170 / 676
170・別れは再会の約束①
しおりを挟む
ちょうど私達と向かい合うような形で座ったアルフとベルン。彼らはそれぞれの個性が現れるような朝食を採っていた。
アルフはバランスの良さそうな内容で、ベルンはミルクと魚を使ったサンドイッチに茹で卵といった簡単なものだ。
「それで、いつ頃発つのにゃー?」
「朝食が終わったら、学園長に挨拶して……それでワイバーン発着場に行くって聞いてます」
「そっか……寂しくなるにゃー」
リュネーとベルンはどこかしんみりとした表情をする。兄妹で仲も良いから、離れるのが寂しいのだろう。それでも最初から納得しているからか、それ以上のことは言わなかった。
「エールティア殿下」
「……だから、そういうのはいいって言ってるでしょう?」
「貴女は聖黒族の姫君なのだから、仕方ないさ。本当なら僕は黒竜人族として、最大限の礼儀を尽くそうと思ってるんだよ? それくらいは許して欲しいかな」
「……はあ、なら好きにしなさい」
今までもそんなに言わなかったから、これ以上言う気はなかった。あんまり否定すると、レイアが余計な助け舟を出してきそうな気がしたからというのもある。
「本当なら、すぐにでも貴女に僕の国に遊びに来て欲しいけれど……流石にそれは心苦しいから、来年、来てくれないかな?」
ちょっと照れるように笑うアルフの姿は、初めて家に誘ってくれた男の子の事を思い出した。まだ本当に幼い頃の話だったけど、なんとなく印象に残ってる。今は漁師として勉強中で、偶に港で見かけるけれど、昔のようには話さなくなったなぁ……。
「それは構わないけれど……来年はまだわからないから、行けるようになったら手紙を送る形でもいい?」
「それでいいよ。もし、僕が役に立てることがあったらでもいいよ! 君はベルンの命の恩人で、僕が仕えると決めた聖黒族の姫君だからね!」
「ちょ、ちょっと! そういう事、勝手に決めないでよ!」
私が一言文句を言ってやろかなと思って口を開きかけた時、レイアが代わりに言ってくれた。
「君の許可がいるのかな? ただ付き添ってるだけの身分で、あまり僕に指図しないで欲しいな」
「な、なんですって……!」
「はい、抑えて」
「アルフも、あまり挑発するのはやめるのにゃー。せっかくの気持ち良くお別れしようっていうのに、台無しになるのにゃー」
レイアとアルフが喧嘩になりそうなのを私とベルンがすぐさま割り込んで止めた。
というか、ベルンはさっきまでリュネーと話してたはずなのに、よくこっちの事に気が付いたなと感心する。
二人の仲があまり良くないのを知っていたから、こっちの方も様子を見ていたのかもね。
「だけど――」
「アルフが言いたい気持ちも分かるけど、それを抑えないで爆発させるのは違うのにゃー」
「……わかったよ」
「レイアも、落ち着きなさい。アルフが言った事に怒る気持ちはわかるから……ね?」
「……ティアちゃんが言うなら、私は別にいいけど」
ベルンがアルフを諭している間に、私もレイアを宥める。息のあった連携でもしているような気分になる。
二人とも、今がどういう時間かちゃんとわかってるから、互いに突き出した矛を引っ込めてくれた。
「……エールティア殿下、申し訳ない。話を逸らしてしまって」
「本当にその通りね」
これが最初なら、笑って許すこともしたけれど……こう何度も同じ事をされると疲れを覚える。
他のみんなと……リュネーやウォルカとも話す姿を見たことがあるけれど、その時はここまで挑発的じゃなかった。
同じ黒竜人族だからなのかは知らないけれど、あまりレイアと喧嘩しないでほしい。
「レイア」
「……なに?」
流石に懲りたのか、アルフはかなり真剣そうな表情でレイアの事を見ていた。先程の雰囲気とは一変したせいか、レイアの方も真面目な表情で彼を見ている。
「僕は君の境遇を知っている。不幸があったことも、どんな生活を送ってきたかも」
「……それなのに、私の事を挑発するのね」
「はっきり言って、僕は君が嫌いだ。同情はするけれど、それが彼女の隣にいていい理由にはならない。僕達黒竜人族は真に認めた者の為なら、全力でその身を捧げる。それが始祖フレイアールの教えだからだ」
強く睨むアルフの視線に臆したのか、レイアは一歩後退ってしまう。だけどすぐに強気に睨み返して、果敢に立ち向かう姿勢を見せてくれた。
「だから……来年。君も魔王祭に出てくるんだ。僕が君を見定める」
「それで駄目だったら?」
「エールティア殿下の側にいるに相応しくない姿を見せれば、黒竜人族全員が君の敵に回るだろう。僕達は聖黒族の方々の為にならない者を許しはしない。それが例え、同族であっても……!」
その発言に慌てたのはベルンだった。
「ちょ、ちょっと待ってにゃー。それじゃ、さっきの挑発と変わってないにゃー!」
「……僕の個人的な感情も入ってるけれど、これはドラゴレフ帝国のレアルーブ皇帝が決めたことだよ。挑発とかじゃなくて、決定事項なんだよ」
「そ、そんにゃー……」
これには私も驚いた。まさかここで皇帝の名前が出てくるなんて思いもしなかったからだ。
どうやら、色々と私が知らないところで事態は進んでいるようだ。それも……かなり悪い方向に。
アルフはバランスの良さそうな内容で、ベルンはミルクと魚を使ったサンドイッチに茹で卵といった簡単なものだ。
「それで、いつ頃発つのにゃー?」
「朝食が終わったら、学園長に挨拶して……それでワイバーン発着場に行くって聞いてます」
「そっか……寂しくなるにゃー」
リュネーとベルンはどこかしんみりとした表情をする。兄妹で仲も良いから、離れるのが寂しいのだろう。それでも最初から納得しているからか、それ以上のことは言わなかった。
「エールティア殿下」
「……だから、そういうのはいいって言ってるでしょう?」
「貴女は聖黒族の姫君なのだから、仕方ないさ。本当なら僕は黒竜人族として、最大限の礼儀を尽くそうと思ってるんだよ? それくらいは許して欲しいかな」
「……はあ、なら好きにしなさい」
今までもそんなに言わなかったから、これ以上言う気はなかった。あんまり否定すると、レイアが余計な助け舟を出してきそうな気がしたからというのもある。
「本当なら、すぐにでも貴女に僕の国に遊びに来て欲しいけれど……流石にそれは心苦しいから、来年、来てくれないかな?」
ちょっと照れるように笑うアルフの姿は、初めて家に誘ってくれた男の子の事を思い出した。まだ本当に幼い頃の話だったけど、なんとなく印象に残ってる。今は漁師として勉強中で、偶に港で見かけるけれど、昔のようには話さなくなったなぁ……。
「それは構わないけれど……来年はまだわからないから、行けるようになったら手紙を送る形でもいい?」
「それでいいよ。もし、僕が役に立てることがあったらでもいいよ! 君はベルンの命の恩人で、僕が仕えると決めた聖黒族の姫君だからね!」
「ちょ、ちょっと! そういう事、勝手に決めないでよ!」
私が一言文句を言ってやろかなと思って口を開きかけた時、レイアが代わりに言ってくれた。
「君の許可がいるのかな? ただ付き添ってるだけの身分で、あまり僕に指図しないで欲しいな」
「な、なんですって……!」
「はい、抑えて」
「アルフも、あまり挑発するのはやめるのにゃー。せっかくの気持ち良くお別れしようっていうのに、台無しになるのにゃー」
レイアとアルフが喧嘩になりそうなのを私とベルンがすぐさま割り込んで止めた。
というか、ベルンはさっきまでリュネーと話してたはずなのに、よくこっちの事に気が付いたなと感心する。
二人の仲があまり良くないのを知っていたから、こっちの方も様子を見ていたのかもね。
「だけど――」
「アルフが言いたい気持ちも分かるけど、それを抑えないで爆発させるのは違うのにゃー」
「……わかったよ」
「レイアも、落ち着きなさい。アルフが言った事に怒る気持ちはわかるから……ね?」
「……ティアちゃんが言うなら、私は別にいいけど」
ベルンがアルフを諭している間に、私もレイアを宥める。息のあった連携でもしているような気分になる。
二人とも、今がどういう時間かちゃんとわかってるから、互いに突き出した矛を引っ込めてくれた。
「……エールティア殿下、申し訳ない。話を逸らしてしまって」
「本当にその通りね」
これが最初なら、笑って許すこともしたけれど……こう何度も同じ事をされると疲れを覚える。
他のみんなと……リュネーやウォルカとも話す姿を見たことがあるけれど、その時はここまで挑発的じゃなかった。
同じ黒竜人族だからなのかは知らないけれど、あまりレイアと喧嘩しないでほしい。
「レイア」
「……なに?」
流石に懲りたのか、アルフはかなり真剣そうな表情でレイアの事を見ていた。先程の雰囲気とは一変したせいか、レイアの方も真面目な表情で彼を見ている。
「僕は君の境遇を知っている。不幸があったことも、どんな生活を送ってきたかも」
「……それなのに、私の事を挑発するのね」
「はっきり言って、僕は君が嫌いだ。同情はするけれど、それが彼女の隣にいていい理由にはならない。僕達黒竜人族は真に認めた者の為なら、全力でその身を捧げる。それが始祖フレイアールの教えだからだ」
強く睨むアルフの視線に臆したのか、レイアは一歩後退ってしまう。だけどすぐに強気に睨み返して、果敢に立ち向かう姿勢を見せてくれた。
「だから……来年。君も魔王祭に出てくるんだ。僕が君を見定める」
「それで駄目だったら?」
「エールティア殿下の側にいるに相応しくない姿を見せれば、黒竜人族全員が君の敵に回るだろう。僕達は聖黒族の方々の為にならない者を許しはしない。それが例え、同族であっても……!」
その発言に慌てたのはベルンだった。
「ちょ、ちょっと待ってにゃー。それじゃ、さっきの挑発と変わってないにゃー!」
「……僕の個人的な感情も入ってるけれど、これはドラゴレフ帝国のレアルーブ皇帝が決めたことだよ。挑発とかじゃなくて、決定事項なんだよ」
「そ、そんにゃー……」
これには私も驚いた。まさかここで皇帝の名前が出てくるなんて思いもしなかったからだ。
どうやら、色々と私が知らないところで事態は進んでいるようだ。それも……かなり悪い方向に。
0
お気に入りに追加
160
あなたにおすすめの小説
毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。
克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様
コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」
ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。
幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。
早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると――
「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」
やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。
一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、
「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」
悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。
なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?
でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。
というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!
白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
異世界に転生したフランカは公爵夫人として暮らしてきたが、前世から叶えたい夢があった。パティシエールになる。その夢を叶えようと夫である王国財務総括大臣ドミニクに相談するも答えはノー。夫婦らしい交流も、信頼もない中、三年の月日が近づき──フランカは賭に出る。白い結婚三年目で離縁できる条件を満たしていると迫り、夢を叶えられないのなら離縁すると宣言。そこから公爵家一同でフランカに考え直すように動き、ドミニクと話し合いの機会を得るのだがこの夫、山のように隠し事はあった。
無言で睨む夫だが、心の中は──。
【詰んだああああああああああ! もうチェックメイトじゃないか!? 情状酌量の余地はないと!? ああ、どうにかして侍女の準備を阻まなければ! いやそれでは根本的な解決にならない! だいたいなぜ後妻? そんな者はいないのに……。ど、どどどどどうしよう。いなくなるって聞いただけで悲しい。死にたい……うう】
4万文字ぐらいの中編になります。
※小説なろう、エブリスタに記載してます
【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます
無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。
美少女に転生して料理して生きてくことになりました。
ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。
飲めないお酒を飲んでぶったおれた。
気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。
その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった
最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である
megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる