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171・別れは再会の約束②
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なんだか、いきなり空気が重くなったような気がする。それもそうだ。最初は単なる別れの挨拶だけだと思っていたはずなのに、こんな事になるなんてね。
「一つ良いかな?」
その空気の中、気まずそうに手を上げたのは私の肩の方で浮いていたウォルカが手を上げていた。
「……なんだい?」
「なんで黒竜人族の皇帝が一般市民のレイアをそこまで目の敵にしているのかな? 彼女は他の国の住民だし、そもそも本当に皇帝がそんな命令を出したのかな?」
アルフに不審なものを見る目が突き刺さる。けれど、言われてみればその通りだ。一応、レイアが暮らしている村は私の国――ティリアースにある。そんなに簡単に他国の子に手を出せる命令が下さるとは思えないけど……。
「普通なら、ね。だけど、黒竜人族が聖黒族の者の側にいるという事は、君が思っている以上に重大な事なんだ。そもそもドラゴナル帝国というのは、聖黒族を守るためだけに作られた国で、その為だけに僕達は力を磨き続けているからね」
そういえば、ここでの生活で知ったことがある。帝国はティリアースに侵略する者たちを逆に攻めこむ為に作られた国だと。初代魔王様が崩御された時、次代の女王がそれよりも遥かに劣る力しか出せず、権威を保てなくなった時に果敢に忠義を尽くしたらしい。独立した際、その意思だけを受け継いで、他国を侵略することで南西地方の守護者となるべく『帝国』と名乗るようになったとか。
そんな経緯があるからか、今現在でも彼らは力を磨き続けている。聖黒族は寿命が長いこともあって数が少ない。そんな事も考えると、今最も力を持っている種族は、間違いなく黒竜人族だろう。
「僕達は初代魔王陛下の名の下、自らが見つけた聖黒族の方に全てを尽くす。それが黒竜人族の生まれた意味。始祖フレイアールが望んだ役目。それを果たせないなんて恥辱を受けるくらいなら死ぬことすらいとわない」
「……でも、レイアのお兄様はそういう感じじゃなかったよ?」
次に疑問を投げかけたのはリュネーだった。
確かに、あの村でレイアを虐めていたあの男は、私の事を使える道具程度にしか思ってなかった。あの姿は、どうひいき目に見てもアルフが口にした黒竜人族の特徴とはズレている。
だけど、その瞬間……彼の表情が僅かに強ばったのが見えた。すぐに戻ったから、私にしかわからなかったみたいだけれど……あれはどう見ても怒りの表情だった。
「あいつらは僕達とは違う存在だからね。黒竜人族には純血・混血……そして異端の三つに分かれてる。レイアを育てていた彼らは最後の『異端』に分類されてる人達だから、仕方ないよ」
「……それは、私の事も『異端』だって、間違ってるって言いたいの?」
目の前ではっきりと家族を侮辱されたレイアの目には怒りが混じっていた。正確には、自分と家族を一括りにされた事に対してだろう。
ここでアルフなら肯定して挑発するものだと思って身構えたけれど、その予想とは反して、あまりの出来事に驚くような表情を浮かべていた。信じられない、そう言いたげな顔をしているアルフの姿に、レイアの方も困惑した顔をして私に視線を向けてきた。
「……アルフ?」
「いや、それは僕の口からは言えない。それが約束だから」
「約束って、なんでそこで黙るの!? 私は……私は、貴方達と同じ黒竜人族なのに!」
食事中という事も忘れて、掴みかかったレイアを取り押さえるけれど……あまり効果がなかった。払い除ける事はしなかったけれど、殺気すら含んだその視線を、アルフは真っ向から迎え打つように視線を逸さなかった。
「黒竜人族でも、君は僕達と違う。誰よりも初代魔王陛下に近い聖黒族の側にいて、使命を全うする事なく、ただ惰性に日々を浪費している――それが君だ。そんな風に見える君を、僕達は認めない」
「なら……なら、もし私が、来年の魔王祭で貴方を納得させられたら、その時は……貴方の知ってる事、全部教えてくれる?」
睨みつけるレイアに、アルフは深く頷く事で答えた。
「僕の振る舞いの全てを謝罪して、君の知りたいことを全て教えよう」
「……その言葉、絶対に忘れないでよ。私、必ず約束を果たしに行くから」
二人とも、しばらく睨み合ったけれど……アルフはにやりと笑って立ち上がった。
「期待しているよ。君が真に黒竜人族の誇りを持って僕の前に立ち塞がってくれることをね」
それだけ告げると、アルフはほとんど食べ終わってない食器をもって立ち上がった。
「それじゃ、みんな、エールティア殿下。次の魔王祭の開催地がどこになるかわからないけれど……その時はまた会おう」
「あ、ちょっと待ってにゃー。ボク、まだほとんど食べてないのにゃー……」
私達に別れの挨拶だけをして、アルフは立ち去るように離れて行った。ベルンが慌てて追いかけたおかげで、食器の中身に気付いたアルフは、私達から遠く離れたところで再び座って食事を始めていた。
……なんとも締まらないけれど、周りのみんなには気付かれていないみたいだから、まあいいかな。
随分と大変な約束をしたレイアは闘志が漲ってきたのか、拳をぐっと握ってどこか遠くの未来に思いを馳せているようだった。その再会の約束……彼女が果たそうと思うのなら、私も出来るだけ手伝ってあげよう。アルフには悪いけれど、彼女の見返してやりたいという想いを叶えてあげたいからね。
「一つ良いかな?」
その空気の中、気まずそうに手を上げたのは私の肩の方で浮いていたウォルカが手を上げていた。
「……なんだい?」
「なんで黒竜人族の皇帝が一般市民のレイアをそこまで目の敵にしているのかな? 彼女は他の国の住民だし、そもそも本当に皇帝がそんな命令を出したのかな?」
アルフに不審なものを見る目が突き刺さる。けれど、言われてみればその通りだ。一応、レイアが暮らしている村は私の国――ティリアースにある。そんなに簡単に他国の子に手を出せる命令が下さるとは思えないけど……。
「普通なら、ね。だけど、黒竜人族が聖黒族の者の側にいるという事は、君が思っている以上に重大な事なんだ。そもそもドラゴナル帝国というのは、聖黒族を守るためだけに作られた国で、その為だけに僕達は力を磨き続けているからね」
そういえば、ここでの生活で知ったことがある。帝国はティリアースに侵略する者たちを逆に攻めこむ為に作られた国だと。初代魔王様が崩御された時、次代の女王がそれよりも遥かに劣る力しか出せず、権威を保てなくなった時に果敢に忠義を尽くしたらしい。独立した際、その意思だけを受け継いで、他国を侵略することで南西地方の守護者となるべく『帝国』と名乗るようになったとか。
そんな経緯があるからか、今現在でも彼らは力を磨き続けている。聖黒族は寿命が長いこともあって数が少ない。そんな事も考えると、今最も力を持っている種族は、間違いなく黒竜人族だろう。
「僕達は初代魔王陛下の名の下、自らが見つけた聖黒族の方に全てを尽くす。それが黒竜人族の生まれた意味。始祖フレイアールが望んだ役目。それを果たせないなんて恥辱を受けるくらいなら死ぬことすらいとわない」
「……でも、レイアのお兄様はそういう感じじゃなかったよ?」
次に疑問を投げかけたのはリュネーだった。
確かに、あの村でレイアを虐めていたあの男は、私の事を使える道具程度にしか思ってなかった。あの姿は、どうひいき目に見てもアルフが口にした黒竜人族の特徴とはズレている。
だけど、その瞬間……彼の表情が僅かに強ばったのが見えた。すぐに戻ったから、私にしかわからなかったみたいだけれど……あれはどう見ても怒りの表情だった。
「あいつらは僕達とは違う存在だからね。黒竜人族には純血・混血……そして異端の三つに分かれてる。レイアを育てていた彼らは最後の『異端』に分類されてる人達だから、仕方ないよ」
「……それは、私の事も『異端』だって、間違ってるって言いたいの?」
目の前ではっきりと家族を侮辱されたレイアの目には怒りが混じっていた。正確には、自分と家族を一括りにされた事に対してだろう。
ここでアルフなら肯定して挑発するものだと思って身構えたけれど、その予想とは反して、あまりの出来事に驚くような表情を浮かべていた。信じられない、そう言いたげな顔をしているアルフの姿に、レイアの方も困惑した顔をして私に視線を向けてきた。
「……アルフ?」
「いや、それは僕の口からは言えない。それが約束だから」
「約束って、なんでそこで黙るの!? 私は……私は、貴方達と同じ黒竜人族なのに!」
食事中という事も忘れて、掴みかかったレイアを取り押さえるけれど……あまり効果がなかった。払い除ける事はしなかったけれど、殺気すら含んだその視線を、アルフは真っ向から迎え打つように視線を逸さなかった。
「黒竜人族でも、君は僕達と違う。誰よりも初代魔王陛下に近い聖黒族の側にいて、使命を全うする事なく、ただ惰性に日々を浪費している――それが君だ。そんな風に見える君を、僕達は認めない」
「なら……なら、もし私が、来年の魔王祭で貴方を納得させられたら、その時は……貴方の知ってる事、全部教えてくれる?」
睨みつけるレイアに、アルフは深く頷く事で答えた。
「僕の振る舞いの全てを謝罪して、君の知りたいことを全て教えよう」
「……その言葉、絶対に忘れないでよ。私、必ず約束を果たしに行くから」
二人とも、しばらく睨み合ったけれど……アルフはにやりと笑って立ち上がった。
「期待しているよ。君が真に黒竜人族の誇りを持って僕の前に立ち塞がってくれることをね」
それだけ告げると、アルフはほとんど食べ終わってない食器をもって立ち上がった。
「それじゃ、みんな、エールティア殿下。次の魔王祭の開催地がどこになるかわからないけれど……その時はまた会おう」
「あ、ちょっと待ってにゃー。ボク、まだほとんど食べてないのにゃー……」
私達に別れの挨拶だけをして、アルフは立ち去るように離れて行った。ベルンが慌てて追いかけたおかげで、食器の中身に気付いたアルフは、私達から遠く離れたところで再び座って食事を始めていた。
……なんとも締まらないけれど、周りのみんなには気付かれていないみたいだから、まあいいかな。
随分と大変な約束をしたレイアは闘志が漲ってきたのか、拳をぐっと握ってどこか遠くの未来に思いを馳せているようだった。その再会の約束……彼女が果たそうと思うのなら、私も出来るだけ手伝ってあげよう。アルフには悪いけれど、彼女の見返してやりたいという想いを叶えてあげたいからね。
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