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161・静かなる怒り

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 迫りくるライニーの【ナトゥレーザ・ランサ】を眺めていた私は、静かに怒りの火が灯り始めた。
 彼女のやろうとしている事は最低限のルールである決闘後には攻撃をしないというものを十分に破っていた。しかも他の誰でもない私の友達であるリュネーのお兄様に向かって。

 そんなことは、到底看過できる事ではない……!

「【プロトンサンダー】!」

 私が選択したのは、複数の雷の球を出現させ、それを一つに束ねて放つ魔導。ある意味一対多のこの状況だけれど、私が打ち負ける要素は万に一つもない。
 静かに燃える怒りが、私を冷静にさせてくれる。

 ぶつかり合った互いの魔導が激しく火花を散らし、しばらく拮抗を保たせた後、相殺させた。

「へぇ……やるね」

 ライニーは一瞬驚いたけれど、すぐに嬉しそうに更なる魔導を発動させようとしてきた。

「やめろ。決闘は既に終わった。これ以上は無意味だ」

 たった一度の攻防が終わった時。司会席にいたガルドラ決闘官がこちらの方にやってきたみたいだ。

「ふふ、嫌だって言ったら?」
「魔王祭準決勝はライニー・エルロット。貴様のルール違反による失格とさせてもらう」
「ふーん。別にいいけど」
「なに……?」
「だってみんな弱いんだもん。それより、そっちの子と戦う方が面白そうだしね」

 ライニーはちらりと私の方を見て、にんまりと笑っていた。それは純粋で、とてもこんな事をするような顔には見えない。

「そんな事より、なんでベルンを殺そうとしたの? 決着はもうついていたと思うけど」
「ふっふー、なんでだと思う?」
「……答える気がないなら、無理に吐かせてもいいんだけど」
「ふーん。やる気なんだ。ライニ、強いよ?」

 最初から話すつもりがない彼女と、これ以上付き合う事はない。さっさと片付けて色々白状させても良いんだけど……それはガルドラの方が許してくれそうになかった。

「貴様等……いい加減に――」
「ガルドラ決闘官。後日、改めて決闘という形で戦いたいのですが、いかがでしょう?」

 私の提案に、ガルドラは腕を組んで私とライニーを交互に見ていた。今ここで始める事が問題なのなら、とりあえず後回しにするやり方が賢い。ライニーの方は今すぐやる気のようだけれど、ここで私が引けば多少は心証が良くなって望みが通りやすくなる。

 元々、仕掛けてきたのはライニーの方なのだから。

「……双方、引く気はないのだな?」
「とーぜんだよ」
「友人の兄をここまでされて、黙っていられる程出来た女ではありませんので」
「……わかった。ならば魔王祭が終わったのち――」
「それじゃ遅いよ」

 ガルドラの提案を言い切る前にライニーの方が呆れたような顔で拒否した。

「ライニはあっちの子よりその子と戦いたい。じゃないと……決勝の時、もっと酷くなるよ?」
「……脅しのつもりか」
「そう取るのは自由だけどね。ね、君もその方がいいよね?」

 ガルドラを平気な顔で脅しながら、私の方を向いたライニーの目は、遊び相手を見つけたような純粋さを残している。時に残酷さを感じるその視線を、受け流しておく。

「別に後でも先でも構わないわ。どのみち、貴女にきついお仕置きをするだけだから」
「へぇ、出来るの? あまり大きな事言わない方が良いと思うけど」

 ばちばちと火花が散りそうなほど闘志を当ててくるライニーの姿を見て、ガルドラは嘆息して、肩を落とした。

「仕方あるまい。特例として今すぐに決闘申請書を作ろう。但し……勝敗は魔王祭に準拠する。勝っても負けても、相手に何も要求しない。それが条件だ」
「いいよー。どうせ、ライニが勝つから」
「こっちも問題ない……けれど、ベルンやリュネーが何を言うかは保証しない。それでいい?」
「それはその二人に任せる。さあ、これでよかろう。ライニー・エルロットは退場しろ。エールティア・リシュファスはベルン・シルケットを連れて行け」

 必要以上に介入しない。そう言うかのように腕を組んで私達が余計な事をしないように立ち塞がっていた。
 ……というか、私達の事もフルネーム呼びなのね。他人を呼び辛くないのか疑問が湧く。

「それじゃね。ちゃんと来ないと……お仕置きしちゃうから」
「約束は守ってあげるから安心しなさい。貴女も、きちんと戦える状態までにはしておきなさい」

 いくらベルンが少年の体つきをしていても、私一人で抱えるのは面倒くさい。少し迷ったけれど、大人しく身体を強化して運ぶ事にした。
 本当は起こした方が良かったのかもしれないけれど、今のベルンを余計に傷つけるような真似はしたくなかった。

 私が魔導で身体を強化しているところをマジマジと見ていたライニーは、嬉しそうに背を向けて会場から出て行ってしまった。

「厄介な事をしてくれたな」

 私がベルンを背負って立ち去ろうとしていた時、ガルドラが面倒事が増えた……とでも言いたげな表情を浮かべていた。

「それでも、あのままよりはよっぽど良かったでしょう?」
「……それには返す言葉もないな。我だけが介入したとしても、あれでは今より酷くなっていただろう。だが……エールティア・リシュファス。貴様はそれで良かったのか? 我の目から見ても十分な力を持っている。下手をすれば、敗北を知るのは貴様になるかもしれんぞ?」

 ガルドラは心の奥底から心配してくれているのだろう。それが良く伝わってくる。だけど――

「ありがとうございます。でも、心配はご無用です」
「? それはどういう――」
「彼女に負ける程度であれば、私も聖黒族として、その程度だったというわけです」

 負けるつもりは全くない。今の戦いも手加減していたように見えたけど、それを含めても全く脅威に感じなかった。

 いつものように振る舞って、勝つ。ただ、それだけの事だ。
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