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199・同胞(???side)
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ガネラの6の日。とある町の一室にて、シャラは身体を休めていた。身体にはあまり目立つような外傷はないが、その顔は痛みにうなされているようだった。それもそうだろう。自らが自信をもって放っていた技を、エールティアはあっさりと見破ってしまったのだから。
顔を悲痛に歪ませるシャラの部屋にノックの音が響き、一人の男が入ってくる。
「……お主か」
「せっかく助けたのに、随分な言い草だな」
「助けを求めていた訳ではない。余計な真似をするな。……ローラン」
簡素ではあるが、食事を持ってきたローランは、机にトレーごと置いた。
「今はあの国に捕まるわけにはいかない……だろう?」
「だから拙者を助けに来たと……そういう訳か。ははっ、お優しい事だ」
ベッドから上体を起こしてローランと向き合ったシャラは、皮肉めいた言葉と同時に天井を仰ぐ。
「……見たか? 奴の力を」
「ああ。ライニーとの戦いも見物したが……彼女の強さは一線を画している。勝てる気がしないな」
「だがお前なら、負ける事はない……だろう?」
「さあてね」
ローランは多少おどけて見せたが、内心では負けない戦いをしても、負けるだろうと思っていた。力・技術・魔力……どれをとっても底が見えない。ライニーとシャラの二人と戦っている時も、どこか遊んでいるようだった。例え自分でも、遊びで終わってしまうかもしれない。そんな嫌な予感が頭によぎる程に、エールティアの強さに恐ろしさを抱いていた。
だが……それと同時に何か――まるで遥か昔に出会った事があるような感覚が彼にはあった。有り得ない事ではあるが、運命を感じるというのは、こういう事を言うのだろうと思うほどに、ローランはエールティアを一目見た時から気にしていた。
「……シュタインはなんて言っていた?」
「『結果は出した。しばらくは自由にしろ』と言っていたよ。俺達が生きていようと死んでいようと、あいつらにとっては結果が全てなんだろうな」
「何を今更。それが拙者達の運命であろう」
ため息交じりのローランを、鼻で笑って彼が持ってきた食事に手を付ける。
パンにスープ。サラダと、夜の食事にしては簡単な物だったが、今のシャラにとっては腹の中に入ればなんでも良かった。
「気に食わんが……まあいい。拙者は勝っても負けても計画は進む。駒は駒として動くのみだ」
「お前は……本当にそれでいいのか?」
「愚問だな。戦えと言われれば戦う。それだけだ」
自分を派遣した者達の思惑など、シャラにとってはどうでもいい事だった。望みとあらば刃を振るい、敵を殺す。感情は持っているし、エールティアとの一戦を悔しく思う気持ちもある。だが、それを持ち込むことは決してしない。それはシャラにとって当然の事であり、何の疑問も抱くことはなかった。
そういう環境にいたことはローランもわかっている。自らもまた、同じ地獄の中にいたのだから。
だが……だからこそ、諦めてはいけない。絶望の中にも必ず救いはある。そう、彼は信じていた。信じる事で理性を保っていた。
「ローラン。無意味な夢を見るのはやめろ。所詮、拙者達は闇の中でしか生きられぬ身。光の舞台に上がったとしても、やがて闇に消えゆく。それが運命。誰にも変えられぬ性よ」
それはシャラが到達した自分達の真理だった。表舞台に上がったところで、決して『幸福』を掴むことは出来ない。何を犠牲にしても、手に入れる事は出来ない。
「……わかってるさ。でも、それでも……掴みたい物がある。俺達にだって、希望を持ってもいいはずだ」
「人の夢は儚い。お主のは正に、そういう類のものだよ」
「だとしても、諦めるつもりはないさ。それくらい、お前にだってわかっているだろう?」
まっすぐ見つめるローランの瞳の輝きは、シャラには眩しすぎた。一方は自らの境遇を受け入れ、地獄に身を置くことに納得した。一方は例え落ちていく身だとしても、諦めずに手を伸ばし続けている。その違いが、シャラの目を背けさせたのだ。
「お主は相変わらず眩い男だ。だからはっきり言える。拙者はお主が嫌いだ」
「俺はお前の事が好きだよ。同じ地獄を生きてきた仲間だからな」
互いに笑い合う。一方は明るく。そしてもう一方はどこか影が落ちたかのように。思いや考えは違えど、同じように地獄を過ごし、生きてきた。共にいた年月が物語るかくらいには、通じ合っている。
「……で、これからどうするんだ? 一応、居場所は知っておかないといけないからな」
「しばらくは北の方で修行をしようと思っている。あそこまで完全に負けてしまっては、な」
「そうか。なら、しばらくは会えなくなるな」
「そんな別れを惜しむような恋人のような事を言うな。気持ち悪い」
普通に別れを惜しんだだけだと思っていただけに、ローランはショックを受けた表情をして落ち込んでしまった。
「友人との別れを惜しむくらい、普通だろう」
「『好きだよ』の後にそのような言葉を口にするから悪い」
最初の落ち込んでいた雰囲気から一変して、痛みもあまりならなくなった事を、シャラは感謝していた。それを口にすると、ローランが調子に乗るのから黙ったまま、気持ちを切り替えるのだった。
顔を悲痛に歪ませるシャラの部屋にノックの音が響き、一人の男が入ってくる。
「……お主か」
「せっかく助けたのに、随分な言い草だな」
「助けを求めていた訳ではない。余計な真似をするな。……ローラン」
簡素ではあるが、食事を持ってきたローランは、机にトレーごと置いた。
「今はあの国に捕まるわけにはいかない……だろう?」
「だから拙者を助けに来たと……そういう訳か。ははっ、お優しい事だ」
ベッドから上体を起こしてローランと向き合ったシャラは、皮肉めいた言葉と同時に天井を仰ぐ。
「……見たか? 奴の力を」
「ああ。ライニーとの戦いも見物したが……彼女の強さは一線を画している。勝てる気がしないな」
「だがお前なら、負ける事はない……だろう?」
「さあてね」
ローランは多少おどけて見せたが、内心では負けない戦いをしても、負けるだろうと思っていた。力・技術・魔力……どれをとっても底が見えない。ライニーとシャラの二人と戦っている時も、どこか遊んでいるようだった。例え自分でも、遊びで終わってしまうかもしれない。そんな嫌な予感が頭によぎる程に、エールティアの強さに恐ろしさを抱いていた。
だが……それと同時に何か――まるで遥か昔に出会った事があるような感覚が彼にはあった。有り得ない事ではあるが、運命を感じるというのは、こういう事を言うのだろうと思うほどに、ローランはエールティアを一目見た時から気にしていた。
「……シュタインはなんて言っていた?」
「『結果は出した。しばらくは自由にしろ』と言っていたよ。俺達が生きていようと死んでいようと、あいつらにとっては結果が全てなんだろうな」
「何を今更。それが拙者達の運命であろう」
ため息交じりのローランを、鼻で笑って彼が持ってきた食事に手を付ける。
パンにスープ。サラダと、夜の食事にしては簡単な物だったが、今のシャラにとっては腹の中に入ればなんでも良かった。
「気に食わんが……まあいい。拙者は勝っても負けても計画は進む。駒は駒として動くのみだ」
「お前は……本当にそれでいいのか?」
「愚問だな。戦えと言われれば戦う。それだけだ」
自分を派遣した者達の思惑など、シャラにとってはどうでもいい事だった。望みとあらば刃を振るい、敵を殺す。感情は持っているし、エールティアとの一戦を悔しく思う気持ちもある。だが、それを持ち込むことは決してしない。それはシャラにとって当然の事であり、何の疑問も抱くことはなかった。
そういう環境にいたことはローランもわかっている。自らもまた、同じ地獄の中にいたのだから。
だが……だからこそ、諦めてはいけない。絶望の中にも必ず救いはある。そう、彼は信じていた。信じる事で理性を保っていた。
「ローラン。無意味な夢を見るのはやめろ。所詮、拙者達は闇の中でしか生きられぬ身。光の舞台に上がったとしても、やがて闇に消えゆく。それが運命。誰にも変えられぬ性よ」
それはシャラが到達した自分達の真理だった。表舞台に上がったところで、決して『幸福』を掴むことは出来ない。何を犠牲にしても、手に入れる事は出来ない。
「……わかってるさ。でも、それでも……掴みたい物がある。俺達にだって、希望を持ってもいいはずだ」
「人の夢は儚い。お主のは正に、そういう類のものだよ」
「だとしても、諦めるつもりはないさ。それくらい、お前にだってわかっているだろう?」
まっすぐ見つめるローランの瞳の輝きは、シャラには眩しすぎた。一方は自らの境遇を受け入れ、地獄に身を置くことに納得した。一方は例え落ちていく身だとしても、諦めずに手を伸ばし続けている。その違いが、シャラの目を背けさせたのだ。
「お主は相変わらず眩い男だ。だからはっきり言える。拙者はお主が嫌いだ」
「俺はお前の事が好きだよ。同じ地獄を生きてきた仲間だからな」
互いに笑い合う。一方は明るく。そしてもう一方はどこか影が落ちたかのように。思いや考えは違えど、同じように地獄を過ごし、生きてきた。共にいた年月が物語るかくらいには、通じ合っている。
「……で、これからどうするんだ? 一応、居場所は知っておかないといけないからな」
「しばらくは北の方で修行をしようと思っている。あそこまで完全に負けてしまっては、な」
「そうか。なら、しばらくは会えなくなるな」
「そんな別れを惜しむような恋人のような事を言うな。気持ち悪い」
普通に別れを惜しんだだけだと思っていただけに、ローランはショックを受けた表情をして落ち込んでしまった。
「友人との別れを惜しむくらい、普通だろう」
「『好きだよ』の後にそのような言葉を口にするから悪い」
最初の落ち込んでいた雰囲気から一変して、痛みもあまりならなくなった事を、シャラは感謝していた。それを口にすると、ローランが調子に乗るのから黙ったまま、気持ちを切り替えるのだった。
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