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159・準決勝突入
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ベルンとアルフの二人は、魔王祭を順調に勝ち進んでいって、とうとう準決勝まで二人とも勝ち上がっていった。
流石にここまで残っただけあって、ベルーザ先生が残念がるような試合ばかりでなく、かなりの強者と何度か戦っていた。
ベルンの方は結構際どい戦いをし続けてきたけれど……それとは対照的にアルフは危なげない戦いをしていた。雪雨との一戦以上に燃え上がるものはなかったから仕方ないのだけれど……戦っている最中、彼はどこか物足りない顔をしていた。
「アルフくん、決勝に行けるかな?」
準決勝が始まるまでまだ時間があるからか、リュネーは落ち着いて甘酸っぱい果実水を飲んでいた。それにぴくりとレイアは反応するけれど、すぐに冷静に戻ったのか落ち着くようにゆっくりと深呼吸していた。
「多分、大丈夫でしょう。相手のガンフェットってドワーフ族は力任せの攻撃が多いし……アルフならあれくらいなんとでも出来ると思う」
学生という割には大きなその身体をプレートアーマーを纏っていて、同じくらい大きな戦斧を扱っていたけれど……あの程度ならアルフの敵じゃないだろう。
問題はベルンの方かも知れない。
『はーい、お待たせしましたー! これより、魔王祭準決勝をはじめちゃいまぁす!』
ベルンの対戦相手のことを考えていると、いつの間にか時間が来たようだ。シューリアとガルドラがいつもの席に着いていて、今まさに決闘者の入場をさせるところだった。
『まずはエンドラル学園の稀代の天才。魔導にかけては右に出る者はいない! ベルン・シルケット君の入場です!』
流石に準決勝では真面目な方が強く出てるのか、無難な紹介をしていた。現れたベルンは、観客席の黄色い声援に応えるように手を振っていた。相変わらず人気がある彼だけど――
「きゃあああ! お兄様、頑張ってにゃーー!!」
一番ベルンを慕ってるのは、妹のリュネーかもしれない。彼女のせいでベルンがお兄様と呼ばれ始めてるし。
「リュネーって、お兄様が絡むと本当に性格変わるよね」
「それだけ慕っているって事でしょう。別に恋愛感情がある訳じゃないんだし、それくらい良いんじゃないかしら」
「……そんな感情があった方が問題だと思うけどね」
隣で騒いでるリュネーの事は、ここにいる間に慣れてしまった。他のみんなも同じで、既に普通に対応している。
『さて、対するはここまで他者を寄せ付けず、完封してきました! ルフダル学園のライニー・エルロットちゃんです!』
シューリアの紹介に現れたのは、大妖精族の女の子。綺麗な薄く黄色い髪が、少し色白な彼女によく似合ってる。持っている指揮棒のようなステッキが、なんとなく可愛らしさを演出している。
『共に魔導の実力で勝ち上がってきた者同士ですよー! ガルちゃん、どう見る?』
『我らは今もなお、魔導の極地を目指すべく修練を積んでいるが、この決闘でその一端を垣間見る者もいるかも知れぬな。だが――いや、あまり不必要な事を言うのはよそう』
『ちょっとガルちゃん! そこで止まられたらむしろ気になるんだけど!』
ぎゃーぎゃー騒いでるシューリアを無視するようにガルドラはさっきと同じようにライニーの方を見ていた。
「どうしたんだい? なにか気になってるような顔してるけど」
ガルドラの方に視線を向けてると、ウォルカがふよふよと私の方に飛んできた。いつもはフォルスのところにいるのに……そんなに気にしてるような顔してたのかな?
「いえ……ただ、ガルドラ決闘官が始まる前に誰かを気にするなんて滅多にないから」
「……あー、言われればそうかも。よく見てるね」
「たまたまよ。シューリアが騒いでるから、そっちの方に視線を向けたから、ね」
返事をしながら、なんとなくライニーの方に視線を向けた。彼女はのほほんと笑っているけれど……どこか違和感がある。今見えている彼女の姿……それがどうにも不自然な気がする。思えば彼女は今までの決闘では魔導を中心に戦っていた。だけどそれを考えても必要以上に攻撃を回避したり、相手との接触を避けている節があった。
触られたくないにしては、極端な気がする。それに……彼女はあまり魔力を使わないようにしているみたいだった。観客にはわからないように派手めな魔導を混ぜているけれど、私のように魔導に精通している人からしてみたらはっきりとわかるくらいだ。
ベルンもわかっているのか、どこか表情に硬さが残っていた。大体の予想では……隠している実力も合わせてベルンと対等だと思うんだけれど、あのライニーがなんでそんなことをしているのかさっぱりわからない。
『二人ともにらみ合ってますね! ガルちゃんの方は準備良い?』
『既に結界は発動している。いつでも良いぞ』
『え? なんで何も言わないでやってるの? 前までは一言あったのに……』
『いい加減前口上を言う必要もないだろう。ほら、決闘を始めるぞ』
呆気に取られているシューリアを見て、少し得意げに笑ってるところを見ると、ガルドラの方も鬱憤が溜まっていたのかもしれない。
全く、わざわざこんなところで晴らさなくてもいいのに……。
『……こほん、それでは準決勝戦、始めちゃってください!』
シューリアが気を落ち着かせるように軽く咳ばらいをして、試合開始を宣言した。
宣言し終わったと同時に、先に仕掛けたのは――ベルンの方からだった。
流石にここまで残っただけあって、ベルーザ先生が残念がるような試合ばかりでなく、かなりの強者と何度か戦っていた。
ベルンの方は結構際どい戦いをし続けてきたけれど……それとは対照的にアルフは危なげない戦いをしていた。雪雨との一戦以上に燃え上がるものはなかったから仕方ないのだけれど……戦っている最中、彼はどこか物足りない顔をしていた。
「アルフくん、決勝に行けるかな?」
準決勝が始まるまでまだ時間があるからか、リュネーは落ち着いて甘酸っぱい果実水を飲んでいた。それにぴくりとレイアは反応するけれど、すぐに冷静に戻ったのか落ち着くようにゆっくりと深呼吸していた。
「多分、大丈夫でしょう。相手のガンフェットってドワーフ族は力任せの攻撃が多いし……アルフならあれくらいなんとでも出来ると思う」
学生という割には大きなその身体をプレートアーマーを纏っていて、同じくらい大きな戦斧を扱っていたけれど……あの程度ならアルフの敵じゃないだろう。
問題はベルンの方かも知れない。
『はーい、お待たせしましたー! これより、魔王祭準決勝をはじめちゃいまぁす!』
ベルンの対戦相手のことを考えていると、いつの間にか時間が来たようだ。シューリアとガルドラがいつもの席に着いていて、今まさに決闘者の入場をさせるところだった。
『まずはエンドラル学園の稀代の天才。魔導にかけては右に出る者はいない! ベルン・シルケット君の入場です!』
流石に準決勝では真面目な方が強く出てるのか、無難な紹介をしていた。現れたベルンは、観客席の黄色い声援に応えるように手を振っていた。相変わらず人気がある彼だけど――
「きゃあああ! お兄様、頑張ってにゃーー!!」
一番ベルンを慕ってるのは、妹のリュネーかもしれない。彼女のせいでベルンがお兄様と呼ばれ始めてるし。
「リュネーって、お兄様が絡むと本当に性格変わるよね」
「それだけ慕っているって事でしょう。別に恋愛感情がある訳じゃないんだし、それくらい良いんじゃないかしら」
「……そんな感情があった方が問題だと思うけどね」
隣で騒いでるリュネーの事は、ここにいる間に慣れてしまった。他のみんなも同じで、既に普通に対応している。
『さて、対するはここまで他者を寄せ付けず、完封してきました! ルフダル学園のライニー・エルロットちゃんです!』
シューリアの紹介に現れたのは、大妖精族の女の子。綺麗な薄く黄色い髪が、少し色白な彼女によく似合ってる。持っている指揮棒のようなステッキが、なんとなく可愛らしさを演出している。
『共に魔導の実力で勝ち上がってきた者同士ですよー! ガルちゃん、どう見る?』
『我らは今もなお、魔導の極地を目指すべく修練を積んでいるが、この決闘でその一端を垣間見る者もいるかも知れぬな。だが――いや、あまり不必要な事を言うのはよそう』
『ちょっとガルちゃん! そこで止まられたらむしろ気になるんだけど!』
ぎゃーぎゃー騒いでるシューリアを無視するようにガルドラはさっきと同じようにライニーの方を見ていた。
「どうしたんだい? なにか気になってるような顔してるけど」
ガルドラの方に視線を向けてると、ウォルカがふよふよと私の方に飛んできた。いつもはフォルスのところにいるのに……そんなに気にしてるような顔してたのかな?
「いえ……ただ、ガルドラ決闘官が始まる前に誰かを気にするなんて滅多にないから」
「……あー、言われればそうかも。よく見てるね」
「たまたまよ。シューリアが騒いでるから、そっちの方に視線を向けたから、ね」
返事をしながら、なんとなくライニーの方に視線を向けた。彼女はのほほんと笑っているけれど……どこか違和感がある。今見えている彼女の姿……それがどうにも不自然な気がする。思えば彼女は今までの決闘では魔導を中心に戦っていた。だけどそれを考えても必要以上に攻撃を回避したり、相手との接触を避けている節があった。
触られたくないにしては、極端な気がする。それに……彼女はあまり魔力を使わないようにしているみたいだった。観客にはわからないように派手めな魔導を混ぜているけれど、私のように魔導に精通している人からしてみたらはっきりとわかるくらいだ。
ベルンもわかっているのか、どこか表情に硬さが残っていた。大体の予想では……隠している実力も合わせてベルンと対等だと思うんだけれど、あのライニーがなんでそんなことをしているのかさっぱりわからない。
『二人ともにらみ合ってますね! ガルちゃんの方は準備良い?』
『既に結界は発動している。いつでも良いぞ』
『え? なんで何も言わないでやってるの? 前までは一言あったのに……』
『いい加減前口上を言う必要もないだろう。ほら、決闘を始めるぞ』
呆気に取られているシューリアを見て、少し得意げに笑ってるところを見ると、ガルドラの方も鬱憤が溜まっていたのかもしれない。
全く、わざわざこんなところで晴らさなくてもいいのに……。
『……こほん、それでは準決勝戦、始めちゃってください!』
シューリアが気を落ち着かせるように軽く咳ばらいをして、試合開始を宣言した。
宣言し終わったと同時に、先に仕掛けたのは――ベルンの方からだった。
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