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190・聖黒族の女王

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「女王陛下、ご来場されました!!」

 ディアンおじ様と話している最中。会場の一番奥から現れた礼装の男性が現れ、ひときわ大きな声で女王陛下の来場を告げた。その後ろから淑やかにその御方は現れた。

「女王陛下……」
「ルティエル女王陛下!」

 貴族達の声援のような呼びかけが少しずつ大きくなっていく。それだけで、現女王が多くの者に望まれてその地位に就いている事がわかるくらいだ。

 そんな女王陛下の容姿は、やはり私達と似ている。漆黒の艶やかな髪に白系統の瞳は聖黒族の証とも言える。お父様も水色と言ってもほぼ白と呼んでも差し支えない色合いをしているし、大体の特徴としては間違っていない。
 女王陛下も類に漏れず、ほんのりと青が見える白色の瞳をしていた。なんでも、この『青』は初代魔王様の契約スライムであるアシュルの血を引いている証でもあるとか。

 聖黒族のもう一つの証である幼い容姿を漆黒と純白のドレスで身を包んでいて、良く似合っている。その足は当然のように会場の奥に用意されている王座に向けられて、迷うことなくその座に腰を据える。所作の一つ一つに優雅さが感じられて、とてもじゃないけれど真似できない気品さが溢れる。

「皆、ありがとう」

 たった一言。それだけで会場はシンと静寂に包みこまれて、今までの『ルティエル女王陛下』コールが一気に止んでしまう。

「此度も新たな年を迎える事が出来る喜びを、皆と共に分かち合う事が出来る。それを余は嬉しく思う。初代魔王陛下が築き上げ、歴代の女王が守り通してきたティリアース。今この国があるのは、貴公らが世に助力してくれているからであろう。これからも、余と共に国を盛り立てて欲しい」

 じんわりと広がっていくのは、喜びにも満ちた空気。中には感動で涙を流す者もいるけれど、それも毎度の事だ。中には面白くなさそうな顔をしている者もいるけれど……そういうのは大体エスリーア公爵家と友好的な関係を持っている貴族達だ。中には顔に出していない者もいるけれど、想いは同じだろう。

 対して私達リシュファス家と友好的な貴族と、初代魔王様を崇拝している者達は誰一人としてそんな顔をしていない。

「さあ、あまり堅苦しい言葉は抜きにしよう。余に構わず宴を楽しんで欲しい」

 女王陛下の元にワインの注がれたグラスが届けられると同時に、他の貴族達もグラスを手に持つ。

「最後にこの言葉で締めくくろう。聖なる黒に守られしこの国に、栄光と繁栄を。乾杯」
『乾杯!!』

 女王陛下がグラスに口を付けると同時に、私達も同じように中身を飲み干す。流石に私を含む未成年は香りつけされた程度の物だが、こういうのは楽しめればそれでいい。

 儀式のようなそれが終わると、会場には再び喧騒に包まれ始める。初めて来た時は女王陛下がそこで座っているのに、そんなのでいいのか? とも思ったけれど、今では慣れたものだ。

「あの、良いんですかね?」

 ただ、ここに来るのが初めてなジュールと雪風は不安そうにしていた。

「大丈夫。毎年こんな感じだから。ここで怒り出すような器の小さい人には誰もついて行かないって事でしょう」

 実際、女王陛下が怒っているところなんて見たことがない。みんなと同じように楽しんでいる。
 ただ、毒殺には常に気を配らないといけない立場だからか、浄化系の魔導を発動させているところは見かけるけどね。

「さ、せっかくだから私達も楽しみましょう。向こうでは食べられない物もあることだしね」

 海の幸を使った料理は多いけれど、山の幸を使った料理は、どうしても他の都市に劣る。もちろん、得意不得意というものや、感性の問題もあるけれど……それ以上に鮮度の問題がつきまとうからだ。

 中に入れると時間が止まって、いつでも入れた時と同じ鮮度を保持できると言われる『アイテム袋』が多くあれば、そういう差も少なくなるんだろうけれど……そんな珍しい魔導具がそうそう出回ってる訳がない。相応の値段もするしね。

 結果、こういう宴の時は普段食べない物や見たことがない物がテーブルに並ぶと言うわけだ。

 何を食べようかと少しうきうきしながら物色していると……先程大きな声で女王陛下の来訪を告げた男性がこちらに近寄ってきた。

「エールティア姫殿下。女王陛下がお呼びしております。どうぞ、こちらへ」

 まさか私に話が来るとは思わなかった。女王陛下と直接お話をしたのは、初めてこの宴に呼ばれた時ぐらいだ。
 後は遠巻きにお父様や、他の有力貴族達と話しているのを見ていただけだったから、この誘いには驚きを隠せなかった。

 同時にやっぱりね、と思う気持ちもあった。私が王位継承権を獲得した……のであれば、会話をする機会もあるだろうと。

「わかりました」
「ティア様、私も――」
「ジュールは残って。……大丈夫よ。ちょっとお話してくるだけだから」

 ここで誰かを連れて行く事は、それだけ女王陛下を信じていない事に繋がる。流石にそんな不敬を犯すつもりはなかった。
 ちょっと心配そうにしているジュールは雪風に任せて、私は一人、若干緊張しているのを隠しながら、女王陛下の下に向かった。
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