上 下
164 / 676

164・妖精との戯れ

しおりを挟む
 会場の中に入った私は、静かに呼ばれているのを待っていると……やがて司会席の方からだろうか、大きな声が響いてきた。

『みんなー、今日は魔王祭はちょっとお休みして、普通? の決闘をすることになったよー!』

 そこで疑問系なのはなんでだろう? とか思いながら出番を待つことにした。シューリアとガルドラのいつもの自己紹介が済んで、今回の決闘が成立した経緯をざらっと説明した後、ライニーの方から名前を呼ばれていた。

 観客席の方から聞こえてくる大きな歓声と一緒に、罵声が混じっていた。

『続きまして、リーティファ学園出身。聖黒族のお姫様! エールティアちゃんの登場ですー!』

 私は堂々とした振る舞いで会場に入ると――やはりそこは観ているだけでは違った空気が充満していた。熱気的な声は全て私達に降り注いで、その視線は心地よさを感じる。

「良く逃げなかったね。その事は褒めてあげるよ」
「そう? この程度の事で褒められても何も嬉しくはないんだけど」

 どこか挑発するような視線と声音のライニーだったけれど、その言葉はそっくりそのまま返してあげよう。

『二人共激しい睨み合いを続けていますね。女の子の怖さがびしばし伝わってきます!』
『それでは、これより決闘の準備を始める』

 ガルドラは結界具で魔王祭ではお馴染みの結界が構築されて……準備は今、整った。

『此度の戦いは意図せずして起こったものではあるが、刃を交えるならば我は全てを見届けよう』
『が、ガルちゃん?』
『あえて、今公言しよう。此度の戦い――【戦う意志が絶えぬならば、止めはしない】。存分に己の力を示せ』

 ガルドラはちらっと私の事を見ていた。それは多分……『決闘が終わっても、戦い続けるならやれ』という事だろう。

「聞いた? これでもう逃げ場はないね。生きるか死ぬか……どっちになるだろうね?」

 くすくすと楽しそうに笑うライニーは、何も分かっていない。彼女は今もなお、私の感情の杭を抜いているだけでしかない。

 ――私の友達の大事な人を傷つけるなら……己の全てを懸けてかかってくると良い。

「生きるか死ぬか……ね。よくもそう簡単に言えること」
「ふふ、だって、ライニは勝つんだもん。死ぬのはあなた。せっかくだからとってもきれいに――」

 ごちゃごちゃと言おうとしているライニーの口を塞ぐように殺意を隠さずに微笑む。

「あまり吠えない方が良いわよ? 弱く見えるから」
「なっ……! あっ……」

『……双方共に全力を尽くせ。決闘……開始!』

 ガルドラが決闘開始の合図を告げる。いつもなら大きな歓声が湧き上がり、会場で戦う二人を囃し立てるような事を言ってる人もいるんだけれど、今はそれも一切なく、息を呑むような静寂だけが続いていた。
 決闘は始まったというのに、ライニーは全く動かず、怯えを宿した顔で私を見るだけだった。

「どうしたの? せっかく始まったのに……仕掛けてこないのかしら?」
「……っ! 【ナトゥレーザ・ランサ】!」
「【プロトンサンダー】」

 私の問いかけに条件反射的に繰り出された六本の自然の槍を、ベルンを助けた時と同じ魔導で受け止める。
 ただ違うのは――

「……え?」

 ライニーの顔面に私が放った【プロトンサンダー】が突き刺さる。ベルンの時のように痛みすら感じていないその様子をはっきりも確認した私は、ある確信に至る。

「ライニの魔導が……!」
「魔導……ね。その程度の魔法でどうにか出来ると思った?」

 わざと挑発すると、今度は怯えながらも怒りに満ちた顔で私を睨んでくる。
 それでいい。ライニーには本気の魔導を繰り出してもらわないと困る。今回の目的は……彼女の闘争心を完膚なきまでに砕く事なのだから。

「ライニを……ライニを! 甘くみるなぁ! 【フィンブル・ネーヴェ】!!」

 ライニーの放った魔導が私と彼女の周辺を作り替えるような吹雪が吹き荒れて、凍え死にしそうなほどの冷たさが身体を襲う。白い息が漏れるのを確認しながら、ライニーの方を見ると……数匹の真っ白な狼が、真っ赤な目で私を見ていた。

「ふふ、あははは、喰い殺しちゃえ!」

 ライニーの号令とともに向かってくる狼達は、その牙からも冷気が漏れているように見える。そして、この寒さ。身体が凍え、まともに身体を動かすことも出来ないところにあの狼で止めを刺す。なるほど、中々に凶悪な魔導だ。
 これほどの魔導を生み出したライニーには、素直に称賛をしよう。だけど――

「【フレアフォールン】」

 私が発動した魔導で、ライニーが創り出した冬は終わりを告げた。上の方で生み出された太陽のように大きく明るい炎の球が、ゆっくりと降りてきながら、彼女の【フィンブル・ネーヴェ】を焼き払ってしまったからだ。

 白い狼達も、凍てつく吹雪も存在しない。あるのは灼熱の太陽から放たれる炎。

 本来ならこのまま地表に落ちて、大地の全てを焼き払う魔導なんだけれど……あえてライニーの魔導を消し去るだけで終わらせた。

「ラ、ライニの【フィンブル・ネーヴェ】が……」

 本気で放った魔導を相殺されたのが余程ショックだったのか、呆然とした声がライニーから漏れてきた。

「さあ、まだあるんでしょう? 貴女の全力で来なさい。その全てを叩き潰してあげる」

 もう二度とあんな真似が出来ないように、徹底的に叩き込んであげないといけない。
 世の中には、決して触れてはいけないものがあるという事を。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

異世界に転生した俺は農業指導員だった知識と魔法を使い弱小貴族から気が付けば大陸1の農業王国を興していた。

黒ハット
ファンタジー
 前世では日本で農業指導員として暮らしていたが国際協力員として後進国で農業の指導をしている時に、反政府の武装組織に拳銃で撃たれて35歳で殺されたが、魔法のある異世界に転生し、15歳の時に記憶がよみがえり、前世の農業指導員の知識と魔法を使い弱小貴族から成りあがり、乱世の世を戦い抜き大陸1の農業王国を興す。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

孤児による孤児のための孤児院経営!!! 異世界に転生したけど能力がわかりませんでした

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はフィル 異世界に転生できたんだけど何も能力がないと思っていて7歳まで路上で暮らしてた なぜか両親の記憶がなくて何とか生きてきたけど、とうとう能力についてわかることになった 孤児として暮らしていたため孤児の苦しみがわかったので孤児院を作ることから始めます さあ、チートの時間だ

幼女からスタートした侯爵令嬢は騎士団参謀に溺愛される~神獣は私を選んだようです~

桜もふ
恋愛
家族を事故で亡くしたルルナ・エメルロ侯爵令嬢は男爵家である叔父家族に引き取られたが、何をするにも平手打ちやムチ打ち、物を投げつけられる暴力・暴言の【虐待】だ。衣服も与えて貰えず、食事は食べ残しの少ないスープと一欠片のパンだけだった。私の味方はお兄様の従魔であった女神様の眷属の【マロン】だけだが、そのマロンは私の従魔に。 そして5歳になり、スキル鑑定でゴミ以下のスキルだと判断された私は王宮の広間で大勢の貴族連中に笑われ罵倒の嵐の中、男爵家の叔父夫婦に【侯爵家】を乗っ取られ私は、縁切りされ平民へと堕とされた。 頭空っぽアホ第2王子には婚約破棄された挙句に、国王に【無一文】で国外追放を命じられ、放り出された後、頭を打った衝撃で前世(地球)の記憶が蘇り【賢者】【草集め】【特殊想像生成】のスキルを使い国境を目指すが、ある日たどり着いた街で、優しい人達に出会い。ギルマスの養女になり、私が3人組に誘拐された時に神獣のスオウに再開することに! そして、今日も周りのみんなから溺愛されながら、日銭を稼ぐ為に頑張ります! エメルロ一族には重大な秘密があり……。 そして、隣国の騎士団参謀(元ローバル国の第1王子)との甘々な恋愛は至福のひとときなのです。ギルマス(パパ)に邪魔されながら楽しい日々を過ごします。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

元ゲーマーのオタクが悪役令嬢? ごめん、そのゲーム全然知らない。とりま異世界ライフは普通に楽しめそうなので、設定無視して自分らしく生きます

みなみ抄花
ファンタジー
前世で死んだ自分は、どうやらやったこともないゲームの悪役令嬢に転生させられたようです。 女子力皆無の私が令嬢なんてそもそもが無理だから、設定無視して自分らしく生きますね。 勝手に転生させたどっかの神さま、ヒロインいじめとか勇者とか物語の盛り上げ役とかほんっと心底どうでも良いんで、そんなことよりチート能力もっとよこしてください。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

処理中です...