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164・妖精との戯れ
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会場の中に入った私は、静かに呼ばれているのを待っていると……やがて司会席の方からだろうか、大きな声が響いてきた。
『みんなー、今日は魔王祭はちょっとお休みして、普通? の決闘をすることになったよー!』
そこで疑問系なのはなんでだろう? とか思いながら出番を待つことにした。シューリアとガルドラのいつもの自己紹介が済んで、今回の決闘が成立した経緯をざらっと説明した後、ライニーの方から名前を呼ばれていた。
観客席の方から聞こえてくる大きな歓声と一緒に、罵声が混じっていた。
『続きまして、リーティファ学園出身。聖黒族のお姫様! エールティアちゃんの登場ですー!』
私は堂々とした振る舞いで会場に入ると――やはりそこは観ているだけでは違った空気が充満していた。熱気的な声は全て私達に降り注いで、その視線は心地よさを感じる。
「良く逃げなかったね。その事は褒めてあげるよ」
「そう? この程度の事で褒められても何も嬉しくはないんだけど」
どこか挑発するような視線と声音のライニーだったけれど、その言葉はそっくりそのまま返してあげよう。
『二人共激しい睨み合いを続けていますね。女の子の怖さがびしばし伝わってきます!』
『それでは、これより決闘の準備を始める』
ガルドラは結界具で魔王祭ではお馴染みの結界が構築されて……準備は今、整った。
『此度の戦いは意図せずして起こったものではあるが、刃を交えるならば我は全てを見届けよう』
『が、ガルちゃん?』
『あえて、今公言しよう。此度の戦い――【戦う意志が絶えぬならば、止めはしない】。存分に己の力を示せ』
ガルドラはちらっと私の事を見ていた。それは多分……『決闘が終わっても、戦い続けるならやれ』という事だろう。
「聞いた? これでもう逃げ場はないね。生きるか死ぬか……どっちになるだろうね?」
くすくすと楽しそうに笑うライニーは、何も分かっていない。彼女は今もなお、私の感情の杭を抜いているだけでしかない。
――私の友達の大事な人を傷つけるなら……己の全てを懸けてかかってくると良い。
「生きるか死ぬか……ね。よくもそう簡単に言えること」
「ふふ、だって、ライニは勝つんだもん。死ぬのはあなた。せっかくだからとってもきれいに――」
ごちゃごちゃと言おうとしているライニーの口を塞ぐように殺意を隠さずに微笑む。
「あまり吠えない方が良いわよ? 弱く見えるから」
「なっ……! あっ……」
『……双方共に全力を尽くせ。決闘……開始!』
ガルドラが決闘開始の合図を告げる。いつもなら大きな歓声が湧き上がり、会場で戦う二人を囃し立てるような事を言ってる人もいるんだけれど、今はそれも一切なく、息を呑むような静寂だけが続いていた。
決闘は始まったというのに、ライニーは全く動かず、怯えを宿した顔で私を見るだけだった。
「どうしたの? せっかく始まったのに……仕掛けてこないのかしら?」
「……っ! 【ナトゥレーザ・ランサ】!」
「【プロトンサンダー】」
私の問いかけに条件反射的に繰り出された六本の自然の槍を、ベルンを助けた時と同じ魔導で受け止める。
ただ違うのは――
「……え?」
ライニーの顔面に私が放った【プロトンサンダー】が突き刺さる。ベルンの時のように痛みすら感じていないその様子をはっきりも確認した私は、ある確信に至る。
「ライニの魔導が……!」
「魔導……ね。その程度の魔法でどうにか出来ると思った?」
わざと挑発すると、今度は怯えながらも怒りに満ちた顔で私を睨んでくる。
それでいい。ライニーには本気の魔導を繰り出してもらわないと困る。今回の目的は……彼女の闘争心を完膚なきまでに砕く事なのだから。
「ライニを……ライニを! 甘くみるなぁ! 【フィンブル・ネーヴェ】!!」
ライニーの放った魔導が私と彼女の周辺を作り替えるような吹雪が吹き荒れて、凍え死にしそうなほどの冷たさが身体を襲う。白い息が漏れるのを確認しながら、ライニーの方を見ると……数匹の真っ白な狼が、真っ赤な目で私を見ていた。
「ふふ、あははは、喰い殺しちゃえ!」
ライニーの号令とともに向かってくる狼達は、その牙からも冷気が漏れているように見える。そして、この寒さ。身体が凍え、まともに身体を動かすことも出来ないところにあの狼で止めを刺す。なるほど、中々に凶悪な魔導だ。
これほどの魔導を生み出したライニーには、素直に称賛をしよう。だけど――
「【フレアフォールン】」
私が発動した魔導で、ライニーが創り出した冬は終わりを告げた。上の方で生み出された太陽のように大きく明るい炎の球が、ゆっくりと降りてきながら、彼女の【フィンブル・ネーヴェ】を焼き払ってしまったからだ。
白い狼達も、凍てつく吹雪も存在しない。あるのは灼熱の太陽から放たれる炎。
本来ならこのまま地表に落ちて、大地の全てを焼き払う魔導なんだけれど……あえてライニーの魔導を消し去るだけで終わらせた。
「ラ、ライニの【フィンブル・ネーヴェ】が……」
本気で放った魔導を相殺されたのが余程ショックだったのか、呆然とした声がライニーから漏れてきた。
「さあ、まだあるんでしょう? 貴女の全力で来なさい。その全てを叩き潰してあげる」
もう二度とあんな真似が出来ないように、徹底的に叩き込んであげないといけない。
世の中には、決して触れてはいけないものがあるという事を。
『みんなー、今日は魔王祭はちょっとお休みして、普通? の決闘をすることになったよー!』
そこで疑問系なのはなんでだろう? とか思いながら出番を待つことにした。シューリアとガルドラのいつもの自己紹介が済んで、今回の決闘が成立した経緯をざらっと説明した後、ライニーの方から名前を呼ばれていた。
観客席の方から聞こえてくる大きな歓声と一緒に、罵声が混じっていた。
『続きまして、リーティファ学園出身。聖黒族のお姫様! エールティアちゃんの登場ですー!』
私は堂々とした振る舞いで会場に入ると――やはりそこは観ているだけでは違った空気が充満していた。熱気的な声は全て私達に降り注いで、その視線は心地よさを感じる。
「良く逃げなかったね。その事は褒めてあげるよ」
「そう? この程度の事で褒められても何も嬉しくはないんだけど」
どこか挑発するような視線と声音のライニーだったけれど、その言葉はそっくりそのまま返してあげよう。
『二人共激しい睨み合いを続けていますね。女の子の怖さがびしばし伝わってきます!』
『それでは、これより決闘の準備を始める』
ガルドラは結界具で魔王祭ではお馴染みの結界が構築されて……準備は今、整った。
『此度の戦いは意図せずして起こったものではあるが、刃を交えるならば我は全てを見届けよう』
『が、ガルちゃん?』
『あえて、今公言しよう。此度の戦い――【戦う意志が絶えぬならば、止めはしない】。存分に己の力を示せ』
ガルドラはちらっと私の事を見ていた。それは多分……『決闘が終わっても、戦い続けるならやれ』という事だろう。
「聞いた? これでもう逃げ場はないね。生きるか死ぬか……どっちになるだろうね?」
くすくすと楽しそうに笑うライニーは、何も分かっていない。彼女は今もなお、私の感情の杭を抜いているだけでしかない。
――私の友達の大事な人を傷つけるなら……己の全てを懸けてかかってくると良い。
「生きるか死ぬか……ね。よくもそう簡単に言えること」
「ふふ、だって、ライニは勝つんだもん。死ぬのはあなた。せっかくだからとってもきれいに――」
ごちゃごちゃと言おうとしているライニーの口を塞ぐように殺意を隠さずに微笑む。
「あまり吠えない方が良いわよ? 弱く見えるから」
「なっ……! あっ……」
『……双方共に全力を尽くせ。決闘……開始!』
ガルドラが決闘開始の合図を告げる。いつもなら大きな歓声が湧き上がり、会場で戦う二人を囃し立てるような事を言ってる人もいるんだけれど、今はそれも一切なく、息を呑むような静寂だけが続いていた。
決闘は始まったというのに、ライニーは全く動かず、怯えを宿した顔で私を見るだけだった。
「どうしたの? せっかく始まったのに……仕掛けてこないのかしら?」
「……っ! 【ナトゥレーザ・ランサ】!」
「【プロトンサンダー】」
私の問いかけに条件反射的に繰り出された六本の自然の槍を、ベルンを助けた時と同じ魔導で受け止める。
ただ違うのは――
「……え?」
ライニーの顔面に私が放った【プロトンサンダー】が突き刺さる。ベルンの時のように痛みすら感じていないその様子をはっきりも確認した私は、ある確信に至る。
「ライニの魔導が……!」
「魔導……ね。その程度の魔法でどうにか出来ると思った?」
わざと挑発すると、今度は怯えながらも怒りに満ちた顔で私を睨んでくる。
それでいい。ライニーには本気の魔導を繰り出してもらわないと困る。今回の目的は……彼女の闘争心を完膚なきまでに砕く事なのだから。
「ライニを……ライニを! 甘くみるなぁ! 【フィンブル・ネーヴェ】!!」
ライニーの放った魔導が私と彼女の周辺を作り替えるような吹雪が吹き荒れて、凍え死にしそうなほどの冷たさが身体を襲う。白い息が漏れるのを確認しながら、ライニーの方を見ると……数匹の真っ白な狼が、真っ赤な目で私を見ていた。
「ふふ、あははは、喰い殺しちゃえ!」
ライニーの号令とともに向かってくる狼達は、その牙からも冷気が漏れているように見える。そして、この寒さ。身体が凍え、まともに身体を動かすことも出来ないところにあの狼で止めを刺す。なるほど、中々に凶悪な魔導だ。
これほどの魔導を生み出したライニーには、素直に称賛をしよう。だけど――
「【フレアフォールン】」
私が発動した魔導で、ライニーが創り出した冬は終わりを告げた。上の方で生み出された太陽のように大きく明るい炎の球が、ゆっくりと降りてきながら、彼女の【フィンブル・ネーヴェ】を焼き払ってしまったからだ。
白い狼達も、凍てつく吹雪も存在しない。あるのは灼熱の太陽から放たれる炎。
本来ならこのまま地表に落ちて、大地の全てを焼き払う魔導なんだけれど……あえてライニーの魔導を消し去るだけで終わらせた。
「ラ、ライニの【フィンブル・ネーヴェ】が……」
本気で放った魔導を相殺されたのが余程ショックだったのか、呆然とした声がライニーから漏れてきた。
「さあ、まだあるんでしょう? 貴女の全力で来なさい。その全てを叩き潰してあげる」
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