を考えて助けた訳じゃないしね。
「私や……貴女方のような人種は常に損得で物事を考えると思うのですが、一体何故助けようとしてくれたのですか?」
「せっかくのお祭りの日に、泣いて過ごすような子がいるなんて嫌ですもの。全員なんて無理だけど……せめて目の前の子ぐらい、助けてあげたい。偽善かもしれませんけどね」
まっすぐ見つめてくるセイゼフさんを見返す。別に何のやましい事もない。私の本心だったし、それ以上でも、以下でもない理由だったからだ。
「……ふっ、敵いませんね。貴女は母君に似て、優しい瞳をしておられる」
「お母様を――母をご存知なのですか?」
「ええ。まだ私が駆け出しだった時。盗賊に襲われましてね。その時に命を救われました。まさか親子二代に渡ってリシュファス家の方々に助けられるとは思いもしませんでしたよ」
セイゼフさんは遠い過去を懐かしむように笑うけれど……想像がつかない。お母様はあまり戦わない人だからだろう。魔導ならまだしも、武器を使う姿が全然頭に浮かんでこない。
「……想像出来ないって顔をされてますね。昔も今も……あの方は決断できる人ですよ。だからこそ、あの方の周りには人が集まる」
「それはわかります」
お母様の周りには自然と誰かが集まってくる。だから色んな事を知ってるし、教えてくれる。
「ふふっ、あの方の血を貴女も確かに引いている。今回、それがわかっただけでもこの地に来た甲斐がありました」
そういう純粋な好意を向けられると、少しくすぐったい。子供ならまだわかるけれど、それが大人の――しかも男の人なのだから、照れ臭く感じてしまう。
「ぱぱー」
二人で話していると、リュンリュがキャッキャとはしゃぎながらこちらに近づいてきた。
「リュンリュ。どうしたんだ?」
「これ! すっごくおいしい!」
お皿を両手に持って料理を運んでくるその姿は、とても愛らしかった。
セイゼフさんは笑みを浮かべて、リュンリュの頭を撫でて皿を受け取った。
「ありがとう。これは一緒に食べようか。……それでは、エールティア様。失礼いたします」
「ええ。話が聞けて、楽しかったわ」
「おねーちゃん、ばいばい!」
父親と一緒に嬉しそうに手を振って歩いているリュンリュに、私も同じように振り返して……二人の幸せそうな姿を見送る。やっぱり、助けてよかった。改めて、そう思えるような光景に、自然と笑みが零れた。
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