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189・オーク族の貴族
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アルティーナとの舌戦を繰り広げたせいで、少し周りから距離を置かれた私だけれど……一人が話しかけてきて以降、他の貴族達も次々と私に挨拶をしてきた。毎度似たような挨拶をしなければならない苦痛に、多少うんざりしてきた私は、ジュールに甘い飲み物を持ってきてもらった。
「エールティア様。お疲れ様です」
「ありがとう。……ん、美味しい」
ラポル――私がいた世界ではリンゴと呼ばれていた果実――を潰して、香りつけ程度の極少量のウィスキーと混ぜられた飲み物で、身体の中をほんのり暖めてくれる。
いつもは深紅茶を飲んでいるけれど、偶にはこう言うものもいい。お父様に見つかったら『お前にはまだ早い』と言われて没収されるのだけれど、どうせ酒で酔う事なんてないのだから、関係ない。
「エールティア様、お久しぶりですな」
喉を潤していると、また一人、声を掛けてきた貴族がいた。そちらの方に目を向けると、ぱっと見でオーク族の人だとわかった。
「そうですね。去年ぶりです。クリフウォル卿」
「ふふっ、昔のように『ディアンおじさま』と呼んでもいいのですぞ?」
「ご冗談を……。流石にこの場でそうお呼びするわけにはいきませんでしょう」
「ならば、その堅苦しい言葉遣いはやめてくだされ」
気軽に話しているこのクリフウォル卿は、私が尊敬する貴族の一人で、お父様と学友だった方だ。私達とは違って、ガンドルフとフェリシューアの二国との国境を守っている。ワイバーン便で色々と便利になった世の中だけれど、お互い忙しい身だから文通での交流を主にしているらしい。
私の事も幼い時から可愛がってくれて、よく遊びに来てくれていた。
「あの御方がかの有名なクリフウォル侯爵閣下ですか……!」
「君は確か……雪風、だね。ラディン卿から話は聞いているよ。なんでも、久しぶりに素質のある者と出会ったとか」
「そ、そのようなお言葉を……! もったいなき幸せ……!!」
さっきから感極まった表情で幸福を噛み締めている雪風に対して、ジュールはよくわかっていないようだ。
「そちらの少女は……契約スライムのジュールだね。ふむ、所作に拙さが残っているが、磨けば光る原石とはよく言ったものか」
「あの……エールティア様。この御方は?」
雪風のようになっていないのはいいけれど、私の契約スライムなのだから、お父様と懇意な貴族の名前くらいは憶えて欲しい。ついでに敵対している貴族の名前もね。
「この方は初代魔王様にお仕えしていたオーク族――クリフ様の血を引く御方ですよ。クリフ様は初代魔王様の住んでおられた館をずっと守っておられたとか。幾度も襲い掛かってくる侵入者を寄せ付けぬ鉄壁。その功績が認められた結果、侯爵の座を戴いたと記されておりますよ」
「流石。よく勉強しているね」
丁寧に教えるように説明する雪風に、ふむふむとジュールは頷いていた。
それを感心するような声を上げて、ディアンおじ様は優し気な目で二人を見ていた。対して、私の方はちょっと不満を感じてしまう。
「昔は私にもそういう砕けた口調で話してくれましたのに……」
「仕方ありますまい。昔と今とでは、立場が違いますからな。それだけ貴女様が成長されたと言う事です」
当然の事だとでも言うかのような言葉だけれど、それでも身近だった存在が離れていくようで、寂しく感じてしまう。私は公爵家の令嬢で、王位継承権を持つ者。大人になっていくごとに、立場の違いが明確に表れる。それがわかっていても……ね。
「あんなに小さかったエールティア様がこんなに立派になられて……私は誇らしいです」
「クリフウォル卿……」
どこか遠い目で昔を思い出しているディアンおじ様に恥ずかしさを感じるけれど、おじ様はそれを忘れさせるような真面目な顔をしてきた。
「時に……エールティア様。貴女様を襲った賊がいるそうですね」
「……! 流石クリフウォル侯爵。耳が早いですね」
「これもリシュファス公爵閣下と懇意にしていただけているお蔭ですな。この国の……しかも中央都市であのような真似をする輩がいるとは嘆かわしい」
深く、心の底から出しているようなため息をついているけれど……よくもこんな短時間で情報を入手できたものだ。中央都市と国境都市はかなり距離がある。それにこの時期だったら移動もしているだろうし、ワイバーン便を使ったとしても、必ず手元に届くとは限らない。
「ふふっ、驚いているようですが、私もただ座して待つばかりではないという訳ですぞ」
にやりと笑うおじ様は、妙に格好いい雰囲気が漂っていた。
「……エールティア様。言うまでもないでしょうが、貴女様はこれから、激しい戦いに巻き込まれるでしょう。私も微力ながら手助けするつもりではありますが……くれぐれも油断されぬよう」
「わかっています。クリフウォル卿は相変わらずですね」
「ははっ、今も昔も、貴女様は可愛らしい……私の大切な御方ですからな」
例え昔とは何もかも変わってしまっても、その思いだけは変わらず残ってくれている……。
それがわかっただけで、こんなに胸の中が暖かくなるなんてね。
オーク族と聖黒族。例え種族が違っても、クリフウォル卿はやっぱり私の大切な『ディアンおじ様』だった。それが何よりも嬉しかった。
「エールティア様。お疲れ様です」
「ありがとう。……ん、美味しい」
ラポル――私がいた世界ではリンゴと呼ばれていた果実――を潰して、香りつけ程度の極少量のウィスキーと混ぜられた飲み物で、身体の中をほんのり暖めてくれる。
いつもは深紅茶を飲んでいるけれど、偶にはこう言うものもいい。お父様に見つかったら『お前にはまだ早い』と言われて没収されるのだけれど、どうせ酒で酔う事なんてないのだから、関係ない。
「エールティア様、お久しぶりですな」
喉を潤していると、また一人、声を掛けてきた貴族がいた。そちらの方に目を向けると、ぱっと見でオーク族の人だとわかった。
「そうですね。去年ぶりです。クリフウォル卿」
「ふふっ、昔のように『ディアンおじさま』と呼んでもいいのですぞ?」
「ご冗談を……。流石にこの場でそうお呼びするわけにはいきませんでしょう」
「ならば、その堅苦しい言葉遣いはやめてくだされ」
気軽に話しているこのクリフウォル卿は、私が尊敬する貴族の一人で、お父様と学友だった方だ。私達とは違って、ガンドルフとフェリシューアの二国との国境を守っている。ワイバーン便で色々と便利になった世の中だけれど、お互い忙しい身だから文通での交流を主にしているらしい。
私の事も幼い時から可愛がってくれて、よく遊びに来てくれていた。
「あの御方がかの有名なクリフウォル侯爵閣下ですか……!」
「君は確か……雪風、だね。ラディン卿から話は聞いているよ。なんでも、久しぶりに素質のある者と出会ったとか」
「そ、そのようなお言葉を……! もったいなき幸せ……!!」
さっきから感極まった表情で幸福を噛み締めている雪風に対して、ジュールはよくわかっていないようだ。
「そちらの少女は……契約スライムのジュールだね。ふむ、所作に拙さが残っているが、磨けば光る原石とはよく言ったものか」
「あの……エールティア様。この御方は?」
雪風のようになっていないのはいいけれど、私の契約スライムなのだから、お父様と懇意な貴族の名前くらいは憶えて欲しい。ついでに敵対している貴族の名前もね。
「この方は初代魔王様にお仕えしていたオーク族――クリフ様の血を引く御方ですよ。クリフ様は初代魔王様の住んでおられた館をずっと守っておられたとか。幾度も襲い掛かってくる侵入者を寄せ付けぬ鉄壁。その功績が認められた結果、侯爵の座を戴いたと記されておりますよ」
「流石。よく勉強しているね」
丁寧に教えるように説明する雪風に、ふむふむとジュールは頷いていた。
それを感心するような声を上げて、ディアンおじ様は優し気な目で二人を見ていた。対して、私の方はちょっと不満を感じてしまう。
「昔は私にもそういう砕けた口調で話してくれましたのに……」
「仕方ありますまい。昔と今とでは、立場が違いますからな。それだけ貴女様が成長されたと言う事です」
当然の事だとでも言うかのような言葉だけれど、それでも身近だった存在が離れていくようで、寂しく感じてしまう。私は公爵家の令嬢で、王位継承権を持つ者。大人になっていくごとに、立場の違いが明確に表れる。それがわかっていても……ね。
「あんなに小さかったエールティア様がこんなに立派になられて……私は誇らしいです」
「クリフウォル卿……」
どこか遠い目で昔を思い出しているディアンおじ様に恥ずかしさを感じるけれど、おじ様はそれを忘れさせるような真面目な顔をしてきた。
「時に……エールティア様。貴女様を襲った賊がいるそうですね」
「……! 流石クリフウォル侯爵。耳が早いですね」
「これもリシュファス公爵閣下と懇意にしていただけているお蔭ですな。この国の……しかも中央都市であのような真似をする輩がいるとは嘆かわしい」
深く、心の底から出しているようなため息をついているけれど……よくもこんな短時間で情報を入手できたものだ。中央都市と国境都市はかなり距離がある。それにこの時期だったら移動もしているだろうし、ワイバーン便を使ったとしても、必ず手元に届くとは限らない。
「ふふっ、驚いているようですが、私もただ座して待つばかりではないという訳ですぞ」
にやりと笑うおじ様は、妙に格好いい雰囲気が漂っていた。
「……エールティア様。言うまでもないでしょうが、貴女様はこれから、激しい戦いに巻き込まれるでしょう。私も微力ながら手助けするつもりではありますが……くれぐれも油断されぬよう」
「わかっています。クリフウォル卿は相変わらずですね」
「ははっ、今も昔も、貴女様は可愛らしい……私の大切な御方ですからな」
例え昔とは何もかも変わってしまっても、その思いだけは変わらず残ってくれている……。
それがわかっただけで、こんなに胸の中が暖かくなるなんてね。
オーク族と聖黒族。例え種族が違っても、クリフウォル卿はやっぱり私の大切な『ディアンおじ様』だった。それが何よりも嬉しかった。
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